15時(2)
『ふう、重かった』
『一つ確認なのですが』
『うん?』
『実里様の空間収納、どうなっていますか?』
『ええっと……中身も全部あるわ』
『良かった。色々と役に立つ物、入れていましたよね』
「空」属性の魔法、空間収納の中にはあちこち出かけるたびに色々な荷物を放り込んでいたけど、遠征から帰ってきても中身の整理をする余裕もないままに次の遠征。そんな遠征だらけの日々の繰り返しだった。おかげで荷物は増えていって、すごいことになっている。それこそ騎士団を一ヶ月引き連れても十分足りるほどに。
今はそれがありがたいとも言えるね。
『ドレスを脱い……脱げない!脱ぎ方がわからない!』
『失礼します……はい、どうでしょうか?』
『ありがとう』
手の届かない位置にボタンがあるので脱ぎ着が不便な服ね。貴族って日常生活から大変そうだとどうでもいいことを思いつつ、モニカに手伝ってもらって脱ぎ終えると服を探す。
『えーと、これとこれでいいかな』
適当に動きやすい服を出し……ん?
『モニカも着替える?』
『できればお願いします』
『えーと、これなんかどうかな?』
『大丈夫です』
私としては今着ている、私たちの世話係のためのメイド服も捨てがたいんだけど、これから外に広がる森の中を歩くことを考えると、あちこち引っかかりそうなメイド服はやめた方が良さそうね。ちなみになんで大量の服があるのかというと、私が友達の分も運んでいたから。初めの頃は戦闘に参加しない分、後方支援、補給に専念していたので。結局使わずじまいになってしまったのだけれど。
『武器などはありますか?』
『色々あるよ。とりあえず最初の頃に使ってたのでいい?』
『問題ないと思います』
本当に最初の頃に使っていた、かなりくたびれた剣を渡す。
使うことになるのかどうかわからないけど、ないと落ち着かないみたいなので。他にも色々あるけど、警察なんかに見つかったときにまだ言い訳が立ちそうな程度の剣……ぶっちゃけて言うと、ほとんど刃が潰れていて切れない状態。モニカの腕なら問題ないどころか、日本刀にも負けないくらい切れると思う、多分。
こうして二人とも、ファンタジー小説おなじみ、村から出てきたばかりの駆け出し冒険者風の格好になった。中身?魔王すら討ち滅ぼした勇者と、騎士団で次期副隊長を確実視されていた前途有望な騎士ですよ?
『さてと、とりあえず何がどうなったのか、現状把握をしないと』
『ええ』
空間収納からスマホを取り出して約一年ぶりに電源を入れる。あっちに行った直後、電池が切れそうになったので慌てて切って空間収納に入れておいたのを……圏外か。
そして圏外だから、地図アプリなんかも意味がない。
『何がどうなっているのやら』
『その「すまほ」というのは動かないでしょうか?』
『うん。その、電波が通じなくて』
『電波とは何です?』
『えーと……目に見えない情報伝達の手段で……』
『通信魔道具だったのですか?そうは言ってなかったと思ったのですが』
『……うん、とにかく使えないのよ』
『そうですか。なら、探知魔法は?』
『やってみる。空間探知』
すうっと頭の中にレーダースクリーンのようなイメージが浮かび上がり、周囲の状況が構築されていく。
『うえっぷ』
『どうしました?』
『ん……大丈夫。うん』
『本当に?悪阻とかではなく?』
『うーん、いくらあの王子でもあの短時間に私を襲うのは無理だと思うし、悪阻が出るのも早すぎよ』
そもそも私が着ている物一式、全部魔術的な結界になってるから他人が簡単に脱がすことはできないわよ。
『それもそうですね。では何が?』
『その扉よ』
『この怪しげな扉ですか?』
『うん。探知魔法で見ると、ぐるぐるぐにゃぐにゃしてて気持ち悪いのよ』
『な、なるほど』
とりあえず扉の周囲を除外して、建物の形と地形、ある程度大きな動くものを探知するように。範囲は半径一キロほどにしておこう。
『んーと……ふむ……なるほど』
『どうです?何かわかりました?』
『とりあえず、ここは私が召喚されるまでいた学校で間違いないと思う。周りもそんな感じ……かな』
『なるほど』
『だけど、近くに見たことがない建物もあるんだよね』
『実里様が知らないだけということは?』
『結構大きな建物よ?』
『ふむ……でも、こんな森があったら見えないのは普通でしょう?』
『だから、こんな森は無かったんだってば』
『なるほど。とりあえずよくわからないということはわかりました』
『ええ』
『何か動いているものは?』
『ないみたい。風で木々が揺れている程度ね』
そして空間探知では、私のすぐそばにいるモニカが強く反応している。
これは、とある遠征でモニカが重傷を負ったときの名残だ。彼女の傷を治せるような治癒魔法の使い手が近くにおらず、薬もなかったので、私が錬金術で無理矢理治した。私の体の一部から錬成して。その影響は色々あって、その一つがこれ。空間探知でモニカだけは特別な反応になる。
あとは血盟転移。私があのクソ王子の前から転移した空属性の魔法で、モニカの魔力を使い、私がモニカのところに転移する実に奇妙な魔法。私自身の魔力は起動のトリガーにしか使われないので、拘束魔道具で魔力を掻き乱されていても問題なく起動した。空間転移という繊細なコントロールも、転移先がモニカに固定されているからね。そんな私の貞操を守り抜いた魔法。私の属性が「空」だったのと、職業が錬金術師で、モニカがいたからこそできた、奇跡のコラボね。
さて、周囲の状況が何となくわかったところでこれからについて考える。
まずは現状整理から。
とりあえず廊下を見てみたところ、教室の中と似たり寄ったりで、「一年二組」と書かれていたはずのプレートは見当たらなかったけど、すぐ隣は「一年一組」とかろうじて読めたので、ここは「一年二組」の教室、つまり帰還した先は間違っていないはず。
けど、どう見ても普通ではない状況なのは明らか。誰かに事情説明をして欲しいのに、すぐ近くには誰かがいる様子はない。なので、校舎内を見て回って、何か手がかりがないか調べて回ることにした。
まだ教室内に扉が残ったままなのが気になるところね。どうやれば消えるんだろう。探知に引っかかるたびに気持ち悪くなるからさっさと消えてほしいと思いつつ。




