16時
『こちらは?』
『職員室と言って……まあ、この施設を運営する人の事務所ね……「職員室」のプレートは……やっぱり残ってないか』
『どうしてここに?』
『一番色々なものがあったはず』
『なるほど』
答えながら完全に腐り落ちている扉を踏み越えて中に入る。
そして中に残っているのは机だったらしい何かの山。教室同様、赤錆と腐った木の残骸だけだった。
『紙……ダメね。劣化してボロボロか、色あせてて全然読めない』
『これ……あ』
モニカが何かの写真が表紙になっている冊子を手にしようとした途端、崩れていった。ほとんど真っ白になっていて文字の判別もできる状態ではなかったので責めたりはしない。
『ざっと見たけど手がかりになりそうなものは無し、と』
『さて、どうします?』
『とりあえず次は屋上へ』
『屋上?』
『建物のてっぺんね』
よくある学園アニメでは屋上の出入りが自由だったりするけど、この学校はそんなことはなく、しっかり施錠されていた。そして、鉄製の扉は原形を留めていて鍵もしっかりかかっていたけど私の錬金術で分解すれば問題はない。もっとも、ここまで錆びていると、ちゃんとした鍵があっても開かなかったと思う。
『見渡す限り、森』
『だねえ』
五階建て校舎の屋上と同じくらいの木々が見渡す限り広がっていた。
『もう一回空間探知……特に変わりなし、と』
特に変化は見られないことをモニカに告げて、これからのことも告げる。
『とりあえずここにいても何も起こらない気がするの』
『そうですね』
『なので、あっちの方向に行ってみようかなと』
『何かあるのですか?』
『ここが、私の元いた世界だというなら、街の中心部だったはず』
『なるほど』
私の示したのは学校最寄りの駅の方角。そこそこ大きな駅で、駅ビルもあったし、周囲にデパートもあった。実際、今も森の中に色々とそびえ立っているのが見える。
見覚えのない建物ばかりなんだけどね。
『では早速行きましょう』
『待って』
『はい』
『お腹、空かない?』
私の空間収納には食料も結構入っている。ざっと見た感じでは二人なら一年くらいは軽く過ごせるだろう。この先、食料が手に入る可能性は何ともわからないけど、とりあえず今から動き出す前に腹ごしらえとしようとなって、携行食で軽く腹ごしらえを済ませると、階段を降りて玄関を目指した。
「急いで開けろ!」
ミルコが全ての鍵を開けるのにもたついている騎士に当たる。モニカの脱走を危惧して複雑な鍵を十もつけ、さらに念のためそれらの鍵を別々の鍵束に入れた結果、開けるのに手間取っているのだ。もちろん開けようとしている騎士のせいではないが、あとでどんな難癖をつけられるか分かったものではないので、必死にガチャガチャとやっていく。
「殿下、ここはやはり……」
「そうだな、用意しろ」
「はっ!」
すぐに数名が上へ駆けていくのを見届けると同時に最後の鍵が開き、騎士が扉を引き開けると同時に、二人が不思議な光を放つ扉へ消えていった、まさにその瞬間だった。
「「待て!」」
慌てて騎士が追おうとするのをミルコが別の意味で「待て」と引き留め、ニヤリと粘着質な笑みを浮かべた。
「フン、やはりそうか……まだ間に合う」
「殿下!準備を整えてこちらへ向かわせております!」
「わかった。ここにいる全員、聞け!」
その場にいた十名ほどがビシッと姿勢を正す。
「これより、不逞な脱走を企てた勇者と王国を裏切った逆賊の騎士を追う!緊急につき、細かな状況説明は後回しだ!全員遠征用の物品を受け取り次第、順次あの扉をくぐれ!」
「「「はっ!」」」
返事と同時に大量の背負い袋や盾、弓などが運び込まれ、それらを手にした騎士たちが次々に扉をくぐっていく。そしてそれを見ながらミルコも自分の鎧を身につけていく。
「くれぐれもお気をつけください。召喚した直後の勇者たちの話では、あちらの世界はかなり異質と聞いております」
「確か魔法がないとか」
「馬も引いていないのに鉄の箱が走るとかいう馬鹿げた話もありました」
「わかっている。だが、危険を承知の上でも連れ帰らねばならん」
勇者召喚にどれだけの金や資材、人材を費やし、魔王討伐の名目で鍛えるのにどれだけかかったか。これから他国を攻め落とし、領土を拡大すれば全部回収できるどころかお釣りが来るが、ここで逃げられれば、国が傾くほどの損失だけが残される。それだけは、何としても避けねばならない。
「では行ってくる」
「ご武運を」
装備を整え終えた騎士たちと共にミルコは傲岸な笑みを浮かべながら扉をくぐっていった。




