表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: ひじきとコロッケ
1/6

-10日

「がはっ……」


 最後の力を振り絞った一撃がとどめとなり、魔王がグラリと体を崩し、膝をつく。


「人間……ごとき……に……」

「……」

「く……」


 こちらが何も答えないのが不服らしく、睨みつけてくるが知ったことか。倒れた魔王の肉体がボロボロと崩壊していくのをどこか冷静に見つめていた。膨大な魔力によりつなぎとめられていた肉体も、その魔力が失われれば維持はできず、こうして崩れ落ちていくだけだ。


「!」


 とある感覚に襲われた私は、ポケットに手を突っ込むと用意しておいた白い石を取り出し、額に当てる。しばらくするとパリ、と石が割れ、私と魔王、両方から何か黒い煤のようなものが割れたカケラに吸い込まれていく。


「ギリギリ……しかも予想していたとおりか。気持ち悪いわね、これ」


 割れた石のカケラはどす黒くなっていて、私とこの世界での師であるウィル爺の抱いていた疑惑が確信に変わった瞬間でもあった。


「これ……どうしよう」


 どう見ても安心安全な物質に見えないので、仕方なく魔法でしまっておく。最悪、私が死ぬまで保管して、死んだ後は……まあ、なるようになれ、ということで。

 そして魔王の全身が塵となっていき、後詰めでついてきていた騎士たちが油を撒いて火を放ち、万が一の復活の芽を摘んだのを確認して、ようやくほっと息をついた。


「終わった」


 すると目の前にぼんやりと光る球体が現れ、話しかけてきた。


「お疲れ様でした。この世界の全ての者を代表して感謝致します」

「そう……」

「それで、お約束していた報酬なのですが」

「決めてあるわ。元の世界に帰して」

「え?」

「帰して」

「……わかりました」


 そう答えて、光る球体――この世界を創造し、管理している女神の通信手段らしい――は、「そうは言っても別れを告げたい方もいるでしょうから」と「帰還の宝珠」なんてたいそうな名前のついた宝珠を渡してきた。今すぐ帰還ではなく、自分の帰りたいタイミングで帰れるようにと。


「一年も経っちゃったのよね……」

「こちらと元の世界では時間の流れが百倍違いますので、大丈夫かと思います」


 三日か四日は経ってるって事か……なんて説明しようか。


「まあいいわ。話はそれだけ?」

「念のため、使用上の注意をお伝えしますね」


 この宝珠は私以外は触れることも使うこともできない。また、私が置き忘れても数メートル離れるとすぐに私の手元に戻ってくる。失くしたりしないようにという配慮で、むやみに他の者の手に渡らないようにということらしいけど、使い切りの道具には過分な機能だとも思う。

 そして、この宝珠には使用期限があって、今から十日以内に使わないと消滅してしまう。宝珠の上には残り時間がホログラムみたいに表示されている。なお、日本語表記なのでこちらの世界の人々には判読不能だ。ちなみに十日という期間は、その間に別れを告げておきたい者がいればどうぞ、という女神からの猶予期間(思いやり)とのこと。そして、まったくもって余計なことに、使用期限があることだけはこの世界の、私たちの召喚に関わった者、要するに王国の上層部には伝えておいたそう。本当に、心底余計なことばかりする女神だと思う。


「それでは私はこれで。改めてありがとうございました」


 そう言って光る球体が消えた後、私、十倉(とくら)実里(みのり)は魔王討伐軍と共に王都への帰路についた。




 十倉実里はもともとごく普通の高校一年生だった。取り立てて目立つ容姿でもなく、成績も中程度。高校自体は結構なレベルの進学校ではあるが、生徒の中ではその他大勢の一人であり、クラスの中ではあまり目立たない存在。そんな実里のいた一年二組はある日の英語の授業中、教室の床全体がいきなり光って真っ白な謎の空間で女神なる者から事情説明を受けた。


「魔王を倒して欲しい。このままでは世界中の人類が滅亡してしまう」


 そしてそのまま異世界にあるサルヴァート王国へ。

 テンプレ過ぎる展開に加え、女神にイヤと言えない雰囲気を醸し出されて――そもそもイヤと断っても帰れそうになかったし――なし崩し的に勇者としての訓練が始まり、これもまたテンプレ通りに鑑定の水晶という、ありがちなアイテムで職業の鑑定が行われた。召喚される者の職業は「勇者」とか「聖女」みたいなのが見つかることはないと女神から聞いていて、実際その通り。実里たちも例外ではなく「重戦士」とか「神官」とかいったもので、ラノベに良くある、いわゆる「勇者様ムーヴ」は無かった。

 そして、実里は職業が「錬金術師」で得意魔法属性は「空」だった。錬金術師といっても異世界転移ものでありがちなハズレ扱いはされなかったし、「空」属性もレアではない。そして他の生徒たちも特にハズレ扱いされる者が出ることはなく、魔物討伐を中心とした訓練に入った。

 が、魔王が勢力を急速に広げていることへの焦りからか、王国は最初から無理な訓練カリキュラムを組み、召喚十日目にして実施された初のダンジョン探索でいきなり十人が命を落とした。

 王国もこれは想定外だったようで、大騒ぎになった。


「こんなに弱いはずがない。勇者召喚は失敗だったのではないか?」

「剣も満足に振るえないでよくもまあ勇者候補を名乗れたものだ」


 実里たちに言わせれば無理もない話で、王国の要求が無理難題だったのは明らかだ。

 異世界の彼らの常識だと、地方に住んでいる男なら十五歳にもなると年に一度や二度は狩りをするのが普通だし、女でも鳥を潰すのは日常。王都のような都会でもそれほど違いは無く、なんなら戦いを生業とする騎士などは、命のやりとりで給料をもらっている。

 だが、武器を手に相手の命を奪うような経験をしてきた者は一年二組三十六名の中にはいない。剣道部や柔道部の部員はいたが、彼らだって試合で相手の命を絶つようなことはしていない。もちろん、一緒に召喚されてきた英語教師だって同じだ。そんな者たちに武器を持たせて「さあ戦え」などとやったところでうまくいくはずがない。


「もう少し、ご配慮いただけないでしょうか」

「しかし、魔王の脅威はすぐそこまで迫っているのです」

「私たちは命のやりとりから縁の遠い生活をしていたのです!」


 教師の必死の訴えもあって、急遽訓練方針の見直しが行われたが、それでも月に数人というペースで命を落としたり、「これ以上は無理です」と脱走し、その後どこかで遺品だけが見つかったりということが続いた。そして半年ほど経って唯一の大人であった英語教師が命を落としたとき、なんとか生き残っていた者のうち十名ほどが自棄(やけ)を起こして魔王軍へ特攻し全滅。残ったのは実里を含めた五名のみとなっていた。

 その後は王国も慎重を期して作戦を立てていったが、一人また一人と倒れ、最終決戦まで生き残ったのは、実里一人だけであった。では実里は戦闘を得意とする職業に就いていたのかというとそうではない。そう、あくまでも錬金術師であり、戦闘のサポートが主のはずなのに前線に出ざるを得ない状況に置かれてしまっていただけである。そして幾度となく死んでもおかしくない重傷を負い、そのたびに色々と(・・・)手を尽くして生き延びていたため、魔王との最終決戦時点でも満身創痍を通り越していた。どうにか勝てたのも幾重にも張り巡らせた策が、偶然にも噛み合った結果に過ぎなかった。本人も「よくもまあ勝てたものだ」と感心したほどである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ