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神愛 ─ 永遠の刹那 ─  作者: 神愛
第1章 小学生編
27/72

第23話 修学旅行 ― 混沌の宵 ―

バスが旅館の駐車場へゆっくりと滑り込んだ。

窓の外には夜の色がすっかり沈み、静かな建物の灯りだけが柔らかく浮かんでいる。

扉が開くと同時に、湯気を含んだ温泉の香りがふわっと鼻をくすぐり、旅の終わりを優しく告げた。


颯太は、疲れがどこへ行ったのか分からないほど元気な声で両腕を広げる。


「うおおただいま旅館ーー!!風呂!風呂いこ!!」


莉子は肩をすくめ、声の圧だけで押し返されそうになりながら、小さくため息をついた。


「声大きい……」


駆は賑やかさとはまるで別世界のように、静かにスマホを覗き込み、画面の明るさとにらめっこしている。


「光量少ないと写真難しい」


そんな中、咲良は軽く肩を回し、胸の奥にまだ夜景の色が残っているのを感じていた。

煌めく街を見下ろしたあの瞬間、御珠がふと見せた“永遠の中に今日を刻む横顔”。

それを思い返すだけで、胸の奥がじんわり温かくなる。


(あー……やっぱり今日すごかったな……

 御珠ちゃんの表情がいつもと違ってた……

 “永遠”の中に“今日”が刻まれたのがわかった)


旅館の灯りに照らされたその余韻のすぐ横で、御珠は雪杜の袖をきゅっとつまんだまま、建物を見上げていた。

夜の静けさがその仕草をいっそう幼く見せる。


「雪杜。

 妾はそなたと温もりたい。

 今日という日を……湯で締めくくりたい」


あまりにも直球な言葉に、雪杜は反射的に一歩飛び退く。


「“温もりたい”って絶対勘違いされるからね!?

 ていうか風呂は男女別!!入れない!!」


御珠は不服そうに眉を寄せ、首をかしげた。


「むぅ……

 妾が中に入ればよかろう。そなたは見ぬように──」


その案は咲良によって秒速で却下された。


「ダメです。

 御珠ちゃん、それは“世界の理”が違うからね?」


御珠はしゅんと肩を落とし、つま先で地面をちょん、と突いた。


「……止められてしもうた……」


そこへ颯太が、人生がかかった声量で叫ぶ。


「御珠が男子風呂来たら男子全員終わるわ!!」


莉子も慌てたように首をふる。


「そもそもダメ……」


駆は最も現実的な未来を言葉にした。


「……炎上する……(現実的)」


それでも御珠は諦めきれないように、雪杜の袖を名残惜しげに握り直す。

その姿は“置いていかれたくない子ども”そのものだった。


「妾だけ別浴では……孤独じゃ……

 雪杜と共に入りたい……」


雪杜は困ったように眉を下げ、それでも“励まそう”という色を乗せて言葉を返した。


「女湯には咲良も森川さんもみんないるよ?

 孤独じゃないよ?」


その声は本当に優しくて、御珠を安心させたい一心なのが伝わってくる。


咲良はその光景を見つめながら、胸の奥で静かにため息をついた。


(甘えん坊モードすぎる……

 これは夜の騒動フラグ立ったな……)


夜の冷たさの中に、これから起きる予感だけがほんのりと温度を持って漂っていた。


――――


浴場の扉をくぐった瞬間、むわっとした熱が肌の表面にまとわりつく。

湯気は灯りに淡く溶け、ざわめきと水音が入り混じった“修学旅行の夜”独特の空気をつくっていた。


湯気の向こう、男子浴場の湯船では雪杜、颯太、駆の三人が肩を並べていた。

肩まで湯に沈めた瞬間、全身から一気に疲れがほどけていく。


颯太は湯面を叩きそうな勢いで全身で叫んだ。


「はーーーー!!生き返った!!」


雪杜はその横で、湯にあごを乗せるようにしながら脱力気味に声を漏らす。


「今日だけで体力全部持ってかれた気がする……」


駆はというと、テンションとは別世界の落ち着きで湯面を見ていた。

湯の揺れを観察するように視線を動かし、淡々と言葉を落とす。


「……お湯の浮力で疲れが取れる……」


颯太が振り向く。


「へー。そういうもんかね」


そんなやり取りを横目に、雪杜はゆっくりと瞼を閉じた。

夜景の中で聞いた御珠の言葉、肌に触れるたび変わる彼女の表情――

その全部がまだ胸の奥であたたかく灯っている。


(……永遠に生きる御珠の“特別な気持ち”を

 少しだけ分けてもらったような……

 そんな夜だった……)


湯の音が、心の深いところまで静かに染み込んでいく。



そのころ、女子浴場もまた柔らかい湯気に包まれていた。

明るい笑い声があちこちから響き、湯面の上で小さな波となって弾ける。


咲良と莉子は湯に肩まで浸かり、ぽかぽかした温度を楽しんでいる。

その少し離れた場所で、御珠は浴槽の端に手を置き、湯のゆらぎをじっと覗き込んでいた。


「ふむ……この“熱”は争うためのものではなく……

 身体を緩めるための……“穏”の理……」


完全に研究者の目になっている御珠に、咲良は呆れ半分で声を投げる。


「御珠ちゃん、分析じゃなくて普通につかって?」


莉子はくすっと笑い、桶を持ちながら寄り添う。


「背中……流そっか?」


御珠は首だけちょこんと動かし、莉子を見る。

湯の熱に少しほどけた表情で言うその声は、不思議なほど素直だ。


「うむ、頼もう。人の指の温度は心地よい……」


莉子は湯を掬い、御珠の背中にそっと手を滑らせる。

湯気の向こうで御珠の肩がわずかに緩み――

その静けさを破ったのは、ひとつの無防備なつぶやきだった。


「……うむ。これは悪くない。

 じゃが……雪杜の手つきの方が、妾は──」


ばしゃっ、と咲良が湯を跳ね上げた。


「わーー!!わーー!!言わなくていいから!!」


御珠の言葉の続きを止めるように、湯気がふわっと揺れる。


そのとき、湯船の端から落ち着いた声が飛んできた。


「相変わらず騒がしいわね。

 きょうは男湯に声をかけないでよ?」


振り返ると、澄香がタオルをかけ直しながらこちらを見ていた。

声音は冷静で、怒っているわけではない。

ただ“昨日の延長線上”にある注意としての言葉だった。


御珠はその声にぴたりと動きを止め、そっと瞼を伏せる。

湯気の中で、いつもの豪胆さを引っ込めたような静かさが落ちた。


「……妾は、今日は“控えよ”と決めておる」


思いがけない返答に、咲良は目を丸くする。


「え?どうしたの?」


御珠は少しだけ湯のほうへ視線を落とし、ゆっくり続けた。


「昨日、澄香に申されたゆえじゃ。

 “普通の行動をしてくれないと、みんなが困る”と。

 ……雪杜も、困ると」


湯気の音が静かに満ちる。

咲良は胸の奥でそっと息を呑み、莉子も驚いたように瞬きをした。


澄香は一瞬だけ手の動きを止め、

髪を結い直しながら、何でもないふうに言葉を返す。


「そう……ならいいわ」


淡々とした声。

けれどその横顔は、どこか昨日よりほんの少しだけ柔らかかった。


御珠は湯にそっと身を沈め、“穏”の理に包まれながら、静かに目を閉じる。


湯気がふわりと四人の間を漂い、それぞれの胸の中の距離を、昨日より少しだけ近づけていった。


――――


風呂上がりの女子部屋は、まだほんのり湯気の余韻が残っていて、敷かれた布団の上にはポテチやチョコの袋が散らばっていた。

みんな思い思いの格好でくつろぎながら、修学旅行の夜特有のゆるい空気が広がっている。


どこからともなく、伸びをしながら声が漏れた。


「は〜〜、生き返った〜〜……温泉サイコー……」


別の子が足をぱたぱたさせて笑う。


「足まだポカポカする……」


莉子は袖をくいっと捲りながら、ほっとした笑みを浮かべた。


「ふふ……お湯、気持ちよかったね……」


咲良も布団の上に腰を下ろし、天井を見上げる。


「うん。今日一日ずっと歩いてたからね。

 函館山もあったし……そりゃ疲れるよ」


誰かがぽつりと話題を出す。


「さっき男子部屋行く前さ、佐藤くん『今日撮った写真200枚超えた』って言ってたよ」


すぐに周囲の声が弾む。


「ガチ勢すぎ」

「でも夜景撮りたくなるの分かる〜」


笑いがふわっと広がる中、咲良はぼんやり天井を見つめたまま、胸の奥があたたかくなるのを感じていた。


(……御珠ちゃん、

 夜景見てるときほんとに綺麗だったな……

 “永遠の中の一夜”って顔してた……)


隣で莉子が、ぽつりと静かに言う。


「ねぇ……今日、楽しかったね」


咲良はゆっくり頷き、息を弾ませた。


「うん。

 奉行所もラッピも、路面電車も、函館山も……

 全部“修学旅行!”って感じの一日だった」


部屋のあちこちからも声が上がる。


「明日でもう終わりって信じらんないんだけど……」

「ほんとそれ……現実帰りたくない……」


その賑やかさのすぐ横で――

御珠がごろりと横になったまま、天井をじっ……と見つめて動かなくなった。


咲良が気づいて身を寄せる。


「……御珠ちゃん? どうしたの?」


だが、返事はない。


「…………」


莉子がそっとフォローする。


「今日は疲れたんだよ、きっと……

 いっぱい歩いたし……ロープウェイもあったし……」


咲良は苦笑しながら様子をうかがう。


「そうだね。

 でも、なんか……顔が“考え事モード”だな……」


部屋に一瞬、変な静けさが落ちた。

廊下の足音と時計の秒針だけが淡く響く。


御珠の指先が、布団の上でぎゅっと握られる。


咲良がもう一度呼びかけようとしたその瞬間――


御珠はむくりと上体を起こした。

その瞳に浮かんでいたのは、妙な決意の光。


「……妾、もう耐えられぬ……」


「え?御珠ちゃん?」


「雪杜の気配が遠い……!

 妾はもう……我慢ならんのじゃ!!」


咲良が跳ねる。


「ちょっ……落ち着いて!?今行ったらダメだってば!!」


だが御珠はすでに立ち上がり、布団がばさっと揺れる。


「妾は行く!雪杜のもとへ!!」


御珠は勢いそのままにスタタタッと廊下へ。

咲良もあわてて追う。


「男子の部屋だよ!?ほんとに止まってってば!!」


呆気に取られた女子たちが口を開ける。


「……え、二人とも行っちゃった……どうするの……?」


莉子は唇をぎゅっと結び、しかしその目には迷いとは別の色が浮かんでいた。


「……颯太くんいるよね……行きたい……」


小声でそうつぶやくと、覚悟を決めたように立ち上がる。


「ま、まって〜(棒)」


その気配に、他の女子たちがざわっと動いた。


「え!?そっちまで行くの!?」


そこへ澄香が勢いよく立ち上がる。


「ちょっとあなた達!!

 『今日は控えよ』はどこにいったのよ!!

 手のひら返しが早すぎるでしょ!!」


布団がばさっと揺れる。


「夜の校則違反よ!?児童会長として止めなきゃいけないでしょ!!

 というか御珠さんを野放しにしたら責任問題よ!?私も行くわ!!」


残された女子がふたり、目を見合わせる。


「どうしよう……」

「いや残ってても絶対つまんないじゃん。行こうよ」

「……うん、なんか面白そうだし!」


女子たちのテンションが一気に廊下へ雪崩れ込む。


廊下では、咲良の悲鳴が響いた。


「ちょっ……御珠ちゃん!走るの速いよ!!」


御珠は自信満々に振り返る。


「妾は神じゃぞ!!速度など自由自在じゃ!!」


後ろから莉子の声。


「ま、待ってぇぇ……!」


澄香は頭を抱えながら叫んだ。


「誰がこの暴走を止めるのよッ!!」


「これ絶対怒られるやつだよね!」

「でも行く!!」


――こうして、

女子六名による男子部屋への大移動が始まった。


――――


男子部屋では、輪になって座った六人がトランプを囲んでいた。

布団を寄せて作った即席のテーブルの上でカードが滑り、笑い声や悔しがる声が交互に跳ねている。

風呂あがりの熱がまだ残っていて、空気はどこかふわふわしていた。


その瞬間だった。


襖が、まるで外側から風が押し込んだかのように勢いよく開く。

部屋全体が一拍で静まりかえる。


「雪杜ぉ!会いに来たのじゃーー!!」


御珠の声が真っ直ぐ突き刺さり、男子たちは一斉に固まった。

誰からともなく「あれ?」「え?」という声が漏れ、次の瞬間には場の全員が驚きに目を見張った。


「なんで!?なんで来た!?」

「……女子部屋にいたはずじゃ……?」

「これ絶対ダメなやつだよ……!」


雪杜だけが真っ赤になりながら腰を浮かせる。


「み、御珠!?どうして……っ!」


その後ろから息を切らした咲良と莉子、そして澄香が飛び込んでくる。


「御珠ちゃんダメだよー!ほんとにダメなやつだよー!」

「だよー……?ねぇ、ダメだよー……?」

「こら!待ちなさいって言ってるでしょ!!部屋に戻るの!!」


その騒ぎに吊られて、廊下にいた女子たち数名も半ば勢いで部屋へ滑り込んできた。

場の空気が一瞬で混ざり合い、男子たちの視線がわたわたと揺れる。


「えっ……全員来た……?」


御珠はそんな混乱など意に介さず、当然のように雪杜の隣へ座り込む。

ラフな部屋着の裾をちょんと整えながら、

まるで“そこが自分の場所だ”とでも言いたげに腰を下ろした。


「妾も混ざる。雪杜の隣が妾の定位置じゃ」


「いや、御珠……ここ男子部屋……」


雪杜の戸惑いは、御珠の満足げな表情に一切届いていない。


その横では、莉子が何食わぬ顔で颯太の隣にすべり込み、「わ、トランプだ〜」と声のトーンを上げて座った。


颯太は唐突な嬉しさを隠せず、照れくさそうに笑う。


「いいじゃんいいじゃん、みんなでやろーぜ!」


莉子の頬はほんのり赤い。


(颯太くんの隣……近い……)


その小さな心の揺れは誰にも気づかれないまま湯気のように溶けていく。


御珠は胸を張って宣言した。


「妾は雪杜と組む!」


「組むって何の宣言……?」


咲良は困ったように眉を下げ、それでも床へ自然に座ってしまう。


「えー……(でも、楽しそう)」


女子たちも次々に輪へ加わり、男子たちはこの状況に戸惑いながらも、どこか浮足立った空気が部屋の中に満ちていった。


澄香だけが最後まで踏みとどまっていた。


「だ、だから言ってるでしょ!!ダメって言ってるの!!

 こんなの先生に見つかったら──」


透が落ち着いた声で遮る。


「まぁまぁ、1ゲームだけだから。

 澄香もほら……座りなよ」


「……っ、わ、私は別に……その……!」


「やりたいんでしょ?」


一瞬、澄香の瞳が揺れた。

彼女は思い出す。

今朝“多少のことには目を瞑る”と自分で心に決めたばかりだった。


(これ……多少の範囲……?いや……どうなの……?)


逡巡が一度胸を横切り――

はぁ、とひとつ息を落とす。


「……1ゲームだけだからね」


男子たちの驚きがふわっと部屋中へ広がる。


「えっ!?マジで!?委員長……どうした……!?」


「だから!私はもう委員長じゃないってば!!」


透が静かに笑いながら場所を空けた。


「はいはい、座って」


澄香は渋々腰を下ろす。

しかしその頬はほんのりと熱を帯び、隠しきれないワクワクが指先の動きを軽くしていた。


こうして、男子部屋の真ん中に、謎の十二人トランプ大会が幕を開けた。


男子たちの胸の中には、


(こんな修学旅行ある……?)


という動揺が渦巻き、

女子たちの胸の中には、


(……なんか楽しい……)


という淡い高揚がひっそりと灯り、

御珠はただ、


(雪杜の気配が近い……安心する……)


という満ち足りた感情を抱きながら雪杜の袖に指を添える。

雪杜だけが、


(なんでこうなったの……??)


と頭を抱えたまま、トランプを切る手を震わせた。


夜はまだ、少しだけ続く。


――――


部屋の中央に広げた布団の上では、十二人が円になり、もはや小学生の集団というより小さな祭りの渦のように騒ぎが広がっていた。

交わる声が絶えず跳ね、笑いと熱気が布団と壁にこもっていく。


「はい! 揃ったー!」


颯太がカードを叩きつけるように叫ぶと、周囲から歓声とも悲鳴ともつかない声があがる。


「早いよぉ〜ずるい〜〜」


莉子が頬を膨らませ、その横で咲良がカードを握りしめる。


「わ、私あと一枚……!」


駆は相変わらず淡々とした声で感想だけを落とした。


「……しれっと強いな、春原さん」


輪の外側からは、はしゃぐ声が重なる。

誰が言ったのか分からないまま、ただ空気として弾む。


「超楽しい……」

「修学旅行、最高すぎる……!」


笑いが続く中、透が雪杜の肩をとんと軽く押した。


「雪杜、ほら。出番」


「あ、えっと……これ……」


雪杜は控えめにカードを出すが、その瞬間御珠が乗っかるように割って入る。


「雪杜、よくやった!妾が高得点に導くぞ!!」


「なんのゲームだよそれ!?」


周囲が一斉に突っ込む。


颯太が笑いながら御珠を覗き込む。


「御珠、これルール分かってんの?」


御珠は胸を張る。


「うむ。“数字の神”として把握しておる」


「そんな神いるんだ……」


駆のぼそりとした声に何人かが吹き出す。


咲良が御珠のカードを覗き込みながら指摘する。


「御珠ちゃん、それ違うとこ出してるよ〜」


「ぬ!?雪杜!妾を導け!!」


「なんで僕!?」


雪杜の悲鳴に近い声が笑いと混ざり、部屋の空気はさらに熱を帯びた。


その裏側では、莉子がそっと目線を横に送る。

颯太の手元でカードをシャッフルする音が、妙に耳に残っていた。


「颯太くんのシャッフル……なんかかっこいいね……」


「だろ〜?」


得意げな笑みを浮かべる颯太。

その距離の近さに、咲良の胸が微妙にざわつく。


(莉子ちゃん……大胆……)


笑う者、跳ねる者、カードを拾いに布団の上を転がる者。

男子も女子も入り混じって、部屋は完全に修学旅行の夜のピークを迎えていた。


ガヤガヤとした声が壁を振動させ、廊下にまで熱気が漏れ出している。


そのときだった。


ふいに、外から一定のリズムで足音が近づいてきた。


コツ……

   コツ……

      コツ……。


咲良がぱちりと目を上げる。


「……え?」


透も静かに顔をあげた。


「足音……」


駆は誰よりも冷静に呟く。


「……先生の、だね……」


颯太が跳ねるように立ち上がりそうになる。


「やっべ!!!」


部屋の空気が凍りつき、十二人分の息が一瞬にして詰まる。


「……っ……!?」


声にならない衝撃が、波のように場全体を包み込んだ。


誰一人名前を呼ばれなくても、神一柱を除く全員が同時に理解していた。


終わったかもしれない。


ただひとり、御珠だけは場の緊張とは無縁の顔で、「ふむ……?」と首をかしげていた。

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