13時
「空港ではないんですね」
「いわばプライベートジェットを飛ばしているようなものだからな。飛行機の離着陸をするためだけの場所、ということで空港とは呼ばないようにしよう、となったそうだ」
実にどうでもいい話を聞きながら滑走路で離陸準備にかかっている飛行機へ向かう。
『実里!実里!』
『ん?』
『まさかと思うが、こんなものが空を飛ぶのか?』
『え、ええ』
そこにあったのは全長三十メートル強、主翼の幅三十メートル弱のジェット機。数百人単位で乗れるような旅客機ではないものの、二、三十人が乗るには充分なサイズで、私の感想はとてもシンプル。
「ハリウッドセレブの自家用小型ジェット」
私の感想はその程度。飛行機大好き人間でもないから詳しいことはさっぱりですよ。
だけど、ぱっと見でも金属でできているのがわかるため、モニカにしてみればあんな重たそうなものが空を飛ぶのは魔法にしか見えないのに、私からこの世界には魔法はなかったことを聞いている。つまり、あんなものが空を飛ぶはずがないのにと、モニカは一体これはどういうことだと興奮を隠せないようだった。
『とりあえず乗りましょ』
『アレは本当に乗り物なのか?』
さっきから乗り物だって言ってるはずなんだけどな。そして飛行機に乗れば乗ったでまた大騒ぎだった。
そもそも、モニカが知っている乗り物と言えば馬車と船くらい。こちらに来て先ほど自動車に乗せられたが、大きさとしては馬車とさほど変わらないので、ますます「こんな巨大なものが」となるわけだ。
ちなみにサルヴァート王国は内陸国だったので船というものは川で少し使われている程度であり、海を進む船という実物は見たことがないとのこと。それならこんな巨大な乗り物を見て興奮するのは仕方ないとしながらモニカを引っ張ってタラップを登る。
『待て待て!私を拘束するのか?!』
『うーん、私たちの身体能力ならあんまり問題にならないんだけど、飛ぶ瞬間って結構揺れるから、安全のために、ね』
そう、シートベルトで一悶着。
『お……おお!動いた!動いたぞ!』
『そりゃ動くよ』
『わわっ!本当に飛んだ!実里!本当に飛んでるぞ』
『飛ぶって言ったよね?』
そんな感じで大騒ぎ……いや、違うな。大はしゃぎするモニカを横目に、村上さんからもらった資料に目を通す。なお、機内食などのサービスはないそうだ。
「ウィル」
「はい」
「もらった博多の地図、どこまで正確?」
「一部、住民が勝手に道路を整備しているところがあるようですが、概ね正確なようです」
「なるほど。横浜と同じようにダンジョンが発生して、ダンジョンからモンスターが溢れたとした場合、モンスターがどう動くか予測して」
「わかりました。寿命間近のノイズだらけの衛星画像ですが、地図データと統合し、検討します」
ウィルがサイバーネットに接続できるようになって、いくつかの面倒なこともわかった。
その中の一つが衛星からの映像だ。
ダンジョンが現れ、モンスターが溢れるようになった結果、世界各地で横浜と同じように街を壁で囲むようになった。その結果、宇宙へロケットを飛ばせなくなったのだ。
ロケットを発射する際の衝撃波は数キロ離れたところでも体が震えるほど。そんなロケットの発射台を壁で囲むなんて、現実的ではない。かと言って、モンスターが入り込んでくる危険性のある環境でロケットの発射なんてできない。
結果、ここ三十年ほどはロケット打ち上げ回数はゼロとなり、地球の周りを飛び回っていた衛星は次々寿命を迎えた。そのまま回り続けている分には問題ないけど、いくつかは制御を外れて地上に落下して被害が出たこともあるとか。まあ、某国発表で死者三十五人だったそうなので、実際の被害状況は全く不明らしいけどね。
それはそれとして、衛星がもたらす諸々は、各方面で必要な情報。
なくても即困ることはないけれど、ないならないなりで困る。そんなわけで、衛星の稼働を抑えて、なんとか機器の寿命を延ばせないかと試行錯誤して現在に至っているんだって。
基本的に人工衛星の大半が地上の様子を撮影しているので、それをうまく共有することにして、一台が撮影する間隔を延ばすことに。例えば一分おきに撮影しているのを一時間おきにして、その間の分は他の衛星で補完していく。こうすることでどうにか、という状態なので、博多の最新映像を入手しようとしたら、どの衛星が一番新しい映像を撮っているか、探し回らないとならない。
そこがすんなり行かない辺り、まだまだ混乱状態なのか、それともこんな状態でも各国の思惑が働いているのか。その辺は知ったことではないので考えず、ウィルに丸投げだ。
そんなことを考えているうちに飛行機は瀬戸内海上空に差し掛かってきた。
ここまでにも何ヶ所か円形に壁で囲まれたリージョンが見えたけど、リージョンの外で暮らしているように見える地域もあった。
だが、一つだけ確実に言えるのは、明らかに人の住んでいる地域が小さくなっている、ということ。
『実里!』
『ん?』
『これはどのくらい速いんだ?』
『え?』
『遠くに地面が見えるけど、ゆっくり動いているようにしか見えないよ。これなら自分で走った方が速くない?』
そうか。うーん、説明が難しいな。
『ウィル、飛行機って時速何キロで飛んでるんだっけ?』
『この飛行機の場合、九百キロほどです』
『ありがと。ってことは……馬の全速力の二十倍くらい』
『二十倍?!』
『多分』
あっちの馬の全速力がどのくらいかわからないけど、多分地球の馬と大差ないと思う。
サラブレッドの全速力が五十キロ前後らしいからざっくりと二十倍ってところね。
後は、今いる辺りは既に横浜からは見えない地平線の向こう側だけど、あっちの世界に地平線って概念、あったっけ?
『ううむ……本当にそんなに速いのか』
『そうね。遅く見えるのは錯覚よ』
『そうか。私たちの世界にはそんなに速い乗り物はなかったからよくわからないが、実里が言うならそうなんだろうな』
納得してもらえたらしい。納得の方向性がおかしい気がするけど。




