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隻腕の魔法使いである俺は劣等生だと思われているらしい  作者: カンナギまふぃあ


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19/22

雨の日じめじめごっこ部


 翌日。

依頼をこなそうか悩んでいた俺は、結局何もしないままぶらぶらと過ごしていた。


授業もサボり、かと言って単位稼ぎもしない。

我ながらダメ人間だと思う。


だが、今日は何かの呪いにでもかかっているかのように体が重いのだ。


朝食を作る気力もなければ、支援センターへ行く足取りも重い。図書館の人混みなど論外だ。


まあ、たまにはこういう充電日も必要だろう。


あてもなく散歩していた俺は、昨日の出来事を思い出し、とある場所へ向かうことにした。


本館から少し離れた「部室棟エリア」。


花やランタンで彩られた木のトンネルを抜けると、個性豊かな部室が並ぶ一角に出る。


小人が住んでいそうな可愛らしい小屋には「花と音楽を愛する部」。


大量の薪と切り株が置かれた小屋には「火を愛する部」。


一通り見て回ったが、「雨の日のじめじめごっこ部」なる狂気じみた部活が一番気になった。


さて、本日の目的地。


午前中ということもあり、辺りに人影はない。

真面目な生徒は授業中だ。


俺は二階建てのレンガ造りの家の前で足を止めた。


看板には「アイドル研究部」の文字。


ノックをしてみるが、返事はない。……さすがにサボっている悪い子はいないか。


「ちょっと! 裏から来てって言ったよね?」


不意に声が降ってきた。昨日の彼女だ。


「そのまま真っ直ぐ進んで右。壁があるから」


言われた通りに進むと、行き止まりの壁にぶつかった。


すると、突如として壁の一部が手前に迫り出し、スライドするように開いた。


「ここから入るの。隠し扉になってるから」


なるほど。レンガの窪みがカモフラージュになっていたのか。


「ここの存在、あんまり知られたくないから早く入って!」


急かされて中に入ると、そこは別世界だった。


暖炉に火が灯り、フカフカの絨毯が敷かれ、年季の入ったウッドチェアが並んでいる。何世代にも渡って受け継がれてきたような、温かみのある隠れ家だ。


「良い所だな」

「でしょ? 一階はリラックススペース。二階はレッスンや会議に使うの」

「レッスン?」

「アイドルだもの。歌や踊り、それに笑顔の練習もしなきゃ」

「……正直、アイドルには詳しくないんだ。踊り子と何が違うんだ?」


彼女は呆れたようにウッドチェアに腰掛け、講釈を始めた。


「あ、好きに座っていいよ。……まず歴史ね。レリウス聖教会って知ってる?」

「国を跨いで貧民救済をしてるアレか」

「そう。女神レリウスは人々を救う存在。教会はそれに倣って、衣食住の支援をしている。でも、お腹を満たすだけじゃ救えないものがあるの」

「心のケアってやつか」

「ご名答。シスターたちは、絶望した人々に『明日を待つ理由』を与えるために歌い始めた。それが聖唱歌隊の始まり」

「なるほど。音楽には力があるって言うしな」


彼女は身を乗り出し、熱っぽく語る。


「でも、ただ歌うだけじゃ飽きられる。だから踊りを取り入れた。次第に人々はより強い刺激を求め、パフォーマンスは過激になり……いつしか本来の『楽しませる』目的が『刺激を与える』ことにすり替わってしまった」


そこで彼女は勢いよく立ち上がった。


「それじゃ曲芸師と変わらない! 時代が変わるなら、聖唱歌隊も変わらなきゃいけない。人々を魅了し、崇拝され、生きる希望となる存在――それが『アイドル』よ!」

「言い切ったな。良い自信だ」

「ふふん、見ないと分からないでしょ?」


彼女は獣耳をピンと立て、くるりと背を向けた。

鼻歌を歌いながら、ゆっくりと振り返る。


「この夢が奇跡を呼ぶなら~」


彼女の指先が俺の鼻先をかすめると、そこから水が飛び跳ね、ハートの形を描き出した。


「誰かの涙は~空に虹をかけて~」


しなやかに体をくねらせ、両手で水を噴き上げて虹のアーチを作る。


その歌声は、どこまでも澄み渡るように美しかった。


「私は歌うの~、運命を振り向かせるために!」


パンッ! と両手を合わせると、無数の水滴が弾け飛び、光の粒子となって舞い散る。


彼女は最後に、四羽の水蝶を纏いながらパチリとウィンクを決めた。


「……どう? こんな感じ」

「綺麗だな。思わず見惚れた」

「でしょ? 歌はどうだった?」

「『歌うの』のところ、もう少し声を張ってみても良いんじゃないか?」

「こう?私は歌うの~」

「ああ、そっちの方が好みだ」

「うん! そっちの方が歌いやすいかも。他には?」

「他には……そうだな。体をくねらせる所、セクシーで良かったぞ」

「……そういう目で見られるのは不本意なんだけど」

「はぁ?」

「嘘嘘。意識してやってるから。ふふ、良いアドバイス貰っちゃった」


やっぱり、タダ働きさせられたか。


「水魔法が得意なのか?」

「んー? でも水が一番安全だし、綺麗でしょ? 火とか危ないし」

「それもそうだな」

「ま、私『フェンリル』の末裔だしね」


だから狼のような耳と、立派な尻尾なのか。納得だ。


「フェンリルって、あの伝説の巨大狼か。小人の罠にかかって、今も封印されてるっていう」

「……それは、あくまで人間が作った伝説だよ」


彼女の声のトーンが、ふっと落ちた。


「罠になんかかかってない。……もう、神に殺されてるから」






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