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ウルファス物語  作者: ろーき
第2章 放浪編
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ボターの村への帰還

この世の騎士というものは古い帝国の軍人達を起源とする。元々彼らは軽装で馬を走らせた機動力が高いだけの兵種だったが、次第に魔力を用いた武器術を使うことで一人一人が一個の軍団に匹敵する強大な戦力となった。武器術が洗練するに従って彼等は騎乗動物を戦場に行くまでの単なる移動手段として使うようになった。戦争においてどれだけ騎士が疲労せずに全力を出せるかが、戦争の趨勢を決めるようになったからだ。

歩兵達は騎士の進軍を効率的に進めるために道を整えることに苦心した。歩兵が何人いようとも訓練した騎士1人に壊滅させられてしまうのだ。

魔力を使った武器術は多くの流派が生まれた。死んだほうのラスナ男爵が使っていた飛ぶ斬撃はカリグス帝国の騎士が起こした古い流派の技だ。遠距離から放たれる斬撃を発明した流派だが、騎士達の防具が厚い金属を使う様になったら廃れた流派である。だがその技術は多くの流派に継承された。

現在最も高名な流派はカリグス末期にヴェインという騎士の起こした十字門である。この流派はカリグス帝国の騎士達の編み出した飛ぶ斬撃の他にそれを防ぐ盾術や槍の突撃術・騎乗術といった騎士として当然学ぶべき技を一通り伝える流派である。俺もラグからこの十字門を学んだ。この流派はエクターの騎士なら当然学ぶべき技であり、代々の王族も学んでいたそうだ。

そして現在オルガ公国で主流なのが、マルパ流である。この流派は十字門を学んだマルパという騎士が5代前のオルガ公爵に教えたものである。十字門と比べて格が低いとされるが、現在では廃れた飛ぶ斬撃や弓術をほぼ教えない事で近接武器戦闘術を重点的に教えるので十字門よりも実戦的であるといえる。またマルパ流は魔物退治にも定評があり、一撃一撃を仕留める積もりで放つ特徴で知られ、かつては山向こうのエクターから学びにきた騎士もいたらしい。ボター=ガル・ザンはマルパ流の名手として知られている。


「魔物退治に定評のあるマルパの名手がいる村が…」

「ヒドイ事になってますねウル様…」


村は魔物達に取り囲まれている。つい一週間前に出立した村は酷い有様だ。門も塀も完全に破られていはいないが、まだボターが生きているとは限らない。門も塀も随分傷だらけで所々穴があいている。既に村の中は蹂躙されているかもしれない。


「さて…どうするかな?」

「助けに行くんですよね?」

「まぁ助けには行くんだが…どうやって戦おうかとな」

「使い魔様達をお使いになっては如何ですか?」

「使い魔にはそんな戦闘力は無いんだ。だが使い魔ってのはいい思いつきだ」


使い魔を使って村の様子を見るとしよう。意識を移すと俺の体が無防備になるのでハレと俺が危険に晒されるので、使い魔達には俺の目や耳の役割を果たす端末として使う。この方法で得た情報は、手持ちの携帯端末に送られた動画を小さい画面で見ている感じに見えたり聞こえたりする、という感じだ。集中して画面を見たり耳を澄ませば色々と分かるが、細部までは分からない。使い魔は5つ使うのが限界だ。増やすほど画面が増えて情報の精度が低下してしまう。

感覚を移すほうが大分便利だが、自分が無防備になるのはデメリットがきつ過ぎる。デメリットを解消すべく新たに呪文を考えようとしてみたが、俺には呪文を新たに創る才能は無かった。改良の才能はあるので使い魔を改良するのは続けるつもりだが。


「ハレ、使い魔達を使っていると気が散るので魔物が近寄ってきたら教えてくれ」


ハレは笑顔で頷いてくれた。実にいい笑顔だ、襲われている村人には悪いが良い顔を見れて得した気分だ。

使い魔達で村の中を探索するが、村の入り口の辺りには鎧姿の騎士が2人死んでいるのが見えた。ボターでも俺の代わりを引き継いだ騎士でもない。それ以外には死体が無いが、防衛をしている人はいない。今攻め込まれたら確実に蹂躙されるだろう。

村の屋敷の中には多くの村人が避難しており以前赤鬼が襲撃したよりも随分怯えている。屋敷の庭にはボターとその娘が鎧姿で立っているが、ボターの方は傷だらけだ。ボターの目の前に使い魔を飛ばす。5匹も使う必要は無くなったので1匹残して4匹を霧散させる。


「ウルファスか?」


使い魔を頷かせる。さて、ちゃんと伝わるだろうか。


「良く帰ったなこんな時だが冒険お疲れさん」

「父上?ウルファスが何だというのです?こんな時にあんな非力な肥満レベルの話などしなくても」

「使い魔が来たのだ。お前は黙っていなさい。第一ウルファスは騎士なんだからお前より地位が高いんだから無礼な口を利くな」

「ちっ父上が任命しただけでしょう!?ご友人の親類だからって…私だって…」

「とりあえず黙ってろ。ウルファス?敵はまだ居るか?」


親子喧嘩をしている時ではないな。さて、使い魔は頷くか首を振るしか出来無いがとりあえず頷く。


「ふむ、応援は…間に合わんな。ウルファス卿よ、魔物は緑鬼(トロル)の群れだがどうするね」


それを頷くか首を振るかでは答えられんな、まぁ頷いてみるしかない。


「ふっはは!流石はラグ卿の教えを受けただけの事はある」

「父上?仮にウルファスが居ても勝ち目なんて無いではないですか。トロルは一流騎士でも一日では5頭も倒せませんよ。父上だって6頭しか…外には30頭は居ます。明らかに戦力が足りません」

「黙ってろ、ここには村人も居るんだぞ」


確かに、村人達は話を聞いて更に怯えている。


「ウルファス卿よ、俺は卿の意見に賛同する。これから門を開いて村の外のトロルを倒す」


頷くしかない。というかさっきの頷きをそう取ったのか。確かにこのまま村に篭っていても事態は好転しないし応援を連れてくるには時間が足りない。恐らく応援が来る頃には村は全滅している。魔物に知恵は無いが、一度獲物を見つけたら死ぬまで襲い掛かる習性は全ての魔物に備わったものだ。

ボターが傷だらけだというのに立ち上がる。回復呪文を唱えれば傷は塞がるが、それには生きている必要がある。使い魔でやるべき事は終わったと判断したので、使い魔を霧散させる。


「ハレ、山羊に乗れ。」


ハレは物覚えが良いので、山羊の乗り方をもう覚えている。俺はアイテムボックスから弓と矢筒を取り出してから山羊に乗る。急がなくてはボターが村の門を開けてしまう。ボターは俺を騎士に叙した恩人だ。助けてやりたい。


「さて…山羊に乗って走りつつ射撃するが、落ちるなよハレ、しっかりと掴まってろ」

「分かりましたウル様。ところで緑の鬼達は何をしてるんですかあれは?」


トロル達は良く分からない事をしている。村の壁を攻撃しているのは確かだが、なんというか大昔のコンピュータゲームの低級AIを搭載したモンスター的な行動だ。30頭に及ぶトロル達が横一列に並んで単調なリズムで自分の正面の壁を素手で殴っている。一点集中して壊したほうがよさそうなものだが、そんな知恵は無いらしい。壁は完全に大穴が空いている箇所もあるが、そこから進入する事はせず、穴を空けたトロルは穴に攻撃している。空振りしている姿は実に間抜けだ。

魔物は集団行動はしないという話だが、集団で行動するとこういう風になるから集団行動をあえてしないのだろうか。


「とりあえずトロルを背後から攻撃するが、どんな反応をするか分からん。覚悟を決めてくれ」


俺に抱き付いたハレは震える様子もなく頷いたようだ。相変わらず胸が押し付けられていい感じだ。合成弓に弦を張り、矢筒から矢をつがえて魔物の群れから100mほどの距離に近づいて、トロルに矢を放つ。合成弓の一撃はトロルの胴体に大穴を空けたが、トロルは生命力が旺盛な上に巨体なので即死しない。

だが、トロルは攻撃を受けたというのに反応がない。以前襲撃して来た赤鬼達もそうだったが、通常の魔物は攻撃されたら敵意を攻撃した者に向けるが、そんな様子はない。


「ふむ…この様子なら大丈夫かな?『命点当射』」


胴体に大穴を空けても死ななかったので、今度は頭部に向けて矢継ぎ早に矢を放つ。トロルといえど即死するようだ。トロル達は仲間が死んでも反応が無いので、門の周辺に居るトロル達を次々に即死させる。


「…何の反応も無いと怖くなってくるな」

「それだけウル様がお強いのです」

「う~んまぁそう思っておくよ」


塀を攻撃する他のトロル達も次々に攻撃するが、死体がドンドン増えているのに同族が死んでもこちらを向くトロルは1頭も居ない…まぁ血縁関係など魔物には無いので単なる容姿の似た別固体に過ぎないが。

とにかく10分もしない内にトロル達は全滅した。先程使い魔達に探らせたところ、村の門の方向にしかトロルは居なかったので、これで全滅の筈だ。山羊から降りて武器をしまう。

村の門からボターが出てきた。


「おや、全部倒したのか?」

「とりあえず目に映るのは始末しましたが、どうも妙な魔物でした」

「妙とは?」

「俺は背後から弓矢で攻撃したのですが、俺に対して反応しなかったんです。お陰で反撃を受けずにすみました」

「確かに妙な魔物だ。この間のもそうだったが、魔物が集団行動するなんて、一体何が起こったのやら。まぁ卿は良く働いた。ご苦労さん」

「いえボター卿こそ、卿が村を守ったお陰で私も無事帰れたのですから」


魔物に知恵というと邪神教団が連想されるが、奴らは知恵を得た魔物なのかもしれない。ここはエクターにも近いから進軍して来たのだろうか。やはり一度山を越える必要があるかもしれない。もしくは使い魔を山の向こうまで飛ばすかな。

ボターに回復呪文を唱えてから村の中に入ると、ボターの娘のアサイラが待ち構えていた。


「ウルファス?冒険はどうしたのですか?」

「熊は倒してきました」


そういってアイテムボックスから熊の尻尾を取り出して見せる。


「嘘おっしゃい。どうせ町で買った物でしょうに」

「いえ森で狩ったのです」

「ふん!お前ごときが倒せる魔物ではないわ。どうせ男爵配下の騎士様に倒してもらったのでしょう」

「いい加減にしろ、アサイラ」

「ですが父上…」

「ウルファス卿、とりあえず卿の小屋で2人っきりで話そう。アサイラ、お前は村の衆と協力して騎士達の遺骸を屋敷に運べ」

「…分かりました。ウルファス、山羊を預かります」


俺は山羊の紐をアサイラに渡し、ハレとボターと一緒に小屋に帰った。


「さて、冒険お疲れさんウルファス」

「いえボター卿こそ村の防衛お疲れ様でした」

「ふっ…加勢に来た騎士を2人も死なせてしまったよ。まったく衰えたものだ。第一の槍は返上しなくてはならんな」

「いえ、あれほど大群の魔物が来る事なんてありえない事ですから」

「それもそうだな、ところでウルファスはこれからどうする?もう俺に仕える必要は無いだろ?お前はもう一端の騎士だ。故郷に変えるか?」

「まだまだ体力が無いと今回の冒険で実感しました。できればこれからもお仕えしたいんですが」

「そうか、なら暫く村の防衛を頼むぞ」


頷いて、ボターは立ち上がる。肩を貸そうとしたら断られた。村人を不安にさせたくないらしい。

俺はボター送った後に、村の外に出てトロル達を解体しようと思ったが、トロルのような鬼種はミツリーボアのような種類の魔物と違い、食べられないのだ。さらに死骸が何かの材料になるわけでも無い。

仕方無いので銀水のヒドラを顕現させ、死体を消化した。ヒドラは30頭に上る緑鬼を血痕さえ残さずに掃除したが、死体を吸収消化したヒドラはボター屋敷ほどの大きさになってしまった。仕方無いのでアイテムボックスにしまう。ヒドラは生き物では無いのでしまえるのだ。後でなにかに使えるかもしれない。トロルの魂は1匹当たり金貨2枚になった。後で5割ほどボターに献上しよう。領地で狩った魔物の戦果の分配はそういう決まりだ、俺は騎士になったので騎士見習いの頃よりも受け取れる額が増えた。

とりあえずの後始末が終わると夕方になっていたので、旅の疲れを癒すために小屋に帰って地下温泉に入浴することにした。地下温泉は温泉の素代わりに魔術で作った大量の塩をぶち込んでいるので疲労が回復する気がする。


「ふぅ~いい気持ちだ~」

「ウル様?お風呂なんかに入っていていいんですか?」

「魔物の心配をしているのか?使い魔を放っているから村の近くに魔物が来たら分かるから心配無い」


ハレは成る程流石だと俺を賞賛してくれる。ハレの言葉には裏表が無いので実に気分がいい。これで野良着なんて脱いで一緒に入浴してくれたらもっと嬉しいのだが、俺に相応しい女になるまでは我慢するそうだ。折角銭湯並に広い地下温泉を造ったというのに、まぁ彼女はあくまで俺のためを思っての考えだ。


「まったく…なんていい女なんだ…」

「…?何かおっしゃいましたかウル様」

「いや、背中流してくれ」


そう言って、湯から上がる。ハレは特に恥ずかしがる様子もない。キスには顔を真っ赤にするのに裸体は恥ずかしくないのか?それとも俺の逸物がまだ子供だからだろうか?


「畏まりました。騎士の方を流す作法ってあるんですか?」

「う~ん特に無いが、痛くするなよ」


ハレは頷いて、俺の背中を洗ってくれた。石鹸は高級品だが、今日は冒険を終えて村を救った日だから石鹸を使わせる。背中が久々に泡だらけになる。そう云えば屋敷で暮らしていた頃以来の石鹸かもしれない。

石鹸の備蓄はベイの家から持ち出した12個限りだ。1個銀貨30枚の高級品で肌に優しい石鹸なので大事に使わなくてはならない。


「そうだハレ、石鹸はお前も使っていいぞ。後で風呂に入った時洗う事だ」

「え?こんな高級品をですか?」

「そうだ、俺の為に肌を磨いてくれ」

「ウル様のためなら…でも、こんな高級品がわたしみたいな田舎者の肌に合うでしょうか?」

「謙遜も度を越せば嫌味になるぞ、お前のように美しい女に使われれば石鹸も本望だ」


実際ハレは美しい。最初に会った頃に比べて栄養のある食事をしている所為か、肌の艶も良くなっている気がする。これ以上美しくなると俺に相応しい女になったと彼女が感じる前に襲ってしまいたくなるが…まぁ我慢しよう。どうせ時間はまだある。俺の身体がちゃんとできあがるには後5年はかかる。

その頃には…故郷はどうなっているのやら…やはり急いで戻った方が良いのだろうか?だが戻ったところで出来る事があるわけではない。俺に出来る事といえば母を宝物庫から救い出すことと、聖なる武器…エクターの初代国王が使った剣と槍を邪神教団の手に渡さないことだけだ。そのくらいならもう充分出来そうだが…エクターの情報が少なすぎるな、やはり使い魔でも放っておくかな。

泡だらけになりながらそんな事を考えていた。だが、エクターでやる事を終えたらどうしようか?俺の目的…そういえば何だったかな?漠然と幸せを求めているが、前世では幸せになれなかった所為だろうか?


「幸福…やはりハーレムかな?それにはまず身体を成長させなくてはな…まぁ使命を終える前にそんな事を考えても仕方ないか」

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