出会いは角から
原初の魔女だとか、くだらない考え事をしていた。
不意に目の前に人影が現れ、避ける間もなく俺の胸元にドンッと頭突きが入った。
「きゃっ!?」
相手は弾むように反動で尻餅をつく。
「……悪い、大丈夫か?」
俺が手を差し出すと、彼女が顔を上げた。
その瞬間、思考が止まる。
左右で色の違う瞳――オッドアイ。
見つめていると、まるで星空の中に放り出されたような、強烈な引力に魂を吸い込まれる感覚に陥った。
「あ、え、うん。大丈夫。……そっちこそ」
彼女はフードを目深に被っていたが、その隙間から犬のような耳が突き抜け、ふわふわとした尻尾が揺れているのが見えた。
「俺こそ悪かった。前を見てなくてな」
「いや~、私も急いでたから。角から急に飛び出してごめんね?」
ニッと笑った口元から、特徴的な八重歯が覗く。
見覚えがある。
俺は失礼だと分かりつつも、確認せずにはいられず、彼女のフードを掴んでパラリと捲った。
「ちょ、ちょっと?!」
露わになったのは、やはり見覚えのある顔だった。
月光のような白銀の髪、神秘的なオッドアイ、そして愛嬌のある八重歯と獣耳。
「……廊下のポスターに写ってなかったか?」
「へ? ポスター? ……あー、もしかしてあれかな。私、アイドルやってるから……」
それだ。『魔女の夜』の出し物リストに載っていた、メインゲストの一人。
「だからか。ごめん、勝手にフード取って」
「ほんとだよ……失礼すぎてびっくりしたわ」
「本当に悪い」
「まぁ……いいよ。私もぶつかっちゃったし。それより、ここで会ったことは内緒ね?」
彼女は人差し指を唇に当てる。
「別に構わないが。何か理由があるんだろ?」
「うん。ちょっとね」
「分かった。ごめんな。その『踊り』、頑張ってな」
その言葉に、彼女の耳がピクリと反応した。
「……踊り?」
彼女はムッとしたように俺を睨む。
「違うよ。私は『アイドル』。ただ踊るだけじゃない。歌と踊りで皆に希望を届ける仕事!」
「魔女を目指してるわけじゃないのか?」
「『魔女兼アイドル』が目標なの! 魔法と私がタッグを組めば無敵じゃない?
それにね、アイドルっていうのは、音楽と魔法が神託と結びついていると考えたレリウス聖教会のシスターたちが、民衆のために歌い出したのが起源なの。だから由緒正しい職業なんだから!」
「へぇ……踊りと歌で希望を見出せるのか?」
「見出せるよ!」
彼女の尻尾がバッと大きく広がる。
感情がダダ漏れだ。
「……あーもう! 口で説明するのも面倒くさい!必ず見に来て! 『アイドル研究部』にいるから! 私が直々に教えてやるから!」
この学院には、生徒が独自に研究を行う「部活」という制度があるのは知っていたが、そんな変わった部活まであるとは。
「分かった。今度行かせてもらう」
「絶対だよ! あ、それと来る時は裏口から回ってきて。表はファンでいっぱいだから、怪しまれちゃう。ゴシップ記事にはなりたくないしね」
「了解。じゃあな」
「約束だからね!」
彼女は念を押すと、脱兎のごとく走り去っていった。
「……やべ」
俺も思い出す。
お気に入りの手紙屋が、もうすぐ閉まる時間だ。
アイドルの講釈を聞いている場合じゃなかった。
俺もまた、急いで駆け出した。




