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どうやら隻腕の魔法使いである俺は劣等生だと思われているらしい  作者: カンナギまふぃあ


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新しい自分


 待ち合わせ場所に現れたクレアはいつもの制服姿ではなく私服だった。


普段の勝気な印象とは裏腹に、どこか清楚で柔らかい雰囲気をまとっている。

 

隣を歩き始めると、風に乗って甘やかな香りが鼻をくすぐった。


「……それ、どこの香水だ?」

「え?」

「普段より、匂いがする」

「……教えない」


彼女はふいっと顔を背けたが、その耳が微かに赤らんでいるのを見逃さなかった。


「愛想の悪い奴だな」

「それはそっちでしょう?最初に出会った時から『不幸な僕』オーラ全開で可哀想ぶってたくせに、蓋を開けてみれば魔法のエキスパート?……ほんと、腹立つ」

 

彼女は頬を膨らませると、俺の脇腹を容赦なくつねり上げた。


「いった……!」

「当然の報いよ。そのために毎日筋トレしてるんだから」

「まず訂正させろ。俺は可哀想ぶった覚えはない」

「そうかしら?二年生の時、廊下で派手に転んでたのを私が助けてあげたじゃない」

「あれは余計なお世話だ」

「はぁ?」

「俺が片腕だと知ってから、事あるごとに世話を焼いてきたろ。同情なら結構だ」

「ば……っ、だって、周りの人間にも酷いこと言われてたじゃない!放っておけるわけないでしょ!」

「俺は気にしてない。だから余計なお世話だって言ってるんだ」

「マジでムカつく……!」




彼女と出会ってから二年。

この正義感の塊のようなお嬢様は、ことあるごとに俺に構ってきた。

それが同情から来るものだと分かっていたから、俺はずっと距離を置いていたのだが。


「マジでマジでムカつく。実力を隠してたのは、私を馬鹿にして楽しむため?」

「自意識過剰だ。ただ、期末テストまで爪を隠しておきたかっただけだ」

「四年生まで?アホなの?」

「……期末テストで一気に成績を上げて、交換留学の権利をもぎ取る。そのために、対策されないよう目立たず過ごしてたんだよ」

「三年間も?……だから、ずっと図書館に引きこもってたのね。てっきり友達がいないからかと」

「それもあるがな」

「そこは否定しなさいよ」


         



校門を出ると、そこには活気あふれる『ライカー街』が広がっていた。

アルネシア王国でも最大規模を誇るこの街は、学院の城下町として急速に発展し続けている。


オシャレなカフェに、魔導具専門店、そして冒険者向けの武具屋。

学生だけでなく、世界中から商人も旅人も集まる魔法都市だ。


「また新しい店ができてる……」


俺たちが一年生の頃とは比べ物にならない賑わいだ。


街の外には古代遺跡(ダンジョン)が点在し、希少な素材が採掘される。それがこの街の経済を潤し、さらに人を呼ぶ好循環を生んでいる。


周囲の景色を眺めていると視線を感じた。

隣のクレアがジト目で俺を見上げている。


「なんだよ」

「……貴方、毎日制服なの?」

「ああ。悪いか?」

「悪いに決まってるでしょ。痛むわよ」

「知ったことか」


彼女は大きなため息をつくと、俺の腕を強引に掴んで歩き出した。

 

連行された先は、一際学生たちで賑わうファッションストリート。気のせいか、カップルの姿が目立つ。


「言うのが恥ずかしいんだが、俺は今、全財産が教室の修理代に消えて文無しだ」

「はぁ……もう、私が払うわ。あとで出世払いでいいから」

「いや、服なんて興味ないし」

「……じゃあ、この前助けてくれたお礼であげるわよ。それで文句ないでしょ?」


ちょろいな、こいつ。


「お節介すぎないか?そんなんだと悪い男に捕まるぞ」

「馬鹿にしないでくれる?貴方が見てて痛々しいほどダサ……可哀想だから、私がコーディネートしてあげるだけ」

「今、本音が漏れてたぞ」


彼女がまず選んだのは、落ち着いたシックな色合いのブティックだった。


「貴方、こういう地味……間違えた、落ち着いた色合いが好きでしょ」

「店の中で地味とか言うなよ」

「言ってないから。ほら、これ着てみて」


彼女が取り出したのは黒のニットソーに、金色の華奢で小さなチェーンネックレスがセットになったトップス。


さらにボトムスには反対色の白のスラックスを持ってきた。


「うん、いい感じじゃない。でも……まだ何かが足りないわね。髪だわ。次、美容室行くわよ」

「行くわよ、ってもう強制連行じゃないか」

          



次に連れてこられたのは、これまた小洒落たヘアサロン。

 

内装は先ほどの服屋と似た、モノトーンのシックな空間だ。


「今日はどのような感じで?」


 明るい金髪の美容師が爽やかに聞いてくる。


「ここをこうして、サイドは五センチほど刈り上げて……前髪は流す感じで、ワイルドすぎず知的に……」

 

椅子に座らされた俺の横で、クレアがまるで口うるさい母親のように事細かに注文をつけている。

 

どうやら要領が良いのか、美容師も「うんうん、なるほど!それならこっちのラインも揃えた方が……」とノリノリだ。

俺の髪型なのに、俺の意見は聞かれない。

 


しばらくして、二人の意見が完全に一致したらしい。


「「これだ!」」


二人の声が重なり、有無を言わせぬ勢いで散髪が始まった。


……俺、新しい自分になる前におもちゃにされてないか?






オシャレとダサいってマジで紙一重な気がする……

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