ぼっちの代償
皆が真面目に授業を受けている午前の時間帯。
停学中の俺は、学院内にある「支援センター」を訪れていた。
今まで授業一本でやってきた俺にとって、ここは初めて足を踏み入れる場所だ。
「今年は皆さんの活動が活発で、中々依頼が埋まってるんですよね~。少々お待ちください、空いているものを探してきますので」
受付の女性はそう言うと、奥へと引っ込んでしまった。
困ったな。
ここで何も見つからなければ、俺は進級できない。
停学さえなければ大人しく授業を受けていたものを、今となってはこの道しか残されていなかった。
しばらく壁にもたれて待っていると、先ほどの女性が紙束を抱えて小走りで戻ってきた。
「お待たせしました! ひとまず学年や難易度がごっちゃ混ぜの『残り物リスト』を持ってきました。失礼ですが、今は何年生ですか?」
「4年生です」
「かしこまりました。……この量、かなりありますよね。手分けして4年生が可能な依頼を探しましょう!」
「え、良いんですか?」
「はい! 実のところ……」
彼女は口元を手で隠し、声を潜めてニッコリと笑った。
「仕事してるフリしてサボれるんで」
「……それなら、お願いします」
こうして二人でリストをめくり始めたのだが、これがまた見つからない。
1枚目から「5年生推奨」ばかり。
めくってもめくっても「4」という数字が出てこない。
「どうですか……?」
「中々ないですね」
「こっちもです……」
ヤケクソ気味にパラパラと紙を飛ばしていると、ようやく「4」の数字が目に止まった。
(ここだ!)
勢いよく止めたそこには、
『数字の4が好きな方! ぜひご応募を! ※5年生から』
という、ふざけたタイトルの薬草採取依頼が書かれていた。なんだよ「4が好き」って。
ため息を飲み込みながら再び手を動かすと、ようやくまともな一枚を見つけた。
『ダンジョンに蔓延る害虫駆除』
(帝国依頼:2単位補助)
内容:グリスウッドの洞窟にて「メルキッド」が大量発生中。行商人のルート近くであり早期討伐を求む。
条件:メルキッドのツノ30個を提出。4年生以上。※推奨3人以上。
報酬:50帝紙(即日交付)
条件は悪くない。
メルキッドは子供サイズほどの巨大蜘蛛だ。
見た目の気色悪さから敬遠されがちで、依頼が余っていたのだろう。
ただ、ツノ30個ということは、少なくとも成虫を30匹狩らなければならない。
かなりのブラック案件だ。
その上で報酬は50帝紙か。
最近のインフレを考えると、あまりお得とは言えない。
今の交換レートは、大体「金貨10枚=1帝紙」。
1帝紙あれば、なんとか昼と夜の飯が食えるくらいか。昔は金貨1枚で水が買えたのに、今じゃ2枚は必要だ。
だがまあいい。帝紙は帝国が保証する”金”だ。そう易々と暴落することはないだろう。
「すみません。これ受けます」
「どれどれ……これですか? では、残りのお二人の学籍番号やお名前は分かりますか?」
「残りの二人?」
「あ、これ『同行人3人推奨』って書いてあるんです」
「……俺一人で良いです」
「そ、そうですか。ではこちらに学籍番号とお名前をお願いします」
受付嬢が気まずそうに目を逸らした。
友達がいないとバレたかもしれないが、事実だから傷つきもしない。
「はい、承りました。当該ダンジョンである『グリスウッドの洞窟』までの行き方は分かりますか? 一応地図もありますが」
「お願いします」
渡された地図を広げる。ここからそう遠くはない。
往復でギリギリ4時間といったところか。
善は急げだ。さっさと行ってしまおう。
……待てよ?
移動で4時間。そこで30匹討伐するとなると、合計で6時間はかかる計算だ。
ふと、冷静な思考が脳裏をよぎる。
(これ、授業受けてる方が楽だったんじゃないか?)




