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ウルファス物語  作者: ろーき
第4章 建国編
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天幕の宣誓

「助けていただいたことは感謝します。しかし貴方は何者なのですか?」


 女騎士は夕方には起きてきた。3時間くらい寝て体力を回復するとは中々タフな女である。


「俺の名はウルファスだ。こっちはハレだ。君の名前はなんて言うんだ?」


 ハレは怪訝な顔をしているが、すぐに俺の意図を察したらしく何時も通りの笑顔になる。俺は基本的に狙われてもおかしくない立場の人間だ。まぁウルファスという名前は隠す気も偽る気も無いのであんまり意味は無いかもしれない。


「一族の名は何と言うのですか?」

「ベイ・リンであり、エクター・ロデイだ」


 聞かれたら答えるのが最良だ。隠しても怪しいだけだしな。凛とした美貌の女騎士は俺をさげすむような目で見ている。中々いい目をしている。比喩ではなくガラス細工の様に美しい緑の虹彩に黒い瞳だ。切れ長の目で実に美しい。そんな目で蔑まれても男は興奮するだけである。


「からかっているのですか?」

「いや、産みの母はサシャンセル=エクター・ロデイで、育ての母親はアンリエット=ベイ・リンだ」


 別に嘘は言っていない。父親のことは言う必要が無いほど接点が無い。女騎士は若干態度が軟化したような気がしたが、すぐに鋭い目で俺を見る。


「なるほど…何とはなしに分かりましたが、信用はできません」

「そうか、まぁ別に構わない。ところで卿の名はなんと仰るのですか?」

「エレノア=ボガート・ハランです。危ない所を救っていただいて感謝します。お礼が遅れましたがお許しください」


 エレノアは頭を下げている。疲労しているだろうに所作は美しく雑なところが一切ない。中々よく訓練しているのだろうと思える。


「ボガート…ノン大河のほとりを治める一族か、なんでこんなところに?」


 これから向かう場所を治める一族の騎士に出会うとはなんとも奇妙な運命を感じる。


「ご存じ無いのですか?」

「私は元服するまで山脈の麓のラグ=ベイ・ランの下で修行していたので世間には不案内なのですよ。その後山を越えてオルガ公国のボター領の村で3カ月ほど見習いとして暮らして騎士になってこっちに帰ってきたのでエクター近隣の事情は殆ど知らないのですよ」

「元服…?失礼ですがおいくつですか?」

「12才だが」


 正確には12才と3か月弱くらいだ。エレノアは意外なものを見る目で俺を見ている。どうも俺は年上にみられる傾向にあるらしい。そんなに老け顔かな?


「そういう事情ではご存知ないのも無理は無い。エクターの王国民は街に住めなくなったので人の目につかない森や平原で暮らしているものが多いのですよ」

「邪神教団の影響かね?」

「…?いえ、王都を支配しているベロベス大臣が人間狩りを行っているのでそれから逃げるためです」

「ベロベスなら死んだよ。王都の地崩れに巻き込まれて潰れて死んだ。使い魔で確認したから間違い無く死んでいる」


 エレノアは驚いた顔をしている。それにしても人間狩りか、狩ってどうしていたのやら。そう云えば王都には俺と同じ年の子供が奴隷として集められていたはずだが、王都には1000人も居なかった気がする。彼らも狩られた人間もどこに行ったんだ?不吉な想像は浮かぶが、考えても仕方ない。どうせ彼らに対して出来る事は今は無い。2~3人の面倒くらいはみれるだろうがそんなことしても大した意味は無い。


「それでは…王都は今どうなっているのですか?トマの氏族が治めたのですか?」

「ふむ…話す事がたくさんあるが…飯を食いながら話すとしよう。ハレ、今日の飯は何だ?」

「ミツリーボアのお粥です」


 精が付きそうだが、エレノアに手を出すのはまだ早い。あまり腹いっぱいにならない様にしなくてはならない。

 全員いただきますと言ってから蛇の粥を飲み始める。エレノアは騎士の家柄らしく上品にスプーンを使って飲んでいる。騎士の家に産まれた女とは花嫁修業をするものだ。女とは道具として嫁ぐ事もあるのが今の時代だ。だが花嫁として育てられた割には彼女の魔力資源はかなりの物だ。ボターほどではないが、トマの氏族の騎士に匹敵する量だ。まぁ筋力は男に比べれば低いから並みの騎士より少し弱い位のものだろう。


「美味しいですね、これを作ったのはハレさんですか?お見事です。これほどの料理は王都でもそう食べられませんよ」

「そんなことありませんよエレノア様。でも王都にお食事処なんて有りませんでしたけど…」


 確かにそうだな、俺達が王都に行った際には食事処どころか八百屋も潰れていたみいだが、王都の人間はどうやって暮らしていたのだろうか。まさか全員が自給自足していた訳ではないだろう。備蓄を消費するだけの生活だったのだろうか。どの道遠からず滅ぶ国だったということか。


「今はそうなのですか?でもすぐに復興できますよ」

「エレノア卿、その事についてもお話しする事がある。それと卿がなぜここに居たのかまだ聞いていなかったが、何故こんなところにいるんだ?」

「そうですね、情報交換は必要ですから」

「まぁ飯を食ってからだ。折角旨い飯なのだ。今は食事を楽しもう」


 3人で夢中になって食事を摂る。実にうまい食事だ。食事の後に俺から彼女に王都の事情を説明した。大道が再び開通した事を話すと大層驚き、王都の惨状を話すと物憂げな表情を見せた。ハレとは違った美しさを持つエレノアを俺の物にしたいという考えがどんどんと腹の底から湧き上がってくる。

 蛇の肉を食った所為で精力が付いたからかもしれない。まぁ彼女もかなり元気になっている様だからいいことだ。


「では王都は人が住めないほど…?」

「そうだな、しかもオルガの連中も攻めてきた。今戦っても国が荒れるだけだ、今は力を蓄える時だ」

「当てはあるのですか?」

「ガシャラムは貴方の先祖を封じて開墾させた土地は国を作るのに最適だそうだ。そこに大きな畑を造る。なんのかんの言っても食いものがあれば国は安定する。それについて貴方の一族の長に承諾を求めたいのだが?」


 エレノアは俺を値踏みするような目をしている。さて合格点は貰えただろうか?表情からいって赤点ではなさそうだ。彼女は表情に出る性格らしいので、考えている事がすぐ分かる。可愛い女だ権謀術数には通じていないようだが好感が持てる。まぁ既に俺の彼女への好感度はMAXなのだが。


「どうやって畑を造るのですか?人民は貴方の下には集まりませんよ」

「当然だろうな、来いシアン」


 天幕の外に待機させていたシアンを呼び出す。入ってきたシアンを見てエレノアは実に驚いている。


「オヨビデスカマスター」

「あぁお前の顔をハレとエレノアに見せてやりたくてな」

「なんですかそれは?」


 エレノアは奇妙なものを見る目で俺とシアンを見ている。まぁいきなりこんなものを見させられてもそういう反応をするだろう。ハレは俺を尊敬の目で見ているが、まぁハレは例外である。


「ロボットだ。真魔道大全にある魔術を使って作った。同じ物を幾つも造れるし、ロボットは昼も夜も関係なく働けて、八十八人力だ」


 なぜ八十八なのかと言えばお米を消費者の口に届けるのには88人の人間が苦労して働いたからだと云う伝説…言い伝え?ともかくそれに由来する。100人力より縁起が良さそうなので八十八人力にしたのだ。まぁ真魔道大全のカタログスペックによればシアンの様な自立型は1000人力位の性能であるそうだ。

ロボットを農業専門用に調整して造れば、輸送も田植えもなんでもやってくれるそうだ。真魔道大全によれば、1体につき100人の人間を養えるそうだ。ならば俺は同じ物を10,000体造ればいいのだ。あくまでカタログスペックなので実際にはもっと性能が低いかもしれないが、まぁそれだけ居れば平原に住む者を全て養えるはずだ。

 どうせ俺は無尽蔵に魔術を扱えるのだ。そのくらいして社会に奉仕しなくては高貴なる者の義務は果たせない。ただでさえエクター王家の名は地に落ちているのだから汚名を返上しなくてはならない。まぁあんまりやばそうなら別の家名を名乗るつもりでいるのだが、それはちょっと嫌だ。


「そんなものを造り出しても…貴方に人望は生まれませんよ」

「気にするな、まずは食糧だ。食わなくては何事も始まらない。ロボットを使って食糧を造り、この乱世に腹を空かせた者達を救済するのだ」


 その結果として王になるのを望まれれば王になるが、血筋からくる否定を拒否するだけの人望を俺が得られなければ王にはならない。王になるのはそれを望まれた者だけだ。それが王道というものだろう。なお俺は王になれなくても開墾した畑を人に貸して地主として遊んで暮らす予定だ。勿論敵が襲ってきたら戦うが、自分からは攻めないのだ。それが俺の人生哲学だ。日本人の心と知識にエクター王家の気性とベイ氏族ベイ家の家風に育てられたウルファスという男の生き方だ。

ハレはいつもどおりの魅力的な笑顔だし、シアンは喜びを示して震えている。シアンの感情の起伏は製作者の俺には一目瞭然である。エレノアは俺の言葉に感動したらしく満足げな表情だ。ただ目標を語っただけなのにな、詐欺に遭うぞ。


「素晴らしいですね…殿下は王妃様によく似ていらっしゃます。今やるべき事をよく心得ていらっしゃる」

「母上様を知ってるのか?」

「私の父が王妃の騎士でした。その縁で小さい頃に王宮で挨拶をした事があります」

「何時の事だ?母上様は12年前に宝物庫に籠ったのだが?」


 実は意外に年食っているんだろうか?かなり若く見えるが、俺の見立て違いだろうか。


「13年前のご懐妊の際にご挨拶に伺ったのが最初で最後でした」


 ふむ…小さい頃と言う事は元服前のはず…つまり現在の年齢は…多めに見積もっても20代後半か。美女ならば年齢を鯖読んでも全然OKである。彼女は俺を尊敬の目で見ているからすぐにも手を付けれそうだ。やっぱり俺は父親の方に似ているのかもしれない。あまり父親の事は好きな印象は無いが、似ていることは認めなくてはならない。


「俺に協力してくれるかエレノア=ボガート・ハラン卿」

「天命を得ました。殿下の下で一生仕えさせていただきます」


 そう言って彼女は平伏した。俺はスフアソラを取り出して穂先のすぐ下を持って彼女の肩に添える。宝物庫にあったエクター儀典は暗唱できるので、作法は完ぺきである。スフアソラの石突が天幕の布に触れそうだが、別に問題ない。


「エレノア=ボガート・ハランよ、誰に忠を捧げる」

「無論ウルファス殿下と乱世治めようとする意志に」

「我と艱難辛苦を共にする事になるが覚悟はいいか」

「殿下こそが我が太陽にして風の源…共に居てこそ生命を得られるのです」

「宜しい、エレノア=ボガート・ハランを我が騎士とする。簡素な儀式だが今の我とそなたにはふさわしい様に思う。国難の時であるが故に儀式は簡素に丁寧に行うことにした。ここに主と臣下の契約をなした」


 スフアソラをアイテムボックスにしまい。エレノアの顔を上げさせる。ハレは不満げな表情をしているし、シアンも不満げ…なんかそんな感じだ。シアンは顔も口も無いがそんな感じだ。新参者が自分達もしたことの無い儀式をしているのが気に入らないのかもしれない。


「ハレ、シアン。お前達も既に俺の物だ。今更儀式の必要は無い。エレノアとは仲良くしてやれ」

「分かりましたウル様」

「ナットクシマシタマスター」

「私も仲良くいたします殿下」


 仲良くなってくれるといいのだが、王妃が側室を殺すなんて羽目になるのはごめんだ。というか側室・正室はやっぱり決めないとまずいよな。ゆっくり決めるとしよう。どうせしばらくは避妊魔術を使うつもりだ。体液を甘くすることで妊娠を防ぐと云う体に悪そうな魔術なので体調が悪くなったらやめるつもりだが…いややっぱり止めよう。この年で糖尿になりたくない。真魔道大全の魔術が全て実験されたのかは謎だ。魔道大全と違って世に出ていないから実験されていないかもしれない。自分の身体に作用するタイプの魔術は控えよう。


「さて、俺の騎士エレノア、なんでこんなところに居たんだ?領地とかどうしたんだ?」

「勿論お答えします殿下。長い話になりますが…私はこの地に逃げ込んだ人々を助けに来たのです…それに関して殿下にはある戦いをしてもらいます。それが今やるべき事です」

「俺は強いから大丈夫だ」


 エレノアは断言した俺を尊敬の目で見ている。自分の命を喰らうつもりだった魔物を俺はたやすく殺したのだから当然の評価だろう。原始的な力がモノを言うのがこの世の習いだ。


「とある村を救っていただきます。これがウルファス殿下の建国神話の第一歩です」

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