原初の魔女
動けなくなったベルフを彼の部屋へ「配送」した後、俺は支援センターへと向かっていた。
手には、依頼達成の証拠品であるメルキッドのツノが入った袋。
見上げれば、空は茜色に染まっている。
上空を三羽ほどの美しい鳥が優雅に横切っていくのを見て、やはり生き物は太陽の下にいるべきだと痛感した。ダンジョンの湿気とは大違いだ。
センターに到着すると、受付の女性はまだ業務中だった。
「お疲れ様です。これ、達成しました」
「お疲れ様です~。今数えますね」
彼女は分厚いグローブ越しに、袋の中のツノを一つずつつまみ出してカウントし始めた。
「24、25、26……。はい! 31個ですね! なんか一個オマケありがとうございます!」
「あ、数え間違えました。一個捨てといてください」
「いえいえ! せっかくなんで記念に残しときますよ!」
……どこに飾るんだよ、そんな蜘蛛のツノなんて。
「では、こちらの書類にサインをお願いします」
渡された納品書にペンを走らせる。
「ありがとうございます! これで単位認定の手続きは完了です。ただ、報酬の支払いは後日になるんですが、よろしいですか? 今回の依頼、帝国発注なので承認に時間がかかるんです」
「……大丈夫ですよ」
「かしこまりました! 2~3日後には承認されると思いますので、またお越しください!」
俺は営業スマイルで立ち去ったが、内心では盛大に溜息をついていた。
(なんで金を受け取るためだけに、もう一回来なきゃならないんだ……)
忘れないようにメモしておかないと。
そういえば、自由帳の紙を切らしていたな。
当面授業に出ないとしても、紙は何かと必要だ。
手紙用と合わせて買い足しておくか。
あって損するものでもない。
外に出ると、空はすっかり夜の帳に包まれていた。
一ヶ月後に迫った『魔女の夜』のせいか、星々の輝きが日に日に増している気がする。
このフレーシア大陸において、その日は特別な意味を持つ。
なぜその日が「魔女の日」となったのか。
悍ましい儀式説から、単なるこじつけ説まで諸説あるが、ある阿呆は「星空が輝きを増すロマンティックな夜だから」などと言っていた。馬鹿らしい。
今となっては、ただの馬鹿騒ぎできるパーティーの日でしかない。
特に今年は、学院も例年より盛大に行うらしい。
本来は大陸中の魔女や魔術師を招き、春の訪れを祝う日だが、学生にとっては単なるお祭りだ。「その日に男女で踊れば未来永劫結ばれる」なんていう、眉唾ものの伝説で浮かれている奴も多い。
だが、今年は少し事情が違う。
別の大陸からも魔女たちが招かれているというのだ。
普段は関わらない彼らを学院が呼んだのか、向こうが望んだのかは不明だが、面白い話ではある。
街と連携して出し物も増え、お祭り騒ぎになるだろう。
そんな騒ぎが嫌いな俺のような人間にとっても、この日は無視できない重要性がある。
招かれた魔女や魔術師たちが、「弟子」を探しているという噂が絶えないからだ。
彼らは魔法教会の厳しい認定試験に合格し、魔法一本で飯を食っているプロフェッショナルだ。
金払いも良いし、社会的地位も高い。憧れる学生が多いのも当然だ。
ここでややこしいのが、「魔女・魔術師」と「魔法使い」の定義の違いだ。
『魔女(女性)』および『魔術師(男性)』と呼ばれるのは、魔法教会が実施する認定試験に合格した者だけ。
対して、試験に受かっていなくても(あるいは受けなくても)、魔法を使って仕事をしている者は総じて『魔法使い』と呼ばれる。
つまり、魔女や魔術師は「国のお墨付きがあるエリート」というわけだ。
例外として魔法も剣も使う「魔剣士」などはさらに分類が複雑になる。
魔術師と認定すべきか、剣士として扱うべきか。その判断は結局、魔法教会の匙加減ひとつだ。
「原初の魔女」が設立したとされる、絶対的な権威・魔法教会。
彼らは一体、どんな魔法を使うのだろうな。




