壊れた街
結局公爵をオルガ公国に帰すのは無理であった。大道の中にも多くの魔物が居り、とても進めるような状態ではなかったのだ。俺がヒドラを使って穴の向こうまで行かせれば充分侵攻できると思うが、そこまで手の内を明かす積りは無い。
当面の目的を果たすまで誰が敵なのかも分からない状況なのだ。王国の中に邪神教団の手先になっている人間がいないとは限らないのだ。一先ず王都に行って状況を確認しなければならない。
大道の状態を確認した翌日に、騎士一同で村を出立した。なかなか凄い集団だ。随伴歩兵も無しに騎士が殆どの軍勢とは。もちろんハレも連れて行くが、残念ながら馬車に乗っているので、おっぱいの感触を楽しめないので、退屈な行軍ではある。
景色もずっと草原なので眠くなる位代わり映えのしない風景だ。使い魔をアサイラにつけているが、怪しい様子は無い。余計なことをしないと良いのだが。
あんまり暇なので隣を進むチオに話しかける。
「チオ卿、王都までの道はどの程度健在なのですかな?」
「荒れてはいるが、進むに不自由するほどでは無いよ。まずブリハウスの街に行って補給してから王都を目指すことになるね」
「成る程、ブリハウスは健在ですか、ならブリハウスまで行けば王都までもうすぐですね」
「いや、ブリハウスもどうなっているかは分からない。まぁ焦らず行こう」
場合によっては道が無いことも視野に入れなくてはならないのか。まぁここから王都までの道はずっと平原なので山を越えたりはしないので、楽と云えば楽だが道が壊れていると、騎乗動物の負担になる。
「道は長いが頑張れるかリュウ?」
「クゥ-ン」
そんな鳴き方なのかお前。まぁ俺より余程熱意に満ちた目をしているので、大丈夫そうだ。暇なので使い魔を作ってハレの馬車に飛ばす。兵糧の隣に座るハレはブサイクに見せている所為か、周りに誰も居ない。ありがたいことだ。もし魔術を使っていなくてはハレは今頃野獣どもに襲われている。先達の魔術師も随分便利な魔術を作ってくれたものだ。しかし何の為にこんな術考えたのやら。
「使い魔様?どうしたのですか?」
ハレはどうも俺と使い魔を区別している節がある。暇なので来たと事前に決めておいたモールス信号っぽいモノを送ると、成る程と頷いた。
ハレは文字を真面目に勉強している。努力家だな。暇なので、ハレの勉強を見守る。ハレの発音練習と文字の書きとりは見ているだけでも割と楽しい。意識を完全に使い魔に集中するわけにもいかないので、完全に何をしているかは分からないが、喉も細い指も劣情をかきたてるには充分な魅力を持っていた。
「それにしてもウルファス卿、オルガ公爵は一体何が目的なんだろうな」
隣を進むチオが話しかけてきたので、使い魔の意識配分を少なくする。
「オルガ公爵は本来エクター征服が目的でしょうね」
「それが駄目になって帰れなくなったから、こっちの騎士と協力して王都上りか、情けない男だ」
全くだ。だが俺の立場上そう云うことを言うのは拙い。まぁアサイラも公爵も近くに居ないから言って良い気もするが、義理というものがあるのだ。
「それにしても王都に上るのは前々から決まっていたのですか?」
「いや、今回兵糧を入手できたからやるのさ、私があの村に滞在したのは3週間ほどだが、王都どころか街に入る計画も無かった」
情けないのは一体どっちなのやら。まぁトマの氏族は領地を取り上げられたのだから、兵を動かすと本来逆賊だ。なのにこんな風に王都に行くのは恐らく…ザカリオンに誰も居なかったことが原因の一つだろう。取り返しのつかない内に王都に入って略奪したいのだろう。別に政治を正そうとは思っていない筈だ。騎士など基本山賊と変わらないのだ。ある程度平和を守ってくれるのは確かだろうが、平民にとっては賊も騎士も仲間のようなものだ。それがこの世の今の時代だ。その内騎士達も地球と同じく美化されるかもしれないが、それはもっとずっと後のことだろう。
公爵の話によると、オルガ本隊は俺達が大道を出る1時間前にはザカリオンに入っていたらしい。誰も居なかったので、歩兵も騎士、輜重隊さらに道路補修隊・従軍商人さえも街に入り略奪をしていたらしい。
その所為で逃げる事も出来ずボゥギに1時間も掛からずに全滅させられた。自業自得といえばそうだが…邪神教団のことも単なる内通者として見ていたらしく、殆ど正体を知らなかったらしい。何故そんな連中を信用したかと言えば、オルガ公国での意見を通しやすくする為とエクターの攻略を成し遂げ、帝国を築きたかったらしい。それを実行出来そうな手段として、事前に大道を見させられたそうだ。どうも1ヶ月ほど前には既に開いていたらしい。全く気付かなかったな。工事の音も聞こえなかったし凄い技術だな。そんな魔術は知らないので恐らく邪神教団特有の能力だろう。
ボゥギは火焔の息を吹いたから恐らくドゴが大地を操るのだろう。地属性といえば雑魚…という風に言われる事もあるが、やたら強いのもフィクション世界には居たので気は抜けない。それにこの世はレベルも魔術もあるファンタジーっぽい世界だが、多くのファンタジー世界と同じく人は死ぬのだ。そして俺は住人なのである。
ふと故郷が気になった。
「チオ卿、王都はどうなっているかな」
「…」
チオは渋い顔で無言だ。あまり良い想像はしていないのだろう。
騎士達の行軍は続き、2日ほど進み、やがてブリハウスの街が見えた。ブリハウスは王都に近く、魔物も少ないので、街を囲む壁が無く解放感溢れる治安の良い街だった。だが壁の無いのは余り良い風に作用しなかったようだ。
「酷いものですねチオ卿」
「同感だ。魔物に踏みにじられているな、全く酷いものだ」
ブリハウスは遠目に見ても分かるくらいボロボロになっている。多くの家は屋根も壁も失い、道路は虫食いだらけで通行するのは難しいだろう。だが不思議と人の死体が殆ど無い。食われたんだろうか。
どうやら集団の魔物は居ないようだが、街の中には魔物が複数居るらしい。通常魔物は見かけの同じ同種であっても殺しあう。街の中に複数居るのは恐らく復活しては死んでを繰り返している所為だ。トロルが1匹見えたが傷だらけだ。
魔力が豊富な街の中では魔物はすぐに魂に魔力を集めて復活できる。普通は街の中に魔物が復活してもすぐに退治されるが、どうやら退治する人間は居ないらしい。何処からかやってきた魔物が街で魔物に殺され、その魔物がまた新参の魔物に殺され、最初に死んだ魔物が復活して殺しあって…というような繰り返しをしているのだろう。
「魔物住まう街に入ることになるが、準備はいいかウルファス卿」
「聞くまでも無いだろうよ」
その後我々は街の中に入って魔物を駆逐した。街に到着したのは正午頃だったが、夕方になる前に全て片付いた。所詮魔物などそんな物だ。ドラゴンにせよ巨人にせよ結局の所人間に倒されるモノに過ぎないのだ。
俺が街中を回り魂を変換する作業を行っていると、立派な黄色の竜に乗ったトマの氏族の長がやってきた。目上にはこっちから挨拶するのが筋なのでリュウから降りて、兜と面頬を脱いで片膝をついて挨拶する。
「セルッド=トマ・ケロ卿。何か御用ですか?どうぞ何なりとお申し付けください」
「ウルファス=ベイ・リン卿、どうぞ楽にしてくれ」
セルッドは竜から降りて兜と面頬を脱いで顔を曝している。白髪頭の爺さんという印象だ。流石に筋肉は衰えているが、立派な身体である。親子らしくセッドに良く似ている。
立ち上がって言葉を返す。
「魔物の魂は27匹に昇りましたが、街の中に在った魂の変換は全て完了しました」
「そんなに居たか…すげぇな。ところでウルファス君。聞きたいことがあるのだが」
「何でしょうか」
「アサイラ…なんとかは君の女か?」
「いえ、彼女にはそそられません。彼女の父親ボター=ガル・ザンにお守りを頼まれただけですよ」
全く何の話かと思えば、アサイラのことか。大方アサイラを嫁か妾にしたい人間が居るのだろう。だがそうすると俺はどう動けば良いのだろうか?仲人をするべきかな?まぁアサイラの自由意志にゆだねよう。
「ふむ…ボター…確か昔、婚礼契約トーナメントに来た騎士か。君は彼女の陣営だと聞いたが?」
「彼女の父親に見習いとして世話になり騎士に叙されたので、その礼を兼ねて陣に居ますが私はエクター騎士です」
「古風な奴だな。今時騎士に叙された位で恩義を感じることもなかろうに」
「古風な人に騎士として学びましたから。ところでセルッド卿、何か御用ですか?」
「君が何処の騎士か確認に来ただけだ。それも終わったから世間話だな」
果たしてこの男とその一団は俺の敵なのだろうか?それとも王国の敵なのだろうか?一応王都に行き王宮を諌めるのが今回の目的だと言う話だが何処まで信用できるやら…場合によっては俺の兄弟を殺すのが目的となるかもしれない…それなら俺はどう動くべきなのだろうか?王都に行き…俺は何をするべきなのだろうか。
こういう時はやることを箇条書きにすると良いのだと経験から学んでいる。
『宝物庫に入る・母の亡骸を弔う・邪神教団を殺す』
3つしか無いのか。意外と簡単だな。まぁまずは王都についてからだ。どの道この行軍のメンバーの実力ならば俺は一度に全員相手をして傷を負わず殺せるので問題ない。俺は漸く実力を測れる位騎士の手並を観察する機会に恵まれた。魔物退治の様子から彼等の実力は把握できた。
ハレによると騎士の中で一番レベルの高いのがセルッドの63で、一番下がロットというトマの氏族の青年騎士の21だ。それに対して俺のレベルは83だ。最高と最低の2人の合計に及ばないが、俺の見るところ2人同時どころか全員を相手取っても充分勝てる。
やはり俺は異常に強いと分かった。数時間で最低5000人以上殺したボゥギを1人で倒せたのだから当たり前と言えば当たり前だが、自分の実力は過小に評価するのが俺の癖だ。
やはりエクターに帰って来て良かった。己の実力を知ることが出来、俺と多くの人を不幸な境遇に追い込んだ憎い奴まで倒せた。その点は愚かな公爵に感謝するとしよう。
「フェックシっ!」
なんか遠くでクシャミが聞こえたが、噂でクシャミが出るのはこの世でも同じなのか。ちょっと面白い。




