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神愛 ─ 永遠の刹那 ─  作者: 神愛
第2章 中学生編 ― 距離の再編 ―
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第31話 観測の花

春原神社へ続く参道は、屋台の匂いと人の熱で満ちていた。

入口の鳥居の下では、提灯の光が風に煽られて揺れている。

遠くから太鼓と笛が交互に追いかけ、音が波のように押し寄せては引いた。


雪杜は先に到着していて、落ち着かないまま人の流れを追っていた。

袖口が風に取られ、手首のあたりがかすかに翻る。


咲良が小走りで近づいてくる。

浴衣の裾が揺れ、近づく足取りの速さが「言いたいこと」の多さを代弁していた。


咲良が息を吸った瞬間、雪杜が振り返る。


「待った?」


返事を聞く前に、咲良は勢いのまま続けた。


「ねぇ聞いてよ!お母さんったらひどいんだよ!」


咲良の声が上ずり、雪杜は思わず眉を上げた。


「ううん、今来たとこ」


それを受けても勢いは止まらず、咲良が言葉を重ねる。


「自分が動けないからって仕事いっぱい押し付けてさ。昨日なんか巫女のアルバイトさせられたんだから」


雪杜の視線が揺れ、問いが漏れた。


「動けない?澪さん怪我でもしたの?」


咲良は視線を逸らし、指先で浴衣の袖をいじりながら小さく吐息をこぼす。


「あ、えと、その……お母さん妊娠してて……」


雪杜の呼吸が止まった。

驚きで肩が硬くなる。


「え!?妊娠!!?」


声が大きくなり、周囲の人が一瞬振り向いた。

雪杜は気づいて、急いで声を落とす。


咲良は苦笑いを浮かべて続ける。


「うん……私もうすぐお姉ちゃんになるんだ」


「でもだいぶ年が離れてるよ!?

 澪さんて何歳……」


言ってしまって、雪杜は視線を泳がせた。


「35歳だよ。私もびっくりしたんだけど、なんか出来ちゃったみたいで」


「そっか。お姉ちゃんか……」


雪杜は笑おうとした。

けれど表情の奥に驚きの余韻が残り、視線が人波の向こうへ流れていく。


(……母さん、今どうしてるんだろ)


その考えが胸をよぎり、口元がわずかにこわばった。

咲良は雪杜の歩幅を見て、歩みをゆるめる。


「雪杜はその……お母さんのことって聞いて大丈夫?」


雪杜の足が止まる。

祭りの音が一段遠くへ退いた気がした。


「今どうしてるんだろって、たまに思う」


咲良は迷って、一歩踏みかけた気持ちをそっと引っ込める。


「……そっか」


そのあと、咲良が小さく首を振った。

雪杜の表情を崩さないように、踏み込みの位置を慎重に測った動きだった。


「ごめんね……言いたくなかったらいいの。

 あ、デート!きょうデートだよ!

 屋台いこ、屋台」


無理矢理持ち上げた明るさが、夏祭りの喧騒に紛れて、少しだけ馴染む。

咲良は雪杜の手首を軽く引き、歩き出す勢いを渡した。


雪杜は視線を上げ、咲良に合わせて歩き出した。


「……うん」


重さはまだ胸の奥に残っている。

それでもいまは、咲良の歩幅に乗ることを選んだ。


―――


参道の屋台通りは、鉄板のはぜる音と呼び込みの声が重なって、耳が忙しかった。

紙提灯の赤が夜の色をやわらかく染め、行き交う声は途切れず混ざっていく。

さっきまで無理に明るさを作っていた咲良も、喧騒に足並みを合わせて、自然な笑顔へ戻りつつあった。


咲良が腕を伸ばして、光を弾くりんご飴を指さす。


「見て、りんご飴!めっちゃ赤い!」


雪杜はその勢いに笑みをこぼす。


「ほんとだ。……買う?」


「買う買う!半分こね」


返事を待つ間もなく咲良が屋台へ向かい、雪杜が苦笑してついていく。


手に入れたばかりのりんご飴。

咲良が一口かじると、飴の割れる軽い音がした。

頬が少し緩み、そのまま雪杜へ差し出す。

距離が近い。


「はい」


「……あ、うん」


雪杜は一瞬ためらった。

あーんだとか、間接キスだとか、そんな単語が脳裏で勝手に跳ねる。


(……間接キス)


意識を振り払うように、りんご飴へそっと歯を立てる。

甘さが一気に広がり、意識が現実へ戻った。


咲良が覗き込むように聞く。


「どう?おいしい?」


「うん。すごい『お祭り』って感じの味がする」


「なにそれ」


咲良が軽く笑い、飴を持つ手が上下に揺れた。


人混みが押し寄せ、肩が触れそうになった瞬間、雪杜が咲良の腕をかすかに引いて内側へ寄せる。

守るような動き。

咲良はそれに気づき、頬へ熱が差した。


咲良の視線が揺れ、ふと昨日のことを思い出すように口が開く。


「ねぇ。昨日のデートはどうだった?」


「え?昨日?」


雪杜の動きが硬くなった。

御珠の慟哭や、励ました時間、澪と面会していたことを“絶対に言うでない”と言われた記憶が一気に蘇る。


咲良はその瞬きを逃さなかった。

ただ、固まった理由を、完全に別方向へ誤解する。


「む。もしかしてキスとかしちゃった?」


「え、いや、その……」


雪杜は言い繕おうとするが、隠したいものが多すぎて返事がまとまらない。

その曖昧さが、咲良には確信に変わった。


「むー。むっつりスケベ」


「え!?またそれ!!?」


「御珠ちゃんからいっぱい聞いてるんだからね。

 動画のこととか、着替えのこととか」


「!!」


思い当ることしかなく、雪杜の顔に一気に血がのぼる。

御珠が何をどこまで話したのか、想像したくもない。


咲良が、ぷくっと頬を膨らませる。


「もう。いいけど!いいんだけど!なんかむかつく!!」


「ごめん……」


口止めされている負い目が背中を押して、謝り方が必要以上に重くなった。

咲良のほうが焦ってしまう。


「あ……いや……そんな神妙な顔されるとこっちが悪いみたいじゃん……

 もういい!この話終わり!

 次いこ!次!」


そう言うと、咲良は雪杜の腕を引きながら歩き出す。

その胸の奥で、ひっそりと願いを固めた。


(……今日の目標は雪杜とのキス)


夜風の中で灯る決意を隠すように、咲良の背筋がすっと伸びた。


―――


屋台の灯りが列になって続き、呼び込みの声が押しては引いた。

別の通りを、颯太と莉子が並んで歩いている。

莉子は浴衣姿で、歩幅を合わせるように足音を揃えていた。


歩きながら、莉子が颯太の袖をちょこんとつまんだ。

人混みのざわめきに紛れる、控えめな接触。

颯太は気づいたが、知らないふりをする。


「ねぇ、屋台どこから攻める?」


「攻めるって何だよ。……腹減ってる?」


「うん。部活、疲れたし。あと、甘いものも食べたい」


「欲張りか」


「ふつーだし」


焼きそばの湯気が、二人の足を止めた。

颯太が注文し、熱々のパックを受け取る。

座れそうなベンチは埋まっていて、二人は縁石の空いた場所へ腰を下ろす。


割り箸を割る。

ぱき、と鳴った瞬間、端が微妙にギザついた。


「……」


「不器用だね」


「うるせ」


「ふふ」


莉子が焼きそばを覗き込み、そのまま颯太のほうへ顔を寄せてくる。

近さに、颯太は目線を泳がせた。


「近いって」


「人多いもん」


「……仕方ねぇな」


口元だけが少し緩み、それ以上は何も言わなかった。


「……ほら」


颯太が箸を少し持ち上げて差し出す。

莉子はためらわず口を開け、焼きそばを食べた。

もぐもぐと噛みながら頬が緩む。


「おいし」


「だろ」


そのとき、視界の端に見覚えのある二人が映った。

咲良と雪杜が人混みの切れ目から現れ、咲良のほうが先に気づいて軽く手を振る。


「……あ!颯太!」


「おう」


数歩近づいてきた二人と向かい合う。

屋台の喧騒が混ざり、四人の影がゆらゆら揺れた。


颯太が軽く顎を上げる。


「お前らもきょうか」


「きょう、花火あるしねー」


雪杜も頷いて続ける。


「うん、せっかくだし」


颯太が人混みを一瞥した。


「花火な。……人ヤバそうだな」


その言葉に、莉子が横目で颯太を見て、小さく笑う。


「ふふ。はぐれないようにしなくちゃね」


颯太がぼそっと言う。


「てかデートしてるといっつもお前らと遭遇するのは何でだ」


「それはこっちのセリフなんだが」


二人が同時ににやりとした。


咲良は焼きそばを食べかけなことに気づいて、そっと距離を引く。


「じゃ、私たちいくから。またねー」


「また」


颯太は見送ってから莉子へ視線を戻した。

莉子は焼きそばをもぐもぐしながら、どこか満足そうに口角を上げる。


「……何だよ」


「花火、楽しみ」


「まぁ、俺も」


莉子が、わずかに声を落として聞く。


「……手、繋ぐ?」


「人多いからな」


「うん……」


押し寄せる人波に合わせるように、指先が触れる。

自然に絡んだ手のひらは、そのまま離れなかった。


遠くで一発、試し打ちのような音が夜空へ跳ねた。

胸の奥が小さく揺れて、花火が近づいているのを悟る。


―――


駆は先に到着していた。

普段より整えた私服の襟元を、何度もそっと直している。

落ち着いて見せようとしているのに、視線は人の流れを追ってしまう。

スマホで時刻を確認し、すぐにポケットへ戻した。


胸の奥へ息を入れて、肩の力を抜く。

背筋を立て、指先で裾を整えた。


(先輩を待たせるのは論外だよな)


少しして、史が現れる。

人混みを抜けてきたのか、わずかに息が上がっていた。

淡いグレーのブラウスに紺のミモレ丈スカート――遠目でも輪郭が落ち着いて見える。

歩きやすそうな白いスニーカーが、祭りの地面を軽く踏んだ。


駆はその姿を見つけた瞬間、背筋が伸びる。


「お待たせしました」


「いいえ。いま来たところです」


近づいた史の姿が、灯りの下ではっきりする。

布の質感、袖口の折り目、髪のまとめ方まで、細部が一気に目に入った。


仕入れてきた“デートの基本”が頭の片隅で点く。


「……その」


「?」


「私服、似合ってます」


言った瞬間、言葉の角が妙にかしこまっていたのを自覚した。


史が一瞬固まる。


「……え」


そのまま視線が逸れ、耳がほんのり赤くなる。


「ありがとうございます……」


駆の胸に小さな安堵が灯る。


(よし。最初は褒める。……合ってるはず)


けれど、そのあと言葉が続かなかった。

思っていたよりも長く、喉の奥が乾く。


史がふと口を開く。


「……佐藤くんも」


「はい?」


「いつもと違うなって」


「……はい」


駆は反射的に襟元へ手をやった。


「今日は、その……」


声が少し上ずる。


「デート、なので」


史は短く頷いた。


「……はい」


また言葉が途切れる。

遠くの祭囃子が、二人の間を通り抜けていった。


駆が小さく息を吸い、言葉を探す。


「……えっと、どこから行きますか」


「え?」


「屋台とか……その……」


史が少し考えて、いつもの静かな調子で答える。


「……そうですね。適当にぶらぶらしてみましょうか。

 なにか食べたいものとかありますか?」


「えっと、焼きそばが食べたいです」


「では行きましょう」


「……はい」


二人は並んで歩き出した。

最初の数歩は、互いの歩幅の置き場を探るようなぎこちなさが残る。

それでも横に並ぶ距離は、悪くない。


「人、多いですね」


「……はぐれないようにしてください」


史がわずかに息を弾ませたような声で返す。


「……はい」


短く答えながらも、胸の奥で温かいものがゆっくり広がった。


二人は屋台の灯りのほうへ歩いていく。

まだ距離は残っている。

けれど、同じ方向へ向かう足取りは確かだった。


―――


屋台通りは、人と煙と光が混ざり合ったざわめきに満ちていた。

駆と史は焼きそば屋を見つけ、それぞれ一つずつ買う。

座れそうなベンチは見事に埋まっていて、近くの縁石へ並んで腰を下ろした。


焼きそばのパックを膝に乗せ、割り箸を割る。

ぱき、と小さく響いた音が、ふたりのそばで妙に目立った。

祭りの中心にいるはずなのに、二人の周囲だけ、音の届き方が薄くなる。


二人はそのまま黙って食べ始める。

もぐもぐ。

もぐもぐ。


(やばい。無言だ。何か言わないと)


駆は焼きそばを噛みながら、胸の内が火のついたように焦った。


「えっと、美味しいですか?」


「はい……」


(会話が終わった)


言葉が途切れた。

返ってくるのは、周りの祭囃子と屋台の呼び込みばかりで、それが逆に耳へ入り込む。


史が小さく息を吐く。


「ごめんなさい。つまらないですよね……」


「え……いや……そんな……

 まだ始まったばっかりですよ?」


史は箸先を見つめたまま、弱く声を落とした。


「何を話していいのか……

 こういうの初めてなので」


「俺も初めてで……その」


駆は手元の焼きそばへ視線を落とす。

会話の“正解”を探している顔だった。

頭の中では、事前に調べたデート知識が渋滞している。


(褒める、共感する、次の目的地を提案する、沈黙は悪くない、笑顔を見せる、リードする……

 無理だ。情報が多い)


思考の渦から無理やり引っ張り出した言葉が口をついた。


「……天気の話でもしますか?」


史のまつ毛がぴくりと揺れた。


「……天気」


史は視線を落としてから、静かに頷く。


「今日は、晴れてますね」


「……はい。晴れてよかったです」


そして、また二人はもぐもぐと焼きそばに戻る。


(俺、何やってるんだ)


駆は自分へのツッコミを飲み込むように息を吐いた。


史は焼きそばを一口食べてから、淡く声を落とした。


「……佐藤くん」


「はい」


「無理に話さなくても、大丈夫です。

 黙ってても、つまらないってことじゃないので」


駆の肩の力が、ほんの少し抜ける。


「……宮下先輩。

 ありがとうございます」


史は箸を置き、ほんの少しだけ胸を張って言った。


「あの……そろそろ先輩呼びは、やめませんか」


「え……」


「それなりに一緒に過ごしてきたつもりです」


言葉が一度止まった。

そして、史の眼差しがまっすぐ向けられる。


「史って呼んでください」


駆は一瞬で顔が熱くなるのを感じた。

焼きそばの湯気が、その熱を隠してくれない。

どうにか覚悟を決める。


「分かりました……」


駆が言い淀む間、史は静かに待っていた。

逃げ道をふさがず、それでも目を逸らさない距離で。

その眼差しに背中を押され、駆が小さく息を吸う。


「……史……さん」


史はその“さん付け”に、ふふっと柔らかく笑う。


「はい……それでいいです。

 駆くん」


名前を呼ばれた瞬間、駆はさらに赤くなった。


「はい……」


また言葉が途切れる。

でも、さっきのような痛みはない。

二人は同じ速度で焼きそばを口へ運んだ。


―――


焼きそばを食べ終え、二人は空のパックを小さく畳んだ。

縁石から立ち上がり、近くのゴミ箱へ向かう。

沈黙はまだ残っているが、さっきのように胸を締めつける痛さはない。

言葉の少なさが、そのまま落ち着きに変わっていた。


ゴミ箱へ捨てると、史が横目で駆を見る。


「きょう、花火があるらしいですね」


「ええ」


史は小さく頷いて言葉を続ける。


「花火、見ますか?」


「そうですね。せっかくですし」


史の視線が夜空へ向き、提灯の灯りの外を探る。


「どこで見るのが、一番綺麗なんでしょう」


「うーん」


駆は考えるように空を見上げ、次に祭り会場の方向へ視線を落とした。

土地勘のある頭の中で、道筋と高低差が組み上がっていく。


(綺麗に見える場所か。まず条件を考えないと)


史が指を折りながら、条件を並べた。


「人が少なくて」

「視界が開けてて」

「音もちゃんと聞こえる場所」


駆はその条件を受け取り、真面目に頷く。


「……条件、結構ありますね」


「はい。

 でも、せっかくなので探してみませんか?」


駆は周囲の喧騒へ目を向け、冷静に切り分け始める。


「会場の中心だと、人が多すぎます」


「ですね」


「高い場所か、開けたところ……」


史が思いついたように言う。


「川沿いとか」


駆の表情がわずかに明るくなった。


「……いいですね」


駆はスマホを取り出し、地図を開く。

画面を指で払って拡大すると、河川敷の区画が見えた。


「この河川敷とかよさそうですよ」


少し距離はあるが、人が増えにくそうで、空も広い。


史は迷いなく頷く。


「いいですね。行ってみましょう」


駆は歩き出しながら言った。


「……じゃあ飲み物だけ、買ってから行きませんか。

 歩きながらだと……喉、乾きますし」


「はい」


二人は屋台の灯りのほうへ向きを変える。

目的ができたせいか、歩き出した足取りは最初より自然に揃っていた。


―――


河川敷に着くと視界は開けていて、花火を見るには申し分ないはずだった。


……が。


二人の足が自然と止まる。


「……」


「……」


羽音。

視界の端を小さな影が横切る。


史が瞬きをして、淡々と述べた。


「……虫、多いですね」


「……多いですね」


一匹が史の腕の近くをかすめる。

史はほんの少し肩をすくめた。


「……ここは、長時間の観測には向いてなさそうです」


「……ですね。集中できません」


史は静かに提案する。


「代替案を考えましょう」


「はい」


二人は騒がず、その場を離れた。

草むらから距離を取るように、土手へ向かって登る。


土手沿いに歩くと、コンクリートで固められた法面が現れる。

段差が並び、腰を下ろせる場所がいくつかあった。


駆は周囲を見渡し、草地との距離を確かめる。


「……ここなら、まだマシそうです」


「ですね」


史は足元を確かめて、そっと腰を下ろした。

駆も、触れない程度の距離を取って隣に座る。

どちらも離れすぎない間隔だった。


そのとき、遠くで花火が上がる。


「あ……」


「間に合ってよかったです」


空にぱっと光が散り、少し遅れてドーンと腹に響く音が届いた。


「音、すごい遅れてきますね」


「……結構歩きましたから」


史がふっと息を漏らしながら言った。


「私たち、何をしてるんでしょうね」


駆と史は、同じタイミングで小さく笑う。


「おかげでいい場所が見つかりました」


再び遠くで花火が咲く。

遅れて届く音が、空気をやわらかく震わせた。


しばらく二人は無言で花火を眺め続けた。

言葉の少なさは、もう重たくない。

夜風の温度と花火の光が、二人の間を満たしていく。


史がそっと息を吸う。

覚悟を決めた表情だった。


「私の過去の話……聞いてくれますか……」


駆は息をのんだ。

胸の奥が締まるように熱くなる。


「……はい」


花火の光が、二人の表情を断続的に照らしながら揺れていた。

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