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神愛 ─ 永遠の刹那 ─  作者: 神愛
第2章 中学生編 ― 距離の再編 ―
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第29話 取り残された二人

【咲良と史との個別チャット】


咲良:史先輩!打ち上げですけど、海でBBQでもいいですか!

史:史先輩……

咲良:嫌でしたか……?

史:いいえ

史:かまいませんよ

史:BBQとかすごいですね

咲良:雪杜の親戚なんですけど、毎年場所を提供してくれるんです

史:いいですね

史:ではそれで

咲良:やった!水着持ってきてくださいね!

史:それは勘弁

咲良:そうですか……

咲良:あ、颯太と莉子もきます

史:わかりました


【元・天野ファミリーグループチャット】


咲良:史先輩来るって

颯太:マジ?どんな魔法使ったんだよ

咲良:ハッカソンの打ち上げだーって言って誘った

颯太:あーなんか大会みたいなヤツ優勝したって言ってたか

咲良:それそれ

咲良:水着にはならないってさー

咲良:駆、残念だったね

駆:なんで俺

咲良:ふひひ

咲良:なんでだろうね

駆:余計なことするなよ

駆:マジキューピット

咲良:それやめて


莉子:ねーねー咲良、新しい水着買いに行こうよ

咲良:いいね!御珠ちゃんと三人で行こ!

咲良:男性陣はエロい目で見てくるから来ちゃだめ

咲良:特に雪杜

雪杜:え!僕!?

颯太:どうせ後で見せるならよくね?

莉子:ダメー

莉子:当日のお楽しみってことで

颯太:むひょひょ

System:莉子が颯太を退会させました


雪杜:女性陣三人だけって珍しいね

咲良:うん

咲良:初かも

雪杜:御珠、大丈夫?

御珠:平気じゃ

御珠:雪杜はお留守番じゃの

雪杜:なんか新鮮


System:莉子が颯太を招待しました

System:颯太がグループに参加しました

颯太:っちょ!ひでーじゃねーか!

雪杜:夫婦漫才やめてもろてw

颯太:おま!それ言うのかよ!

雪杜:いつかの仕返しw

莉子:自業自得


―――


潮の匂いが近い。

浜へ続く道の先で、炭の煙がゆらゆらと立ち上がっていた。

家の前には折り畳み椅子と簡易テーブルが並んでいる。


迎えに出てきたのは、晴臣の縁者で、雪杜にとっても親戚にあたるおじさんだった。

日に焼けた腕で、近づく前ににこりと口元がほどける。


「おー今年も来てくれたか。

 また人数増えてるし。

 しかも女の子?」


史が頭を下げ、落ち着いた声で挨拶した。


「お世話になります」


おじさんはその返事に目を細めて笑う。

照れたように手を上げ、小さく振った。


「礼儀正しいねー。

 沢山食べて遊んでいってくれ」


「「よろしくお願いします!」」


一斉に声が揃い、庭の緊張がほどけた。


炭が爆ぜる。

網の上に肉が並び、皿が回り始める。

誰かがトングを握り、誰かが紙コップを配り、誰かが氷を足す。


いちばん最初に事故るのは、だいたい御珠だった。

焦げ目のついた肉を見た咲良が突っ込む。


「御珠ちゃん肉焦げてる!毎年へたくそ!」


「よく焼いたほうがうまいのじゃ」


涼しい口調で返す声は、いっそ誇らしげですらある。


網の端で雪杜が紙袋を持ち上げ、勝利の証拠として見せた。


「優勝の景品も持ってきたよ。

 みんなで食べよう。八戸のお土産セット」


中身の単語に反応したのは颯太だった。

腹の底から元気が跳ねる。


「うぉ!サバとかあるじゃねーか!

 焼いてみようぜ」


「シメ鯖焼いたら作った人に失礼だよー」


雪杜は笑いながらも、そこは譲らない。


わいわいした輪の中で、駆は位置を半歩ずらした。

史の横に立つ。

人混みの熱から外れた場所で、声を落とす。


「こいつらうるさいでしょ」


目だけで輪を見渡してから、史が小さく笑う。


「ほんと、仲がいいんですね」


「まぁ、それなりに一緒にすごしてますんで」


肩をすくめるような調子で、駆が返す。

言い訳じみて、それでも誇りが混ざる。


その流れをぶった切る勢いで、咲良が紙コップを掲げた。


「先輩!打ち上げだよ!乾杯しよ乾杯!」


呼ばれた史が、少し驚いてから頷く。


「あ、はい」


コップが持ち上がる。

氷が鳴る音が重なり、その瞬間は全員の手が同じ高さにそろう。


「「かんぱーい」」


一口飲んだ直後、颯太が叫ぶ。


「最優秀賞おめでとー」


莉子の声も続く。

少し高くて、うれしさがはっきり乗っている。


「おめでとー」


颯太は首をかしげ、祝った直後に疑問を口にした。


「てか何の大会なんだ?」


雪杜は一瞬考えてから、急にノリを変えた。


「旦那、それ聞いちゃいますか?

 聞くも涙、語るも涙のむごい大会だったよ」


「おま、キャラ変わってねーか!?」


ツッコミが即座に飛ぶ。


駆が真顔で、火力のある一言を落とした。


「それは事実だ」


さらに同じ調子で史が追随する。


「事実です」


咲良は箸を持ったまま身を乗り出す。

我慢できない勢いが、そのまま声になる。


「聞いてよ。大変だったんだから」


そこから先は、言葉が止まらなかった。

二日間の話が、肉の焼ける音に混じって転がっていく。

寸劇だの、時間が足りないだの、眠いだの、最優秀賞の瞬間だの。


颯太と莉子が驚いて、笑って、時々「それ中学生にやらせるやつじゃねーだろ」と呆れる。

史は多くを語らないまま、話の流れの中で小さく頷いている。


煙が立ち上り、海風がそれをさらっていく。

騒がしくて、落ち着かない。

それでも妙に安心できる音が、浜の家の庭に残っていた。


―――


満腹の余韻が、縁側にだらりと広がる。

誰かが伸びをして、砂を払う音がした。


「ふー食った食った」


腹をさすりながら腰を上げた声に、咲良が即座に反応する。


「御珠ちゃん、莉子ちゃん、着替えよ!」


「うん!」


「妾も着替えるのじゃ」


三人が家の中へ消えていくのを見送ってから、駆は残る側へ視線を戻した。

言葉を選ぶようにして、声を落とす。


「宮下先輩は……水着、持ってきてないんでしたね」


史が静かにうなずく。


「……ええ。私はそのようなキャラではないので。

 海辺で足を付けるだけで十分です。

 留守番はおまかせください」


駆も続く。

冗談めかしながら、同じ側に立った。


「俺も残りますよ。

 俺もどちらかというとそのようなキャラじゃないので」


史の口元が、わずかに緩む。

無理のない笑い方だった。


「そうですか。では一緒にお留守番しますか」


「なんだよおまえらー。ビーチバレーやんねーのか?」


颯太が振り返って、肩越しに声を飛ばす。


駆が肩をすくめて返す。


「リア充はどうぞビーチバレーを楽しんでくれ」


「んだよーつれねーなー」


すぐに次の標的が決まる。

颯太の視線が、自然に雪杜へ向いた。


「雪杜。男2 vs 女3で対戦しようぜ。

 ちょうどいいハンデだろ」


「御珠を舐めないほうがいい」


即答だった。


「そうだ。あいつアホみたいに運動神経いいんだった」


聞き捨てならない単語に、家の中から声が返る。


「アホとは失敬じゃの。天罰をくだしてやろうか」


戸が開くと、最初に現れたのは御珠だった。


黒を基調にした水着は、装飾を抑えた落ち着いたものだった。

光を吸うような色合いで、線はすっきりしている。

露出を強調する形ではないのに、存在感がはっきり出る。

肩から背中にかけての布の切り替えが、動くたびにきれいに揺れた。


一瞬、男たちの動きが止まる。

視線の置き場が定まらない。


逸らそうとして、逆に行き場を失ったのが雪杜だった。


(破壊力すご)


遅れて、咲良の声が飛ぶ。


「まーたチロチロ見てる。

 むっつりスベケ」


続いて出てきた咲良は、ダークレッドを基調にした水着だった。

色味は落ち着いているのに、どこか活動的で、砂浜に映える。

肩紐のラインや腰まわりの配色がくっきりしていて、

本人の雰囲気とよく噛み合っている。


「こないだからひどくない!?」


雪杜の抗議は軽く、でも切実だ。


最後に、莉子が少し遅れて姿を見せた。


「どう……かな……」


青緑を基調にした水着は、涼しげで控えめだった。

派手さはないが、海と空の色に自然に溶ける。

布の質感も柔らかく、本人の落ち着いた雰囲気に合っている。


颯太が、完全に言葉を失う。


同じ瞬間、雪杜の胸にも、まったく同じ結論が落ちた。


(この三人とビーチバレーはまずいだろ。

 まともに動けない)


砂浜の向こうで、波が一つ砕けた。

夏は、容赦なく加速していく。


―――


砂浜の端に、パラソルが一本立っていた。

影が丸く落ち、そこは日差しが和らいでいる。

クーラーボックスの白が眩しい。


波の音よりも、遠くの笑い声の方が勝っている。


二人は並んで座っていた。

目の前の砂は熱を抱えたまま、静かに光っている。


遠くで、ボールの乾いた音が跳ねた。


「うおお!来た!取ったァ!」

「やった!ナイス!」

「ほれほれ、そこじゃ!」

「だから御珠、動きが反則なんだって!」

「まって、今の無理だって!」


歓声が飛ぶたび、砂が蹴られる。

細かな粒が光って舞った。

混ざろうと思えば混ざれたはずなのに、ここは別の世界になっている。


紙コップに麦茶が注がれる。

氷が鳴る音が、やけに近い。


「……先輩、飲みます?」


「……ありがとうございます」


手渡す瞬間、指先が触れた。

短い接触なのに、指の先が熱を覚える。


(触れた。……変に意識するな)


史は遠くへ視線を逃がすように、砂浜の先を見る。

楽しそうな声の束を、目で追った。


「……楽しそうですね」


「……ですね」


返事は短い。

けれど、駆の胸の中では別の言葉が動いていた。


(やっぱり混ざりたかったんだろうか)


波が寄せて、引く。

砂が濡れて、また乾く。

同じことが繰り返されるのに、遠くの五人は次々と新しい音を作っていた。


「毎年、こうなんですか?」


「いや。俺も二回目なんでなんとも。

 でも去年よりは、はしゃいでるように見えますね」


「そうなんですか」


声が途切れる。

砂を蹴る音がして、向こうの声がまた跳ねた。


「雪杜!そこ!」

「無茶言うな!」

「遅い!」

「御珠ちゃん待って!」

「もー!置いてかないで!」


そのやり取りに、史の口元がわずかに上がった。

笑いは小さいが、見逃せない。


(笑った)


照れ隠しに、駆が言う。


「……向こう、元気ですよね」


「はい」


史はひと呼吸おいてから、続きを口にする。

言葉を選ぶように、声の角を落とした。


「でも、嫌ではないです」


「よかった」


紙コップを両手で持ち直す動きが丁寧だった。

冷たさを確かめるように、指がそろう。


「私は……こういうの、得意じゃないので」


「……まぁ俺も人のこと言えないですね」


波の音がひとつ重なる。

遠くの歓声がいったん途切れ、そのとき史の声が落ちた。


「来てよかったです」


「え」


意外すぎて、反射で声が出た。

史は視線を遠くに置いたまま、続ける。


「こんな私でもここにいていいんだって……」


それは軽い言葉ではなかった。

駆の胸に、表彰の最中の光景が戻ってくる。


(先輩。あの時の涙の理由……)


史が、今度は駆の方へ顔を向けた。

視線が外れない。


「……聞きたいんですよね」


「……何のことでしょうか」


「顔に書いています」


視線を逸らしきれないまま、頬の筋肉が引きつる。

言い訳を探すのに、間に合わない。


史が声を落とす。

砂の上に置かれた紙コップの影が、ゆっくり揺れた。


「……あの時なんで泣いてたのか。ですよね」


「……はい」


「嬉しかったから、じゃダメですか?」


答えは一つに絞った。

そこから先へ踏み込めば、壊れるものがある、と悟った。


「先輩がそれでいいなら、これ以上は何も聞きません」


史が、ふっと息を吐く。

頷きは小さい。


「……いつか話します。

 時間をください」


「先輩……

 待ちます。……ずっと」


遠くから声が飛んできた。

咲良の声は、距離があってもはっきり届く。


「駆ー!史先輩ー!写真撮ろー!」


駆の体が、わずかに固まる。

史も一瞬止まって、すぐ呼吸を整える。


「……行きますか」


「先輩が嫌じゃなければ」


「嫌ではないです」


「じゃ、行きましょう」


二人が立つ。

パラソルの影から砂の上へ一歩出る。

影の縁を越えた瞬間、熱が足首へまとわりついた。


―――


日が傾いて、砂浜がオレンジに染まっていく。

海の表面も同じ色を拾い、波の筋が白くほどけた。


波音に混じって、遠くから太鼓の練習が聞こえる。

一定のリズムが風に運ばれて、こちらへ届いた。

ぼんやりしていた輪郭が、夕暮れの落ち着きの中で少しずつ形になる。


肩の力が抜けたところで、咲良がぽつりと落とす。


「……今年も集まれて、よかったね」


雪杜は海を見たまま、素直にうなずいた。


「うん。いつまで続けられるかな」


そこへ颯太が茶化して、場を軽くした。


「腹いっぱいだしな。勝ち組だわ」


「まぁ勝ち組だよね。男女混合で海とか」


莉子も笑って頷く。


御珠が胸を張り、勝ち誇るように言った。


「妾は勝者じゃ。妾の年中行事にしてやろう」


「やめて。重い」


史は視線を海へ置いたまま短く言う。

賑やかさの余韻を、喉の奥で転がすような調子だった。


「……賑やかでした」


駆は同意するように、短くうなずいた。


太鼓の音が、もう一段くっきりと聞こえる。

叩く力がそろったのか、音の芯がこちらまで届く。


「……夏祭りか」


雪杜の呟きに、咲良がすぐ返した。


「去年も同じこと言ってたね」


そのまま、軽い提案を置く。


「来週の夏祭りもみんなで集まる?」


颯太は即答しそうで、言葉を飲み込む。

視線が横へ滑った。


「んー夏祭りはパスかなぁ……」


(あ、これ……)


咲良が勢いで言ってしまう。

ブレーキが利かない速度だ。


「そ、そうだよね!二人でいきたいよね!」


「ばーろー!なんでバラすんだよ!」


莉子の肩が小さく揺れる。

視線が落ち、指先が服の端をつまんだ。


「もう……」


言いながら、口元がわずかに緩む。


咲良が慌てて場を戻す。

言葉が早口になる。


「えっと、じゃぁ個々にいこっか……

 雪杜どうする?」


雪杜が目を泳がせる。

自分の立ち位置が、急に現実になる。


「えーっと……どうしよう。三人だと目立ちそう……」


「ふふ。しれっと三人でって言ってくれるの嬉しい」


「え!?え!?そんなつもりじゃ」


御珠が、当然のように乗る。


「さすが雪杜じゃ。妾たちのことをよく分かっておる」


颯太が呆れた声を出す。

視線は砂浜の三人に向いたままだ。


「あの三人。もう隠す気ないのな」


「私たちの前だからでしょ?

 学校でもやり始めたらさすがにやばいよね」


太鼓の音を背に、三人が自然と輪になる。

話題だけが残って、しばらく続いた。


―――


「じゃぁ初日は御珠ちゃんとで、次の日が私ね」


勢いだけで言い切られて、雪杜は反応が遅れて頷く。


「う……うん……」


(なんか押し切られた)


咲良の視線が、一瞬だけ別の方向へ飛ぶ。

狙いが定まった表情だった。


「そ、そうだ!あっちで貝殻探そうっと!

 雪杜も御珠ちゃんもいこ!」


「え?なんで?」


「いいから!行くの!!」


有無を言わせない調子で、咲良が腕を取る。

御珠は一瞬考えてから、素直に乗った。


「貝殻。うむ。よいの」


咲良はそのまま、雪杜と御珠の腕を引っ張って立たせる。

砂を踏む音が三つ分、重なった。


少し離れたところで、その様子を見ていた颯太が口角を上げる。


「あーなんか二人で散歩したくなったー」


唐突すぎる宣言に、莉子は反応が遅れて乗る。


「え?あ、そうだね!散歩」


「行こう行こう!!」


返事を待つ前に、颯太は莉子の手を取って走り出す。

砂を蹴る音だけ残して、二人の姿はあっという間に遠ざかった。


気づけば、その場には二人が残っていた。


「……」

「……」


風が吹く。

パラソルの影が、ゆっくり形を変えた。


(くそ。完全に、場を作られた。

 ここまでお膳立てされたら、誘わないのが失礼か……)


言葉が出るまでが、妙に長い。

駆は一度、息を吸ってから口を開いた。


「えーっと……。

 宮下先輩……一緒に、いきませんか……」


言い終わるまで、視線を上げられなかった。


史は少しだけ目を見開く。

予想外だった、というより、心の準備が追いついていない反応だった。


(断る理由も、ない。……それに)


「はい……わたしで良ければ……」


その一言で、胸が跳ねる。

駆は思わず、言葉を噛みしめた。


(言えた。言えたけど、心臓がうるさい)


「……ありがとうございます」


波の音が、二人のすきまを埋める。

視線はまだ合わない。

それでも、肩の力がほどけていった。


流れに乗った部分もある。

けれど、史の表情はどこか落ち着いている。


(来週、夏祭り。……先輩と)


(……夏祭り。わたしが、行くなんて)


夕暮れの砂浜に、二人分の影が並んで伸びていった。


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