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ある島にて  作者: 野村克幸
ある島にて〜序幕〜
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ある島にて〜序幕〜

長きにわたりその島は孤独であった。島であるからには意思など存在しない。しかし島には、事情があり流れ着く者たちが絶えることがない。しかし、その島に行った者たちは神隠しのごとく消えていく。そして、故がある者が辿り着くので、誰も捜しには行かない。島の存在そのものは認められている。場所も知られている。しかし自ら喜び行く者は誰一人として存在しない。

曰く、その島に逗留すると、帰れないそうだ。なぜかはわからない。わかるはずがない、それがわかっているのであれば、すでに解明されて、その島など封鎖されているか、渡航を禁止するだろう。しかり理由もわからずに島の閉鎖などはできない。その島は誰かの私有物ではあるとのことだが、その人物に会ったという話は聞かない。そして面倒なことに、姿なき土地の所有者は自由に島を使ってもよいと言っているそうだ。実地調査に向かった者は、帰ってこない。閉鎖の仕様がない。故に閉鎖に行くことすらも憚られるようになった。

現在では、その島の扱いは渡航注意の保留となっている。だから、興味を持った人物は決して行けない場所ではないのだ。とはいいつつ結局何かしらの事情を抱えて渡る者しかいないことは船で島まで送る者なら誰でも知っている。しかし、事情を訊くほど野暮なまねはしない。なにかとてつもない事情で渡る者に対してそのようなことを言って、何もされない保証など、何一つないからだ。船で送る者は何人かいるが、過去に理由を訊いた船渡しが話を聞いてから一緒に島に行き、帰ってこなかったことから、船で送る者たちは暗黙の了解として、島に渡ろうとする者には、一切干渉することなく、ただ送るだけに留めるようになった。

しかし今日の気分は最悪だった。若干一五歳にして、船での送り役となったマサトは、幾度となく島に色々な者たちを送ってきたが、今回に関しては本当に憂鬱な感情を隠さことすらできなかった。今回送る者たちは、島に移住する家族三人組だった。表示は皆胡乱げで、男性は髪が白髪に染まりきっていて、疲れから来たものか、目元にははっきりとクマができていた。

もう一人は奥さんだろう。夫の顔を見ることもなく、ただ携帯を弄っていた。しかしこれから向かう島は電波が使えるのか。その前に電気や水道、火などの生活インフラがどうなっているのか、一切不明なので、何とも言えない。それにマサトには関係のない話でもある。どの道、この家族を送れば自分のやるべきことは終わるからだ。

最後に残っていたのは、まだマサトと同じ歳にしか見えない女の子だった。マサトはこんな歳であの島に行くのかと思うと、少し忍びなかったが、あくまで他人に変わりはなく、感情移入もさほどできなかった。あくまでもこの家族は何かしらのことをしているから、島に行くのだ。

あまり意味はないが、島に行くには条件がある。観光目的なのか、移住なのかの提示をする必要がある。観光目的で迎えに言って、次に会うことなどなかったが。移住であればマサトとしては楽だ。送った後はそのまま放っておけばいいので、時間の無駄にならなくて済む。

早速、三人を船に乗せる。マサトは毎回している説明をする。船で島に到着するまでにかかる時間はおよそ一時間だが、乗っているあいだに特別な禁則事項はない。但し、二点、飲酒と喫煙の禁止だけは必ず守ってもらっている。あとは到着するまでは自由となっている。

もっともこんな説明などなくとも、そのようなまねをした者たちは一度たりともいなかったのだが。

マサトはその家族から頷いたのを確認して、船のエンジンをつけ、出発した。

三十分ほどして、娘であろう子がマサトに声をかけてきた。しかし触れ合うことはできない。暗黙の了解は守らなくてはならない。

娘はマサトの半袖の裾を終始握っていた。島に着くまでずっと。マサトは娘の意図が一切読めずにいたが、ようやく島が見えてきて、間もなく到着すると伝えるが、返事はない。いつものことではあるが、形式上の流れで言っておいた。

島の岸まで船を寄せて、家族を下ろして、挨拶をする。

「それでは、失礼致します」

そこまで言うと、何やら体が急におかしくなっていった。今まで何度となく島に人を送ったが、どうにも耐えがたいほだに気怠く、その場に立っていられなくなった。意識が、遠のく。

マサトは、その場で視界がばやけて、意識を失った。

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