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  作者: ひじきとコロッケ
3/6

-1時間

「ふわぁっ!」

「や、モニカ!」

「び、びっくりしました!」

「あはは……ゴメン」

「いきなり魔力が吸い取られて、何が起きたのかと思ったら」

「あ、あはははは……」


 拘束魔道具は魔法の発動のための魔力をかき乱すので普通の転移魔法は使えないけど、私が極秘に開発したこの転移魔法ならいけると踏んで発動。無事にモニカ・トリエステのもとへの転移に成功した。


「えーと……ここは?」

「騎士団本部の地下です。実里様が魔王軍との最終決戦に向かった直後、ここに押し込められました。理由も聞かされずに」

「ですよねー」


 彼女はマルセル・トリエステ男爵の末娘モニカ。マルセル男爵自身が武功を上げてのし上がった剛の者ゆえか、彼女自身も相当な手練れで若くして騎士団で頭角を現しつつあるほど。そして数少ない女性騎士ということもあって私たち召喚された勇者候補の女子たちの世話係として色々と支えてもらっていた。ただ、魔王軍との最終決戦は、事情がある(・・・・・)とかで参加せず。私が別れの挨拶をしたい唯一の人物で探していたんだけど、こんな隔離部屋みたいなところ、しかも探知魔法阻害の結界まで展開されていては探しても見つからないか。

 ちなみに母親譲りの燃えるような赤髪に青い瞳、父親譲りの褐色の肌で、ないすばでぃな美人さん。言うまでもなく、クラスの男子たちは鼻の下を伸ばしてたけど、彼女は職務に忠実で、最後まで私たちの世話係という職務を全う……してないか。ここに拘束されてたら私の世話ができていないもんね。

 そんな、彼女を閉じ込めていた部屋は、窓らしい窓は高い天井近くに太い格子のはまった小さなものだけで、多分あれが地面の高さ。明かりの魔道具と空調の魔道具があるので快適だけど、扉はおそらく複数の鍵がつけられている。食事は横にある小さな窓から差し入れられていて、比較的普通のものが出されているらしいけど、騎士に対する扱いというよりは……


「人質?」

「だと思います」


 私が魔王討伐の報酬として帰還する手段を女神様に要求しようとしていたことは周知の事実だった。そしてサルヴァート王国が私を返したくない理由は実に明確。私は魔王すら倒せるほどの最大戦力だから。魔王を倒したとはいえ、世界はまだ不安定。サルヴァート王国と東西南の三方向にあるそれぞれの国との関係はあまりよいとは言えない。魔王という人類全体の共通の敵があったからこそ協力していただけで、私が魔王を討伐した今となってはその関係も崩壊。一ヶ月もしないうちに攻め込まれるのではという見方もあるくらいに。

 そうなると、私に帰られては困る。そこでモニカを人質にして、つまり別れの挨拶ができない状況にして、探し回っているうちに宝珠の使用期限が切れるのを狙ったのだろう。王子との既成事実が失敗した場合の保険というわけだね。拘束魔道具を使っておけば、私がモニカのところへ転移できないだろうと考えていたんだろうけど、私の方が一枚上手だったわけで。

 連中の作戦がザル過ぎるとも言うね。




 よくよく考えてみると、あの『勇者召喚』にはおかしな点が多い。

 転移して早々に聞かされた世界の事情は、一応は理解できた。

 ここでは「魔族=悪」ではなく、人族の一種族という扱いだ。そして国家レベルでは色々な問題があって微妙な関係性ではあるものの、個人レベルでは友好的な付き合いをしているどころか、結婚している者だって珍しくはない。

 だけど、どういうわけかその魔族の中から定期的――それこそ数十年ごと――に、魔王と呼ばれる存在が生まれる。

 魔王は肉体的あるいは魔術的に、あるいはその両方において他の魔族よりも優れており、魔族の騎士団が総力を挙げたところで、一蹴されるのが関の山だという。だから、魔族の者達は魔王に逆らうことはしない。おまけに、ときには他の魔族や魔物を使役する能力を持つこともあるので、単純に個人の戦力だけでは測れない脅威でもある。私たちが対峙した魔王は幸いにしてそうした能力はなかったけれど、もしも持っていたらさらに苦戦していたであろうことは想像に難くない。

 そんな魔王をどうにかするべく人々が女神に縋り、違う世界の人間を召喚する術を授けられる。そして召喚されるときに一旦その女神(・・)の所を経由する。

 そして説明を受けるのだ。


「魔王を倒して欲しい」

「特殊な能力を授ける」

「魔王を倒した暁には、可能な限り望みを叶える」


 一つ目と二つ目はまあいいかな。異世界転移もののお約束(テンプレ)だ。

 問題は三つ目。

 サルヴァートに残されていた記録によると、過去に召喚された者たちは、魔王討伐の過程で命を落とした仲間を生き返らせたいと願うケースが多かったらしい。

 その他は、いわゆる酒池肉林。富や名声を求めたものもいた一方、実里のように元の世界に帰りたいと願った者はごく少数。何だかんだと引き止められた結果、帰ることなく一生を終えた……らしい。

 らしい、と推測でしか言えないのはその辺の記載がありそうな書物がまともに管理されずボロボロになっていて、肝心の所が読めなかったから。

 それはさておき、魔王討伐後の勇者の大半が召喚された国に残り、その後は戦力として活動していたのは確かなようで、魔王討伐後十年程度は召喚した国を中心にあちこちで領土拡大のための戦争が頻発する。

 その戦争で命を落とす者の数は魔王による殺戮に匹敵するほどとも言われているのだけど、あの神は戦争自体は容認しているように見える。本当にあれは神……善神なのかしら?

 これがウィル爺が疑問に思っていたこと。引退した宮廷魔術師で、今回の勇者召喚は関与していないけど、錬金術師にして空属性という組み合わせ的には珍しく、それでいてウィル爺と全く同じ組み合わせとだったので、なし崩し的に(?)私の師となった。そして、


「どうも勇者召喚はうさんくさい」


 と私に注意するように言っていた。


「お前たちの精神には何者かが干渉した痕跡がある。複雑すぎて解析し切れん」

「魔王を倒した瞬間だけ、その干渉が少し揺らぐようにも見える」

「揺らぐ瞬間はお前もわかるだろう。持っていけ」


 そう言って渡された白い石は魔王を倒した瞬間に割れ、私にかかっていた干渉を阻害。「なんとなく日本に帰りたい」が「マジあり得ん。絶対帰る」に変わった。

 ウィル爺の懸念は大当たりだったのね。




「しかし、実里様、逃げてきた……私に挨拶を、というのはとても有り難いのですが」

「え?」

「ここに来たことはいずれ知られるでしょう」

「うん、そうだね」


 多分この拘束魔道具、私がどこにいるか知らせる機能も持ってるはず。これの解除をするのは、私でもちょっと時間がかかりそうだ。解除するより破壊する方が早いだろうか。それでも多少は時間がかかりそうだ。


「一つ提案なのですが」

「ん?」




「早く開けろ!」

「絶対に逃がすな!」


 外からそんな怒号と、ガチャガチャと鍵を外す音がし始めたけど、私はまだ決断し切れていない。


「本当にいいの?」

「もちろん。実里様こそ他に別れを告げる相手は?」

「ん、大丈夫」


 こっちに来てからずっと教え導いてくれたウィル爺には昨日のうちに(・・・・・・)挨拶を済ませておいた。墓前に花も添えて。


「でもねえ……」

「そもそもうまく行くかどうかもわかりませんが、他に手はなさそうですよ」

「それもそうだけど……ま、いいわ。あんまり考えてる余裕もないし……帰還の宝珠、使用!」


 私の声に応じて不思議な色の宝珠が現れ、一瞬強く光り、私たちの目の前に大きな両開きの扉が現れた。そしてゴゴゴ、という重い音と共に開くとその中は虹色に輝くなんだかよくわからない空間。


「おお~」

「ここに飛び込めばいいのですな」

「そうね」

「行きましょう」


 そう言ってモニカが私の手を引いて扉の中に飛び込むのと、監禁部屋の扉の鍵が開いて男たちがなだれ込んでくるのはほぼ同時だった。


「待て!」


 待てと言われて待つ馬鹿が、どこの世界にいるっていうのよ。

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