17時(1)
『上から見たときも思ったけど、すごい森ねえ』
『魔物が出てもおかしくない森です。注意して進みましょう』
『うーん、こっちの世界には魔物はいなかったはずだよ?』
それに私の空間探知には何も引っかかってなかったし。
『それでも用心はすべきです。任せてください、気配感知は得意なんです』
『頼りにしてるわ』
しばらく進むと校門が見えてきた。そして道路はどうなっているかというと、木々がアスファルトを突き破って生えている。アスファルトは長い年月で風化したのか、かつて道路だったとは思えないほどボロボロだ。
『この地面の黒いものはなんです?ずいぶん硬いのですが』
『私のいた世界で道路を滑らかにするために敷いてたものの残骸ね』
アスファルトじゃなかったらどうしようかと念のため鑑定した結果は……アスファルトでした。
『石畳のようなもの……ですか?』
『それよりもっと平らにしていたけどね』
錬金術師のスキル、鑑定でアスファルトであることはすぐにわかったけど、それ以上の情報は無し。もちろんここまでの間に色々と鑑定しているけど、その結果は「机の残骸」「椅子の残骸」で、何がどうしてこんなことになったのか、鑑定スキルではわからなかった。そんな感じで木の根っこを踏み越えながら進み、とりあえず何かの手がかりが得られそうなところを見つけた。
『ここは?』
『コンビニといって……まあ、色々と揃う商店よ』
『色々?』
『食べ物から日用品、種類は少ないけど下着とか化粧品とかも売ってたはず』
ただ、コンビニといっても見た感じがコンビニっぽい建物というだけでチェーン店のブランドを示す看板なんかも崩れていて、どの系列なのかわからない。っと、下に青いストライプがあった。ロー○ンか。
中に入ると、割れたガラスから侵入したらしい植物のせいもあるし、全部誰かが持ち出したのもあるのだろう、棚が残っている程度で商品らしいものは見当たらない。あまり期待はしていなかったから、いいけどね。
『実里様、その光っているのは金貨ですか?』
『え?』
落ちていたのは五円玉。だいぶ汚れていたので軽く拭き取ってピカピカにして見せた。
『おお!やはり金貨ですか!』
『モニカ……』
『え?どうかしました?』
『モニカって、偽金捜査は向いてないって言われたことあるでしょ?』
『よく知っていますね。実里様たちと会う半年ほど前に大規模な捜査があったのですよ』
『これ、金じゃないからね』
『えっ?!』
私も詳しくないけど、銅だっけ?銅となんかの合金だよね?
『どのくらいの価値があるのでしょうか?』
『平民の子供のお小遣い』
『お小遣い』
『未満』
モニカがガクッとなった。五円って……駄菓子も買えないからね。
『こんなに精緻に作られているのに、価値はそんなに低いのですか?』
『そうね。まあ、こんな穴の開いた形のはサルヴァートでも見なかった形か』
『実里様のいた世界というのは私の想像が追いつきませんね』
そしてくるっと裏返すと「令和八年」の刻印があった。
『ちょうど私が召喚された年かあ』
『ん?どうしました?』
『ううん、なんでもない』
答えながら、なんとはなしにポケットに入れる。
『実里様、これは何です?』
『ん?』
モニカが足下に転がっていた何かを拾い上げた。
『えーと、なんて言えばいいかな……保存食……かな?』
『保存食!これが?!』
『ええと……うん』
そうだね。あっちの保存食って干し肉とか、カチカチに固めたパンだものね。
『他にもいくつかあるようです。持っていきましょう』
『でもこれ、犬用』
『イヌ?』
『うん』
それは表面の印刷が剥げかけている、缶詰タイプのドッグフードだった。もちろん蓋は開いていて中身は空っぽ。内側にこびりついている黒い何かは追求しないでおこう。
『こんな硬いものをイヌが食べるのですか?こっちのイヌはアゴが丈夫なんですね』
『入れ物だからね?中に入ってるのを食べるんだからね?』
異世界でも犬は犬だったよ?ちなみにダンジョンにいた全く可愛げのない魔犬があっちで一番よく見た犬だっけ。ああ、アレなら缶詰くらい……噛み砕くわね。あの世界にはモフモフなんて癒やしはなかったよ。
さて、缶の底には……よし、刻印が残っていた。
『消費期限……2082年10月?!』
その刻印の文字を認めたとき、心臓が跳ねた。なお、私の心臓は……まあ、それはいいか。
『どうしました?』
『えっと……これはね、この保存食がいつまで大丈夫かという期限よ』
『なるほど……2082年というのは?』
『ほら、あっちの世界だと王国暦143年だったでしょ?』
『ええ』
『それと同じようなものね』
『つまりこの国は二千年以上続いている、なかなか伝統のある国なのですか?』
『えーと……ちょっと違うけど、だいたい合ってるわ』
『?』




