第13話 未来を選ぶ者達 ― 運命の隣り合わせ ―
ロングホームルーム中の2組。
高橋先生が教卓の前に立ち、手を叩いて注意を促した。
「はーい、みんな聞いてー。
来週、遠足よ。
6〜7人で班を組んでね。必ず男女混合でお願い」
その瞬間、教室はざわっと波立ち、机があちこちで引かれたり寄せられたりし始める。
春の光が差し込む中、文化祭前のような浮ついた気配が広がった。
咲良が勢いよく椅子を振り返る。
「御珠ちゃん!」
呼ばれた御珠は静かに本を閉じ、軽やかに立ち上がった。
「おっけー」
そこへ弾むような足取りで莉子が加わる。
「御珠ちゃん!咲良ちゃん!一緒の班にしよ!」
さらに少し距離を保ちながら、華蓮がぶっきらぼうに歩み寄る。
「……あたしも、入れてもらっていいか?」
咲良は即答で笑った。
「もちろん!」
机を寄せ、四人の小さな輪ができあがる。
「じゃあ私たちで決まりだね!」
「うん!」
「……いいぜ」
「おっけー」
和やかな流れの中、咲良は視線を教室全体へ走らせる。
「問題は男子だよね……」
「いらねんじゃね?うっとーしぃし」
華蓮が即答し、莉子が肩をすくめる。
「先生が必ず入れろって……」
そのときだった。
周囲の男子たちの視線が、一斉に御珠へ吸い寄せられる。
(御珠ちゃんの班……!)
(チャンス……!)
(姫、妹、孤児……全部盛り……!)
獣めいた目つきが教室のあちこちで光る。
咲良はその瞬間に悟った。
(うわっ!絶対やばい奴ら混じってる……)
(御珠ちゃん目当てで殺到するパターンだ、これ……)
(阻止しなきゃ……!)
咲良の視線が、教室の隅に座る落ち着いた男子に止まる。
(あれは……田中くん!)
(去年、早川さんに告白されて付き合い始めたはず)
(彼女持ちなら安心……!!)
咲良が勢いよく手を振る。
「田中くーん!こっち来ない?」
田中は驚いた顔で目を瞬かせた。
「え、僕?」
「うん!一緒の班に入って!お願い!」
周囲の男子たちが露骨に不満そうな視線を送る。
(なんで田中……)
(彼女いるくせに……)
田中がグループへ近づくと、柔らかい笑みを浮かべた。
「僕でいいの?」
「うん!君しかいない!」
田中はわずかに頬を緩めた。
「……彼女持ちなら安心ってこと?」
咲良の反応は早い。
「そう!察し良すぎて助かる!」
「ふふ。春原さんにはちゃんとお礼言いたかったんだ。
僕たちの背中、押してくれてありがとう」
咲良は一気に顔を赤くし、そっぽを向く。
「ちょっとアドバイスしただけだし!背中とか押してないし!」
「さすが咲良だね。マジキューピット」
すかさず莉子が茶化した。
「やめて!!」
わっと笑いが広がり、教室に柔らかな熱が灯る。
咲良はそこで身を乗り出す。
「ねぇ田中くん、ついでにもう一人……彼女持ちの男子いない?
男一人じゃきついでしょ?」
「いるよ」
「マジ!?呼んで呼んで!!」
田中は遠くの席へ手を振る。
「おーい、山本ー!こっち!」
山本が顔を上げて歩いてくる。
「なに?」
「この班入ろうぜ!」
咲良を見ると、なぜか少し照れたように視線をそらす。
「……いいの?」
「うん!大歓迎!」
机を寄せた山本が田中と目を合わせ、ニヤリと笑う。
「「マジキューピット!!」」
咲良は真っ赤になって机を叩く。
「ちょっっ!!ほんとやめろって言ってるでしょ!!」
その声を高橋が鋭い目で射抜いた。
「ひっ……なんか寒気が……」
御珠がくすりと笑う。
「ふふ。咲良は人望があるね」
莉子の目がきらきら輝く。
「咲良ちゃん、すごーい!」
華蓮は腕を組み、つぶやく。
「……まぁ助かった。御珠目当ての男子が群がるところ見たくなかったし」
(咲良……やるじゃん)
山本も照れを滲ませながら言う。
「ほんと、春原さんには感謝してるんだ。
あのブームがなかったら、俺も付き合えなかったし。
まぁ、クラス替えで引き離されたけど」
「私も颯太と離されたし、なんか学校側の意図を感じるよねー」
「それな」
そんな会話の中、高橋が再び声を張る。
「班決まったー?じゃあ班長決めてー」
咲良が皆を見回す。
「班長どうする?」
「春原さんでいいんじゃない?」
「キューピットだし」
「関係なくない!?」
莉子が笑いながら背を押す。
「咲良ちゃんでいいと思うよ。
なんだかんだで引っ張ってくれるし」
「わたくしも賛成」
「はい、決定ー」
華蓮がまとめてしまい、咲良は脱力する。
「はぁ……じゃあ私やるけど。
みんなも協力してね?てか班長って何するの?」
全員、揃って “さぁ?” という顔。
(めんどくさそう……でも御珠ちゃん目当てのクソ男子どもから守れたし……いっか)
「来週楽しみにねー」
高橋先生の明るい声が響き、教室は和気あいあいとした気配に包まれた。
―――
バスが止まり、生徒たちが勢いよく外へ飛び出していく。
春の山道には新緑の匂いが満ち、柔らかな風が頬を撫でた。
遠足らしい高揚が、周囲のざわめきに混ざって膨らんでいく。
吉川が拡声器を手に取り、前へ出る。
「はーい、集まれー!」
散っていた生徒たちが、声の方向へ寄って輪を作る。
「これから午前中はオリエンテーリングだ。
山の中に十ヶ所のチェックポイントがある。
各自協力して、なるべく多く回れ。
チェックポイントには“点数の違う札”が複数ある。
集めた総得点で競うからな。
どの順番で回るかは班の自由。
ただし――必ず班全員で行動すること。
ひとりでも離れたら失格だ」
教室のざわめきとは違う種類の声が立ち上がる。
緊張と期待が混ざり、足元の土まで弾むようだった。
続いて高橋が大きなマップを掲げる。
「地図とペンは班長に渡します。
制限時間は二時間。
時間内に戻れなかった班は……もちろん失格。
優勝チームには“ちょっとした景品”があるわよ」
「景品!?」
颯太の声が弾んだ瞬間、吉川が口角を上げる。
「この後のBBQの――肉が豪華になる」
生徒たちの歓声が山に響く。
「うおおお!!」
「よっしゃ!絶対優勝だ!!」
高橋は軽く腕時計を見て言った。
「じゃ、今から時間計るわよ。
作戦会議中も時間は進むからねー。
それじゃ……スタート!」
透がすぐに落ち着いた声で仕切る。
「よし。作戦会議をしよう」
こうして――班ごとの二時間の大冒険が始まった。
―――
結果は、雪杜チームの優勝だった。
澄香と透の冷静なルート最適化、駆の機転と足回りの良さ、颯太の圧倒的体力、そして全員のチームワーク。
それらが見事に噛み合い、最後の坂を駆け下りた瞬間、勝利が確定した。
「やったーーー!!」
颯太が地面を蹴るように喜び、透は軽く息を整えながら微笑む。
「みんな、お疲れ様」
「……よかったわね」
澄香がそっぽを向いたまま呟き、雪杜は額の汗を拭う。
「ふぅ……けっこう歩いたね」
(さすが雪杜……。かっこいいのじゃ)
御珠が心の中でそっと微笑む。
「じゃあ、これからBBQよー!
優勝チームには豪華なお肉が待ってるわ!」
高橋先生の声に反応して、颯太がすぐさま飛び跳ねる。
「肉!肉!!」
笑い声が山肌に跳ね返り、新緑の匂いに溶けていく。
胸の内まで明るくなるような、春の昼だった。
―――
オリエンテーリングを終え、汗の熱だけがまだ身体に残っていた。
開けたBBQ場には炭の匂いが漂い始め、生徒たちが一斉に場所を確保しに走り出す。
「じゃあ、BBQの準備を始めてー。
場所は自由だけど、火の扱いには注意してね」
高橋先生の声が響き、各班がばらばらに動き始めた。
咲良は素早くタープ近くの広いスペースに飛び込み、キープするように両手を広げる。
「ここにしよう!」
「いいね!」
莉子と御珠が続き、荷物を広げる準備に入る。
咲良はちらりと1組側を見やり、雪杜たちの動きを探る。
(雪杜たちの班……あっちの方に行きそう)
そう判断すると、大きめの声を上げた。
「御珠ちゃん!ここ広いから荷物置いてー!」
その声に雪杜が気づく。
「あ、咲良たちあそこか」
すると透が班員をまとめるように周囲を見回した。
「じゃあ、僕たちはこの辺にしよう」
透が示した場所は、ちょうど咲良たちの隣。
咲良の胸の内で小さくガッツポーズが弾けた。
(よし!作戦成功!)
こうして、2組と1組の班が自然と並ぶ形になった。




