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神愛 ─ 永遠の刹那 ─  作者: 神愛
第1章 小学生編
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第18話 修学旅行 ― 混乱と優しさの湯けむり ―

夕食を終えて女子部屋へ戻ると、廊下の喧騒が一気に遠のき、畳の匂いがほっと落ち着きをもたらしてくれた。

その静けさの中で、ひとりだけ空気をしょんぼり曇らせている存在がいた。御珠だ。


雪杜と別れる直前、石田に「ここから先は男女別だぞ」と念を押され、御珠は魂が抜けたみたいに肩を落としている。

声までやけに湿っぽい。


「うぅ……雪杜よ……達者で暮らすのじゃ……」


咲良はその姿を見て、思わず心の中で突っ込む。


(死別みたいになってるし……)


莉子が軽く笑いながら空気を戻すように言った。


「ご飯美味しかったね~。お肉最高だった」


「うん。美味しかった」


咲良が返し、ようやく部屋が日常へ戻る気配をまといはじめる。


「次はお風呂行こうよ!」


莉子の声が弾んだ瞬間、咲良の頭にひとつの疑問が稲妻のように走った。


(……御珠ちゃんって……パンツ履いてるの……?)


考えてしまったら最後、気になって仕方がない。

このまま大浴場に連れて行けば、何かが、何かとんでもないことが起きる未来が浮かびすぎて怖い。


「ちょ、ちょっと御珠ちゃん。こっち来て!」


焦りをごまかしきれず、咲良は御珠の腕をつかんで部屋付きの小さなバスルームに引きずり込む。


「なんじゃ慌ておってからに」


御珠はまるで心当たりがなさそうに首をかしげていた。


咲良は小声で切り出す。


「御珠ちゃん……パンツ履いてる……?」


「む?パンツ?

 雪杜が“どうが”で見ておる白き布のことか?」


その瞬間、咲良の目が見開かれた。


(雪杜くん……御珠ちゃんに動画見てるのバレてるよ……!)


声が裏返りそうなのを必死で抑えながら咲良は続ける。


「そ、それのことなんだけど……御珠ちゃんも履いてるの?」


御珠は本当に不思議そうに答えた。


「妾は裸を恥じぬゆえ、そのような布は不要じゃ。

 そもそも人の子の“見たい”という心に穢れが宿り――」


「神様談義はいいの!!ここ学校の修学旅行だから!!」


叫ぶような咲良の声が、バスルームに軽く響く。

御珠は一瞬だけ黙り、そして逆に首を傾げた。


「ほう……?ならば皆、妾を“見たい”と思っておるのか?」


「そういう意味じゃなくて!!

 文化!!ルール!!社会の秩序!!!

 お願いだからパンツ履いて!!」


必死の訴えに、御珠はむむ、と唇を尖らせた。


「ふむ……またしても“るーる”か……難儀なものよの」


「そうそう!!ルールを守らないと雪杜も困るよ!」


その一言が効いたらしい。御珠の表情が、わずかに揺れた。


「むー。雪杜が困るのは困るのじゃ」


御珠は少し考える素振りを見せ、次の瞬間、指先をすっと動かす。

翠の光がほのかに揺れて、その腰に“布の形をした神衣”がふわりと現れた。


「……仕方ない。

 人の子はこの“逆三角の布”を身に付けるのじゃろ?」


御珠はためらいもなくジャージの腰を軽く下げ、その“布”を堂々と見せつけた。


「ちょ、ちょっと!!なんでそんな際どい形なの!?もっと普通の……!!」


「雪杜がよく見ておるのじゃが……普通とは何かの?」


(雪杜……こういうのが好きなのね……)


咲良の頭が一瞬クラッとした。


「ち、違うの!!普通はこう!!」


勢いのまま、咲良もジャージの腰を少し下げて自分のパンツを示す。

御珠はそれを真剣に観察したあと、指先をもう一度動かした。


光が揺れ、逆三角はすっと形を変え、今度は“普通のショーツ型”へ。


「どうじゃ?」


「う、うん……いいと思う……」


咲良の胸に、ふわっと不思議な熱が灯る。


(御珠ちゃん……いま一瞬……

 雪杜の前でもああやって着替えてるのかな……)


考えた瞬間、自分で自分の頬が熱くなる。


やがて二人がバスルームから出ると、莉子が心配そうに覗き込んできた。


「どうしたの?大丈夫?」


「う……うん!なんでもないよ!早くお風呂いこ!」


「うん。行こう行こう!」


莉子はすっかり信じ切って笑う。


御珠は胸を張って言った。


「行くのじゃ」


澄香が「私たちも行こっか?」と声をかけ、その後ろで同じ班の女子二人も元気よくうなずいた。


「うん!行こう!」


咲良はその背を追いながら胸の奥で小さくため息をついた。


(大丈夫かなぁ……)


こうして、不安をひとさじ抱えたまま、女子一行は大浴場へ向かっていった。

神の文化適応は始まったばかりである。


――――


脱衣所には、ほんのりとした暖気と、どこか懐かしい石鹸の匂いが漂っていた。

カゴに私服を置く音、バスタオルを広げる音、少女たちの小さな笑い声が混じり合い、修学旅行らしいざわつきが空間を満たしていく。


そんな中で――御珠だけは、まるで未知の儀式に参加するかのように周囲をじっと観察していた。


「ふむ、ここで衣を脱ぐのじゃな」


声は落ち着いているのに、目だけがきょろきょろと忙しい。

咲良は嫌な予感を覚え、そっと横へ寄って耳もとで囁く。


「御珠ちゃん。ちゃんと“脱ぐふり”してね。

 いきなりパーッて光って脱ぐのは絶対ダメだからね」


御珠は胸を張って即答した。


「安心せよ咲良。“ぱー”は雪杜の前でしか披露しないと約束しておる」


その瞬間、咲良の思考が一瞬止まった。


(なんて約束してるのよ!)


胸の奥で、雪杜の株価がストップ安をつけた気がした。


周囲の女子たちは、何も知らずにタオルをまとめたり髪を結んだりしている。

その普通さが逆に、御珠の存在を少しだけ際立たせて見えた。


咲良はそっと息を吐きながら、内心で祈る。


(お願いだから……無難に終わって……)


だがこのあと起こる男女を巻き込んだ大騒動を、この時点の咲良はまだ知らない。


――――


湯気がゆらりと立ちこめる男湯は、修学旅行らしい騒がしさに満ちていた。

ザパァァ……と湯が揺れるたび、肩まで沈んだ雪杜の周りには、男子たちの笑い声が跳ねる。


颯太が湯をかき分けて近づき、ニヤニヤしながら声を張った。


「雪杜〜〜、こっち来いよ!泡立て競争しようぜ!」


「いや、どうやって勝ち負け決めるのそれ……」


雪杜は苦笑しつつ、肩まで沈んだまま首だけひょこっと向ける。


駆が湯船の縁に腕を置きながら、ぼそりと呟いた。


「……壁の向こう、なんか騒がしくない?」


その一言に、雪杜の胸がイヤな予感で冷える。


そして――予感は容赦なく現実化する。


女湯から響く声が、湯気と壁を軽々と突き抜けてきた。


「雪杜ーー!!湯加減はどうじゃーーー!!」


「っっっ!?!?!?」


反射的に湯を跳ね上げる雪杜。

男子全員が一瞬で振り返る。


「うおおおお!?御珠さんこっちに話しかけてきた!!」


たちまち風呂場がざわつき、視線が雪杜に集中した。

雪杜は耳まで真っ赤になり、壁に手をついて叫ぶ。


「や、やめて御珠ーー!!聞こえるから!!

 みんな聞いてるから!!」


壁の向こうから、悪気ゼロの朗らかな声。


「良いではないかー!妾はそなたが気になって仕方ないのじゃーー!!」


風呂場中が爆笑と混乱の渦に巻き込まれる。

颯太は湯面をバシャバシャ叩いて大喜びだ。


「おまえら仲良すぎだろーー!!!」


駆は静かに、しかし妙に重い一言を落とした。


「……これは完全に夫婦……」


「だ、だからヤメロって言ってんだろ!!!」


湯気の中で、雪杜の声が思わず低くなる。

普段は見せない“ブラック雪杜”の片鱗が、男湯にデビューした瞬間だった。


男子たちは、ただただ楽しそうにその姿を眺めていた。


雪杜の地獄は、まだ始まったばかりである。


――――


湯気がふわりと揺れ、ほのかなシャンプーの匂いが漂う女湯は、初日の夜ならではの浮き足立った賑やかさに満ちていた。

壁の向こうから聞こえてくる男子の騒ぎと、女子のざわめきとが混ざり、空間全体が湯気ごと弾んでいる。


そんな中で――御珠だけは、声量も存在感も圧倒的だった。


「雪杜ーー!!湯加減はどうじゃーー!!」


その響きに、咲良は思わず肩を跳ねさせる。


「ね、ねぇ御珠ちゃん……ちょっと声小さくしよ……?

 みんなに聞こえちゃうよ……」


しかしその注意より早く、澄香の怒気が飛ぶ。


「公共の浴場でなんて大声出してるのよ!

 あなたほんとに何なのよ!!」


澄香の声は、半分パニック、半分は“いつもの正義感からくる本気の叱責”だった。

だが御珠は悪びれもせず、当然の顔で受け流す。


「む?妾は普通の声量じゃぞ?」


その天然さに、女子全体が微妙にざわつく。

そこへ、浴場の隅からぽつりと声が落ちた。


「……御珠さん、肌……なんか光ってない……?」

「ほんとだ……綺麗すぎない……白いっていうか……発光……?」


視線が雪崩のように御珠へ集まる。

肩に落ちた湯気がそっと光を拾い、肌が淡く輝く。


御珠はその視線に気づいて、むしろ静かに首を傾げた。


「褒められておるのか非難されておるのか分からぬ……

 が、肌が光るのは神の理じゃ。普通じゃ」


(普通じゃないよ……!!)


咲良の心の叫びは、湯に溶けて他の誰にも届かない。


女子たちがためらいながらも近寄り、指先でそっと御珠の腕を見つめる。


「え、すご……つるつる……」

「こんな綺麗な人いる……?」


御珠は、不意にその視線の集中に気づき、ほんの少し頬を赤くした。


「褒めても何も出ぬぞ?

 ……ぬしら、すぐ言葉にする。

 ……照れるのじゃ……」


その声が、咲良の胸の奥を一気に溶かす。


「か、かわ……」


言葉の先が喉に引っかかる。

思わず押さえた胸の内側が、じわっと熱を持った。


(御珠ちゃん……可愛すぎる……これ反則だよ……)


しかし、澄香だけは堪えきれなかった。


「かわ、じゃないの!!!」


真っ赤な顔で叫ぶ姿は、怒りと羞恥が半々だ。


そして褒められた御珠は――調子に乗る。

湯気を割くように声が飛んだ。


「雪杜ーー!!

 妾、肌が褒められたぞーー!!

 そなたはどう思うーー!!」


「いや聞くなぁぁぁぁぁ!!!!」


壁の向こうの男子が爆笑しながら騒ぎ「返事してあげろよ雪杜〜〜!」という声まで飛ぶ。


雪杜は限界まで赤くなり、ついに折れた。


「……えっと……綺麗だよ〜〜」


その一言が届いた瞬間――

女湯の御珠は、音を失ったみたいに固まった。


湯気が虹色に揺れて見えるほど、表情が崩れる。


「……ぬし……そういうところ……ずるいの……」


小さな、小さな声。


その様子に、咲良の胸がまたきゅっと痛む。


(……なんで私、こんなにドキッとしてるの……?

 御珠ちゃん、可愛すぎるよ……)


澄香は顔を覆う勢いで叫ぶ。


「なんで公の場でこんなことできるのよ!あなたたち!!」


御珠は不思議そうに澄香へ向く。


「なんじゃ。ぬしも褒められたいのかの?」


「ちっがーーう!!」


湯気が笑いと混乱で揺れて、女子風呂は今日いちばんの賑わいを迎えていた。


――――


女子部屋には、風呂上がりの湿った空気がまだ残っていた。

畳の乾いた草の匂いと、誰かのシャンプーの香りが混ざり合い、修学旅行らしい夜の気配が漂う。


ジャージ姿の女子たちは思い思いに座り、髪を乾かしたり、テレビをぼんやり眺めたりしていた。

その中心――あろうことか御珠は、あぐらをかいてテレビを凝視している。


(神なのに……完全に“家”の座り方してる……)


咲良は髪をタオルで拭きながら、小さくため息を漏らした。


くつろいだ空気がそのまま続くかと思われたとき――

襖が勢いよく開く音が部屋を裂いた。


澄香が濡れた髪を乱しながら、怒気をまとって入ってくる。


「御珠さん!!あなた!!」


御珠はようやくテレビから目を離し、のんびりと顔を向けた。


「……む?なんじゃ騒々しいの」


(うわぁ……始まった……)


咲良の心の声は、もう諦め半分だ。


澄香は御珠の前へずかずかと歩み寄り、勢いよく正座する。


「さっきのお風呂の件!!

 あなた、公共の場で大声を出すし、隣の男湯に話しかけるし、肌はなんか光ってるし、もう滅茶苦茶!!

 ほんっと非常識!!」


御珠は叱られている自覚がないまま、咲良へ視線を移した。


「咲良、妾は“非常識”らしいが……よく分からぬ」


「……う、うん……まぁ……その……」


咲良はフォローの言葉が出てこない。


澄香は続けた。


「春原さんまで困らせないで!!

 まず『風呂場で隣の男子に話しかけない』は、コミュニティの最低限のルールでしょ!?」


御珠は本気で不思議そうに首を傾げる。


「なぜじゃ?」


「なぜって……迷惑だからよ!!」


御珠の返答は、悪びれた様子もなく静かだった。


「雪杜は……迷惑そうであったか?」


「キレてたじゃない!!」


「それは……照れていただけでは……?」


(まぁ……照れてはいたよね……)


咲良は心の中で頷いてしまうが、もちろん声には出さない。


澄香は深く息を吸い、御珠へ向き直る。


「御珠さん。

 ……あなた、自分がどれだけ“特別扱いされてる”か自覚してるの?」


「特別?

 妾は雪杜の伴侶としては特別であるが……

 それ以外に特別扱いされておる覚えはないぞ」


「そこよ!!」


澄香の声がひときわ鋭く跳ねた。


「そういう自覚のない振る舞いが、他の子にも影響してるの!!

 あなたが自由に動くたびに、天野くんも、春原さんも、周りも全部巻き込まれるの!!」


御珠の目が細く揺れる。


「……雪杜は、困っておるのか?」


その問いは、今までのふざけた調子とは違い、どこか不安を含んでいた。


咲良は思わず息を飲む。


(御珠ちゃん……本気で気にしてる……)


澄香は声を落とし、ゆっくりと言った。


「……天野くんは優しいから文句を言わないだけ。

 だからこそ、あなたが気をつけなきゃいけないのよ」


御珠はしばらく口を閉ざしたまま、目を伏せる。


そして静かに言葉を紡いだ。


「澄香よ。

 妾は……“好きなものへ向かう心”は、止められるものではないと思うておる」


「それが問題なの!!」


「だが……心を抑えつけて生きるのは、人にとって苦しかろう?」


澄香の眉がわずかに揺れた。

その揺れを見逃さず、御珠は続ける。


「ぬしは“心より秩序が先”と言うのじゃな」


「当たり前でしょ!!」


「妾は逆じゃ。

 “心が先に動いてしまう”のじゃ」


「だからそれが迷惑なんだってば!!」


御珠は少し俯き、ぽつりと漏らした。


「……迷惑、か。

 雪杜の心は……離れてしまうのじゃろうか……」


咲良は胸の奥がつまるような感覚に襲われた。


(御珠ちゃん……本当に怖いんだ……)


澄香は大きく息を吐き、言葉を選ぶように続ける。


「……別に、御珠さんの気持ちが悪いとは言ってないの。

 ただ、不器用すぎるのよ。

 あなたはその……美人すぎて目立つし……

 普通じゃないところもたくさんあるし……

 だからこそ“普通の行動”をしてくれないと、みんなが困るの。

 天野くんも」


部屋の空気が静まった。

御珠は小さな息をつき、ようやく言葉を返した。


「……分かった。

 気をつける。

 雪杜を困らせるのは……本意ではない」


澄香は、いくらか落ち着いた顔で言った。


「……本気でそう思うなら、少しずつでいいから周りを見て」


「心得た」


その返事に、咲良は胸の奥でガッツポーズを決めた。


(わぁ……収まった……!

 奇跡……!)


女子部屋の夜は、少しだけ秩序を取り戻した。


――――


女子部屋の灯りが落ちると、常夜灯の薄いオレンジが畳の端をやわらかく照らし、部屋全体を静かな夜へと押し沈めていった。


風呂の騒動も、澄香と御珠の舌戦もようやく収まり、恋バナどころか雑談すら続けられない、微妙な空気が漂っている。

そんな雰囲気を察して、六人は早々に布団へ潜り込んだ。


咲良は布団の中で小さくほっと息をつく。


(なんかお風呂の件のバトルで、御珠ちゃんと雪杜が一緒に寝てるって話、うやむやになってよかった……

 どうかこのまま思い出さないで……)


常夜灯だけが優しい光を落とす暗闇の中、布団の衣擦れだけが響く。


静けさがしばらく続いた後――

隣の布団から、ほとんど囁きのような声が落ちた。


「……咲良。

 雪杜の部屋に、こっそり行ってもよいかのう……

 きょうは……新幹線でも離れ離れであったゆえ、雪杜成分が足りぬのじゃ……

 妾……眠れぬ……」


その声は、昼間の堂々とした神の響きとはまるで違う。

小さくて、弱くて……心細い子どものようだった。


咲良は身を起こし、御珠の背中にそっと手を触れた。

その肩は、ほんの少し震えている。


「御珠ちゃん……ダメだよ。

 人間社会で生きるなら、こういうの、これから先も絶対あるんだよ。

 少しずつ慣れないと……」


御珠は声を詰まらせた。


「……寂しいのじゃ……

 雪杜ぉ……」


常夜灯の光をわずかに拾って、御珠の瞳に涙が星みたいに浮かぶ。


(……だめ……かわいすぎる……)


咲良の胸の奥が、痛むように強く縮こまった。

御珠が小さく震えた瞬間、咲良の腕は反射のように動き、布団を押しのけてそっと御珠を抱き寄せる。


「……雪杜くんの代わりにはなれないかもしれないけど……

 私じゃ、だめ……?」


御珠は驚いたようにまばたきをし、ゆっくりと咲良の胸元へ身を預けた。


「……咲良……

 そなたは……暖かいの……」


咲良の心に、静かな波が立った。

抱きしめた腕へ、御珠の体温がじわりと染みこんでくる。


そのまま御珠は、咲良の服の胸元をそっとつまむように握り、小さく鼻先を寄せる。


「……ふにゃ……ぬしの匂い……落ち着くの……」


(かわいい……

 でも……

 え、ちょっと待って……

 この神様、どんどん幼児化してない??

 私へ“人生の覚悟を問うた神”はどこにいったの……?)


咲良は思わず笑ってしまい、その頭をそっと撫でた。


「……今日は私がそばにいるから。

 ……安心して、御珠ちゃん」


御珠は撫でられながら、安堵の息を吐く。


「……咲良……ありがとうなのじゃ……

 そなた……ほんに良い娘じゃ……」


ほどなくして、御珠の呼吸はゆっくりと眠りのリズムへ変わった。

その寝息は、咲良の胸の上で小さな波のように揺れている。


咲良は暗闇の中でまぶたを伏せ、そっと思う。


(かわいい……

 私、この子にどこまで関わることになるんだろ……

 でも……放っておけない……)


畳の上、二人の影が寄り添いながら静かに沈んでいく。

常夜灯がその姿をやわらかく包み、夜は深まっていった。

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