大河のほとりに住むドラゴンは山のように大きかった
久々に太陽の下でハレの作った飯を食っている避難民は大層ご機嫌であった。しかし…太陽の下だと服や身体の汚れが一層目立つな。
「エレノアよ、お前の親戚はどう処遇するべきだろうか?」
隣に立つエレノアに問いかける。あの2人の騎士以外はドゴに殺されたようだ。二人の騎士はエレノアの遠い親戚だそうだ。父親の従兄弟の息子だそうだ。殆ど他人にも思えるが、彼らとは幼いころから共に育ったそうなので思い入れはありそうだ。
「処刑が適切かと思います」
…身内を厳しく処断するのは良いことだ。しかしこの世は実に命が軽い。
「エレノアよ、公正な判断だとは思うが、今は乱世で民を守るべき騎士も随分減った。徒に減らすのは拙い…どうだろうか、2人が反省し避難民が許すならば処分しないというのは?」
エレノアは随分悩んでいる。当然と言えば当然だ。俺も避難民が殺せと言ったら殺すつもりだ。だが俺は彼らの悪行を知らないので俺が決めるのは拙いのだ。
「…殿下の決断を尊重いたします」
「そうか、だが民が殺せと望んだら俺がこの手で殺すつもりだ。覚悟はできているか?」
エレノアは頷いてボクという避難民の頭目格の男の元に行き、ボクをつれてきた。ボクは俺の前で跪いた。ハゲ頭の老人にこんなことをされても全く嬉しくない。
「面を上げろボクとやら」
「ありがたいことで…ウルファスさま、ワシらは騎士に酷い目にあわされましたが、それでも許せと云うのですか?」
「お前一人で勝手に決めるな。許すかどうかはお前達で相談して決めろ」
ボクは頭を下げて避難民に所に駆け寄った。そして何事か相談している。全員飯を食い終わったようなので、ハレを手招きする。ハレは大鍋と大量の食器を持って俺の前に来た。
「お疲れさん」
「ご苦労様でしたハレさん。お手伝いもせず申し訳ありません」
「いいえ、気にしないで下さいウル様にエレノアさん」
アイテムボックスにハレから受け取った食器類をしまって、アイテムボックスから3つの椅子を取り出す。俺が座ると二人は俺の座ったのを見計らってから全く同時に座った。仲の良いことだ。
「さて…シアンの報告によれば魔物はもうこの森には居ない。今後の予定をお前達にも話す事にする」
「どこへでもお供します殿下」「ウル様と共にどこまでも…」「クゥン!」「マスターオヤクニタチマス」
いつの間にかシアンとリュウも近寄って来ていた。一体と一匹に座らせる椅子はないので、そのままにしておく。
「皆ありがとう。俺達はここからノン大河のほとりを目指す。そしてそこに街を造り国を造る。勿論ここの始末をつけてからの話だがな」
「よろしいですか殿下?」
エレノアが態々挙手して発言の許可を求める。頷いて発言させる。
「ここの始末と言いましたが、もしや避難民を連れて行くお積りですか?」
「連中が望むならそうする。望まないなら食糧をいくらか置いて立ち去る」
「そうですか…恐らく望まないでしょうね…」
エレノアは言葉に詰まって言い難そうな顔をしている。大体察しはつくが聞いておきたいので、構わないから言ってみろと言う。
「…殿下は王家に連なる人間だと思われています…そして今エクター王家の人間には人望が…」
「ハッキリ言ってくれ、エレノア。俺も少しは察しはついているが、どう思われているのかは知っておきたい」
「…この10年程はエクターの名の下に随分非道な行いが…無論殿下に責任はありませんが、今殿下の様な仁愛溢れる御方の下にさえ、人は集まらないでしょう…」
口惜しそうにエレノアはうなだれた。
「俺はやることをやるだけだ。その結果として王になるか商人になるかは知らんがな」
「ウル様なら良い王様に成れますよ!」「マスターコソテンチカイビャクイライノオウナリ」
そこまで言われると照れる。さて…俺が王様に成れなくてもこいつらはついてきてくれるかな?
そんな風に考えていると、ボクがやってきたので、新たに一脚の椅子を取り出して勧めたが、座らずに地面に座った。人の好意は素直に受け取ってほしいものだ。まぁ今の俺は残虐な人間狩りを行ったエクター王家の人間として恐れられているのかもしれない。そんな奴とは同席したくはないかもな。
「ウルファスさま、ワシらはあの二人の騎士様をお許しします…ワシら如きが決めてよろしかったのですか?」
「構わんさ、シアン、あの二人を連れて来い」
シアンはリョウカイシタと答えて飛び去った。洞窟の中で縛り上げていた二人の騎士はすぐに来た。
「シアン、縄を切ってやれ、勿論騎士に傷はつけるなよ」
シアンは縄を切って、二人の騎士は自由の身になった。騎士達は俺の前に跪き色々喋ってる。助かったとかどうのとか一生恩は忘れないとかそんなことだ。
「それは兎も角ボクさん、あんたらこれからどうするね?」
「どうするとは…どう言う意味ですか?」
「単刀直入に言おう。俺は国を造るつもりだ。そこの国民にならないか?」
ボクは怯えた顔をしている。恐らくエクター王国での迫害を思い出しているのだろう。エレノアと二人の騎士が余計なことを言う前にフォローしておくかな。三人とも何か言いたそうな顔である。エレノアは忠義から言おうとしているようだが、二人の騎士は打算だろう。
「なら此処で暮らすのか?ボクさん」
「…他に行くところないんですよ…」
恨みの篭った目である。俺に対して言いたいことが有るのだろう。
「分かった。二人の騎士…カーン=ボガート・ハスン、ンヴィコ=ボガート・ハリン。どうだこの森の警護をやる気はあるか?」
「「御意に御座います殿下!!」」
一字一句同じ言葉で答えた。この森には魔物は来ない結界を張ったが人間は来るので軍事力は居るのだ。
「ボクさん、この二人を此処に置いても好いかな?」
「…食い物さえ有れば…お引き受けします」
「よろしい。二人とも悪させず励めよ。では皆ついて来い」
俺は立ち上がって森の中央部分に向かう。100人以上の人間を引き連れて森の中を進むのは結構異常な光景である。別に全員ついて来いとは言ってないのだが…まぁいいさ。
森の中央についたので、マーリンを取り出し、『豊饒の泉』と唱えると、森の中に大きな泉が出現した。泉の水は健康に悪そうな緑色だが、見かけと違って役に立つ物だ。森に栄養を行き渡らせ魔力資源を吸収する限り涸れることは無い。まぁ全部使えば当然涸れるのだが。
「この泉の水は一日100エイセン以上汲まなければ決して涸れることは無い。またこの泉がある限りは森の植物は一年中生い茂るだろう」
「流石はウル様…格好いいです」「殿下はやはり救済の王…」「フツウノマジュツニミナサンズイブンオドロイテマスネー」「おぉ素晴らしい!」「ヒャッハー!」「水だっー!」「エクターの王族がワシらを助け…?」
森の中には大音声が響き渡る。その後早朝なのに宴会を開き、いくらかの食糧を渡して昼には森を後にした。だがその前に一応念のためマの洞窟の情報を全てもう一度確かめた後に洞窟を崩した。避難民達はあの洞窟にこれ以上住んでいたら危ないところだったと一層俺に感謝した。崩したのは俺だがそれでも感謝された。何だかむずがゆい。
俺が洞窟を壊したのはマの情報を他の人間に渡したくなかったからだ。あの洞窟に書いてあった情報は世界を崩壊させるほどの魔術があった。まぁマーリンの魔力資源がなければ意味は無いので、マーリンの使用権限移譲コードの情報を隠蔽したかっただけなのだが。
「さて…ではリュウよ、俺達全員乗っても良いか?」
「クゥン!」
「ふむ、シアン以外は大丈夫か。シアン、悪いがお前は乗せられんみたいだ」
「カマイマセンワタシハソノトカゲヨリスバヤイノデスマスターモワタシニオノリクダサイ」
いや…お前の身体すごい尖ってるからやだよ…と言うわけにもいかないので、頑張ってついて来いとてきとうに返してリュウに乗る。俺の後ろにはハレが抱きつきその後ろはエレノアである。背中が実に心地良い。
「そういえばリュウ、何でハレを乗せてもいいんだ?前は拒んだのに?」
「クン」
「ふむ、そう言うわけか」
「あの、ウル様、リュウ様は何と…?」
「お前のレベルが上がったから良いんだとさ、戦えるレベルなら乗せてやるそうだ」
「まぁ…ありがとうございますリュウ様」
リュウは少し照れている。そんな気持ちを誤魔化そうと思ったのか、結構な早さで走っている。ハレが振り落とされないように俺をギュッと掴んだ。実に好い感触だ。鎧を着なくて正解であった。
シアンは二本脚の癖にリュウと並走している。足が剣なのに凄いな。自分で作ったロボットだが、驚きの性能である。リュウは負けじと速度を上げる。するとシアンも速度を上げる。俺は応援として『大地駆ける風』を一体と一匹に唱える。益々加速したので、後ろの二人を離さないように五兵形態となり触手で二人を支える。ちょっとエロイ声が聞こえたが、何せハイスピードの旅なので良く聞こえなかった。こんどはスローペースで触ることにしよう。
そんなことをしているとすぐにノン大河が見える所についた。ボガートの一族の治めていた街が見えたので減速しろとリュウとシアンに伝えた。流石に高速だったので止まるのにも時間はかかった。
「あれがボガートの治めていた街かエレノア」
「はい…今は恐らく…ドラゴンが…」
「グギャウヤグアヤグ!!!」
聞いたことの無い大きな咆哮がした。街の廃墟から大きなドラゴンが現れた。地球での知識を元にすればショッピングモールの上を跨げるようなサイズだろう。実に大きい。
「今時珍しい位ドラゴンしてるな、実にドラゴンだ」
ドラゴンは実にドラゴンらしい。緑の鱗に小さな羽根、鋭い牙に四つの足に長い尻尾…ドラゴンと言われて思い描くドラゴンの姿であると言える。シンプルで分かりやすくドラゴンしている。
「ところで殿下、ドラゴンが居るのはお教えしましたが…策はあるのですか?」
「大丈夫ですよ。エレノアさんはまだ知らないでしょうが、ウル様はと…ってもお強いのですから」
ハレの期待に応えるためにマーリンを取り出し、周りに防御結界を張ってからドラゴンに『サンダーボルト』を唱える。雷鳴が轟き幾つもの稲妻がドラゴンに直撃する。
「グォンッ!!」
雷の乱舞はドラゴンに全く効果がなかった。オカシイナ雷系最強クラスの呪文なのに。




