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関東軍着任③~ノモンハン事件~

 昭和11(1939)年5月26日、23師団司令部に到着した伊坂、参謀長、辻少佐は急いで状況を確認する。急いだとはいえ手続きなどもかかり到着にかなり時間を要してしまった。

主任参謀が駈け寄り参謀長に敬礼をし簡潔に状況を伝える。「敵はハルハ河右岸に進出し、先程師団長が山県大佐の支隊へ攻撃命令を出され・・・。」「誰が作戦を承認したっ、あれ程自重しろと言っだろうがっ。」歩きながら主任参謀へ叱責する。「申し訳ありません。実は捕虜を捕まえ、そこから敵の数は少数だと聞き、師団長が急遽、山県大佐の部隊を増強し向かわせてしまいました。」参謀長、主任参謀の後ろで伊坂も状況を聞く。

その後、参謀長は師団長の元に行き、過剰な行動であることと、今すぐ部隊の進軍を止めるよう上申するが師団長は聞く耳を持たず、部隊の行動に変更はないとした。


5月28日、山県支隊(通常編制に部隊を増強された特別な部隊)は払暁(夜明け)と共に敵に対し攻撃を開始。捕虜からの情報により敵の数は少数と見積もられたことから攻勢をかけ一気に事態を好転させようとした。しかしこの思惑が事態は思わぬ方向へと進む。


5月28日夕方師団司令部に連絡が入り、通信参謀が報告する「山県支隊より報告・・・」と通信参謀が報告を躊躇う。「何だ?」主任参謀が急かす。「敵の殲滅は困難、我が方の損害・・・大、特に東支隊が危機的状況・・・と。」通信参謀が冷や汗をかきながら報告するがその報告を受けた小松原師団長始め参謀達も衝撃を受けていた。その中一人席から立ち上がった人物がいた。関東軍から参謀長、伊坂に着いてきた辻少佐だった。「私が直接現地へ行きます。」半分放心状態だった司令部の参謀隊達が意識を取り戻した。「こうなっては山県支隊を下がらせるしかないでしょう。その為に直接現地へ行き作戦指導を行います。」現状、他の方法を思いつかない司令部員達には言い返す言葉がなかった。「辻参謀、」そんな中、伊坂が辻に声をかける。「自分も同行します。」その場に立ち上がり辻に向き合う。辻は伊坂の目を見る。伊坂の目に怯えや動揺はなく、落ち着いた表情をしていた。「いいだろう、着いて来い。」そういって辻少佐は伊坂を連れ司令部を後にした。その様子に他の司令部員は何も言うことが出来ずただ見送った。


5月29日、師団司令部から出て車で十数時間、伊坂と辻参謀は山県支隊の司令部に到着した。2人目の姿を見て山県支隊長以下幕僚達は驚き、言葉を失った。それは戦況が芳しくないことを2人は悟った。「戦況はどうなっているんですかっ?!」辻参謀は挨拶も敬礼も無く山県大佐に突っ込んだ。「前方の東捜索隊が、」横から幕僚と思わしき者が割って入ってきた。「昨夜、敵軍の攻撃があり、これを迎撃しようとしたのですが、大損害を被り、東捜索隊長が戦死されたと・・・」その言葉に伊坂、辻は衝撃を受けた。「なぜ退かせなかった!?」辻参謀のその一言に山県支隊長始め周囲は言葉が出ない。「あんたの用兵のまずさによって東中佐を見殺しにしたっ。」辻参謀は大声で山県大佐を非難した。「今夜半、支隊を挙げて夜襲を決行し東捜索隊の遺体を収容しなさい。」辻参謀は2つも階級の上の隊長に対し堂々とと命じた。「わかった、すぐに部隊を編制し・・・」「いいえ。」辻参謀は山県大佐の言葉を遮る。「部隊を夜襲と遺体収容に分け、伊坂と言ったな?」突然辻参謀が自分の名を呼び伊坂は驚いた。「はっ!」伊坂は反射的に反応する。「貴様が夜襲部隊を率いよ。」突然の命令に伊坂だけでなくその場の全員が驚く。「ですが、私は・・・」師団参謀でこの前着任したばかりだと言おうとした。「ここまで事態を悪化させたこの連中に任せておけるか、貴様も陸大出の端くれならその実力を示せ。」ここまで強硬な発言をしても支隊長始め誰一人反論しなかった。これにより伊坂は夜襲部隊約300名(半個大隊規模)を率いることとなり、残りの部隊は辻参謀に仕切られ山県支隊長自ら率いて遺体収容に出ることとなった。


夕刻、伊坂は突如率いることとなった臨時部隊に準備を進めさせるため、小隊長を集め情報を聞き出す。しかし、伊坂にとって重大な問題があった。情報がなさ過ぎるのだ。敵の規模、装備、その他こちらから戦闘をしかけるというのに敵のことが全くわからない。とりあえず斥候(偵察)部隊を先に出し少しでも情報を取らせる。そんな状況に加え自分みたいな若輩が突如上官になり各小隊長には当然不安の顔が見られるが、仕方ないという半ば諦めのように伊坂の指示を聞く。(まぁしょうがいないよね)伊坂も彼等の気持ちは理解しているつもりでいた。しかしそのような一人一人の感情に気を取られることはできない。日が暮れると部隊をまず車両で移動させ、目標地点手前で車から降ろし徒歩で前進させる。途中途中に味方らしき遺体が目に付き段々数が増えていく。もうここは戦場であり、生死を分かつ場なのだと改めて自分に言い聞かせる。行進中に東捜索隊陣地付近を調査に行かせた斥候部隊が戻り伊坂に報告をする。敵はこちらの出方を警戒している様子だが部隊を後退させ始めている様子、その他敵のおおよその規模、自動車などがあったとまぁ最低限の情報は得た。「隊長、一気に突撃をかけ敵を圧倒しましょう。」小隊長の一人も斥候の報告を聞き意見を具申する。「いえ、夜襲は部隊の混乱も起きやすい。」伊坂は冷静に考えながら解説する。「同士討ちを避けるためにも敵に動いてもらいましょう。」伊坂の意味深な言葉に小隊長はその意図をつかめずにいた。

目的地の元東捜索隊陣地の直前で部隊を止め各小隊長を集めた。「これから敵に夜襲をかけますが、先に第2小隊のみむかいます。」その発言に小隊長全員が驚いた。伊坂が任された部隊は第1~第6まで計6個小隊あるが特に驚いたのは第2小隊以外の小隊長全員だった。「隊長、それはいったい、どういうことでありますか?」やはり疑問の声が上がる。「この暗闇の中、各小隊でかかれば同士討ちの危険が、出ます。」伊坂は説明を始める。「そこでまず第2小隊以外は指定する場所へ防御隊形を構えてもらいます。同時に第2小隊は敵陣へ接近し攻撃、しかし敵の起動を確認したらすぐに退きます。」暗闇の中、僅かな灯りを使い地図を指しながら伊坂は説明をする。「つまり第2小隊は陽動として敵を誘い込むと」作戦を理解した一人の小隊長が確認をし伊坂が「そうです」と応じる。「部隊を広く展開するのですが、今回、通信機器の配備が無かったので作戦毎の合図は信号弾を使います。」伊坂は信号弾の色でどの行動するかまで指示を出す。作戦は毎回2パターン以上指示し、途中問題があれば信号弾の色で行動を変えることまで伝え部隊を配置に着かせた。


伊坂の指示により各部隊が配置を完了した。

伊坂は陽動の第2小隊に着いていくことにした。出発前、伊坂は第2小隊長に呼ばれた。「隊長、隊長にこの田悟伍長を着けます。」第2小隊長はそういうと一人の若い下士官を差し出した。「こいつは感も良くて体も丈夫です。おい、しっかり隊長をお守りするんだぞ。」言われて田悟伍長は「はい」と小隊長に答えた。声もしっかり抑えて返事をしているので頭もしっかり回るのだろうと安心した。何よりこんな配慮をしてくれるとは第2小隊長もいい人なのだと伊坂は勝手に思った。「隊長殿よろしくお願いします。用件ありましたら何なりと申し付ける下さい。」田悟伍長が、真っ直ぐな目で見てくる。「いや、どちらかというとお世話になるのは僕の方かもしれないのでどうぞよろしく。」と軽く挨拶をした。

第2小隊は伊坂に付き添われ静かに敵陣を目指す。更に迫撃砲を2門追従させていた。敵の陣地へのギリギリの射程距離まで来ると迫撃砲を準備させる。双眼鏡で敵陣をのぞき込み、まだこちらに気付いていないことを確認した。伊坂は小隊長の、顔を見て周囲を確認し攻撃の合図を出した。各人の小銃が火を噴き、迫撃砲弾が敵陣へ落下し破裂する。その後叫び声と共に敵陣から銃弾が飛んでくる。しばらく応戦させると伊坂は戦闘の区切りを見つける。「全員後退っ!」伊坂の命令を小隊長が復唱し部隊は応戦と駆け足を繰り返しながら後退を始める。「隊長殿!」しばらくすると田悟伍長が伊坂に声をかけた「敵陣の方から低いエンジン音がします」言われて耳をすますが伊坂には聞こえない。田悟伍長は静かに音を探る「これは、・・・装甲車っ!?隊長殿急ぎましょう!」田悟伍長は伊坂を急かした。伊坂には装甲車を確認できていないが彼を信じて後退速度を上げさせる。

少し走ると伊坂にも低いエンジンの重低音が聞こえてきた。(まずい)「全員全力で後退っ!」伊坂は改めて部隊に指示を出す。(もう少しで本体の位置・・・)突然足がもつれ態勢を崩す(ああ、訓練不足だな)半ば諦めたところ腕と体を支えられた。見ると田悟伍長だった。「隊長殿、しっかり!。」「ああ、すまない伍長。」そのまま支えられ伊坂は無事に後退した。

(この辺かな)「伍長、この辺で」伊坂がいうと田悟伍長は適当に身を隠せそうな場所まで伊坂を連れ構える。伊坂は照明弾を取り出し空に打ち上げた。

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