第19話 修学旅行 ― 心まで湯あみにほどけて ―
夕食を終えたばかりの廊下は、まだ湯気のようにあたたかい喧噪を引きずっていた。
男子たちの足取りは軽く、胸の奥には食べ終えたばかりの満足感が残っている。
颯太は腹をさすりながら、歩きながらでも元気が抜けない。
「はーー食った食った!!肉めっちゃうまかったよな!?あれ追加ないの!?!?」
すかさず駆が淡々と刺す。
「……あれに追加があったら修学旅行の予算がなくなる」
「えー……」と伸びる颯太の声に、雪杜は小さく笑って肩をすくめた。
「颯太はずっと元気だな……」
その言葉に火がつくように、颯太が振り返りながら手を上げる。
「よし!じゃあ風呂行こうぜ風呂!裸の付き合いと行こうじゃないの!」
周りの男子たちが勢いよく応じる。
「おーー!!」
その輪の中心に自然と雪杜も巻き込まれる。
こんなふうに“みんなと風呂へ行く”という日常が、自分にも訪れるなんて――
胸の奥で、ふわりと嬉しさみたいなものがひらく。
(皆とお風呂とか初めて。あっ、大きいお風呂も初めてだった)
慣れない期待に頬が少しだけ熱くなる。
「じゃあ、行くぞ!!」
颯太が先頭で腕を振り上げ、勢いよく号令をかける。
雪杜は照れを隠すように、しかし確かにうれしそうな声で応じた。
「お、おー……」
――――
脱衣場を抜けた瞬間、もわっとした湯気の温度が肌を包む。
湯面が揺れ、明るい声が響き、浴場全体が修学旅行らしい熱で満ちていた。
ザパァァ……と湯船に肩まで沈むと、身体の芯が一気にほどけていく。
「く〜〜〜〜〜!!生き返る〜〜!!」
颯太の素直すぎる叫びが天井に反響する。
「走るなって言ってるだろ!」
近くの男子が注意しつつも、どこか楽しげだ。
広い風呂場はむしろ賑やかさを歓迎しているようだった。
雪杜は湯に沈んだ肩をすくめ、少し困ったように言う。
「ほんとに走らないでよ……転んだら痛いよ……」
そんな中、駆が壁の方をじっと見ながら小声で漏らす。
「……壁の向こう、なんか騒がしくない?」
透が肩をひとつ揺らし、淡々と返す。
「まあ、御珠さんがいるからね……」
その瞬間――
“来るぞ”と誰もが薄々思った直後だった。
壁の向こうから、空気を震わせるような声が落ちてくる。
「雪杜ーー!!湯加減はどうじゃーー!!?」
「っっっ!?!?!?」
耳まで真っ赤になった雪杜が、反射的に湯を跳ね上げた。
男子たちの悲鳴と笑いが一気に爆発する。
「うおおおお!?」
「御珠さんこっちに話しかけてきた!!」
「漫画でしか見ないやつ!」
雪杜は両手で壁を押さえつけるようにして、あわてて叫んだ。
「や、やめて御珠ーー!!聞こえるから!!
みんな聞いてるから!!」
御珠の声は、遠慮という概念を見事に踏み越えてくる。
「良いではないかー!
妾はそなたが気になって仕方ないのじゃーー!!」
「おまえら仲良すぎだろーー!!!」
颯太は大喜びで湯をバシャバシャ叩く。
雪杜は、声のトーンがすとんと低く落ちた。
「だ、だからヤメロって言ってんだろ!!」
駆がじいっと雪杜の顔を見て、ぽつり。
「声低ッ。夫モード」
「おいおい……雪杜……“リアル夫婦漫才”やめてもろて?」
颯太がニヤつきながら肩をどつく。
湯気の向こうで笑いが弾け、初夏の夜とは思えないほど浴場の空気はやわらかかった。
――――
湯船から出ると、脱衣所の空気はひんやりしていて、ほてった肌に気持ちいい刺激を残した。
髪を拭う音、タオルが擦れる音、男子たちの笑い声――
それら全部が“修学旅行の夜”という特別な温度を帯びている。
「いや〜、さっきの御珠は破壊力やばかったな〜!」
颯太は笑いながらタオルを肩にかける。
「毎回やばいけど今回は格別だよね……」
透の苦笑は半ば呆れ、半ば楽しげだ。
駆がそっと覗き込むように雪杜へ声をかける。
「天野、大丈夫だった……?」
「だ、大丈夫……じゃない……」
雪杜の弱々しい声に、周りの男子が悪びれない笑いを上げた。
「夫婦漫才、面白かったぞーー!」
「だから夫婦じゃないってば!!」
雪杜は真っ赤になって言い返すが、説得力はない。
透が軽く肩を揺らして言う。
「……でも伴侶宣言してるでしょ?」
「そ、それは……!」
曖昧に揺れた声を聞いて、透は魔法のように薄く笑った。
「……ふふ。まあそれはこの後、たっぷり聞かせてもらおうか」
途端に颯太がタオルをばっさばっさ振り回しながら叫ぶ。
「よっしゃ!じゃあ部屋戻ったら“本日のメインイベント” いくぞ!」
「え?メインイベント?」
雪杜が固まる。
その反応がもう“巻き込まれる未来”を示しているようで、男子たちはさらに盛り上がる。
廊下には、風呂上がりの少年たち特有の、熱と笑いの気配が長く尾を引いていた。
――――
男子部屋に戻ると、畳の匂いと布団の山が、修学旅行の“夜”そのもののように広がっていた。
まだ風呂上がりの熱が頬に残り、湿った髪を払いながら輪になって座ると、緩んだ空気は一気に騒がしさへ転じていく。
颯太はカードをばらまく勢いで立ち上がり、開幕宣言をぶち上げた。
「はーい!“天野夫婦・夜の営み暴露大会”再開なーー!!」
「名前がひどい!!やめて!!」
雪杜が悲鳴のように叫ぶが、男子たちは聞く気などさらさらない。
「お前ら伴侶なんだから別にいいじゃん」
「はいはい公認公認」
「御珠さん今日も“夫じゃ”って言ってたしな」
まわりの軽いノリが、布団の上で跳ねるように弾む。
「言ってない!“伴侶じゃ”だよ!!意味が違う!!」
必死の訂正も、透がやたら冷静に刺す。
「意味そんな変わんないだろ……」
「え、えぇと……僕は……見てるだけで……いいかなぁ……」
雪杜の弱気な逃げ腰は、むしろ火に油だ。
「そりゃないぜ旦那!!」
颯太の昭和ノリが畳の部屋に響き、男子全員が爆笑で揺れる。
透はカードを扇形に持ちながら、教師みたいな口調で指差した。
「はい天野、逃げない!そこ座る!」
駆も姿勢を少し正し、静かに追い打ちをかけた。
「1対5じゃ逃げられないよ。もう受け入れた方が楽」
部屋の端から端まで、雪杜の居場所はどこにもない。
「さ、佐藤くんまで……際どい質問は拒否権を行使してもいいなら……」
その控えめな抵抗に、颯太がやけに寛大な顔でうなずく。
「まあ、そのくらいは許可すっか〜」
(絶対ろくな質問来ないじゃない……)
雪杜の背筋が自然とこわばる。
そして悪魔の追撃が続く。
「僕、他の班にも声かけて“聞きたいランキング”集めてきたからね」
透は妙に誇らしげにカードを切った。
「えっ!?それって他の班にもバラすの前提!!?ひどくない!?」
叫びは虚しく吸われるだけだった。
颯太はカードを切りながら満面の笑み。
「じゃあいくぞ!最初はババ抜きでいっか。
最初に抜けたヤツがビリに質問な!」
瞬間――
円の内側に集まった男子六人の瞳が、異様な輝きで揃った。
地獄のババ抜き大会が開幕した。
カードがめくられるたび、笑いが弾け、叫びが飛び、負けた者には容赦なく“一問一答の審判”が降りかかる。
――――
カードが一枚場に落ちるたび、空気がじわっと熱を帯びる。
最初の“敗者”が決まった瞬間、男子たちが獲物を見つけた獣のように身を乗り出した。
「透!好きなタイプは?」
颯太の問いは、軽いジャブというよりは肩慣らしの投球だ。
透はカードの角をいじりながら、特に照れるでもなく、ただいつもの落ち着きで答えた。
「……普通の子。はい次」
それだけ。
それ以上語る気がまったくない。
まわりの男子たちが一斉に叫ぶ。
「つまらん!!」
文句のわりにみんな笑っていて、部屋はすでに良い感じのぬるま湯だ。
次に敗者となった駆へ、周りの男子がすかさず核心へ切り込む。
「佐藤くんはさー、御珠さんどう思ってる?」
部屋のざわめきがほんの一瞬だけ収まる。
駆は膝に肘を置いたまま、少し視線を下げて答えた。
「……天野に合ってると思う。
……二人とも、ちゃんと“相手の中心”を見てる」
その静かな言いぶりは、場を騒がせるどころか逆に空気を澄ませてしまう。
「……言い方がプロ」
透が思わず呻くようにこぼし、部屋に妙な感心が広がる。
近くの男子が不満げに眉を寄せた。
「えーそういう意味で聞いたんじゃないんだが!」
雪杜は顔の熱を抑えられず、両手で頬を覆った。
「なんか恥ずかしいからやめて!!」
駆の言葉は真剣すぎて、逆に雪杜の羞恥を煽る結果になった。
そして満場一致で狙われる男――雪杜、敗北。
部屋の温度が一段上がる。
雪杜が最後のカードを引いた瞬間、全員が互いに顔を見合わせ――
ほぼ完璧なタイミングで叫んだ。
「はい天野死亡ーーーー!!!」
雪杜は肩をすくめたまま震える声で抵抗する。
「や、やだ……僕負けたくない……」
だが、そんな願いはこの場では羽より軽い。
颯太の顔がニヤリと光る。
「じゃあ質問!」
(頼む……変な質問こないで……本当に……)
雪杜が心で祈った次の瞬間。
「どこまで進んでるんですか」
「うおーー!!」
「いきなりすげーのキター!!!」
「直球すぎんだろ!!」
部屋が一瞬で爆発した。
「ちょ、ちょっと待って!?
そんなのないから!!
一緒に寝てるくらいだから!!」
言った瞬間――
全員が固まり、それから大爆発。
「はい自爆〜〜!!同衾宣言いただきましたー!」
「ぐは!やってしまった!!」
雪杜が畳に沈む。
今年初めの“キス自爆”に続き、またしても記念碑的ミスだ。
もはや自慢したくてわざとやっているのでは?と男子全員が疑うレベルだった。
颯太がさらに追撃する。
「きょうは同衾しなくていいの〜?」
「きょ……拒否権を行使します……!」
雪杜の声は蚊みたいに細い。
駆は湯上がりで落ち着いた声のまま、小さな爆弾を置いた。
「……御珠さん、今日“雪杜が隣じゃないと眠れぬ”って言ってそう」
「言ってないっ……と思う……」
(御珠なら言いそう……)
雪杜の内心がひりつく。
男子たちはすでに勝利宣言モード。
「妻を思う夫の顔だ!!」
「完全に夫婦!!!」
「嫁さん泣かせるんじゃねーぞ!!」
「泣かないよ!?泣かないと思うよ!?多分!?」
畳の部屋に笑いが弾け、雪杜はさらに縮こまる。
颯太が手を叩く。
「じゃあ、続きいこうか」
(気絶したい……)
雪杜は枕を抱きしめたくなる衝動に駆られた。
地獄の扉は開いたばかりだった。
――――
議長然とした顔で、颯太が指を一本ずつ立て始める。
その様子は妙に真剣で、逆におかしい。
「じゃあまとめな!」
畳の上で番号が並べられていく。
1 お互い伴侶となることを約束
2 キス済み
3 手も繋ぐ
4 家も同じ
ここまでは“既知情報”。
そして、今日の“収穫”。
5 同衾したことがある
6 御珠は複雑な事情がある親戚の子
7 箱入り娘で常識に疎い
8 伴侶宣言=子供が大人になったら結婚しようというアレ
9 雪杜がたまたま同じ家にいて懐かれた
10 御珠がかわいいので雪杜もほだされた
11 一線は越えてない
指折りながら、颯太が満足げに締めた。
「ふぅ情報多いな。
だいたい聞きたいことは聞けたな。
つまり――天野夫妻は清い夫婦!!激レアだ!」
「うおおお!!!」
「清い夫婦萌えええ!!」
男子たちが旅館の天井が抜けそうな勢いで盛り上がり、雪杜は両手で顔を覆ったまま震えた声で抗議した。
「勝手にまとめないで!?
……でも……うん、まぁ……」
(神様なのバレなくてよかった……)
その安堵が、羞恥より少しだけ強かった。
布団の上のカードが乱れ、部屋の空気は笑いと熱で満ちていく。
負けに負けて、根掘り葉掘り聞かれ、羞恥で頭がぐちゃぐちゃになり――
気づけば雪杜の口は、妙に軽くなっていた。
(もう……神様なのがバレなきゃどうでもいいや……)
その境地に至った小6男子一名。
ある意味で悟りの夜だった。
────
散々暴露が続き、笑い疲れた空気の中で、雪杜の胸にはずっと言葉にできずにいた“ある問い”が残っていた。
──聞くなら今しかない。
御珠のことで、さんざん騒がれ、いじられて恥ずかしくて、でもその騒ぎの奥でずっと心の底に沈んでいた問いが、ゆっくりと浮かび上がってくる。
「……ねぇ、颯太」
名前を呼んだ瞬間、胸の奥がひりっと痛んだ。
一番自分を笑わせて、からかって、近くにいてくれたのは颯太だから。
だからこそ、ずっと聞けなかった。
「散々僕に聞いてきたんだから……
今度は、僕の番でもいいよね?」
颯太は軽く笑って返す。
「なんだ?好きな人なら教えねーぞ?」
「そうじゃなくて……」
雪杜の声に、いつもの逃げ腰がなかった。
その違いに気づいたのか、颯太の表情から冗談がすっと消える。
「……雪杜?」
ゆっくり、雪杜は膝の上で拳を握りしめた。
「……僕のこと、“本当は”どう思ってるの?」
部屋の空気が静まり返った。
颯太のまぶたが、わずかに揺れた。
「…………」
雪杜の声は震える。
言葉を押し出すたびに、胸の奥の傷がひりつく。
「4年生に転校してきてから僕、クラスの視線が怖くて……
みんな僕を嫌ってる気がして……
今でも、ふとした時に……
本当はまだ、僕のこと……嫌いなんじゃないかって……
そう思っちゃう時があって……」
その告白に、部屋の全員が息を止めた。
布団の揺れすら止まるほどに。
静けさが落ちる中、颯太がゆっくりと顔を上げた。
まるで、ずっと胸の奥に沈めていた“あの頃”を引き上げるように。
「雪杜……」
逃げず、飾らず、真剣な声だった。
言葉を選ぶその仕草には、4年生の頃の気持ちをありのまま語ろうとする重さが宿っていた。
「……俺さ、正直に言うわ」
「……っ」
雪杜の背筋がきゅっと強張る。
「4年に転校してきたとき、お前のこと嫌いだった」
突き刺すような言葉。
でも、その声には棘がなかった。
「女子の視線を一斉にさらってキャーキャー言われてるのにさ、当の本人はどっかオドオドしてて、“なんだこいつ?”って。
ただ“嫌い”って気持ちが勝手に湧いてた」
(やっぱり……)
胸がぎゅっと締めつけられ、雪杜の呼吸が少し乱れる。
透が心の中でつぶやく。
(あの頃の空気、忘れてないんだな、天野……)
でも、颯太の表情は、責めるでも呆れるでもない。
ただ、まっすぐだった。
「……でもさ」
そこで声色が変わる。
何かを見つけた人間の、確かな光を帯びた声。
その“きっかけ”を思い返すように、颯太はゆっくり言葉を紡いだ。
あの冬の日――雪の中で見た光景が、彼の中の感情を静かにひっくり返したのだ。
「正月に、お前たちを見かけたんだ。
お前と……御珠と咲良が並んで歩いてるの」
「え……?」
雪杜が目を上げる。
その瞳には、不安と期待が揺れていた。
「その時思ったんだよ。
“なんで俺、こいつのこと嫌ってたんだ?”って。
なんか……理由が全部ふっとんでさ。
すっげぇ変な気持ちになって……」
颯太は笑うでもなく、ただ思い返すように天井を見た。
「今でも思い出せば思い出すほど、あの頃の嫌いって感情が嘘みたいなんだよな」
雪杜は目を伏せたまま、小さく息を飲む。
颯太は頭をかいた。
「そんでさ、声かけてみたら──
お前、めっちゃいい奴でさ。
本当ごめん!!
あの時の俺、意味わかんない!!
なんで嫌ってたのか今でも謎!!」
その“真っ直ぐな謝罪”は、雪杜の胸の奥で長く張り付いていた氷を、じわっと溶かしていく。
溶けた想いがどこへ流れていくのか――
その行き先が涙だと気づくのに、時間はかからなかった。
「………………っ」
雪杜の視界がゆらりと歪む。
胸の奥で何かがほどけ、喉の奥が熱くなる。
「……うっ……
……ぐ……
……っ……!」
「えっ!?また泣いてんのかよ……
ほんと、泣き虫だな……」
颯太が慌てた声を上げる。
雪杜は泣きながら言葉を絞り出す。
「……僕なんかに急に優しくされても……
“どうして?”って思っちゃって……
本当に僕を見てくれてるのか……
それとも、何か裏があるんじゃないかってずっと……
ずっと不安で……」
透が静かに呟く。
「天野……」
駆は視線を落とし、柔らかく言った。
「……ずっと、不安だったんだね……」
その優しさが、雪杜の涙をさらにこぼれさせる。
颯太は迷わず雪杜のそばに座り込み、肩をがしっと掴んだ。
その手には、ふざけでも慰めでもない、ただの“友達としての覚悟”が宿っていた。
そしてそのまま、真正面から言葉が落ちてくる。
「なぁ雪杜。
お前ら三人が楽しそうにしてるのが目に入ったからお前と友達になりたかった。
それだけだ。
それ以外なんてねぇ」
「……っ……ひっ……」
「嫌いじゃない。
もう嫌いになんねぇよ。
ずっと友達だ!!」
その言葉は、雪杜の胸にまっすぐ落ちた。
ずっと欲しくて、ずっと怖くて、それでもようやく受け取れた“答え”だった。
「……う……ん……
……ありがとう……颯太……!」
男子たちは全員、心の中で同時に叫んだ。
(この部屋いま尊すぎて死ぬ……!)
透も、駆も、静かに微笑む。
「……はい、これで天野ファミリーの友情、完全に完成したな」
「……天野、もう大丈夫だよ」
雪杜は涙を拭き、深く息を吸った。
そして、少し照れくさそうに、けれどしっかりと笑った。
「……ありがとう。
本当に……嬉しい」
その瞬間、部屋の空気がふわっと明るくなる。
照明の色も変わってないのに“光が増えた”ように感じた。
「おう!
じゃあ明日の自由行動もバッチリ楽しもうぜ、兄弟!」
「「おーー!!」」
少年たちの声が旅館の天井に溶けていき、長い長い夜が、ようやく温かく着地した。




