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神愛 ─ 永遠の刹那 ─  作者: 神愛
第1章 小学生編
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第20話 修学旅行 ― 神、五稜郭に立つ ―

朝の光は、まだ眠っている部屋をそっと撫でるように差し込んでいた。

薄いカーテン越しの白さが畳の上にゆっくり広がり、静かな寝息を淡く照らしていく。


布団の中央では、咲良と御珠が昨夜のままの姿で寄り添って眠っていた。

咲良の胸元に御珠が小さく顔をうずめ、滴るようにしがみついている。

その抱きつき方は、神だの理だのと言っていた存在とはとても思えないほど、子どもめいて素直だった。


最初に動いたのは、澄香だった。

上体を起こし、伸びと一緒に布団の方へ視線を向け──そこで固まる。


(……え、ちょ……なんで抱き合って寝てるの……!?

 けど……かわ……かわいい……)


胸の奥をちりっと焦がすような熱が広がり、思わず息が詰まる。

その甘い揺れと同時に、昨夜の記憶が容赦なく蘇る。


御珠とのぎすぎすした言い合い。

部屋の空気が固まってしまい、誰も本当の“修学旅行の夜”らしいことができなかった空気。

自分が張り詰めた正しさで、全部を押し潰してしまったような感覚。


澄香は唇を噛む。


(……はぁ……結局悪いことしたのって……御珠ちゃんじゃなくて……私の方……

 あんなに言わなきゃよかった……)


そのとき、御珠が胸の奥から引きずり出されるような寝言をもらした。


「……ゆき…と……さくら……どこへも……行くでない……」


ただの寝言なのに、聞いているこちらの胸の芯を直接刺してくるような声音だった。

頼るとか弱るとか、そういう言葉を知らなそうな子が──誰かを必死に求めている。


(……うわ……

 御珠ちゃん、こんなふうに誰かを求める子だったんだ……

 なのに私……空気ぶっ壊すだけで……

 せっかくの修学旅行の夜っぽいこと、何もできなかったし……)


じくり、と罪悪感が沈む。

その間にも、隣では咲良の胸にすっぽり収まった御珠が、少し動いてはまた寄り添っていた。


澄香は拳を小さく握りしめる。

その握り方は、意地ではなく、覚悟の形に近かった。


(……今日こそは……

 今日くらいは、楽しむ側に回ろう……

 多少のことに目を瞑ってでも……)


けれど同時に、自分が“曲げられない”性格だということも、誰より自分が知っている。

理屈や秩序を前にすると、つい言いすぎてしまう自分。

それでも──今日は変わりたいと思った。


ほんのかすかな決意を胸のどこかへそっとしまい、澄香は布団に近づき、咲良と御珠の肩にかけ直すようにそっと整えた。

二人を起こさないよう、丁寧に、静かに。


そして背筋を伸ばして立ち上がると、誰にも気づかれない小さなため息を落とし、そっと部屋の空気に背を向けた。


昨夜の痛みと、今日への願いを抱えながら。


――――


朝食会場は、ほんのり湯気が立つような温かい匂いに満ちていた。

ざわざわした声と食器の音が混ざり合って、“修学旅行の朝”という独特の明るさが漂っている。


その一角で、雪杜はぽつんと席に座っていた。

まだ目元が眠そうで、瞬きをするたびに昨夜の疲労が残っているのがわかる。

男子たちに散々いじられた影響か、肩がどことなく脱力している。


そこへ女子組が揃って到着し、空気がぱっと色づいた。

御珠が雪杜を見つけた瞬間──花みたいに表情がひらく。


「雪杜……!無事か……!?」


あまりに真剣な声に、雪杜は逆に困ったように眉を寄せる。


「いや、無事だが……?」


その少し後ろで、咲良がそっと席に着く。

ほんの数分前まで御珠を抱きしめていた余韻が、まだ胸の奥に柔らかく残っていた。


(……御珠ちゃん、朝から甘えん坊スイッチ入ってる……

 でも、その甘さを受け止める雪杜くんの顔……なんか……優しい……)


御珠は当然のように雪杜の隣に座り、息が触れ合うほど近い“いつもの距離”を確保する。

その自然さは、見ている側のほうが落ち着かなくなるほどだ。


雪杜は戸惑いながらも、押しのけることはしない。


「昨夜そなたの気配が薄くてな……妾は心配で眠れぬかと思うたわ」


「薄いのは……別部屋なんだから仕方ないよ……」


ふたりのやり取りは、咲良にとってはもはや見慣れた光景なのに──今日は胸が少しだけざわめいた。

昨夜の“あの事件”が、不意に脳裏をよぎる。


御珠の「白い布の動画をよく見ておる」発言。

際どいパンツ問題。

あの、“パーは雪杜の前限定”という謎の約束。


(……雪杜くんも……やっぱり男の子なんだ……

 あの時、一瞬だけ……どきってした……)


普通なら「は?キモ」で一蹴できそうな場面なのに、頬の内側がじわじわ熱くなる。

惚れた弱みというやつが、容赦なく胸を撃ってくる。


そしてその変化を、雪杜はすぐ察してしまう。


「咲良……?顔赤いよ?」


「っっ……!え、えっと……なんでも……ない……!」


声が震えたその隙を、御珠は逃さない。


「咲良よ。雪杜を見ると“胸の温度”が上がるのじゃな?」


「言い方ァァァ!!」


テーブルが一気にざわつく。


「胸の温度って何の話?」

「朝からなにやってんだあの三人……」

「もう!一瞬でも静かにできないのかしら!」


周囲の呆れ声を背景に、雪杜まで真っ赤になり、指先をもじもじさせる。


「御珠、ほんとに……朝は静かにして……」


「静かにしておる。妾は真理を述べただけじゃ」


……それが静かかどうかは別問題だった。


(……御珠ちゃん、やっぱり容赦ゼロ……

 でも……雪杜くん、赤い顔してる……

 その顔見てると……なんか……また胸が……)


胸の奥がじんわりと熱を帯びる。

“意識”という言葉が、静かに形を持ってしまう。


やがて班の六人が揃い、賑やかさの中で朝食が始まった。

バイキングには並びきれないほどの皿が並び、御珠は目を輝かせる。


「これほどの膳を、心ゆくまで選べるとは……今日は朝から正月かの?」


その言い方が妙に説得力を持って聞こえて、咲良は思わず吹き出しそうになった。

豪華な食事はだいたい正月らしい──御珠の価値観は、地味に子どもっぽいのにどこか神様っぽい。


あわただしい朝なのに、その言葉ひとつで空気が少し弾む。

“やっぱりこの六人なんだな”と、咲良は胸の奥でそっと思う。

今日の旅行への期待が、またひとつ小さく芽を伸ばした。


――――


バスの扉が開いた瞬間、ひんやりと澄んだ空気が頬を撫でた。

朝の五稜郭公園は、広さゆえの静けさがあって、まるで旅の一日を深く吸い込んで準備しているようだった。


雪杜たち六人は、他クラスと合流して石田の号令で列に並ぶ。

そのざわめきの中で、御珠だけは足元の大地にそっと意識を向けるように立っていた。


「……ふむ。この場には長い争いの痕跡が残っておるな……」


さらりと漏れた声が風に溶け、雪杜は慌てて袖を引く。


「御珠、声小さく……!」


咲良はその様子を横目に見ながら肩をすくめる。


(御珠ちゃん、歴史的な場所だと毎回なにか感じちゃうんだよね……

 普通はただの観光地なんだけどなぁ……)


一方、颯太は堀を覗き込むほうに心が全部向いていた。


「魚いるかな……」


「……声小さく」


駆が淡々と突っ込むが、やっぱり颯太は気にしない。


ガイドさんの説明をひととおり聞いたあと、いよいよ展望台へ向かうエレベーターへ案内される。

その前で、御珠がきゅっと目を輝かせる。


「星の姿、上から見たいのじゃ」


「あ、うん……」


雪杜がちょっと押され気味に返す横で、莉子が緊張した声を落とす。


「展望台……高いかな……?」


「高いほどテンション上がるだろ!!」


颯太の全開テンションに、莉子は思わず笑ってしまいそうになる。

その空気のまま、エレベーターが上昇して──扉が開いた。


光が、視界いっぱいに広がる。

星形の堀と緑のラインが、くっきりと“星”の形を描いていた。


「うわあああああ!!!マジで星だ!!」


颯太の歓声が展望室に響く。

莉子は目を丸くしながら、息を整えるように言った。


「……きれい……ほんとに……星形……」


駆も淡々としながら、どこか嬉しそうに写真を構える。


「……これは写真映えする……」


御珠はガラスに近づき、ゆっくりと地上を見下ろした。

その目がわずかに揺れ、息を呑む。


「……人の子が……これほど大きな“形”を地上に刻むとは……

 理を超えた執念じゃな……」


「執念って……まぁ確かに、ここまでのものを作るのはそうかもしれないね」


雪杜が苦笑まじりに返すと、咲良が説明パネルを指でなぞりながら言葉を落とす。


「ここで、戦争が行われたのか……

 御珠ちゃん。こういうのって……見てきてないの?」


御珠は堀と空の境界を眺めながら、ゆっくりと呼吸をひとつ置いた。


「妾は“世界のすべて”を見ているわけではない。

 人の営みは枝分かれが多すぎての……

 妾が意識を向けた場しか、鮮やかには視えぬ」


その声には、遠くまで響くほど静かな深さがあった。


「ただ……ここに刻まれた痛みや願いの“残滓”は感じる。

 人が恐れ、抗い、守ろうとした心の音……

 それだけは、時を越えてなお残っておる」


「残るんだ……そういうの」


「……うむ。

 もし妾が“すべてを見通す存在”であったなら──

 そなたらの“今”を、これほど大切だとは感じなかったじゃろう」


「えっ……?」


御珠はふわりと微笑んだ。

その微笑みは、地上の星型よりもずっと柔らかかった。


「限りある者の歩みは、一瞬ひとときごとが宝のように光る。

 妾にとっては、それが何より尊いのじゃ。

 だからそなたらが今日ここで見て、感じて、笑っている“今”は──

 妾にとっても新しい刻なのじゃよ」


「……御珠……」


雪杜の胸の奥に、あたたかい痛みのようなものが落ちる。

その横で咲良は、御珠を見つめながら胸を押さえた。


(……御珠ちゃん……

 夜はあんなに甘えん坊だったのに……

 急に神様みたいな顔するの、ずるい……胸の奥が、熱くなる……)


御珠は再び窓の外へ視線を戻し、静かに星形の大地を見渡した。

その姿は、旅を楽しむ少女であり──同時に、時を越える神でもあった。


――――


タワー下の広場は、朝の光と観光客のざわめきで賑やかだった。

パンフレットを持つ手に風がふわりと触れ、ページが勝手にめくれる。

その中に六年生全員がまとまり、色とりどりのリュックがひと塊になって揺れている。


石田が両手を叩くと、空気が一気に“先生の時間”へ切り替わった。


「はーい、こっから自由行動な!集まれー!」


わらわらと子どもたちが並び、班ごとの小さな輪が自然にできる。

天野ファミリーの六人も、流れに合わせてその輪へ吸い込まれていった。


「まず行動範囲!

 五稜郭と本町エリアの“徒歩圏内”だけだ。

 勝手に海のほうとか行くなよ!」


「「はーい!!」」


返事が揃うと同時に、風がまた紙を揺らした。

修学旅行の始まりを祝福しているようだった。


「それから市電は必ず“五稜郭公園前”から乗ること。

 駅に先生がいるから、点呼して乗れよ。

 降りるのは終点の“湯の川”。逆方向に乗るんじゃないぞ」


御珠が小首をかしげる。


「点呼とは何ぞ?」


「……人数確認……」


雪杜がそっと耳打ちするように教えると、御珠は「なるほど」と頷いたが、理解したかどうかは怪しい。


石田は続ける。


「湯の川まで三十分くらいかかる。

 だから15時30分までには必ず乗るように。

 遅れたやつは函館山に連れていかないからな!」


颯太が肩を跳ねさせる。


「やっべ!時間厳守で!」


莉子は別の心配を漏らした。


「ラッピ、混みそう……」


石田は最後に手短な注意を加える。


「駅から宿までは徒歩で五分だ。

 なんかあったらその場から動かず、先生の携帯に電話! いいな!」


「「はーい!」」


六年生の声が揃って空へ響く。

その瞬間、広場の空気がぱっと軽くなった。

“もう解き放たれたんだ”という、自由行動特有の解放感があたりに広がっていく。


石田が手を振りながら締めくくった。


「よし。班ごとに気をつけて行ってこい!」


その言葉を合図に、子どもたちが一斉に散り始める。

足音が重なり、笑い声があふれ、旅の一日が勢いよく動き出した。


――――


「解散!」の合図が響いた瞬間、あたりの空気がほどけたように子どもたちが散っていく。

五稜郭公園の木々がそよぎ、初夏の気配を含んだ風が頬を撫でる。

ざわつきと期待が混ざった“自由行動の匂い”が広がっていく。


その中で、颯太が最初に口火を切った。


「まずどこ行く!?ラッピ行く!?ハンバーガー!!」


勢いだけで未来が決まりそうな声に、咲良が慌てて制動をかける。


「食べる前に……奉行所寄らない?すぐそこだし」


「行きたい!あれ、綺麗に復元されてて江戸時代にタイムスリップしたような感覚になれるんだって」


莉子の声は、期待とちょっとした緊張が混ざっていた。

駆は冷静に補足する。


「……写真も撮れそう」


御珠は巨大な和風建築が見える方向をじっと見つめ、きょとんとした顔になる。


「“奉行所”とは何の館じゃ?

 奉る……行う……牢屋か?裁きの場か?」


「……まぁ、半分合ってる。説明すると長いから、見たほうが早いよ」


雪杜が苦笑して返すと、御珠は妙に素直に頷いた。


「うむ、見て学ぶのはよいことじゃ。

 妾、牢があったら入りたい!」


「入れません!!」


咲良が全力で否定する横で、雪杜も困ったように声を上げる。


「え、なんで入りたいの!?牢屋に!?」


莉子は小声で笑いながら、ぽそっと言う。


「……御珠ちゃん、かわいい……」


駆は真面目に注意を添える。


「奉行所の中でふざけたら怒られるよ……」


御珠は逆にわくわくが増したらしい。


「ふざけたら牢に入れるかの?」


「牢には入れないけど……注意はされると思うよ」


返しながらも、雪杜は御珠の思考回路の読めなさに頭を抱える。


そんなやりとりの最中、御珠は興味津々で奉行所の方向へすたすた歩き出した。


「参るぞ、雪杜!そなたも来い!」


「待ってってば!勝手に行かないでよ!」


颯太が声のボリュームを上げて追いかける。


「よーし!奉行所探検だー!!」


莉子は急ぎ足になりながら注意する。


「走らないで……!」


駆は案内板を指さし、淡々と情報を共有する。


「……案内板の地図あるよ」


六人の足音が、木道の上で軽くきしんだ。

周りでは観光客のカメラのシャッターが時折響き、日常と観光地の音が混じり合う。


咲良はその光景を見つめながら、ふっと笑みをこぼした。


(ほんと御珠ちゃんといると飽きないなぁ)


木漏れ日の下──“神が混じった修学旅行”の一歩目が、確かに始まっていた。


――――


奉行所の入口をくぐった瞬間、外のざわめきがふっと途切れた。

風の音も、人の声も、建物の中ではなめらかに吸い込まれていく。

木の床が「ぎっ」と控えめに鳴り、古い柱に落ちる光があたたかい。

時間の流れがゆっくり降りてくるような静けさだった。


「……すごい綺麗……

 木の香りもいいなぁ……」


咲良が息を落とすと、莉子も小さくうなずく。


「うん……落ち着く……」


駆はすでにスマホを構えて、梁や影を丹念に追っていた。


「光、いい……梁の影が……」


そんな静かな立ち上がりを、颯太の声が軽く破る。


「なにこの和風テーマパーク!

 牢屋どこ!?剣とかないの!?え、刀!?」


「刀は展示でしか見れないよ。牢屋は復元されてないってば!」


咲良がすぐ制止するものの、颯太のテンションは完全に探検モードだ。


一方で御珠は、天井を見上げたまま動かない。

まるで木組みの“呼吸”を聞いているみたいに。


「……これは……人が手で組んだ“理のみや”じゃな……

 木の一本一本が互いを支え、力を分け合って立っておる……」


雪杜はその横顔を見て、そっと声を向ける。


「宮……っていうより、僕から見ると“歴史の建物”なんだけど……

 御珠にはそんなふうに見えるんだね」


「うむ。人が“理を刻んだもの”はすべて宮じゃ」


咲良は心の中で素直に息を呑む。


(ふ……深い……)


御珠は足元の板に目を落とし、空気の流れを探るように指をかざした。


「……ふむ。この“場”には、時が重なっておる。

 建物そのものは新しきものでも……

 ここで人が争い、願い、守ろうとした“理”は……

 まだ地に残っておるのじゃ」


雪杜が少し身を寄せて尋ねる。


「……建て替えられても、残るんだ……?」


「理とは物ではない。

 “意志”じゃ。

 人の意志は、場に刻まれる」


(……すご……神目線……)


咲良の胸に、静かなざわめきが広がる。

莉子もそっと感嘆を漏らす。


「……なんか……すごいね御珠ちゃん……

 普通の場所じゃないって感じがする……」


颯太はというと──


「俺、何も感じない!

 歴史のテスト30点だからか!?」


「それは関係ないんじゃ……」


莉子が優しくツッコミを入れる。

駆は御珠の指先と柱の距離感を見つめながら、ひょいとカメラを向けた。


「……静かで……絵になる……」


そのタイミングで、案内のスタッフが歩いてきた。


「あ、走らないようにお願いしますね〜」


「は、はい!!」


颯太だけが反射的に返事をする。

御珠は案内人の顔をまじまじと覗き込み──


「そなた、この宮を守る者か?」


案内人は一瞬だけ固まり、ひきつった笑顔を見せた。


「え……えっと……スタッフです!」


「御珠、やめて恥ずかしい!!」


雪杜が慌てて止めるが、咲良はその光景に胸をつかまれていた。


(……御珠ちゃんが“神の顔”すると、奉行所が一瞬だけ違う世界に見える……

 ちょっと……いや……かなり綺麗……)


六人はさらに奥の畳の広間へ進む。

畳の香りと木の匂い、差し込む柔らかな光が混ざり合い、息をするだけで心がゆっくり整っていく。


その中で、御珠がふいに振り返り、雪杜の袖をそっとつまんだ。


「雪杜。

 そなた、人の作ったこの宮……どう思う?」


雪杜は足を止め、少しだけ考えてから答える。


「……すごいと思うよ。

 昔の人が、理由があって、必死に作った建物なんでしょ。

 なんか……ちゃんと意味がある感じがする」


御珠はそれを聞いて、光の粒がふっとこぼれるように微笑んだ。


「うむ……

 そう感じるそなたが……妾は好きじゃ」


咲良の胸がぴくりと跳ねる。


(またいちゃついてる……

 隙あらばいちゃつくんだから……

 私も周りに気づかれないようにこっそりアピールしなくちゃ!)


駆が次の展示へ指を向ける。


「次の部屋、光が綺麗だった」


「牢屋無いの!?ほんとに無いの!?」


颯太が未練たらたらで叫ぶ。


「牢に入りたい妾の気持ちは……まだ消えておらぬ……」


「消して!!」


木の床がきゅっと鳴り、奉行所の静けさがまた六人を包み込んだ。

その静けさの奥には、神と人がほんの少し近づいた温度が、確かに息づいていた。

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