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迷子の夜のきらきら

作者: Momo
掲載日:2025/12/28

冬の裏山は、きらきらしていました。

朝の霜は小さな星みたいに光り、凍った土はしゃりっと音を立て、白い息は空に溶けていきます。


でも、そのきらきらは、

お日さまが山の向こうへ傾くころ、

少しだけ、ひんやりとした色に変わるのでした。


きょうすけとりさは、いつものように

「小さな宝物」を探しに、裏山へ出かけました。


りさにとっては、見つけるものぜんぶが宝物でした。


「お兄ちゃん、見て!」

りさは目をきらきらさせて言いました。

「冬なのに、こんなにきれいな紫のお花が咲いてるよ!

 あっ、白いキノコも!

 どんぐりも、まだこんなに落ちてる!」


ぴょんぴょんとはしゃぐりさを、

少しだけ大きなお兄ちゃん、きょうすけは後ろから見守ります。


「そんなに奥へ行くなよ」

きょうすけはやさしく声をかけました。

「冬は、すぐ暗くなるからな」


「はぁーい!」


返事は元気いっぱい。

でも、どこか上の空です。


きょうすけは少し心配になりながら、

胸の中でそっと考えました。


(裏山は、家のすぐ向こうにある。

 夕飯のいい匂いがしてきたら、帰ろう……)


そのとき、りさが振り返って言いました。


「ねぇ、お兄ちゃん。

 あっちのほうまで行ってもいい?」


「え……まぁ、少しだけなら……」


そうして二人は、

いつもより少しだけ奥へ、奥へと進んでいきました。


気がつくと、山はしんと静まり、

あたりはすっかり薄暗くなっていました。


「お兄ちゃん、見てみて!」

りさがしゃがみこんで、葉っぱを持ち上げます。

「この葉っぱ、きらきらしてるよ!」


霜のついた葉っぱは、

まるでガラスのかけらみたいに光っていました。


「ああ……ほんとだな」


そう答えたきょうすけの顔は、

りさのように笑ってはいません。


(どうしよう……)

(ここ、どこだろう……)

(もしかして、迷子……?)


胸の奥で、不安が小さく震えます。


その様子に気づいて、

りさはきょうすけの顔をそっとのぞきこみました。


「お兄ちゃん……どうしたの?」


その声に、きょうすけはハッとします。

妹を不安にさせてはいけない、と

ぎゅっと心を強くしました。


「もう暗いしな」

きょうすけは、できるだけやさしく言いました。

「そろそろ、家に帰ろう」


きょうすけは、にこっと笑ったつもりでした。

でもそれは、少しだけかたい、作り笑顔でした。


それでも、りさは気づきません。

りさは、いつものように満面の笑みで、こくんとうなずきました。


二人は、来た道を戻りはじめます。

でも、いくら歩いても、

見覚えのある道も、家へ続く小道も、なかなか見えてきません。


足音だけが、しんとした山に吸い込まれていきます。


だんだんと、きょうすけの胸の中で、

小さな焦りが、雪みたいに積もっていきました。


そんなお兄ちゃんの様子を見て、

りさも、なんだかおかしいな、と思いはじめます。


「……お兄ちゃん?」


小さな声で、りさが聞きました。


「おうち、まだ?」

「りさ……なんだか、寒くなってきた……」


泣きそうな声でした。


その言葉に、きょうすけの心臓は、

どくん、と大きく鳴りました。


(だめだ)

(ここで、ぼくが不安になっちゃだめだ)


きょうすけは、自分にそう言い聞かせて、

できるだけやさしく、ゆっくりと話します。


「寒い思いさせて、ごめんな」

「ほら……兄ちゃんのマフラー、かしてあげる」


そう言って、

自分の首に巻いていたマフラーを外し、

りさの首に、くるりと巻いてあげました。


そして、小さな手を、ぎゅっと握ります。

白い息を、ぬくもりをこめて、はぁ、はぁ、と手にかけてあげます。


「どうだ?」

「少しは、あったかくなったか?」


りさは、その顔を見上げて、

きらきらした笑顔で答えました。


「うん!」

「お兄ちゃん、あったかくなったよ!」


「……そうか」

「よかった」


その笑顔に、きょうすけは、少しだけ安心します。


今度は、りさの手を離さないように、

しっかりと握りしめて、

また、帰り道を探しはじめました。


そのときです。


りさが、ふと立ち止まり、

木々のすきまを見上げました。


「お兄ちゃん、見て……」


夜空には、

こぼれそうなくらいの星が、広がっていました。


「お星さま、あんなにいっぱい!」

「どれも、きらきらしてて……きれいだね!」


その声につられて、

きょうすけも、空を見上げます。


「……ほんとだ」


冬の裏山の空は、

灯りがなくて、空気が澄んでいて、

星たちは、いつもより、ずっと近くに見えました。


(星って……)

(こんなに、きらきらしてたっけ?)


そのとき、きょうすけの目が、

ある並びに止まります。


「あ……」

「あの、三つ並んだ星……」


きょうすけは、少し声を弾ませました。


「ほら、あれだ!」

「いつも、お風呂から見える星だ!」


「えっ!?」

りさは、目を丸くします。

「どれどれ?」


「ほら、あそこだろ?」


きょうすけが指をさすと、

りさは、一生懸命、同じ星を探しました。


「……あ!」

「ほんとだ~!」

「いつも見てる、お星さまだね!」


その瞬間、

きょうすけの胸の中で、何かがつながりました。


(あの星が、右手に見えるってことは……)

(おうちは、もしかして……)


きょうすけは、

そっと、後ろを振り向きました。


すると——


木々の向こうに、

ぽつり、ぽつりと、

あたたかそうな明かりが、見えたのです。


「……あっ」


そのとき、

懐かしい声が、夜に響きました。


「きょうすけー!」

「りさー!」


「あっ!」

りさの顔が、ぱっと明るくなります。


「ママだぁー!」


りさは、マフラーを揺らしながら、

明かりのほうへ、ぱたぱたと走り出しました。


その背中を見送って、

きょうすけは、その場に、へなへなっと座り込みます。


「……よかった……」


白い息といっしょに、

長い、長い、安心のため息が、

冬の裏山に、ふわりと溶けていきました。



お母さんに手を引かれて、

三人は、ぶじに家へ帰りつきました。


玄関を開けると、

外の冷たさがうそみたいに、

家の中は、ほっとする匂いとぬくもりでいっぱいです。


「さぁさぁ、すぐお風呂に入ろう」


湯気の立つお風呂に、

ぽちゃん、と入ったとたん、

凍えていた体が、ゆっくりと、とけていきました。


湯船の中で、りさは今日の出来事を、

宝箱をひっくり返すみたいに話します。


「裏山でね、きらきらの葉っぱを見つけたの!」

「お星さまも、いーっぱい光ってたんだよ!」

「それでね、それでね……」


お母さんは、

「そうなの」「すごいね」と笑いながら、

うれしそうに、その話を聞いています。


その様子を、

きょうすけは、湯船のはしで、静かに見ていました。


胸の奥に、

まだ少しだけ、どきどきが残っています。


ふと、きょうすけは、

湯気にくもった窓の外へ、目を向けました。


夜空には、

さっき、裏山で見た星が、

いつもの場所で、ちゃんと瞬いています。


それは、

さっきよりも、ほんの少しだけ——

きらきら、輝いて見えました。


きょうすけは、そっと思います。


(ああ……)

(きっと、気のせいじゃない)


その星は、

迷いそうになった夜に、

勇気を出したこと。

大切な手を、離さなかったこと。


全部を知っているみたいに、

静かに、やさしく、光っていました。


冬の裏山の、きらきらは、

ちゃんと、

ここまで、ついてきてくれていたのです。


――おしまい――

最後まで読んでくださってありがとうございました。

また短編を投稿していきますので、よろしくお願いします。

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