17時(3)
『ほう、道路は本来ならこのようになっていたのだな。なるほど、確かに滑らか。これなら馬車でもほとんど揺れないだろうな』
『うーん、馬車はなかったけどね』
『え?馬車がなかったのでしたら何を走らせていたのだ?』
説明しづらい物だよ。
そんなやりとりをしながら高いビルに遮られて学校の屋上からは見えなかった辺りを進み、駅ビルが見えてきた。
ボロボロだけど、かろうじて看板や、駅ビルのマークみたいなのは残っていて、記憶にある風景と一致した。ちょっと安心しつつ、何かこの現状を理解するための手がかりでもないかと足が速くなりかけたとき、モニカが立ち止まった。
『実里、待て。これは……』
『空間探知……囲まれてるっぽい?』
学校からは二キロほどだから空間探知の範囲外。もっと頻繁に確認しておくべきだったと反省しながら周囲を探る。
『数はざっと二十。大きさ、形は人間』
『武装は?』
『してるみたい』
『どうする?』
どうするかって、つまり殺すか?という意味だね。
『できるだけ生かして捕らえたい。今、一番欲しいのは情報。死人は何も教えてくれないからね』
『了解。善処する』
さてと。ここは多分日本だから日本語、通じるよね?
「コソコソしてないで、出てきたらどう?」
そこかしこで、ガサガサッと茂みが揺れた。隠れて襲おうとしていたのなら、少しは動揺を隠せと突っ込みを入れる前に観念したようだ。
「覚悟はできてるってことか?」
「覚悟?」
「ふーん、なかなかいい女じゃねえか」
「兄貴!俺、もう我慢できねえ!」
「落ち着け、お前ら」
数人が茂みから出てきた。それぞれ手に金属バットやら、鉄の棒に何か色々つけたものを担いだり、カリカリと引きずりながら。ちなみに見た目は世紀末なヒャッハーをちょっとおとなしめにまとめた感じ。文明が崩壊したような世界のこういう連中の格好って、必ずあの方向へ進むのはどうしてかしらね。
「何言ってるのかよくわからないんだけど」
「……テメエら!適当に痛めつけてやれ!殺すなよ!後でじっくり楽しむんだからよ!」
「ヒャッハー!久々の女だぜ!」
「囲め!囲んじまえっ!」
ゴロツキテンプレ台詞集なんてのがあったら間違いなく載っていそう――だけどきっと彼らは読まないだろう――な台詞を吐きながら男たちが駆けだした。
「リアルにヒャッハーを聞いてある意味感動したわ。絶滅したと思ってたのに」
『実里、これ、どうする?』
モニカも、これほど程度の低い連中だとは思っていなかったようで、少し困惑気味だった。
『数は全部で二十三。あの正面の五人以外は全部無力化して。ただ、殺さないように注意』
『手足を切り落とすのは?』
『二、三本なら許可するわ』
私の許可の言葉と同時にモニカの姿が消え、「ぎゃっ」と汚い悲鳴と共に男たちがバタバタと倒れる。
「痛え!」
「何……がああああっ!」
「手が!俺の手が!」
「足がああっ!」
実にうるさい。
『終わったよ』
『ん、ありがと……って、言うと思ったのっ?』
ペシッとモニカの頭をはたく。
『何かマズかったか?五人残して無力化……』
『剣!ボロボロじゃないの!』
『あ』
私がモニカに持たせていた剣は、異世界でそこらの中古武具を扱う店で売ってるような鈍。彼女が剣技をフルに発揮したら、剣の方が持たない。全員が生きていたのは逆に感心してしまったよ。ちなみに叱った理由はとてもシンプルで、他にこれと同等の鈍な剣がないから。つまり、この先モニカが振るうのはどれもこれも熟練鍛冶師が打った逸品か私が作った逸品ばかりになってしまう。つまり手加減が効かなくなるわけで、悩みの種になるかもしれない。
『申し訳ない……』
『とりあえず全員縛って止血して。手足はその辺に転がしといて。気が向いたら繋ぐから』
『……はい』
モニカが申し訳なさそうな顔をしながら汚い男たちのところへ向かうのを横目に正面の男五人のもとへ。
「わかりづらいかも知れないけど、私は彼女よりもずっと強いわ。大人しく降伏するなら良し。抵抗するなら首だけで話せるようにしてから色々尋問するけど、どうする?」
「ふざけんな!おい!」
「誰がそんなことを信じるかって!」
こちらに一歩踏み出した、真ん中の男の首が宙を舞う。が、血は一滴も流れない。そして、落ちてきた首をキャッチして地面に転がす。ほら、五メートルくらいの高さから落ちたら痛いでしょ?痛いと「ぎゃっ」とか聞きたくない声も出すし。あと、しゃべる生首は持っていたくない。
「な、何が……え?何これ?!」
明らかに呼吸器系が繋がっていないし、血の一滴も出ておらず、それでいて意識があって声が出る時点でファンタジー……いや、ホラーか。そして残る4人は完全に硬直している。ありがたい。これでもまだ向かってくるなら、順番に同じ事をしなければならないからね。
「さて、一番偉そうなあなたに忠告。私の質問に誠心誠意答えれば全員五体満足に戻すけど、そうでないならバラバラにしてここに放置するわ」
「「「「サーセンっした!」」」」
まだ五体満足の四人――後で聞いたらこの五人はリーダーと四天王らしい――は、それはもう見事な土下座をしてみせた。ついでに首のないリーダーの体も土下座した。そう、魔法で分離してるだけで実際には繋がってるんだよね。




