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ウルファス物語  作者: ろーき
第4章 建国編
30/50

偉大なる杖は木の棒に見えた

「杖が一本だけですね」

「ウル様…?ここはもしや大魔術師様の墓所なのでしょうか?」


やはりハレには魔力資源が完全な形では見えないようだ。洞窟の奥の小部屋の中は全て真っ黒い石で囲まれた閉塞感の強い部屋だ。小部屋の中央には1本の木と間違いそうなほど簡素な杖が宙に浮いている。

2人は立方体の檻に閉じ込められたと言って少し怯えている。だが俺には恐怖も閉塞感もない。

奥の壁には杖の説明と遺言が記してある。マは自分の研究を引き継いで欲しかったらしい。杖の名は『マーリン』マよりも偉大な魔術師の名であるそうだ。聞き覚えのある名だ。未来予知だの変身能力だの持っていたくせに地面の下に埋まったまま永遠に囚われたとか言う古い魔術師だ。

杖の所有権を俺に移す為の認証キーワードもニュートンと書いてあるし、地球と関係が有るのかもしれない。


「まぁ…俺には関係ないかな、さてっと。『ニュートン』」


小部屋の中央にあった杖が俺の手に収まる。するとさっきまで奥の壁にだけ書いてあった文字が天井・床・側面の壁にも新たに浮き出た。


「ハレ、文字が見えるか?」

「文字…いえ見えません」

「そうか、まぁいい。もう覚えたことだし出るぞ。少し洞窟の中を掃除しておくぞ。あんなところで寝たら病気になる」


2人は頷いたが、少し奇妙な表情だ。何か言った方が良いだろうか…慕われない君主など殺されるためにいるような物だ。


「お前達に出会えたお陰で此処に来ることができた、本当に感謝している」

「殿下…いえ私こそ殿下が居なければ、今頃餓えて死んでいました」

「ウル様、今日はお疲れでしょう…掃除はやっておくので、先に此処でどうぞお休みください」


ここで眠るという発想はなかった。だって3畳ないぞこの部屋。3人で寝たら窮屈だ。俺とハレは兎も角エレノアは今日位安静にしないと死ぬかもしれない。今は元気に見えるが、明日には死んでもおかしくないほど血が出た。


「いや、エレノアはここで休め。今日はお前は死にかけたのだからゆっくり休め、初めての命令だ」


アイテムボックスからかつてアンリエットの使っていたベッドを取り出す。ちょっとでかすぎたので、しまって昔使用人のおばさんの使っていた方のベッドを取り出す。今度は大丈夫だ。清潔に洗っておいたのでエレノアにおばさんの匂いは移らないので安心だ。


「命令を受理いたします優しき殿下…」

「「お休みエレノア」さん」


エレノアはベッドに横になると布を被ってすぐに寝てしまった。疲れていたのだろう。手を握ってみると硬くも柔らかい。もっと悪戯したいがそう言うわけにも行かない。


「さて、では汚物の処理か、ハレ、手袋と布と口布を渡すから、汚物に注意して掃除しろ。いいか、汚物というのは様々な病気を媒介するのだ。まして長い間掃除しなかった汚物だ。傷口に触れると下手すりゃ死ぬぞ。手に傷は無いな?」


ハレは気を引き締めた顔で頷いた。ウンコとは兵器になり肥料にもなり性的な嗜好品にもなる万能物質だが、今の避難民には危険なだけの物だ。

汚物の掃除は意外とすんなり終わった。やはり真魔道大全のお陰である。この書物の中に汚れを食らう銀水のヒドラの類似品があったお陰ですんなり終わった。これを手に入れて良かったと心から思った。床の茶色い模様をゴシゴシしなくて済んで本当に良かった。

ハレをエレノアと同じ部屋で寝かせ、俺は小部屋の外にたたずむ。可愛い僕に手を出す不届き者が居ないとも限らないので当然のことだ。人間とは食べ物をくれた恩なんて3日どころか朝になれば忘れる生き物だ。避難民どもは俺の味方になったわけでもなければ俺が味方になったわけでもない。やつらを助けたのは主な目的はエレノアを俺に惚れさせる為だ。要するに格好付けの為である。


「格好付けのお陰で杖も手に入った…宝具…スフアソラと同じく魔力資源をふんだんに使った、神を殺せる兵器か。少し大げさだが魔力資源を見るに結構な代物だな」


小部屋の壁には色々書いてあった。古代文明は魔力を創造し栄華を誇ったが、魔力資源の見える真人と呼ばれる彼らの創造した新たな人類によって滅ぼされたそうだ。真人は機械を使わず魔術を使い、古代人から機械を無くさせて恒久平和の社会を作ったそうだ。しかし真人の多くが星の海に飛び出すと古代人は文明を維持できなくなり文明はあっさり崩壊したそうだ。死んだという表現ともとれるが、宇宙に進出したとも取れる感じだった。マも史書を読んで知っただけなので本当は何が有ったのかは分からない。

なぜニュートンだのマーリンだのノーベルだのの名前があったのかは謎だ。マの残した情報によると偉大な学者や魔術師の名前だと言うことくらいしか書いていなかった。万有引力の法則やダイナマイトなんかの情報を添え書きしなかったあたり名前だけマの読んだ史書に載っていたのかもしれない。

この星は地球と関わりがあったのだろうか?少なくとも此処は天の川銀河ではない。パラレルワールドか、知性を持った生物は人間と同じような収斂進化をするという傲慢ともとれる仮説を思い出した。それで地球と変わらない人間がこの星にも暮らしているのだろうか?或いは俺の前世の平成時代から人類が宇宙に飛び出して数億年後の世界なのかもしれない。

もっとも判断材料はマの集めた情報に過ぎず、彼の集めたという資料もなかったので真実かは分からない。資料がどこに消えたのかは…俺の持つ真魔道大全と関係しているのかもしれない。そもそも真魔道大全はマの直筆でこの世に数冊しか無いと思う。写本はされなかったのだ。真魔道大全は古い魔道大全とは掲載している魔術がまるで違う。魔道大全は戦闘用魔術が主だが、真魔道大全は国造りの魔術が主に掲載されていた。2つの書には重複する魔術は載っていなかった。

そして小部屋の壁にはマの最新の研究成果が書いてあった。


『この壁に書かれた文字を読むマの後継者よ、もし叶うならレベルについての真魔道大全の言及を改竄して欲しい。此処に来て漸く真実が分かった』


レベルやジョブは原始人の能力の名残では無く、古代文明が人間の適正を見極める為に創ったシステムだそうだ。なんでも人類の集合無意識にかけられたという大魔術で、その時代に応じた力を人間個人個人が使う為の力だそうだ。簡単に言うと戦乱の世なら戦士や騎士のジョブを持って生まれる者が増え、レベルも増大しやすい。逆に平時ならそうしたジョブを持った者は減少しレベルも増えにくくなり、場合によってはジョブ自体が消滅する。今確認されているジョブは戦う者が49種類、考える者が28種類、造る者が7種類である。そして複数の性質を持つジョブは98種類である。今は間違い無く乱世であるらしい。


『魔物についても発見があった。奴らは元は人類に娯楽を供し、労働力となり、食料となった再生製物の末裔である』


周囲の魔力を取り込むだけで肉となり勝手に復活するという魔物の性質は確かに食糧として最適だろう。なぜ暴れるのかはサッパリ分からないが、そう言う性質の生産品なのだ。壁には大体こんなことが書いてあった。

彼が真魔道大全を書きあげたのはこの場所だとも分かった。壁に書いてある研究は新しい神魔道大全に纏める予定だったそうだが、道半ばで息絶えるかもしれないとも書いてあった。そして神魔道大全は此処には無かった。多分存在しないのだろう。

しかし真魔道大全がなんでエクターの宝物庫にあったのだろうか?恐らく此処に付き添った彼の弟子が持ち去ったのだろう。多分その弟子の死後にエクター王家に婿入りしたガシャラムが褒美か結納かご祝儀で貰ったか王家代々の品だろう。真魔道大全がどこから来たのかは宝物庫の資料には書いてなかった。いい加減だがそんなもんだ。杖を弟子が持ち出せなかったのは所有権を移さない限り杖を移動することさえ出来ない所為だ。スフアソラと同様の魔術を使っているらしい。

どうやらマはマーリンと違い未来は予知できなかったらしい。俺が産まれることを知っていれば宝物庫にあっても良さそうな物なのにな。

とにかくマの墓所には真魔道大全を超える新たな書物は無かったが、代わりに杖を得た。このマーリンにはマの150年の生涯で溜め込んだ魔力資源が込められている。さらに彼の死後も小部屋の中で魔力資源を吸い続けたらしい。


「スペック通りなら山を興し海を割り空を落とす…ふむ、そんなことしても意味ないな」


まぁ俺の国を造るためのツールとして使うとしよう。そういえば転生については特に触れられていなかった。輪廻…かつて俺を構成していた物質はあの日天に昇った。そして焼けた骨は墓に入った…もう身寄りの居ない墓である。その内取壊すしか無いだろう墓は何年後に無くなったのだろうか?

それはともかく俺を構成していた物質は巡り廻ってどこかに行った筈だ。それなら時間をかければ宇宙の果てにも行ったのだろうか?そして何時しか脳だった部分や思考・記憶を持った塵がこの星の人間…母上様に吸収され赤子に宿った…それが俺の転生した理由…?いやオカルトすぎるな、まだ魂がこの世にたどり着いたとかの方がマシな結論だ。

何れにせよ転生という現象はマという男も知らなかったようだ。150年も生きていて古代文明の事も調べた男が知らないなら転生はかなりレアケースらしいと分かる。というか俺は唯一この世に転生した男なのかもしれない。


「それなら女を孕ませても大丈夫そうだな。自分の子供が他人の記憶を持ってるなんておぞましいことは俺で最後なんだから」


俺は少し調子に乗っているかもしれないな。別に何か成した訳でも無いのにな。邪神教団のクソどもを殺すまでは子供は作らないようにしようかな?いや俺の性欲は自分で言うのもなんだが歯止めが利かない。エレノアとハレの魅力の前には我慢は無理そうだ。


「ま、いいさ。旨いことやるとしよう…ふぁ~あ」


どうせ明日になれば盗賊騎士どもがやってくるのだ。寝れるうちに寝ておこう。しかしまだ時間的には7時くらいだ。俺もすっかりこの世の習慣に慣れた物だ。暗くなったら眠くなる。だが…エレノアの親族か、従兄弟くらいならともかく親兄弟を殺す羽目になったらどうするかな?

そんなことを考えながら小部屋の壁にもたれかかって眠りについた。

そして朝が来た。まぁどうせ洞窟の中だから暗いのだが、とにかく朝だ。


「我ながら素晴らしい体内時計だ」


更に寝違えた様子も無く元気一杯で腹が空いている。使い魔を放ち外が夜明けだと確認する。アイテムボックスから濡れた手ぬぐいを取り出し顔を洗ってから小部屋の中に入ると二人はまだ寝ていた。可愛い寝顔2つをじっくり眺めて幸せな気分に浸りながら二人を起こす。


「おはようハレ、エレノア」

「おはようございますウル様」

「おはようございます殿下、というかもう朝なのですか?」

「エレノアさん、ウル様が朝と言ったら確実に朝ですよ。今までもそうでした。すぐに朝ご飯を作りますね」

「いや、今日は避難民と一緒に食うことにする」


そうした方が良さそうな気がする。とはいえ早朝から無理やり起こすのは拙いので、広場に食事の準備をしてから洞窟の外に出て日の光を浴びる。日光を浴びないとやはり健康に悪い気がする。

シアンとリュウは既に起きていたのか、俺に近寄ってきたのでリュウの鱗を洗ってやりながらシアンと世間話をする事にした。


「おはようシアン。お前を作ってから初めての朝だがどんな気分だ?」

「オハヨウマスタースバラシクトテツモナクココチヨクイダイナキブンデス」


聞き取りづらいが喜んでいるらしいようすは伝わってきた。どうやら感情回路は正しく作用しているらしい。


「そうか、嬉しいか、それは良かった」

「ワガエイエンノマスタードウゾシゴトヲモウシツケクダサイ」

「ふむ…今は特に無いな、待機していろ」


シアンは震えて了解の意を示した。リュウを洗い終わったころには結構時間が経ったのでそろそろ飯にしようかと思っていると、森の遠くから騎士が歩む時特有の金属音が聞こえてきた。


「盗賊騎士団のご登場か」

「助けてくれぇぇ~」「岩の巨人が襲ってきた」


口々にそんなことを言って2人の騎士がやってきた。そしてそいつ等のやってきた方向から岩の男がやってきた。岩の肌は血にまみれているのでどうやらこいつが山賊騎士団を殺したらしい。


「ボゥギの仇討ちかなドゴ?化け物もそんなことをするんだな」

「助けに来たダヨ、ウルファス王子」

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