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神愛 ─ 永遠の刹那 ─  作者: 神愛
第3章 中学生編 ― その瞬間を抱きしめて ―
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第11話 それぞれの距離、それぞれの一歩

文化祭の賑わいが思い出へと沈みはじめた頃。

グループチャットには、どこか楽しげな通知音が立て続けに響いた。


【元・天野ファミリーグループチャット】


駆:カラオケいかないか

颯太:え!?カラオケ!?お前が!?めずらし

雪杜:どした

駆:たまにはいいだろ


咲良:私いきたい!文化祭の打ち上げもしてないし

駆:そうそう打ち上げだ

駆:さーや様、大盛況だったろ


御珠:うむ

御珠:妾、大活躍だったのじゃ


莉子:せっかくだから華蓮も誘っておくね

駆:頼む

駆:史先輩も呼んでおくよ


颯太:天野ファミリー増えたなぁ

雪杜:え!?解散したのに!?


通知が止むころには、もう“行く”以外の選択肢は消えていた。


―――


昼下がりの光がビルのガラスを白く照らし、文化祭の熱気がまだ肌に残っているようだった。

カラオケボックスの入口前に集まった面々は、妙に浮き足立っていた。


颯太が勢いよく腕を振る。


「うおおテンション上がってきた!文化祭の延長戦じゃん!」


咲良は笑いながら御珠に詰め寄る。


「今日こそ御珠ちゃんに歌ってもらうからね」


隣の御珠がわずかに眉根を寄せる。


「妾、歌は苦手なのじゃ。祝詞で勘弁してくれんかの」


莉子がその二人を押しながら、軽くドアを引いた。


「はいはい、じゃあ入るよー」


華蓮は一歩後ろから、その賑やかさをぼんやり眺める。

胸の内でこっそりため息が落ちる。


(なんだよこれ……“仲間感”強すぎんだろ……)


そこへ史がゆっくり駆け寄ってきた。


「お待たせしました」


駆が自然に歩み寄り、扉を押さえる。


「いや、全然。行きましょう」


咲良が、案内に来た店員よりも先に声を張り上げた。


「はいはーい、じゃあ打ち上げ会場へご案内でーす!」


広めの部屋に通されると、スピーカーの低いうなりと画面の明滅が迎えてくれた。

ソファに腰を下ろすと、文化祭の熱がまだ背中に残っているようだった。


颯太がコップを掲げる。


「じゃーまずは乾杯だな!文化祭おつかれー!」


全員の声が重なる。


「おつかれーー!」


炭酸の弾ける音が席のあちこちで鳴る。


颯太はそのまま駆の肩を軽く叩いた。


「で、言い出しっぺの駆さんよー。きょうはどうして集まったのかなー?」


にやけ顔が、答えをほぼ確信しているのを物語っていた。


駆はわずかにうつむき、息を整える。


「……えーっと。史さんと付き合うことになりました」


「はい……お付き合いさせていただくことになりました」


三秒、音が途切れる。

最初に弾けたのは颯太だった。

勢いよく立ち上がりそうな声が飛ぶ。


「知ってたーーー!!」


続くように、咲良が両手を叩きながら前のめりになる。


「わかる!!絶対そうだと思ってた!」


莉子も笑いながら、柔らかく声を添えた。


「シンプルにおめでとう!」


笑い声と祝福が同時に爆発する。

雪杜は顔を赤くしながら、ぎこちなく手を握った。


「よ、よかったね……!

 二人とも、文化祭の準備中とか距離が近かったもんね」


華蓮が、少しそっぽを向きながら肩をすくめる。


「……まあ、いいんじゃね。お似合いっしょ」


史は控えめに微笑んだ。


「ありがとう……」


そのとき、御珠がすっと姿勢を正した。

部屋の光が彼女の瞳に反射して、どこか儀式めいて見えた。


「交際おめでとうなのじゃ。

 そなたらの未来に、ほんの少しだけ加護をくれてやろう」


天井に向かって祈るように手を掲げる御珠の姿に、真っ先に反応したのは颯太だった。

たまらず身を乗り出す。


「出たー!御珠の祝福!」


その横で、莉子がまるで定番ギャグを見るように笑いながら頷く。


「うん、ほんと効くよねあれ」


雪杜は頭を抱える。


(御珠、本物のやつじゃん……)


駆は照れ笑いを浮かべながら深く頭を下げる。


「御珠。ありがとう。

 ……祝ってもらえて嬉しいよ」


御珠はほんのわずか視線を外し、短く頷いた。


駆は続けざまに雪杜へ顔を向ける。


「それから雪杜。改めて礼を言わせてくれ。

 お前がハッカソンの参加を決めてくれたから付き合うことができた。

 あの時、優勝できなかったら俺たちは先輩、後輩のままだったかもしれない」


突然の照準に、雪杜の体が跳ねる。


「え!?僕!?

 いやいや、駆ならなんだかんだでメンバー集めてたと思うよ!?」


「いや。あのメンバーじゃなきゃ優勝できなかった。

 本当にありがとう」


「……そ、そう言われると……なんか照れるんだけど……」


史が静かに言葉を添えた。


「咲良さんも。あの時、私を誘ってくれて……ありがとうございました。

 一緒に参加できて、本当によかったです」


咲良は両手をぶんぶん振る。


「え!?私も!?

 わ、私また何かやっちゃいました~!?!?」


駆がにやりと笑う。


「やってたよ。マジでキューピット」


「やめて!!」


咲良が必死で否定している横で、莉子が楽しげに指を立てる。


「マジキューピット♪」


それに便乗するように、颯太が声を張った。


「マジキューピット!」


「なんなのよその二つ名!!消したい!!」


笑いは輪の真ん中で渦を巻き、歓声がスピーカーのうなりまで押しのけた。

部屋の明るさが、もう一段だけ上がったように見える。


咲良がリモコンを高く掲げる。


「……はいっ!じゃあ二人へのお祝いソング、決めよ!

 ラブソングとかどう!?」


駆が慌てて手を振る。


「やめろ!死ぬ!!」


史がそっと乗っかるように微笑む。


「ふふ……いいですね。駆くん、歌ってくれますか?」


「……はい」


後ろから颯太と雪杜が揃った声で突っ込む。


「「夫婦漫才やめてもろて」」


画面に映る青白い光が、二人の距離をほんの少しさらに縮めた。


華蓮はその光景を横から眺め、胸の奥でつぶやく。


(……なんかあたし場違いなんじゃ……)


その視線を拾ったかのように、御珠がふいに華蓮へ顔を向けた。

深い翠の瞳が、わずかに揺れている。


「焦らずともよい。

 そなたには……まだ知らぬ“良き縁”が待っておる。

 いまではなく、だいぶ先になるじゃろうがの」


「はぁ!?占い師まだやってんのか!?」


御珠は扇子もないのに扇ぐような仕草をし、意味深に微笑んだ。


「妾は未来を決めはせぬ。ただ……見えるだけじゃ。

 心配せずともよい、華蓮」


華蓮は視線を逸らしながら、心の奥で微かに頬が熱くなるのを感じる。


(……なんなんだこいつ。

 まぁ……気を使ってくれてんだろ、たぶん)


そこからは、文字通りの“打ち上げ”だった。

颯太は全力アニソンを熱唱し、咲良は振り付きで踊り、莉子は採点モードに集中しすぎて誰より真剣。

雪杜はいつかのリベンジとボカロ曲に挑んで、やっぱり撃沈した。


御珠はというと、即興の祝詞をメロディのように唱え、その場の笑いをすべてさらっていった。

笑われているのに――いや、だからこそ、彼女の表情には不思議な幸福が宿っていた。


華蓮はその喧騒の中で、ふと胸の奥にあたたかいものが灯るのを感じた。


(……なんだよこれ。

 あたし、こんな“輪”知らなかったのに)


カラオケビルを出るころには、夕焼けが街をゆっくり赤く染めていた。


―――


放課後の廊下は、部活へ向かう生徒たちのざわめきで満ちていた。

昇降口の前で靴を履き替えていた華蓮の前に、見覚えのない男子が影を落とす。


「坂本だよな?ちょっと話してもいい?」


突然の呼びかけに、華蓮は上体を動かさず、顔を少し上げた。


「……は?」


男子はどこか調子づいた様子で距離を詰めてくる。


「いや、別に変な意味じゃなくてさ。

 最近、感じ変わったよな?その……かわいくなったよな」


華蓮の耳がわずかに赤く染まる。

視線が揺れ、靴箱の縁をつま先で軽くこする。


(……は?かわ……いやいや、落ち着けあたし。

 こんなんで浮かれてたまるかっての)


男子がさらに一歩踏み込んだ、その瞬間。

横から影が割り込むように入り、二人の間へ強引に割って入った。


咲良が無表情のまま、華蓮の前に立つ。


「ごめん、坂本さんいま急いでるんで。

 用があるならまた今度にしてくれる?」


声は冷たく、余計な抑揚が一切ない。


「え、別にちょっと話すだけ――」


男子が反論しようとしたところに、反対側から莉子が入った。

柔らかい笑みなのに、断る気の強さが隠れていない。


「部活の予定詰まってるので。

 時間とる余裕はありません」


「……あ、そ、そうなの?」


咲良が視線で“引け”と告げるように睨む。

男子の肩がわずかにすくんだ。


「……わかったよ」


そう言い残し、男子は気まずそうに廊下の人混みに紛れていった。


華蓮は二人の横顔を見つめながら、胸の内のざわつきを押し込む。


(……あ、あたし……守られてる……?

 いやいや、変に意識すんなっての……)


咲良が素早く振り返り、華蓮の顔を覗き込む。


「大丈夫?

 あんな軽薄そうなのに付いていっちゃだめだよ。

 御珠ちゃんみたいに毅然と断らないと」


「わ、わかってるし!」


莉子が肩をすくめるようにして言葉を重ねる。


「これから、こういうの増えると思うよ?

 うまくあしらうの、慣れていかないとだね」


「そうなのか?」


華蓮の眉がほんの少し寄る。


(……なんかめんどくせーな)


三人で昇降口を出ると、夕方の風が頬をかすめた。

校庭から吹き込む土と光の匂いが、放課後の時間を引き伸ばしていく。


咲良がため息まじりにぽつりとこぼす。


「でも、ほんと……男って単純」


華蓮は靴音を鳴らしながら横目で返す。


「……それな」


―――


放課後の廊下には、生徒たちの声が遠く反響していた。

昇降口へ向かって歩いていた華蓮の足が、ふと止まる。


前方から、佐々木が女の子と並んで歩いてくる。

腕が触れそうなほど近く、自然に笑い合っている。

誰が見ても恋人同士にしか見えない距離だ。


華蓮は視線をそっと落とす。


(佐々木……彼女できたんだ。

 ……そっか。私じゃ届かなかった場所、ちゃんとあるんだよな)


気づかれないよう、歩幅をほんのわずか狭めてすれ違おうとする。


だが佐々木は、横を通った華蓮の髪型と横顔に違和感を覚え、眉をひそめた。


「……あんな子いたっけ?」


隣の彼女が軽く首をかしげる。


「2組の坂本さんでしょ?

 なんか急に女の子デビューしたっていう」


「2組?坂本……」


佐々木の記憶の中で、断片がじわじわ形を取り始める。


(前にそんな名前のヤツに告白されたような……)


そして一瞬で点が線につながった。


(……って、あいつか!!

 いやいやいや、待て待て待て……

 別人じゃねーか……!ふ、振らなきゃよかった……)


彼女が怪訝そうに見上げる。


「ねえ、何その顔?」


「い、いや!なんでもない!!」


声が裏返り、廊下に変に響いた。


華蓮はそれを背中で聞きながら、聞こえないふりのまま歩いていく。

胸の奥が、昔よりずっと軽くなっていることに気づいた。


(……でも、なんか軽くなったな。

 あの時の“苦しさ”が薄まってる)


昇降口へ続く廊下の先で、佐々木とその彼女の後ろ姿が、ゆっくり小さくなっていった。


―――


昼休みの教室は、給食後のまったりした談笑でゆるく満たされていた。

その中心へ向かうように、咲良がどやりと手を広げる。


「聞いて聞いて!

 昨日、陽向ひなたをお風呂に入れるの挑戦したんだけどさ!」


雪杜が口元を緩めて目を向ける。


「お、ついに?どうだった?」


咲良は勢いよく前のめりになる。


「めっっちゃむずかった!!

 両耳に水が入らないように片手で押さえて、もう片方でお湯かけるんだけど……赤ちゃんってちっちゃいの!

 動くの! つるつるするの!!」


その説明に、莉子が興味深そうに首を傾けた。


「つるつる……触ってみたい」


「そう!つるっつる!!あれはね、プロの技いるわ!!」


そこへ、颯太が牛乳パックを片手にゆるく歩いてくる。


「なになに?弟くんネタ?

 お前最近“親バカの気配出てきてる”って噂だぞ?」


いきなりの指摘に、咲良が机を叩きそうな勢いで跳ねた。


「は!?誰が親バカだ!!かわいいだけだし!!」


莉子がくすっと笑いながら言葉を添える。


「でも楽しそうだね、咲良ちゃん」


「うん、めっちゃかわいい!あ、あとね!

 うんちってさ……思ったより臭くないんだよ!!」


雪杜がスプーンを止めた。


「咲良……昼ご飯まだ食べてる人も……」


横で駆が妙にリアルな声を出す。


「いや、それは今だけだぞ。

 離乳食食べ始めると一気に来る」


「え、そうなの!?ちょっとショック……!」


雪杜は笑いながら咲良の肩を軽くつつく。


「ほんと、お姉ちゃんっていうよりママだねー」


莉子も柔らかく頷いた。


「咲良ならいいママになりそう」


その瞬間、咲良の動きが止まる。

時間が半歩ずれたように、教室のざわめきが引く。


「ま、ママ……?」


雪杜が首を傾げた。


「え?いや、弟くんの、って意味だけど」


「……う、うん、わかってるけど……」


――咲良の脳裏に映像がよぎる。


赤ちゃんを抱く自分。

隣には雪杜がいて。

小さな声で「お母さん」と呼ばれる未来。


(……はっっっ!!?

 なに考えてんの私!!?)


咲良の耳が一瞬で真っ赤に染まった。


颯太が眉を上げる。


「どした。顔赤いぞ?」


「な、なんでもない!!なんでもないから!!」


雪杜はまるで暗号を見せられたかのようにぽかんとする。


「???」


駆が苦笑混じりに言う。


「咲良、変なスイッチ入ったんだよ」


莉子も小さく頷く。


「入ったね」


「入ってないってば!!」


教室には軽い笑いが広がり、昼休みのざわめきがさらに明るく弾ける。


少し離れた席で、華蓮が振り向く。


「なんかあっち盛り上がってんなー。ツレションいくか?」


隣で御珠が深いため息をつく。


「はぁ……こっちはバカしかいない」


「ひでーこと言うな!」


ひでーこと言われたはずなのに、華蓮の口元はどこか嬉しそうだった。


―――


放課後の体育館には、昼の名残のような湿り気が残っていた。

開け放たれた扉から風が流れ込み、その湿りをゆっくり散らしていく。


コート脇で颯太がシューズの紐を結び直していると、スポドリとタオルを抱えた莉子が静かに歩いてきた。


「颯太。……私、マネージャーになったよ。

 今日からよろしくね」


声は落ち着いているのに、どこか弾んでいた。

颯太は手を止め、一瞬、固まる。

そして照れを隠さずに笑った。


「……そっか。決めたんだな」


「……うん。

 私、背もちっちゃいし、正直バスケは無理だったけど……

 でもね、続けてきたことは全部無駄じゃなかったよ。

 ルールも分かったし、動き方も見えるようになったし。

 だから――これからはマネージャーとして頑張るね!」


言い切ったあと、莉子は息を落とすように小さく付け足す。


「颯太専門の……」


その囁きは、ぎりぎり聞こえる距離で。

颯太の耳がびくりと跳ねる。


「っ……!!

 お、おう……よろしく頼むわ……!」


莉子はふっと微笑み、スポドリを差し出した。


「颯太のこと、ちゃんと支えたいから。

 ケアとか補給とか……できること全部やるよ」


真正面からの言葉に、颯太の耳がみるみる赤くなる。


「そ、そういうのストレートに言うなって……

 心臓に悪いんだよ……!」


体育館の入口付近で短いホイッスルが鳴り、顧問の声が飛ぶ。


「全員!アップ始めるぞ!」


「は、はいっ!!」


颯太が慌てて立ち上がると、莉子が落ち着いた仕草でタオルを差し出した。


「行ってらっしゃい。

 無理しないこと。……はい、これ」


そのタオルを、颯太は丁寧に両手で受け取る。


(……莉子。俺……もっと、頑張るよ)


小さな決意が胸に灯る。

颯太は深呼吸し、仲間の列へと駆けていった。

体育館の床に、靴音が軽やかに響く。


―――


球技大会の体育館は、熱気と歓声で揺れていた。

試合が進むほど、観客席のボルテージが上がっていく。


「きゃー!!金田くーん!!」

「速すぎ!!かっこよ!!」


黄色い声援の中心で、颯太がディフェンスを軽々とかわし、レイアップを決める。


「っしゃあ!!」


男子の声援も自然に重なる。


「いいぞー颯太ー!」


華蓮は腕を組んで、呆れ混じりに眺めた。


「バケモンじゃん。バスケ部つえー」


その横で莉子が、真剣そのものの眼差しで見ている。


「今日の颯太、完璧……。私の彼氏すごい……」


咲良が思わず肘で小突く。


「応援してあげなよ!」


莉子は一瞬固まり、急に叫び出す。


「颯太ー!!大好きー!!」


コートの上の颯太が跳ねた。


「っっっ!?!?」


咲良が慌てる。


「ちょ、莉子!!そ、それはギリギリアウト!!」


男子たちの茶化しが即座に飛ぶ。


「ひゅー!!公開告白かぁー!?」


そこへ高橋先生が鬼の形相で割り込んだ。


「むっ!公開告白は停学よ!」


観客席の熱が凍りつく。


―――


次の試合では雪杜が必死に走り回っていた。

派手さはないが、コートの隙間を埋めるように動く。


「っしょっと……!」


堅実なフォームのシュートが決まる。


その瞬間、体育館の一角が爆発したように盛り上がった。


「天野くーん!!素敵!!」

「やばい!かわいい!!」


本人は心底驚いた顔をする。


「えっ!?!?」


男子たちが冷めた目で見つめる。


(いや、今のは普通だろ……?)

(なんであいつだけ騒がれるんだよ……)


駆が横目で苦笑する。


「相変わらず人気だな」


華蓮は肩をすくめた。


「世の中顔だよなぁ(しみじみ)」


咲良が鼻を膨らませて反論する。


「む!雪杜は性格も良いの!」


莉子がゆっくり頷いた。


「まぁどっちも?」


駆が追撃する。


「完璧じゃないか」


華蓮がぼそっと言う。


「……あたしはもっと男らしいのがいいなぁ」


咲良は即座に噛みつく。


「む!雪杜は男らしい……時もあるよ!」


「はいはい」


華蓮が軽く流し、咲良がほんのり赤くなる。


―――


御珠は静かにコートへ歩いた。

観客の期待が一段上がるのを背中で受け、深く息を吐く。


(……落ち着くのじゃ。ここは学校じゃ。

 控えめに、控えめに……人間らしくするのじゃ……)


「御珠さーん!おねがーい!」


ボールが回ってくる。


(む……さっきの男子、時間間際に遠くから投げておったのう。

 外れておったが……このくらいなら妾もできるじゃろ)


完全に悪い方向へ働く、御珠の自信。


御珠はセンターライン付近から、片手でふわっと投げた。

ボールは一直線にゴールへ吸い込まれる。


ガーン……!


体育館全体が凍りつく。


(((…………)))


審判が戸惑いながら手を上げる。


「……えっと……スリーポイント……?」


雪杜は両目を見開いたまま固まる。


「御珠……??」


当の御珠は内心で慌てふためく。


(む。やりすぎなのか……?

 いや、さっきもやっとったし……控えめなつもりだったのじゃが……)


「ぐっ……偶然だよ〜〜

 たまたま入っちゃっただけだよ〜〜」


男子から即座に総ツッコミ。


「いやいやいやいやいや!!」

「片手でセンターから入るわけないだろ!!」


莉子がぽつりと漏らす。


「なんか……アニメみたいな入り方したよね今」


華蓮は首を捻った。


「あいつやべー薬でもやってんのか!?」


(また……やり過ぎてしまったのじゃ……)


御珠の心の涙がこぼれそうになる。


―――


ほどなくして、隣のコートでもざわざわと奇妙な気配が広がり始めた。

どうやら御珠のシュートを見た他チームの女子たちが、真似しようとしているらしい。


「わたしもセンターから投げよ!」

「いけるでしょ!御珠ちゃん出来てたし!」


だが結果は――


シュッ……ボトッ。


「ちょ……ゴールまでボール届かないんだけど!?」

「腕もげる!!」


華蓮が体育館全体に響くような声で叫ぶ。


「ったりめーだろ!

 あんなん誰彼できてたまるかよ!!」


御珠がそっと顔を覆う。


(やめるのじゃ……妾を比較対象にするでない……)


人間と同じ速さで歩こうとするたび、御珠の静かな苦悩は積もっていく。


―――


休み時間の教室には、次の授業へ向けて生徒が動く小さなざわめきが広がっていた。

その中で、莉子がじーっと華蓮の前髪を見つめている。


「……なんだよ」


視線に気づいた華蓮が、眉を少し寄せる。


「華蓮ちゃんさ……きょうの前髪、綺麗に整ってない?」


「ん? あー。昨日ちょっと切った。

 あのハサミ。すげー切りやすい」


莉子はすかさず頬をふくらませる。


「えー、こないだ見せてくれるって約束したのにー」


「覚えてんのかよあれ」


「覚えてるよ。

 ていうか前髪を自分で触るのって普通怖いでしょ?

 それを自然にやる華蓮ちゃん、ほんと器用」


華蓮は気恥ずかしそうに鼻をかいた。


「……昔からやってるしな。

 美容院行くの面倒だし、金もねぇし。

 慣れたら別にどうってことないって」


莉子は憧れ混じりに頷く。


「すごいなぁ……。

 ねぇ、今度ほんとに切ってるとこ見せてよ」


「え、えぇ……?

 いや、あたしんち狭いし、兄弟もいてうるせーし……」


莉子はまるで当然のように提案する。


「じゃあ学校でいいじゃん」


華蓮は思わず声を裏返した。


「学校!?ここで!?

 考えてもみなかった。

 ……気が向いたらな」


莉子はにこっと笑い、指を立てる。


「む~。約束だよ」


増えていく約束のひとつひとつが、華蓮の放課後をそっと形づくり始めていた。

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