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ウルファス物語  作者: ろーき
第1章 幼年編
2/50

恐るべき企みの話

「ウルファス?おっぱいおいしいでちゅか~」

「キャハハ」『最高です』


体が小さい所為かアンリエット=ベイ・リンの豊かな乳は俺にとって豊穣神が具現した大地のように感じられる。


「ふふ、本当に可愛いわねウルファスは…」


アンリエットの家は中々大きな邸宅で、彼女の話を聞くとどうも没落貴族のようだ。もっとも金には不自由している様子は無い。ならなんで子供を取り替えたんだろうか?

そういう事は彼女は話そうとしないので大きくなってから聞くしかない。

あぁ…腹が膨れた所為か眠くなってきた。


「あら、おネムね。ふふ、子守唄を歌ってあげる」


綺麗な声の子守唄である…あぁ眠い…彼女は俺を可愛がってくれるが、どうも良く分からない。

まだ赤ん坊だから眠る時間が多いので考える時間も少ないから今の状況を把握するのにも一苦労である。


「ぐぅぐぅ…zzz…」『まぁその内、母上様が迎えに来てくれるだろう…』


そうなるとアンリエットはどうなるんだろうか?あまり酷い目には遭わないと良いのだが。揺りかごの中で養母の子守唄で心地よい眠りに誘われる…zzz


「…まさか3歳になってもアンリエットの家に住む事になるとはなー」


しかし3歳児ってどの位話せるものなんだろうか?俺は何不自由なく話せるが、異常に思われたくないのであまり口は利かないが、それはそれで不味い気もする。

あぁ、前世で子供を作っておかなかったのがここになって響いてくるとは。

しかし誰も迎えにこないなーアンリエットも別に態度は変わらないし…もしや王子が入れ替わった事に誰も気付いてないんだろうか?

そういえば母上様は鳥がどうとか…まさかフェニックスなのか俺は…部屋の隅でニヤニヤする人生なのか…そして邪神に唆されて闘技場を無断で改築するのか…まぁアニメだと王女といい感じになってたから良いのかな?


「う~んでもこの家なら一生遊んで暮らせるから貧乏とは無縁だからプロレスなんてやらんでも…」

「ウルファ~ス。ご本を買ってきたわよ~」

「は~い、ははうえ。いまいきます」


そう答えて部屋を出る。出るといっても子供部屋の扉は開け放たれているし、すぐ外には満面の笑みのアンリエットが立っているので俺のした事と言えば単に椅子から下りて5シャド──だいたい1m=3シャドくらいだ──ほど歩いただけだ。


「ウルファスはもうこんなに歩けるのね。ふふ、すごいわ。それにこんな難しい本まで…やっぱり天才ね」


しかし養母なのになんでこんなに可愛がってくれるんだろうか?3年同居しても正直不信感はまだ拭え無いがアンリエットを母親として見ている自分もいる。

まぁまだアンリエットは18才なので前世の俺よりも若いのだが。ちなみに未婚だ。もしかしてあの赤ん坊はアンリエットの子供では無いのかもしれない。

そうすると何かの権力争いの結果取り替えられたのかもしれない。あの赤ん坊は側室の子供か何かなのだろうか?

まぁこの書物を読み解けば色々分かるから、話はそれからだ。

それに望みをかなえてくれた人にはきちんと御礼は言わなくてはならない。


「たのんだほんをかってきてくれてありがとうございます。ははうえ」

「お安い御用です。愛しいウルファスの為ですもの」


そう言って頭を撫でてくれた。彼女の手は柔らかいし、俺は彼女の母乳で育った。さらに言えば俺を産んだ2番目の母よりも付き合いは長い。彼女が俺を愛しているのは確かだ。

だがやはり彼女は俺を浚った女なのだ。目的は恐らくあの子を王子にする事なのだろうが…俺はどうしても王様になりたいわけでは無いが…継承する権利を失ったらしいのは確かだ。


「では、ははうえ。りっぱなマホウキシになるためにきょうもべんきょうします」

「勉強もほどほどにね。疲れたらちゃんと休みなさい。無理をしても良い事は無いですからね」


アンリエットは部屋を出た。どうやら彼女は俺を魔法騎士という職業にしたいらしく、教育に力を入れている。その所為かどこか他人行儀な会話をする。

だからなんとなく親子の情は薄いが…果たしていい事なのだろうか?別に彼女を実の母親として扱ってもいい気はする。

俺に意識が芽生えるのが普通の子供と一緒だったら、当然彼女を母親として見るわけだしな…


「まぁこの本に書いてある魔術で王宮の様子を把握してからだな」


本の表紙には『魔道大全』と書いてあった。この本にはあらゆる魔術の方法が書いてあるらしい。書斎の本を勉強として殆ど読み終わったので、アンリエットにこの本を読みたいと言ったら買ってきてくれたようだ。

しかし図書館とか無いんだろうか?値札には5ハドリとある、つまり金貨で5枚だ。決して安くない買い物だ。書斎の書物によると一般的な騎士の一年の禄が金貨10枚相当なのだから結構な出費のはずだ。

その中の使い魔製造魔術を使って王宮に進入する。そして王宮の母上様の様子如何ではこの家の子として生きる事にしよう。少なくとも飢える事は無いのだ。ここでも幸せになれる筈なのは確かだ。

この王国の公用文字であるキケ文字は既に習得している。魔道大全の呪文は何処か電子的な響きの呪文だが難なく唱えられる。


「なになに…{cd/cαll/wαtεr:ζtructurε/Fαmliαr}か」


周囲の魔力資源(マナソース)を収集して呪文を唱えると青い水で出来た鳥が出来たので、そいつに意識を移して王宮に向かって飛び立たせる。

どうも俺は才能が在るらしく魔術は結構簡単に使えるのはありがたい。文字も既に完璧に覚えているので俺の知能や素質はかなり高いのかもしれない。

さすが王族だ、スペックが高い肉体らしい。父と母に感謝しよう。勿論育ててくれたアンリエットにも感謝するのは忘れない。


『まさか自分の体が擬似的に小さな鳥になるとはな、こんな経験をする事になるとは転生とは不思議だな』


もっとも前世の事など、もはや覚えていない。前世の40年近い生涯は、この世界の3年間─母の胎内に居た時間も加えれば4年弱─に負けてしまったらしい。

前世の光景で思い出せるのは誰もいない斎場の一室と、最期の日々を過ごした客と無縁の自宅の光景の二つしか浮かばない。それ以外の思い出や景色・かつての自分の名前さえサッパリ出てこない。

やっぱり脳が違う所為だろうか?いや、それなら元から何も思い出せないはずか、まぁウルファス=ベイ・リンの3年間の方が楽しい記憶なのは確かだ。

前世の光景はどちらも陰気な灰色の光景だがウルファスの子供部屋は光り輝いている。

まぁこれまでの短い人生でやった事といえば、勉強とおもちゃ─積み木や木馬等─で遊んだくらいだが、やたらと楽しかった。童心に返って遊んでいたらあっという間に3年経ったのだ。


『今の俺には前世の記憶は殆ど無い…ふんっ…我ながら空虚な人生だったのだな』


しかし記憶は無いが記録としての知識はある。その知識は使い魔の目に映る町並みがこの世界にレンガや石造りの文化があると教えてくれる。木の家は無い様子だ。

図書館はあるのかな?本屋が在るなら在ってもよさそうなものだが。


『前世に映画で見た古代ローマの町並みがこんな風だったな、だが、黒い石畳の道路を…恐竜…獣脚類が車を牽いているな。ローマ時代には恐竜なんて絶滅していたからやはり異世界だな』


果たして俺の中途半端な知識は俺の幸福の役に立つのだろうか?役に立たなくてもいいから幸福になりたいなー

そんな事を考えていたら王宮が近づいてきた。一番大きいから多分あれが王宮だ。王宮は俺の前世知識に照らし合わせるとドーム球場くらいのサイズだろうか?

外観の印象としてはタージマハルとローマのコロシアムの合いの子っぽい。

窓から中に入るが、そもそも母上様は何処にいるのやら。まぁ一日で探す事でもない、根気よくいこう。


『外観は綺麗なのに中は碌に掃除もして無いんだな』


生ごみが散らかってる王宮っていいのかよ。王宮の中を飛び回りながら豪勢な扉の部屋に入ると中には3人の異形の人間がテーブルを囲んでいた。

いや厳密に言うと人間ではないかもしれない。まだ会った事は無いがこの世界には亜人もいるのだ。

この世界の人間は1つの頭に2つの目があり鼻が1つにそこから鼻穴が2つあり耳が2つで口が1つで髪の毛は無数だ。さらに体からは腕と足が2本づつ生え、指は腕足合わせて20本…要するに外見は前世の人間と全く変わらない。

だが部屋の中にいる者達は明らかに人間より部品が多いし背も天井に届くほど高い。


「国王はもういらんな」


水色のローブを着た陰気な男が口を開く。

3人の中では最も背が低く外見も一見人間風だが、よく見ると露出した手が鱗に覆われている。顔は一見人間だが長い舌が時たまチロチロと見える。


「いいのか?ワレ等の計画にはまだあの男が要るのではないか?」


赤色のローブを着ている3mはあろうかという巨体の男が、2つ有る頭の前にある方だけで喋る。

男の後頭部からはドラゴンの様な形の頭が生えているが…こんな亜人は本にも載っていなかったような…


「んだけども、宝物庫は王子じゃなきゃ開けられないんだド?王はもう必要ねぇド?」


茶色のパンツ一丁の男が口を開く。全身が茶色の岩石のような物質で出来ている。男は見かけと同じく重厚な声で物騒な事を喋った。


「そうねドゴの言うとおり王はもう要らないでしょう。私達の第一の目的は聖なる武器の破壊ですもの。この国を治める事ではないわ、王は役割を終えたと思います」


4人目が居たようだ。女の声だが部屋には他に誰も見当たらないから透明人間らしい。


「うむ。3年前に王妃が宝物庫に閉じこもった以上、もはや元服したナスナクチト=ディナ・エクター・ロデイ王子以外の誰にもあの扉を開けられないのだ。確かに王はもう要らない。それにしても王家の正統な継承者の血をひいていて更に元服していなくては開かないとは、流石に伝説の武器がある場所だと言える」


鱗を生やした男が興味深い事を話した。


『母上様が?宝物庫に?だから迎えに来なかったのか…』


ちょっとホッとした。忘れられていたわけではなかったらしい。

だが別の問題も発生してしまった。開かない宝物庫か…俺が元服するまであと9年あるがその時まで生きていられるのだろうか?いやそもそも俺と取り替えられた王子でも開けられるんだろうか?要は母が助かればいいだけだ、俺が開ける必要は無い。

血をわけた家族なので願わくば生きていて欲しいが…3年も中に居るのか…大丈夫だろうか?


「だが何故あんなところに閉じこもったのだ?もしやワレ等の事が露見したのか?」

「わが朋友たる葬火のボゥギよ、王宮の者に我等の事は知れていない。賢明な王妃もそれは変わらん筈だ。詳しい事は我も知らぬが、大臣が言うには王妃を陵辱しようとしたら宝物庫に逃げられたそうだ」

「人間はまったく役立たずね。確かに王妃は美しかったけれど、だからってねぇ…人妻よ?しかも仕えるべき王妃よ」

「そう言うな葬風のフロー、ベロベス大臣は王と同じく好色だが王と違って我等の役に立つ。現に奴が王宮を掌握しているお陰で王を殺しても問題無いのだ。その後は王子を傀儡にして元服したら扉を開き、このエクター王国を我等邪神教団の根城にするのだ」

「んだけども、王子は不義の子でねガ?扉開くのか?」

「葬土のドゴよ、そんなものは女官どものつまらん噂だ。王は自分の子だと言っている。人間は自分の子が分かる能力を持つのだから信用は出来る。嘘を吐く理由も無い」

「でもブカドハムラ?あの王子は王妃の子なの?王は好色だから別の女に産ませた子と摩り替えたということも…王は王妃を嫌っていたのだから別の女の子を王子にしても可笑しくは無いわ」

「確かに王子は両親に似ない赤い瞳だ。確かに腹違いの子は大勢居るが、まさかあの清廉な王妃が不貞を働いたわけでもなかろう、王妃と王の子なのは間違い無い。従兄弟である夫以外に肌を許さん貞淑な女だからな。瞳の色が違うのは…遺伝の不思議という奴だ。3代前の王は赤い瞳だったらしい。まぁ要は扉が開けばよいのだ。それに王妃が王子を産んで宝物庫に閉じこもる1週間の間に子供を入れ替えるタイミングなど無かった。王宮に王妃の味方などいなかったし、王妃の騎士どもは辺境に追放していた。王子をまともに育てさせるわけにもいかんからな」

「お陰で賢しい王妃の血をひくらしい王子も、すっかり私達の教義に理想的な邪悪な人間の芽を持つに到ったのは…大臣の手柄と言えるのかしら?あんなブサイクでも役に立つのね」

「うむ。さてこれからの具体的な計画だが、王は邪悪節の黄昏時…つまりこれから2時間後に殺す。あんな王でも死ねば王国が乱れる、そして隣国も暴虐なエクター王に対する復讐として攻め入るだろう」

「そこでワレの出番か」

「いかにもそうだ。葬火のボゥギよ。お膳立てはしてあるから貴様がエクター周囲5つの隣国を制圧しろ」

「容易いことだ、我等の長たる葬水のブカドハムラよ。四祭司の中でもワレは最強だ。人間の軍勢など物の数ではないわ」

『物騒な事を言っているな。しかし拙いな…だけど俺に出来る事なんてないんだよな…』


悲しいかな俺はまだ3歳児だ。出来る事はほぼ無い。それにこいつ等が単なる妄想を喋っている可能性もある。


「さて、覗き魔の使い魔はどうするかな?誰の使い魔かは知らぬが、もはや状況は人間の手には負えぬぞ。王は無能で大臣は我等の手先、隣国に助けを求める事も出来ぬ。八方塞だな魔術師よ、だが中々見事な使い魔だな。我等の手先となるなら大臣のように肥え太れるぞ」

『バレテいたかっ!』


使い魔を部屋の窓から脱出させ、王宮の庭で使い魔との接続を切る。


「使い魔は…王宮の庭に霧散したはずだが、ここがばれるだろうか?」


書物に依ると使い魔の主人が割れる方法は無いらしいが…あいつ等は人間では無さそうだから何か手段があるかもしれない…まぁ俺に出来る事をするしかない。


「ははうえーははうえー」


子供部屋を出てアンリエットの居る書斎を目指す。アンリエットは働いていないから何時もそこに居る筈だ。

長い廊下を進むと広間に出たらアンリエットが居たので、彼女と挨拶を交わし用件を伝える。


「こわいゆめをみました。はねのはえたししが4ひきのけだものにたべられたのです」


アンリエットは驚愕の顔だ。羽の生えた獅子とはエクター王国の紋章だ。

俺はさっきの出来事を夢のお告げとして話すくらいしか出来ない。国が荒れるという事は俺の命も危険に晒されるかもしれないので手は打っておきたい。せめて自分と家族だけは無事に過ごしたいという王族らしからぬ考えだ。俺の精神性は、生まれが王子と云えど基本的に平民らしい。


「…何か感じ取ったのかしら。確かに最近王宮ではよくない噂が…王妃様も…姿を…」


アンリエットはなにやら小声で呟いている。聞こえているが気にしない。俺は彼女の判断に従うしかない。


「ひひっ!見ましたよう…アンリエット様ぁ~」


ねっとりした不愉快な声が聞こえた。


「貴方はたしか…エリトさん?どうやって入ってきたのですか?」


いつの間にか広間にはもう一人居た。館に居る使用人ではない。唯一の使用人は年老いた夫人だが、エリトという栗毛の30中盤位の貧相な小男は初めて見た。思えば始めて俺以外の男を肉眼で見たな。


「そうですよぉクビになったエリトですぅ。その子が噂の子ですね」


ゲスイ顔で俺を指指す。実に不愉快だ。


「何の用ですか?暇を出した際に充分な金子を払ったはずですが?」


下種な視線から俺を庇うアンリエットは気高い声色だが、3年一緒に居た俺には彼女が不安を感じていると察した。


「その子の事を…バラされたくないでしょう?」

「何が望みですか?お金ならある程度はくれてやりますが?」

「大した事では無いですよぉ…またこの館に住まわせていただきたいだけですよぉ」

「…分かりました。お給金はどれ程要りますか?」

「話が早いですなぁ…金なんて要りませんよ。最近物騒ですからアンリエット様の騎士代わりをしたいだけですよぉ」


俺は彼女の足枷になってしまったんだろうか?果たしてこれからどうなる事やら?

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