第15話 恋の横顔
工場の空気は独特だった。
金属の匂いと、ほんのり甘い清涼飲料の香りが混ざり、クラスのざわめきがその中に吸い込まれていく。
見学通路の床は少しだけ震えていて、足元から“巨大なものが動いている”のがわかった。
透明なボトルが、雨のような速度で成形機から落ちていく。
御珠はその場でぴたりと固まり、目を丸くして呟いた。
「な……なんじゃこれは……!?
器が、空間から無限に生まれておる……!」
雪杜は苦笑しながら袖を引かれた腕を見下ろす。
「無限じゃないよ……機械が作ってるだけ……」
御珠は説明を聞いたところで納得した様子はなく、逆に驚きを深めたように雪杜の袖をぎゅっとつかむ。
「雪杜、これは妾の知らぬ“新たな理”じゃ……!」
その気迫に、雪杜は「新たな理って何……」と言いかけて飲み込んだ。
少し後ろで見ていた咲良は、心の中でそっとため息をつく。
(御珠ちゃんの“理”って言葉、ほんと便利に使われるよね……)
ラインは次の工程へ流れ、金属ノズルが整列したボトルへ一斉に液体を注ぎ始めた。
その動きはまるで、息の合った職人の手技のように乱れがない。
「なんじゃこの技……!
神水の祭事のように正確じゃ……!」
御珠はノズルに顔を近づける勢いで食い入っている。
その横で颯太が胸を張る。
「正確なんだよ!これ全部センサーとかで調整してんだって!」
「せんさー……?
また知らぬ神の名を聞いた……!」
(センサーを神扱いするのやめて……)
咲良は内心で突っ込みつつ、そっと雪杜の横顔をうかがった。
雪杜も “また知らない神が増えた……” と言いたげな、慣れた表情で御珠の背中を見ていた。
前方では颯太がガラスにへばりつくようにして目を輝かせている。
「うおお!すげぇ!同じのが次々できてく!!」
そのすぐ横で、莉子がそっと並んだ。
彼女の声は、機械音に飲まれそうなほど小さい。
「颯太くん、炭酸系好き?」
颯太は秒で振り向くが――返してくるのは純度100%の無邪気さだった。
「好き好き!シュワッとするやつ!うまい!」
莉子の顔がぱぁっと明るくなる。
「そ、そっか……!」
だが次の瞬間、颯太の視線はまたラインの先へ吸い込まれていった。
「見ろよ!あれ!キャップ閉まるのはえぇ!!!」
莉子の想いなど一ミリも気づかず、爽やかに機械へ一直線。
咲良はその背中を見ながら、胸の中で小さな声を漏らした。
(がんばれ莉子ちゃん……頑張る方向は合ってる……!)
ラインは止まることなく流れ続け、子どもたちのざわめきも同じリズムで揺れていた。
工場のざわめきの中、雪杜はふと歩みを緩めた。
ラインを見つめる莉子の横顔が、他のどんな機械よりも静かで、なのに強い熱を帯びているように見えた。
(莉子ちゃん……颯太のこと、見てる……
なんか……すごく自然に……)
胸の奥がわずかにざわつく。
驚きとも違う、小さな発見を手に取るような感覚だった。
(御珠が昨日言っていたこと本当なんだ……
誰かを好きな女の子って、あんな顔するのか……初めて見た……)
立ち止まりかけた雪杜の横から、咲良がひょこっと顔を出した。
「雪杜くん?どうしたの?」
声に反射するように、雪杜は素直すぎるほどの声で答えた。
「……森川さん……颯太のこと、好きなのかな……」
咲良は「あー……」と息を漏らし、どこか優しく笑った。
「雪杜くんも気づいちゃった?」
「もってことは咲良も?」
「……まぁね……ああいう顔に覚えがあるし……(主に御珠ちゃんが雪杜を見る目)」
その冗談めいた心の声は口に出さず、咲良は軽く肩をすくめた。
雪杜は言葉を探すように視線を落とす。
「なんか……よかったなって……
普通に……誰かが誰かを好きになって……僕が邪魔せずに済む……」
ぽつりとこぼれた本音に、咲良は胸をぎゅっと押されるような感覚を覚えた。
同時に、雪杜の表情がふっと和らぐ。
(……そうだ……
この世界はもう……前みたいに壊れないんだ……)
その穏やかな光に触れたようで、咲良の胸の奥が温かくなる。
「……そっか。よかったね、雪杜くん」
その小さな会話の後ろから、静かな足音が近づいた。
「雪杜」
振り向くと、御珠がいつもより落ち着いた眼差しで立っていた。
「そなたが“安心”と感じたなら……それで良いのじゃ。
妾がこの世界にしたことは……間違っておらぬ」
雪杜はその言葉を、ゆっくりと噛みしめるように頷く。
「……うん。ありがとう、御珠」
御珠は一瞬だけ目をそらし、耳のあたりがかすかに赤く染まる。
「む……当たり前じゃ……
妾は、雪杜が困らぬようにしておるのじゃから」
咲良は思わず、小声で心の中に突っ込みを入れた。
(ちょっと甘やかしすぎでは……?)
御珠は聞こえていない……はずなのに、わずかに目を細めたようにも見える。
――その少し離れた場所で、説明パネルの前に立つ駆がひとり、黙々と数字を追っていた。
「……この工場、一時間で何本作ってるんだ……?
──あ、この数字か。ふむ……。
ライン停止のロス計算……すげぇな……」
あまり変化のない声なのに、その集中度だけは妙に本気だった。
颯太が笑いながら背中を叩く。
「駆、お前こういうの好きなのか!」
「こういうの“も”好き。
大きい機械ってなんかいいよな」
「わかる!!ロマンあるよな!!」
(なんか……男子同士のこういう感じ、いいな……)
咲良は、その何気ない空気にほんのりと頬をゆるませた。
ラインの機械音が淡々と響き続け、子どもたちの世界はそれぞれに小さく花開いていた。
────
工場の別ルートは、メインラインよりも静かだった。
説明パネルが等間隔に並び、冷たい床の反射光が淡く揺れている。
その中央で――澄香は、戦場に立つ将軍のような眼差しでパネルに張り付いていた。
「見て透!この工程、危険区域が赤帯で統一されてるのよ!
しかも清潔ラインの動線が……完璧……っ!
ここ、学級目標にしたい……!」
声は興奮で上ずっているのに、内容はどこまでも真面目。
透は隣で腕を組み、ため息とも苦笑ともつかない息をこぼす。
「澄香。ここ工場だよ。学校じゃないよ」
突っ込みとしては正しいのに、どこか優しい。
澄香は気にも留めず、眉間に皺を刻んだまま次の数値へ顔を近づける。
ふと、彼女の視線が横へ流れた。
遠くに見える“天野ファミリー”の列。
御珠の赤いジャージ、咲良の柔らかい横顔、颯太のはしゃぐ声、そして見慣れぬ小柄な莉子。
澄香は目をすうっと細める。
「……天野ファミリー、なんか増えてるし……
ああいう“独立グループ”ができると、クラスの空気が崩れるのよね……」
その小声には、嫉妬というより“警戒心と責任感の混合物”が滲んでいた。
透もちらっと同じ方向を見て、肩をすくめる。
「まぁ、春原さんもいるし。
あの子は常識的だし、大丈夫じゃない?」
澄香は視線を落とし、ほんの一瞬だけ迷うように唇を結ぶ。
「……そうね。
でも、御珠さんって何考えてるのか読めないから……
巻き込まれないかなって、それだけ」
透はふっと笑った。
冷やかしでも皮肉でもない、柔らかい“理解してるよ”の笑み。
「澄香って、ほんと“クラスの平和”に全力だよね。
春原さんも、自分のペースちゃんと持ってるよ」
その言葉が、澄香の肩の力をわずかに抜いた。
彼女は視線をパネルへ戻し、同じトーンで返す。
「……まぁ、そうだと助かるんだけどね……」
ふたりはまた並んで歩き出し、工場の別ルートへ静かに溶け込んでいく。
その背中は、誰も気づかないところでクラス全体を支えていた。
────
工場ラインは後半に進み、充填→キャップ→ラベル→箱詰めへと流れる工程が、まるで巨大な生き物のように連続していた。
三人はその横を並んで歩いていく。
足元からかすかに伝わる機械の振動が、どこか胸の奥まで響いてくる。
「御珠、すごい顔してるよ……?」
御珠は狭いのぞき窓に顔を近づけ、食い入るようにラインを覗く。
雪杜も一緒に覗き込むと、御珠はまるで神域の儀式を目撃した巫女のように目を見開いていた。
「全工程が神業すぎてな……
現在社会の凄さを目の当たりにしたわ。
妾、ちと興奮しておる……!」
その真剣な表情に、咲良はつい笑ってしまう。
「御珠ちゃん、このライン好きすぎでしょ……」
「咲良も来るのじゃ。妾の隣に来るのじゃ」
狭いのぞき窓を前に、御珠は咲良を手招きする。
「え、せ……狭いからいいよ……」
咲良の声がほんのり赤くなる。
「いいから来るのじゃ」
咲良が照れながら御珠の隣でラインをのぞき込む。
狭い窓に三人の顔が並ぶ。
御珠は二人の反応を見て、満足げに頷いた。
「妾の両脇が賑やかじゃ。良き良き」
(御珠が楽しんでくれててうれしい。
……けど近い!)
(御珠ちゃん、ほんと楽しそうでかわいいな……
……けど近い!)
三人の顔が並んだ狭いのぞき窓の前で、雪杜はついに耐えきれず、ふらふらと後ろへ下がっていった。
雪杜が少し離れたのを確認して、咲良はそっと声を落として尋ねた。
「……御珠ちゃん。
莉子ちゃん、メンバーに入れて……
ほんとに、よかったの?」
御珠は返事の代わりに鼻で息を吸い、視線だけ莉子のほうへ向けた。
その眼差しは柔らかいのに、奥に“神の審美眼”が潜んでいる。
「なに。
あやつは雪杜の毒にならぬ」
咲良は一瞬、言葉の意味を測りかねて瞬きをした。
「……毒……?」
「妾、誰彼構わず敵と決めつけるほど狭量ではない。
あやつはわきまえておる。
あの雰囲気で雪杜を乱すことはないじゃろう」
(誰彼構わず嫉妬すると思ってた自分が恥ずかしい)
咲良は胸の奥がちくりとする。
と、そのとき。
遠くで莉子が雪杜に小声で話しかけるのが見えた。
「これ凄いね……天野くん」
雪杜は戸惑いながらも、丁寧に返事をしようとしていた。
「う、うん……すごいね……」
本当にささやかな会話。
それだけなのに――
御珠の眉尻が、かすかに震えた。
咲良はそれを見逃さなかった。
(……ほら……やっぱり気になるんじゃん……!)
「御珠ちゃん。
いま、ちょっと“ピクッ”ってしてたよね?」
御珠は明らかに都合が悪そうに顔をそらした。
「し……しておらぬ」
「してた!絶対してた!」
「……それは、風じゃ」
(工場内で風は吹かないよ……
ほんと、この神さま……かわいすぎる……)
御珠は観念したように、そっと息を吐いた。
「……まあ、雪杜に近づく者……
多少は気になるものじゃ。
妾とて、万能ではない」
(“多少”って言ってるけど絶対“多少”じゃないよね……)
御珠はさらに声をひそめ、確信めいた静けさを帯びて続けた。
「しかし、あやつは線を越えぬ。
妾には分かる」
「……そっか。
なら少し安心かな……」
「うむ。
しかし、雪杜が優しくしすぎてコロっと鞍替えせぬように見張らねばの。
そなたも手伝うのじゃぞ。眷属として」
「え!?眷属ってそんな役目まであるの!?」
「当然じゃ。いま決めたでの」
(えー。そのうちパン買ってこいとか言わないよね……)
咲良はあきれたように眉を下げつつ、その“自由すぎる神”の横顔に不思議と安心していた。
────
工場の奥にある試飲会場は、見学ルートの締めくくりにしては妙に明るく、甘い香りがふわりと漂っていた。
紙コップの並んだテーブルの前で、子どもたちは期待と緊張が入り混じった顔をしている。
係の人が、しゅわしゅわという細かい音を立てながら炭酸を注いでいく。
その音だけで、御珠の背筋がぴんと伸びた。
「これは……気泡が生きておる……?
雪杜、これは飲めるものなのか?」
未知との遭遇に、御珠は完全に警戒態勢。
雪杜は笑うべきか心配すべきか迷いながら、紙コップを手渡した。
「炭酸だよ。大丈夫だよ……たぶん……」
“たぶん”の部分が御珠の不安をかき立てたのか、彼女はこくり、と慎重にひと口含む。
次の瞬間――
御珠の全身が、雷に打たれたようにビクッと跳ねた。
「~~~ッッ!?!?」
反射で肩が上がり、目がまん丸に開く。
「な、なんじゃこの……しゅわしゅわは!!
口の中で暴れておる!!
刺激の精霊の仕業か!!?」
颯太は腹を抱えて笑い転げた。
「御珠、炭酸デビューか!?かわいいな!!」
咲良もこらえきれず、口元を押さえて肩を震わせた。
「御珠ちゃん、顔……顔……!」
雪杜は笑いながらも心配そうに身を寄せた。
「御珠……大丈夫……?」
御珠はまだ震え気味の声で、そろそろともう一口。
そして――
「しゅわしゅわ……じゃが……悪くない……!
この刺激……クセになる……!」
目が輝いている。
どう見ても完全にハマっている。
咲良は胸の奥がほんのり熱くなる。
(やっぱ御珠ちゃん……かわいすぎ……)
周囲の空気まで甘く弾むようで、天野ファミリー六人は自然と笑い合いながら会場を後にした。
────
試飲会場に着くと、天野ファミリーが炭酸の勢いのままキャッキャと談笑しているのが目に入った。
その様子は、どこか眩しい“青春グループ感”をまとっていた。
澄香はそれを見た瞬間、わかりやすく眉間に皺を寄せる。
「なにあの“青春グループ感”……」
隣で透が紙コップを口に運びながら、横目で澄香を見る。
「澄香も飲む?炭酸。
……甘いの苦手だったっけ?」
「苦手じゃないし!」
澄香は慌てて言い返す。
「甘い“状況”が苦手なの!」
透はくすっと笑い、雪杜たちの背中を見ながら続ける。
「まぁ、あいつらはあいつらで……楽しそうじゃん。
澄香は澄香で、こっちにいればいいよ」
言葉の重さは軽いのに、ひどく真っ直ぐで逃げ場がない。
澄香は一瞬だけ言葉を失い、視線を落とした。
「……透は、そういうこと平気で言うから……ずるいのよ……」
吐き捨てるようで、どこか照れた声。
透はその横顔に気づかないふりをして、紙コップを片手にゆるく揺らしながら歩き出した。
────
帰り道は、工場の熱気が抜けたせいか、さっきより少しだけ冷たい風が吹いていた。
ファミリー六人は横に並んだり、前後に分かれたりしながら、気ままに歩いている。
その後方で、咲良と莉子がふたり並んだ。
人の間を縫うように進みながら、咲良はそっと声を落とす。
「ねぇ……莉子ちゃん。
やっぱり……颯太くんが気になるの……?」
その瞬間、莉子の肩がビクッと跳ねた。
「ひっ……!
……うん……バレちゃった……///
さすがキューピットだね……」
「いやいや!
なんで私がキューピット扱いなの!?」
咲良が慌てて否定すると、莉子は不思議そうに目を丸くした。
「えっ?だって……
天野くんと御珠ちゃんの仲を取りもったって、この前、咲良ちゃんが言ってたじゃん?」
一秒の沈黙。
その一秒のあと、咲良の脳内で巨大な落雷が炸裂した。
(あーーー!!!
あれかーーー!!
あの時の私のバカーーーー!!!)
思わず両手で顔を覆ってしまう。
「言ってた……言ってたよ……!
あーもう!なんで言ったの私……!」
そんな咲良の嘆きをよそに、莉子は無邪気な笑顔を向ける。
「だって、あれ聞いて“咲良ちゃんすごい”って思って……
相談するなら咲良ちゃんだなって……」
(口は災いの元って本当なのね……)
咲良はうなだれ、靴先で砂を蹴る。
ふいに、莉子が咲良の袖をつまんだ。
その手は、小さくて震えていて、それでも真っ直ぐだった。
「でも……相談してよかった……
今日、颯太くんの近くにいられて……
すごく嬉しかった……
ありがとう、咲良ちゃん」
咲良は反射的に顔を上げた。
莉子の目が潤んでいて、その表情は“恋する子”そのものだった。
「えっ……
あ、うん……
まぁ……その……」
(くっ……恋する乙女には敵わない……)
どうしようもなく負けを認める気持ちが胸に広がる。
そのとき、前方から颯太の声が響いた。
「おーいファミリーーー!!こっち!!」
莉子がぱっと明るく顔を上げ、足先が自然にそちらへ向く。
(……うん……やっぱり好きだな……)
その小さな呟きは、風の音にまぎれて咲良だけに届いた。
咲良は自分のことで精いっぱいだと思いつつも、そっと心の中で背中を押した。
(うん……がんばれ莉子ちゃん……
私も……がんばる……)
二人は小走りで、仲間たちの輪へ戻っていった。
その背中には、春に向かうみたいな柔らかい勢いがあった。
工場から出る頃には、空気にひんやりとした夕方の気配が混ざっていた。
歩いているうちに、自然と六人がひとかたまりになる。
「最高だったな!炭酸もう一杯飲みたかった!」
颯太は元気いっぱいに叫ぶ。
「わ、私も……」
莉子はそっと並び、ほんの少しだけ距離を詰める。
「ライン効率の資料、あとでネットで調べよ……」
駆は変わらない調子で、別世界のことをつぶやく。
「御珠、大丈夫?炭酸、痛くなかった?」
雪杜はまだ気にしているようで、御珠を覗き込む。
御珠は胸を張った。
「妾は強き神じゃからの。
……だがあの刺激、病みつきになりそうじゃ」
(なんか……この六人でいるの、自然になってきたな……)
咲良は歩きながら、胸がほんのり温かくなるのを感じた。
いつの間にか六人の歩幅はぴたりと揃っていた。
────
夕暮れが深まり、帰りのバスが振動を響かせてゆっくり動き出す。
橙色の光が窓から差し込み、みんなの顔が少し柔らかく見える。
ふいに、颯太が前の座席をぽんと叩いた。
「なぁ。
修学旅行さ……
俺、このメンバーで行きてぇんだけど」
咲良は反射的に振り向き、肩が跳ねる。
「え!? 修学旅行も……?」
「……わ、私も……このメンバーがいい……」
莉子は控えめなのに真剣で、指先をぎゅっと握っていた。
駆は窓を見たまま淡々と。
「別に俺は……楽なら誰でもいいけどな。
……このメンバー、不快じゃないし」
(“不快じゃない”って……佐藤くんの中では最高評価なんだろうな……)
咲良は苦笑しつつ、駆らしさに安心する。
御珠は、静かに、しかし誇らしげに言った。
「妾も同じ班がよい。
この六人……見ていて心地よいからの」
雪杜は照れたように、けれどはっきりと言う。
「……うん。
僕も……みんなと一緒がいい」
その言葉が胸に落ちた瞬間、咲良の内側がじん、と熱くなった。
「……じゃあ……
修学旅行も、このメンバーでいこうよ」
夕方の静けさが、六人をやわらかく包み込む。
そして——
「「「うん!!!」」」
声が揃った。
勢いがあるのに、不思議と優しい。
颯太は拳を高く突き上げ、
莉子は嬉しそうに微笑み、
駆は口元をわずかに上げ、
雪杜は安心したように息をつき、
咲良は照れながらも笑い、
御珠は満足げに深く頷く。
バスの揺れに合わせて、六人の影が長く揺れていく。
その影は、これから先の旅路を静かに示しているようだった。
――次は修学旅行。
その一歩手前の夕景色の中で、彼ら六人だけの“班”が確かに生まれた。




