装備を探してみよう
なんていうか・・・装備って高いんだな。
この世界には元々この世界にいたNPCと俺の様に後からここにきたプレイヤーの二種類の人間がいる。プレイヤーと区別はできないほどの高性能AIで冒険をサポートしてくれるNPCだが、唯一の欠点がある。
NPCの店は品揃えが変化しないのだ。
どうせだったら良い装備が欲しいと思った俺はプレイヤーの露店を見て回っているが、どれも結構高いのだ。
流石にお金に生死が掛かっていると捨て値でアイテムは売らないみたいだな。
安い武器を探している内にかなり入り組んだ裏路地に来たみたいだ。
なんて言うか、確実に誰も居ないだろ、ってくらい閑散としている。実際プレイヤーもNPCも一人としていない。
そんな中で開いてる店が一つあった。
『雑貨屋 ●○屋』
廃屋にしか見えない建物に小さな看板が掛かっている。
他に入る店も無いし、目的がある訳でもないので取りあえず入ってみる。
カランコロン
中は廃屋ではなく、普通にキレイな店だった。
中央にカウンターがあり、そこには一人のドワーフが座っている。
周りには様々な武器と防具が並んでいた。どうやらここは武器防具屋みたいだ。
「客か?何が欲しい?」
気付けばドワーフがこちらを見ていた。
偏屈な職人ってかんじだ。
「まだこっちに来たばかりなんですけど、なにか扱いやすい武器と動きやすい防具とかありませんかね?」
「んー、お前もしかして彼岸から来たばかりか?動きやすい防具なら皮系のやつがオススメだな。初めから鉄系にすると動きがどうしても鈍るから。」
彼岸というのは現実世界、生きてる人達がいる所のことだ。
現実世界とか言うと、雰囲気が壊れるとかいう理由で誰かが彼岸と言い始めてから定着したらしい。
NPCは彼岸の事は知らないハズだし、もしかしてこの人はプレイヤーか?
「もしかして、プレイヤーの方ですか?」
俺の問いにドワーフは少しポカンとした後に笑いだした。
「ガハハッ!もしかして儂がNPCに見えたのか?勿論プレイヤーだよ!こっちに来て5年になる。名前はグランだ。」
「5年ですか!古株ですね。俺はガンツっていいます。」
「よろしくなガンツ。5年なんかまだまだひよっこだぞ?のんびりしてたら直ぐだ。」
グランさんは5年くらいまだまだだと言うが、お金が無くなる=消滅な世界で5年は古株と言えると思う。
もちろん俺みたいに保険金やらなんやらでお金に余裕があれば別だが。
「まぁ、儂は戦闘をまったくやっていないからな。デスペナルティが無い分、金は貯まりやすかったのさ。」
なんと珍しい。わざわざこんな剣と魔法の世界に来てるのに戦闘をやってないのか。
だったら危険がない世界を選べばよかったのに。
「儂は剣とか鎧とかが好きでな。自分でそれを作れてしかも売れる世界は天国みたいなもんなんだよ。」
・・・どうやらグランさんはエスパーらしい。思考を読まれたっぽい。
「そんなにポカンとするな。初めて会う奴は大体同じ事を言うからな。で、どんな武器がいい?剣か?槍か?」
「あ、できればナックル系はありますか?」
「お前、珍しいな、普通は剣とかなのに何か格闘技でもやってたのか?」
俺の家は古武術道場のため、俺も小さい頃から道場を継ぐために修業という名の拷問を受けていた。
修業は俺がこっちに来るまで続けていたし、この世界でも結構通用すると思っている。
「はい。これでも小さい道場の師範代だったんですよ。」
「そうか、じゃあこれなんかどうだ?」
グランさんは肘あたりまである手甲を出してきた。
全体が緑色の龍鱗みたいので覆われていて、拳の部分だけ銀色のプレートで覆われている感じだ。
「これは小龍の鱗と玉鋼で造られたナックルだ。玉鋼ってのは鉄をちょっと強くしたやつのことな。」
「付けてみても良いですか?」
グランさんに了解を得て、俺はナックルを装備してみる。
付けてみた感想はかなり良い。肘まで覆われているのが邪魔になると思ったのに、意外と気にならないし、拳の部分の玉鋼も邪魔にならない。
「どうだ?鱗の部分は剣なんかの攻撃もある程度防いでくれるから、それで防御もできるからおススメだぞ?実際防具として買っていく奴等もいるからな。
これなら武器も持てるし、軽装備型の奴等に人気の一品だ。」
グランさんはそういって勧めてくる。
確かにこれはいい感じだ。遠距離武器も使ってみたいと思ってたし良いんじゃないか?これ。
どんどん欲しくなってくる。うん、もうこれしか無いんじゃないか?これ。
「でもお高いんでしょう?」
「なんだいきなり?そうだな、値段は高めの4万だが、何年も使える装備だし、お買い得だぞ?」
4万か・・ちょっと高いが欲しい。
どうする?いや、もう買わないとか考えられん。
「防具も欲しいんですけど、セットで割引とかして貰えません?」
「そうだな、纏めて買ってくれるなら少しは割り引いてやるぞ?
このネザーシープの道着なんかどうだ?Bランク素材のネザー系で作られているから、着心地も良いし防御力も抜群だ。半袖なのがアレだがそこはさっきのナックルで大体カバーできるだろ?」
出してきた服は灰色でドラゴンボ○ルに出てきそうな形状の道着だった。
ドラゴンボ○ル大好きっ子な俺にはたまらない一品だ。
「・・・いくらですか?」
「そうだな、この地獄羊の道着は通常5万くらいするもんなんだが・・・」
ちょっとまて。その道着、ナックルより1万も高いじゃないか!
っていうか、レベル足りるのか?ナックルもそうだが、レベル制限はないのだろうか?
どれくらい割引するかを考えているグランさんに聞いてみないといけないだろう。
何万も出して装備できません、じゃ話にならない。
「あの、レベル制限とかは大丈夫なんですか?」
「ん?この世界、武器防具にレベル制限はないぞ?ステータスが低いと武器に振りまわされたり防具がやけに重く感じたりするけどな。
今回のナックルと道着は軽い装備だし、大丈夫だろう。固有スキルは使えないかもしれないが。」
どうやらここではRPGみたいに装備できないアイテムとかは無いみたいだ。
固有スキルってのは高位装備についている能力だが、レベルが低い俺にはあまり関係ない事だろう。レベル低い装備には固有スキルなん無いわけだし。
ナックルと道着をもう一度手にとってステータス確認と頭で念じると、何も無い空間にゲームで良く見るカーソルが出てくる。
・・・
【小龍の逆燐】
龍の鱗で覆われた防御と攻撃に優れた籠手
龍の加護が含まれているこの籠手を着用した場合、筋力増加と疾風の加護を得ると言われている。
・固有スキル 筋力増加 疾風
レベル20でスキル解放
【地獄羊の灰道着】
デモンシープの羊毛で作られた道着
魔法、衝撃の耐性が高く、下級の全身鎧以上の防御力がある。
固有スキル 魔法耐性 衝撃緩和
レベル20でスキル解放
・・・
カーソルにはこの装備の説明が書いてあった。
どうやら本当に装備して使うだけなら大丈夫みたいだ。
「武器のステータスとかは見れないんですね。」
「まぁ、細かいステータスはどんな装備でも見れないようになってるな。自分のステータスとかも割と大雑把にしか見れないだろう?」
この世界、RPGのような世界でレベルまであるのにステータスが大雑把だ。
体力、魔力、カルマの3種類しかない。力とか防御力とかの項目がないのだ。
ちなみにこのステータスは全プレイヤー同じ状態でスタートする。
行動次第でステータスの上がり方は違うから、同じレベルで一緒のステータスってのはレベル1の時だけらしい。
ステータスの項目が少ないのはレベル1の時にステータスを揃えて公平にしたいからっていうのと、これ以上身体能力を数値化して管理するのはコスト的な問題で難しいからなんだそうだ。
グランさんが言うにはプレイヤーのステータスで設定されていない攻撃力等の項目を装備に付けても微妙じゃないか?という判断で装備から細かいステータスは無くなったらしい。
そういえばこの世界に来てから体が重い気がしていたが、ステータスが低いからなのか。
もう慣れ始めているが、最初は少し走っただけで息が上がったのには戸惑ったなぁ。
「さて、装備は武器防具を合わせて75000でどうだ?」
「もうちょい何とかなりません?」
「無理だな。市場で買えばもっとするぞ?お前じゃなくても欲しい奴等はいるから儂は困らんし、どうする?」
うぅ、完全に足元を見られている。
しかし欲しい!ちょっと高いが欲しい!
「か、買います・・・」
「まいどあり!」
結局買う事にした。だって欲しいのだもの!