prologue 開門
SFとファンタジーを融合させないままお話を作ってみようと考え、作成。
気分で書いているので続くかどうか不明。
金属で作られた巨大なドーム上の建造物。その地下深くで七つの大型原子炉が唸り声を上げていた。
核熱エネルギーの効率的な取得方法が確立されて以来、世界で最も膨大なエネルギーを得られる手段は三百年前から原子炉だ。核融合炉も、それ以外の発電方法も、現在の核分裂エネルギーから取り出せる電力とは比較にならない。
それが、七基。一つで都市一つの電力を賄えるというのに、どうしてそれほどのエネルギーが必要なのか。
その答えは、円状に配置された原子炉の中心にあった。
「いける!いけるぞおおおぉぉっ!出力は安定、空間の歪みも理論通りに観測されておる!このまま境界面に干渉を続ければ、間違いなく扉が開く!」
青白い雷光を放つ巨大なリングを、対電磁防御を施した強化ガラスの向こうから興奮気味に覗き込んだ老人が、綺麗に生え揃った歯を剥いて叫んでいる。一歩後ろに控えたスーツ姿の女性が、そんな老人を見て呆れるように溜め息を吐く。
この施設は研究所であった。
人の科学が進歩を失い始めて、早五十年が過ぎようとしている。二世紀前にそれまで抱えていた矛盾をほぼ解消した物理学は、科学の停滞を招いたのだ。実現出来ることは全て実現してしまったことで、人は進歩することが出来なくなってしまったのである。
だが、今、科学は乗り越えられないとされていた壁を越えようとしていた。
「あの堅物どもめ、見ておれよ!学会に新理論をぶちたてて、脳を使うことを止めた連中に一泡吹かせてくれるわ!」
老人は正面のコンソールに唾が飛ぶのも構わず、時々濡れたキーボードを操作すると、傍らに置かれたディスプレイをチラリと見て、げひゃげひゃと笑った。
科学の停滞により、科学者という存在が末端労働者よりも低い地位に押し込められてしまったことを、この老人は良く思ってはいなかった。
科学は万能である。それが、老人の持論だ。
しかし、現実は厳しい。
24世紀の終わりになっても、数百年前に空想したことさえ実現出来ていない。人に考えられる殆どのことは科学で実現可能であると過去の賢者は謳ったが、今では不可能な事ばかりが羅列されている。
だからこそ、老人は不可能を可能にしたかった。人間の能力を遥かに越えたコンピュータが否定するトンデモ科学を実証して、人はまだ宇宙の全てを解き明かしてはいないのだと証明したかったのだ。
そして、その夢が、今現実になろうとしてる。
数メートルサイズの超伝導ケーブルを介して伝えられる大電力を受けて、リングは青白い放電を自らの中心に集めていた。宇宙の始まりと称される大いなる炎よりも密度を高めたエネルギーを詰め込み、ブラックホールの底にあるような特異点を人工的に生み出す。
あらゆる理論が弾かれる、宇宙の穴。そこに老人は光明を見ていた。そこに希望が詰まっているのだと、本気で信じていた。
膨大なエネルギーが集まった一点に、黒い渦が形作られる。
「ひょっほう!いいぞおっ!特異点じゃ!特異点が生まれた!!計測器を見てみろ、全て振り切れておる!!」
自分の後ろで傍観に務める女性にキラキラとした目を向けて、なんの反応も得られないことに肩を落とす。
だが、老人はそんなことでめげたりはしなかった。
ここまでは自分の計算通り。そして、自分を否定した人工知能も予測したことだ。
しかし、ここから先がある。
単純に特異点を生み出したところで、注がれるエネルギーが失われれば特異点は宇宙の物理に押し潰されて消えてしまう。人工的に特異点を安定させ、注ぎ込むエネルギーを絞っても失われないようにしなければならない。
ここだ。人が進む事を許されなかった、未知の世界。そこに到達するための鍵を、老人は延命処置を施してまで続けた百年の研究の末に手に入れたのだ。
コンソールの中心にこれ見よがしに設置された、ガラスに覆われた赤いボタン。それが老人の用意した鍵を発動させる、世界でたった一つのスイッチであった。
このボタンを押せる日を首を長くして待っていた。やっと、その時が来たのだ。
高鳴る胸を押さえ、興奮に息を荒くして、老人は拳を振りかぶる。
笑いが、止まらなかった。
「おひょひょひょひょ!そぉーれっ、すうぃっちおおおぉぉぉぉぉぉんッ!!」
ぐき、と音を立てて、老人の手首が曲がった。
「あんぎゃあああああああああああああッ!!!」
「間違って押さないように、強化ガラスで覆ったことを忘れていたのですか?まったく、頭は悪くないのにこういうところは抜けているんだから……。代わりに押しますよ?」
ここでやっと口を開いた女性が、手首を押さえて床を転がる老人に代わり、コンソールの前に立った。老人はそれに、さっさと押せとばかりに無事な方の手を振って応えた。
「では、プログラム起動します」
先程の老人と同じ様に、拳を振り上げた女性は、その拳を強化ガラスに覆われたボタンに向けて振り下ろした。
硬い音を立ててガラスが砕け、ボタンがコンソールにめり込んだ。
リングが音を立てて形を変えていく。
青い光が少しずつ消えていって、中心に生まれていた黒い渦に鮮やかな色が踊った。
要望があれば感想にどうぞ。出来る限り取り入れていこうと思います。
ただし、返信出来るかどうかはわからん!