空で睦み合った三人
ドラゴンの解体には結局1週間も掛かった。まぁシアンと二人だけで巨大なビルを解体したと考えれば早い物である。なおその間ハレは家事の合間に文字の勉強をして、エレノアはハレを手伝いつつ俺の考えた訓練メニューをしていた。素振りを何回も繰り返すとか走りこみとかそんな簡単なメニューだ。魔力資源の見えるようになったハレに色々アドバイスを貰っているらしく、先週戦った時よりも全身に纏った魔力が強い。確実に以前よりも強くなっている。
「殿下、手合わせ願います」
「今朝もやったじゃないか」
「いけません、確かに殿下の強さは完璧と言ってよいでしょう。しかし油断と慢心は禁物です。日々の修練を怠ってはなりません」
エレノアは毎日暇を見ては俺に手合わせを挑んでくる。俺のことを思ってくれているのだろうが、正直きつい。まぁ俺を育てようという委員長気質は俺をそそらせるので文句はない。
「では行きますよ殿下!」
「…応っ!」
互いに鎧を着て剣を討ち合う。俺はドラゴンの解体作業で疲労が溜まっているのが自分でも分かっていた。流石に連戦連勝とは行かず、十度試合って最後の最後で膝をついて負けてしまった。
「いや参った、降参だ」
「喋れるうちはまだ平気です。あと百合は斬り合いましょう」
「そこまでしなくても…今日はもういいだろ…」
「駄目です、殿下はそう言う所が欠点なのですから今の内に直しませんと将来駄目になります」
ハッキリ言うな。しかし俺の身体は兎も角として精神は不惑を超えて還暦に迫るか超える年齢だと思う。今更直るんだろうか?その後も何度も何度もしごかれて俺はついに地面に大の字になった。やはりまだまだ体力が無い。エレノアは剣を杖代わりにして漸く立っている。今の俺よりは体力があるが、すぐに追い抜いてしまうだろう。負け惜しみでは無く事実だ。
「殿下、私を恨んでくれて結構です。ですが貴方は才能の塊…どうぞ開花して立派な王に成って下さい」
「ふふ、誰が恨むか。お前のようないい女を恨む亭主が居たらそいつは阿呆さ『大地駆け抜ける風』」
アイテムボックスからマーリンを取り出し、互いの身体能力を強化する。事前にかけても良いのだが、それだとエレノアは修業にならないと言うのだ。確かに魔術を使って体力を増強しても結果的に筋力も心肺機能も普通に運動するのと変わらない程度にしか成長しないとされる。実際俺も山で鍛えている期間もラグに身体強化は使うなと厳命されていた位だから効率が良くないのだろう。それなら体力を増強して練習するのは、ある意味時間の無駄である。疲れるまで時間がかかり鍛えられる能力は変わないなら剣も折れる死資源の無駄だ。というかこのペースで試合をしたら備蓄の武器が無くなってしまう。
「さて…ハレは飯を作っているだろうし、さっさと食うぞエレノア。それから…お前は疲れると太刀筋が乱れるな。駄目だぞー疲れた時こそ無駄の無い剣を操らねばならんのに」
「も…申し訳ございません…私の様な未熟者がえらそうな口を聞いて…」
「気にするなと言ったろうに、さってと!」
「きゃっ!?」
エレノアを両手で抱えると可愛らしい声で鳴いた。所謂お姫様抱っこという奴である。一度やってみたかったのだ。まぁエレノアは鎧を着ているので指に伝わる硬い感触は硬質のマネキンを抱えているのと変わらない気もする。それでもどこか柔らかいように思えるのは中々不思議である。
天幕の中に入りエレノアをゆっくり置いて、鎧一式をアイテムボックスに収納した。その後全員で仲良く飯を食い終わった。洗い物をハレとエレノアに任せて天幕の外に出る。外のリュウに久々の飯を与えるのである。
「さて…リュウ、空を自由に飛~びたいか?」
「クゥン!」
「マスターワタシモトビタイデスヒコウユニットゾウセツネガイマス」
何故かシアンも天幕のすぐ外に居た。解体も終わったので用事がないから待機しているのだろう。シアンに飛行機能…まぁ別に要らんな。尖ってるから乗れないし。兎に角リュウは飛びたいらしいので、空挺ドレイクの血液と鱗を混ぜ合わせた秘薬を飲ませる。配合比率は書物の通りだが、上手く行くかな?
「ガヤゥン…ガォンッ!」
リュウの前足は翼へと変じた。こんなすぐ変化するのか…宝物庫にあった『操竜秘儀書』の内容は正しかったらしい。しかし簡単に変化したということは再び簡単に変化するのだろうか?それはできれば止めてほしいものだ。
前世で遊んだとあるゲームを思い出す…NTR部分だけが有名になってしまったが、あれは好いゲームだった…ちょうどこんな風に竜にアイテムを食わせて竜を成長させるゲームだったな。そういえばあれには竜と竜を交配させて子供の竜を作るというイベントがあった。リュウと同じく飛竜に変化させた相手と交配させれば、息子か娘も翼を生やした竜として生まれるのだろうか?何時か試したい物だ。
「リュウさまに翼が…!」
「殿下…リュウを飛竜にしてどうされるのですか?殿下は魔術を使えば自分一人で飛べるでしょうに」
ハレとエレノアは天幕の外に出ていた。ハレは笑顔でエレノアは少し困った顔だ。どちらも実に魅力的だ。
「そうだな、説明してやるからリュウに乗れ」
「デハオコトバニアマエテ」
「ガォン!」
「すまんなシアン、リュウはお前を乗せたくないらしい。悪いがお前は天幕を片付けておいてくれ」
シアンはぶっきらぼうに震えて、天幕を片付け始めた。ハレはすこし怯えながらも楽しそうに俺の後ろに乗り、エレノアは騎士らしく実直に無駄の無い動きで一番後ろに跨った。
「リュウ、初めての飛翔が三人乗りだが、ゆっくりと確実に飛べよ」
「ガゥン!」
リュウはゆったりと羽根をはばたかせ、三人乗りなど気にも留めず空に飛びあがった。グングン上昇しエクター平原を一望できる高度まで来た。夜のエクター平原には月明かりだけが存在し、今が文明の黎明期だと教えてくれる。
「二人にもこの光景を見せたかったのだ」
「すごい…綺麗です…」
「殿下?おふざけになっているのですか?この光景を見せたいならば、殿下が抱えて飛べばいいだけでしょう」
「確かにな、だがリュウを飛べる様にしたのは他にも理由がある」
リュウのわき腹を右足で刺激して、ゆっくりと旋回飛行させる。
「理由に納得できなければ…殿下を見放します」
「ふむ…ハレも同意見か?」
「ふふっウル様…何だかんだ言っても、もうエレノアさんはウル様の下から離れられませんよ…わたしと一緒でとっくに…」
「ハッ、ハレさん!?」
どうやら仲良くやっているらしい。結構なことだ。まだエレノアを抱いてはいないがそろそろ手を出すとしよう。ハレの言い方から察するにもう何をしても良さそうだ。
「それはさて置き…二人にも見せたから分かると思うが、エクター平原には人の住む領域が実に少ない。そしてその少ない領域でさえ邪神教団に焼かれた。平原はこの十年で人の住めない領域になった」
「現状確認ですか殿下?それがリュウを飛竜にした理由なのですか?」
声にはやや怒気が宿っている。怒りの理由は幾つか思いついたので一つづつ言ってみることにしよう。
「相談しなかったことに怒っているのか?」
「…リュウは殿下の友です。形態を変えるのは互いの同意があったのでしょう。ですが形態を変えるのに家臣に相談無しというのは頭の良い殿下らしくありません」
いきなり的中したらしい。リュウも俺も同意したから良いと思ったが、やっぱり相談するべきだったかな?
「悪いな、今度からは大事なこともそうで無い事も何もかもお前達に相談する。それとリュウを飛竜にした理由は現状確認ではない。それなら一々空を飛ばなくてもいいからな」
「…では何が目的なのですか?ハッキリ言って下さい」
困ったな、今更格好良さそうだから飛竜に変化させたなんて言えない空気だ。しかし何とか言い繕わねばならない。エレノアが怒っているのは事前に相談しなかったという疎外感からだ…疎外感…う~ん、特に何も思いつかないな。しょうがない、ここは本当のことを言うしかない。言わずに後悔するよりは言って後悔した方が良いというのを俺は学んだ筈なのだ。
「すまん。実はリュウを飛竜にした理由は特に無いんだ。飛竜にしたら格好良さそうだから変えたんだ」
「はぁ…そんな事だろうと思いました。今度からはなるべく相談願います殿下」
「元々リュウ様は格好良かったですよ。でも今はもっと格好良いですよ」
「ガォン」
リュウは気を好くして飛んでいる。落ちそうになったハレを支えてやる。危ないな。
「許してくれるかエレノア?」
「今度からはなるべく私達に相談してくださいね」
どうやら許してくれたらしい。リュウの背から跳び上がってエレノアの背後に回る。ちょとした曲芸だ。俺の前に座るエレノアとハレは大層驚いてキョロキョロしている。俺が飛び降りたと思ったのかもしれない。
安心させる為にエレノアを抱きしめる。腕の中のエレノアはビクッと驚いたがすぐに安心したようだ。
「驚かさないで下さい殿下…」
「今のも相談した方が良かったか?」
「そうですね、ウル様は命を粗末にするような方ではありませんが、自らのことは大事に思わない傾向があります。どうぞご自愛くださいますよう願います」
「ハレの言うとおりです。我らに何もかもご相談してください。大事なお体を労わって下さい」
それは少し窮屈過ぎるナと思いながら、エレノアをまさぐり、衣服を脱がす。エレノアはちょっと暴れるが気にしない。
「殿下っ!何をなさいますか!?」
「お前を抱きたいのだ」
「ならばそう仰って下さい。いきなり…んっ!」
「そうか、抱いて良いか?」
「殿下…私は…殿下の所有物と言っても過言ではありません。どうぞお好きになさってください」
少し気になる言い回しだ。まるで嫌がっているようだ。まぁいきなり後ろに回って身体をまさぐってる俺が言うのもなんだが、嫌われたくはない。
「俺が嫌いかエレノア?嫌なら手を放すぞ」
「殿下…私の口から言わせないで下さい…」
やはり俺のことが嫌いなのかな?忠義は示しても生理的に嫌われているのだろうか?そんなことを考えると途端に俺のしていることがパワーセクシャルハラスメントに思えてきた。実際そうだが同意さえあればハラスメントにはならない筈だ。
「ふふ…ウル様、エレノアさんがウル様のことをお嫌いなわけがありません…この一週間ウル様のことをしきりに褒めていらっしゃいましたよ」
ハレは何時の間にやらこちらを振り向いて俺とエレノアの痴態を見て真っ赤になっている。相変わらず初心である。
「ハ、ハレっ!何を言うのですっ!」
「褒めたって具体的にはなんて言って褒めたんだ?」
「そうですね…」「こらっ!秘密に…むぐぅ!」
エレノアの口を塞いでハレに喋るように促す。
「エレノアさんはご飯の用意をする時もウル様のお身体を強くするよう注意を払いながら、薬草を煎じてスープに混ぜるのです。その時のエレノアさんの顔は…本当に優しい顔でしたよ」
「むぐぅ…」
エレノアは真っ赤になって震えている。ハレは何だか申し訳ない顔をしている。
「ハレ、もっと聞かせろ」
「ですが…エレノアさんに悪いです…」
「命令だ」
腕の中のエレノアは暴れているが、俺の体術の前には女一人を制するなど容易いことだ。
「ごめんなさいエレノアさん…でもウル様には逆らえません。ウル様のお出しになった練習メニューをとても効率的で実戦に役に立つものだ…と、希望を宿した目で言ってらっしゃいました」
「ふむふむそれから?」「むぐっ…むぐぅ!」
「そうですね…ウル様のお造りになったお風呂ですが…」
天幕の外には魔術で作った露天風呂がある。あまり魔術を使い過ぎると魔物が寄ってくるという説がある。エンカウント率が上昇するのだろうか?だが、来たら来たで魂をロボットの素体にする予定である。
「…とても気持ちの好いお風呂で、肌を磨きながら、そのお肌をウル様に見せたいと連日言っていましたよ」
そう言えば忙しくて風呂を覗く暇もなかったが、覗けば良かったな。それは兎も角磨いていたという肌は騎士らしく所々に傷がついていたが、張りがあり瑞々しい肌である。肩の所にある太刀傷を舐めるとエレノアは驚いて震えてしまった。
「エレノアよ…空の上というシチュエーションは嫌か?」
エレノアの返答を聞く為に口から手を離すと手は涎にまみれていた。だが不快感は無い。美女の涎など金を出しても手に入らない類の物だ。
「…殿下…この一週間殿下を思わない日はありません…エレノア=ボガート・ハランは横恋慕する駄目騎士です…だから修業に出て貴方の下を去ろうなどと言ったのです」
「横恋慕?」
「殿下は…ハレさんと…」
「ふむ…確かにハレを愛している。だがお前も愛しているのだ。ハーレムは嫌いか?俺は好きだ」
「殿下…嬉しいのですが…お父上はそれで失敗したのですよ」
確かに、しかし俺は性欲が他人の10倍くらい強いので我慢ができないのだ。ボターの村に居た時は手元に美少女など居なかったので我慢も出来たが今は隙あらば二人を貪りたいのだ。
「さて…俺は失敗するかな?まぁそれも人生だ。成功目指して精々頑張るとしよう」
「いいですか殿下っ!失敗したくないなら私とハレをお抱きになるのは週に一回までですよ」
「そうですねその位の方が…ウル様のご負担にもならないと思います」
週に一回か…まぁ彼女達を同時に楽しむのなら百回に相当するだろうから好いかな。
「分かった。ではエレノアよ、抱くぞ」
「初めてですから…優しくして下さい…」
「ふふ…ウル様はすごく優しいですよ…」
その後二人を弄ぶと、大河がしぶきを上げた。比喩ではなくて魔物が現れた。奴を討伐すればこの付近の魔物は実質全滅したことになる。これで漸く国造りに取りかかれる。国を造れば人が集まり、金も集まる。そして当然美女も集まる…邪神教団への復讐を諦めたわけではないが、それはそれこれはこれである。




