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ウルファス物語  作者: ろーき
第4章 建国編
35/50

弓矢で追われたかつての王子

ノン大河に現れたのは巨大な烏賊であった。川なのに烏賊である。魔物ってどういう生態してるんだろうか?肺呼吸ではなさそうだが地上でも苦しい様子は無い。地上に降りる前に槍を十本投擲して殺せた。かなり一方的に殺せたが、やはり空を飛べるのは便利だな。空爆はこの世でも強いのだ。


「エレノア、奴でこの地に居る魔物は最後かな?」


エレノアは肩で息をしていて半裸だが、強い光を宿した目をしている。


「はい。ドラゴンとクラーケンが周囲の魔物と魔力を喰らい、手に負えない強力さになっていましたが…流石は殿下です」

「初耳だぞ…それでドラゴンが雷に耐えたのか、書物にはドラゴンが雷に強いなんて書いてなかったから驚いたぞ」


ドラゴンは火に強く氷や低温に弱いとは書いてあった。なのに一発目の魔術に雷属性のサンダーボルトを使う辺り俺もうかつな男だ。最初から弱点属性使えばいいものを、もしサンダードラゴンとかなら吸収して反射してきたかもしれないというのに。まぁ普通のドラゴンには見えたし雷が利かないという発想も無かったのでサンダーボルトを使ったが…冷静に考えるとひどく愚かなことだ。

この世のドラゴンが地球の想像上のドラゴン…更に云えば長年に渡り改変を繰り返したイメージと一致した弱点を持つと考える方がおかしい。これからはもっと気を付けなくてはならない。まぁドラゴンより強い魔物はこの世には居ない。同格の巨人は居るが、ドラゴンよりは一枚落ちる存在である。

地上に降りるとシアンが俺を出迎えてくれた。気絶したハレを担いでリュウから降りて、エレノアに服を手渡す。空中デートは成功だったらしく、エレノアもハレも満更でもない表情だ。ハレは気絶しているがそういう表情だ。


「テンマクヲカタズケマシタガヨロシカッタデスカ」

「構わんさ、天幕生活ももう終わりだ『風雲王城』」


マーリンを取り出して呪文を唱えると、地面から小さな城が出現した。大きさは学校ほどのサイズだが、基礎が無いので地震が来たら崩れそうだ。まぁこの世に生まれてから地震など体験していないが、それでもやはり震災は恐ろしいのでこの城には一日二日しか住まないつもりである。


「殿下、以前から思っていたのですが…その杖を使うのは控えたほうがよろしいかと」


エレノアは既に服を着終わって、俺の後ろで片膝をついている。


「何故だ、便利で良いのに」

「その杖の力には多くの利が在りますが、代償に三つの害があります。第一にそれほどの魔力を持った宝具には魔物がたかります。第二に人にも狙われます。最後にその杖を造ったのは殿下ではありません。その杖の力を振るって国を造ったとしても人は集いませんし殿下と云えど杖の力に驕ってしまいます」

「ふむ…一理あるな」

「いえウル様、今はどんな力を使っても食糧が必要な時です」


肩の上に居るハレは何時の間にやら起きていたらしい。


「しかしハレさん、殿下の国造りは殿下自身のお力でやらなくては…」

「でも…今餓えている人達を助けるには、どんな形で作られた食糧でも構わないと思うんです」

「しかし…殿下の為にも良くありません。杖の力は極力使わないように…」

「とりあえず食糧を造ってから…」


二人はお互いの意見を言い合っている。しかしこの杖の機能を知らないので議論には幾らか齟齬がある。


「まぁ待て二人とも、この杖にはな食糧を直接造るような力は無いのだ」

「「?」」

「この城にしてもそうだが、単なる土の城だ。魔術では複雑な物は造れないのだ」


実際風雲城は城と言って良いのか微妙なデザインだ。風雲城よりも泥のビルの方がそれらしい呼び方だ。

マーリンであっても複雑な物質は作れないのだ。というか複雑な物体を造る魔術が無いとも言える。あくまでこの杖は魔術を短縮して使えて膨大な魔力資源を蓄えているだけであり、杖に登録されている呪文自体は俺も普通に使える。

麦を造りたいなら畑を耕したほうが効率的だ。態々魔術で作らなくても良いのだ。尤も水と塩は作れるので人間が生きるには魔術が出来れば普通に暮らしていける。


「地ならし位は出来るが魔術では畑も田んぼも造れないのだ」

「ふむ…ではどうやて畑を造るのですか?我らにはそんな知識はありませんよ。ハレにしても農民として長い経験を積んだわけではないのですから」

「ワレラノチカラナラバカンタンダ」

「シアン…お前が何の役に立つのですか?」


エレノアはシアンを怪訝な眼で見ている。エレノアはシアンが嫌いなのだろうか?確かに全身尖っているが好感が持てる見た目だと思うのだが。


「そうだな…今教えてもいいが、今日はもう遅いから寝てしまおう。杖はなるべく使わないようにしよう」


皆頷いて応えた。俺はリュウの足と泥の柱を紐で繋いだ。とっとと城の中に入って眠ることにした。当たり前と言えば当たり前だが床も土なので、敷き布を敷いてもゴツゴツして寝難い。天幕の方が良かったかもしれない。天幕の床も当然土だが、それでも柔らかい地面を選んで建てたので天幕の方が寝やすかった。

一夜明けて気持ちの良い朝が訪れた。横には二人の美しい女が居て天井にはロボットが張り付いている。ちょっと虫っぽいなシアンよ。


「おはようシアン」

「オハヨウゴザイマスマスターキノウノオハナシドウリナラキョウハワレノナカマヲツクッテクダサルノデスカ」


シアンの言葉は実に聞き取り辛い。まぁ言いたいことは大体分かる。素体をそろそろ農業用に加工する時だ。


「そうだなやるべき仕事も終わったことだし…いや、クラーケンの死体を片付けるのを忘れていたな」

「ソウイウトオモイマシテスデニカイタイシテオキマシタ」

「えらく早いな」

「スキルアップシマシタノデ」


そう言えばロボットもレベルアップするのだろうか?真魔道大全にはそう云うことは書いていなかった。そんな物を使って土地を開墾しようとしている俺はかなり阿呆だな。まぁ今は食糧を得る手段を選ぶような時ではない。要は役に立てば良いのだ。

降りてきたシアンを褒めて撫でてやり、エレノアとハレが起きる前に飯の準備をしてやる。といっても食材の準備くらいだが。朝飯はドラゴンスープとであった。様々の野菜を好い様にぶち込んだのに不思議と旨い。やはり料理の才能はハレには敵わない。というか俺の才能は身体を動かすこと以外は大した物では無い。精巧な絵画も描けるがダ・ヴィンチやピカソには到底及ばないと思う。写真と同じで精巧な現実を映し出すことは出来るが、写真家の撮る写真の様に人を感動させる絵にはならないだろう。要するに俺は創造の才能は無いのだ。

しかし想像の才能が無くても困窮する民を救う為にもロボットは造らなくてはならない。飯を食い終わったので泥の城を出る。


「さて…では素体を取り出してっと…」

「なんだかワクワクしますね」「ハレ…シアンの仲間に何が出来るというの?」


どうやらエレノアはシアンのことを軽く見ているらしい。出来れば仲良くしてほしいものだ。

最初はゴブリンの魂を使った素体をロボットにするつもりである。最初はやはりゴブリンである。しかし冷静に考えると最初の敵がゴブリンというゲームは経験しなかったような…まぁどっち道雑魚に分類されるのだから序盤の敵なのは確かだ。

銅貨百枚・銀貨十枚を素体に乗せて、それぞれに魔術式を書き、最後に『農奴機起動』と呪文を唱える。マーリンを使ってもいいのだが、ゴーレム起動呪文は一言で終わってもゴーレムの回路を形成するための呪文は天然貨幣に書いた百十+素体に書いた魔術式を合わせて111の呪文を唱えなくてはならない。真面目に唱えると舌を噛む上に噛んだら呪文は失敗して素体と折角の天然貨幣が無駄になる。

ロボット=ゴーレム作りは式を自前で書くほうが都合が良いのだ。


「これと同じ式を書けるかシアン」

「ムロンデスマスター」


まぁシアンにも魔術式は書けるので今度からはシアンと協同でやるつもりだ。初めて作ったロボットであるシアンは成功したが農奴機は成功するかは分からないので、結果によってはプロトタイプ一号だけでお蔵入りという事も充分ありえるのだ。

兎に角農奴機は形を成した。見た目は緑色の液体で出来たデブ人間といった所だ。


「さて農奴機一号…いやさ農素(ノウス)一号よ、カリグス帝国を支えたという力を見せてみろ。とりあえず…ここに100m四方の畑を造れ。ちなみに1mはこの位だ」


農巣一号にアイテムボックスから取り出した鉄の棒を見せる。純粋な鉄で出来ているので結構柔らかい。魔術では鋼は作れないが鉄だけで出来た棒は作れるのだ。それはそれで凄いと思う。ちなみに1m棒は俺の知識から作ったので正確な1mではない。この世では1mは俺の示した1mが基準である。まぁ普及はしないかもしれないが、それはそれだ。

農巣一号は黙々と作業を始めた。やはり喋れないらしい。喋れるのは特別な調整をした個体のみである。


「さて…ハレ、エレノア、シアン。農素一号の仕事がどの位で終わるのかを見届けておけ。俺はリュウに乗ってある所に行く」

「了解いたしました殿下」「リョウカイシマシタマスター」

「一緒には行けないんですか?」

「今日の行き先には俺一人で行かなければならんのだ」


別に連れて行っても良いのだが、嫌な気持ちにしても困るのだ。リュウの紐を解きリュウにまたがって飛び立たせる。昨日と違い一気に飛んだが、俺は特にブラックアウトもせずにGを感じただけで済んだ。やっぱり身体の才能は超一流である。母と父に感謝だな。


「その内女達を乗せるためにお前用の鞍と鐙を作るが…いいか?」

「ガルルッ!」

「俺は使わんから安心しろ」

「ガゥンッ!」

「そうか、では今日の夕方には作り始める。お前用に誂えるから少し不自由をさせるが飛んで逃げるなよ」

「ガゥンッ!」


そしてリュウに行く方向を指示してやる。下を見るともう畑が大体出来上がっていた。まぁ作物も水も糞も無い畑だが形にはなっている。しかし本当に早いな、まだ三分も経ってないぞ。ラーメンより早く出来たらしい。

リュウを飛ばし、エクター王都を通り過ぎて北を目指すと伝えた。途中王都の周辺でオルガ公爵の軍勢が腹を空かせている様子が見えた。彼らを助けるつもりは無いが、野盗になっても困るので、塩水の雨を降らせてやる。腹は膨れないが人間水さえあれば中々死なない物だ。それに魔術で雨を降らせれば魔物も生まれやすくなるらしいので、上手くすれば魔物が生まれてその肉が食えるかもしれない。魔物に殺されたり逆に塩水のんで喉の渇きに苦しむかもしれないが、俺には関係ない話だ。


「これは慈悲ではない…施しのような物だ」


オルガ公爵とラスナ男爵の争いは使い魔を通じて知っているが、同情する気は無い。負けに濡れた犬は追われるのがこの世の習いである。オルガ公爵が無謀な侵攻をしなければ良かっただけの話だ。まぁ俺は彼らを利用して入ってきたのも事実なので、一応心ばかりの助けはするが名乗り出ることはしない。

そして北に向かい、二時間ほど飛んでチオのかつての領地に降り立つ。領地は空から見ても分かったがボロボロであった。道路には穴が空き田畑には草が生い茂っている。家も所々に点在しているがどれも人が住まなくなって長いらしい荒れ具合だ。


「さて…チオは領地に帰ると言ったが…まだ戻ってないのかな」


とりあえず魔力資源を集めて使い魔を放つ。領地の中には魔物の魂もあったので素体にした。もしもチオに会ったら天然貨幣の代わりに何か渡さなくてはならない。

使い魔が人の群れを発見したので、そこに行く事にした。どうやら領主の館跡に集まっているようだ。

リュウを牽いてそこに行くと、領主の館は既に焼け落ち広場になっていた。


「止まれっ!何者だ!?」


領主の館跡地の見張りは俺が100mほど近くに来て漸く気付いたらしい。ちょっと遅いな、普通の人でも走れば十秒強で襲いかかれる距離だぞ。


「チオ=ベイ・ロンに取り次いでくれ。ウルファスが来たと伝えてくれれば分かるはずだ」

「分かった、そこから十歩下がって待ってくれ」


十歩も百歩も同じだとは思うが、言葉通り十歩下がって待つ。すぐにチオは竜に乗ってやってきた。すぐに竜から降りて膝をついた。そこまでしなくてもいいのにな。


「ウルファス殿下良くぞおこし下さいました。やはりご無事だったのですね。今日は何用でしょうか」

「何、飯で困っていると思ってね、余計なことかもしれないと思ったが色々と持ってきたのだ」


チオは平伏して礼を言った。どうやら相当困っていたらしい。

その後オークを大鍋で煮込んだ食事を振舞ったら村人にもかなり感謝された。そして国を造ることを彼らにも話し、今よりも豊かな土地を用意すると言ったが、予想以上の反応があった。


「…あんたは王族じゃろう…」「わしらをたいそう苦しめたエクター王族に今更従うもんか」「おれのガキは王都に浚われて以来行方がわからねぇ…」「飯は助かったがのぅ…」「すぐに帰ってほしいな…再び怒りが沸く前に」


まぁこんな反応である。チオは今にも怒り出しそうな雰囲気だが俺が表情を変えないので怒っていいのか分からないらしい。その後チオと気にしていないからと挨拶を交わして幾らかの食糧を残してその場を飛び去ることにした。


「いつか…領民を説得して貴方の下に走りますので、その時をお待ちください殿下」

「気長に待ってるよチオ卿」


その後も村の跡地や避難民の逃げたと思われる場所に立ち寄ったが、悪態をつきながら食糧を受け取ってくれる人々はまだマシな方であり、時には弓矢で追われた。今更だが俺の風貌はかなり王族らしい風貌なのだと自覚した。今までは気にした事も無かったが、王族と名乗ったわけでも無いのにこんな対応されるということは、そういうことだろう。そうすると俺と似た見た目の王族ではない人は相当苦労しているだろうな。これも俺の罪の一つだろう。

しかしエリトと名前も知らないアンリエットの子供は見つからなかった。死んでしまったか隣の国にでも行ったのだろう。そんなことを考えていると夕焼けが目に入った。そう言えば朝から飯を食っていないことに気付いた。


「帰るかリュウ、今日の所は食糧配布は終わりだ」

「ガオアッ!」

「なに?まだ続ける心算かだと?当然だ。連中の餓えには俺の責任でもあるのだ。一日サンタの真似事をした位で罪の意識は晴れないよ」


ノン大河のふもとに帰る途中に何匹かの空飛ぶ魔物とエンカウントしたが、容易く始末できたので明日はこの肉を配るとしよう。

建国予定地帰るとそこには畑が一つと城が一つの寂しい景色がある。ここに広い国を造れれば壮観だろうな。

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