#8「名前言わなきゃ処刑? エルフの圧力」
ぐっと肩を押さえられた。
逃げ道を封じるようなその手の力に、背筋がゾクリとする。
振り向くと、金髪のエルフが真後ろに立っていた。
逃げ道をふさぐように、すっと間合いを詰めて。
「……っ」
目が合った瞬間――みるみる朱に染まっていく。
……な、なんだ? なんかヤバいスイッチ踏んだか俺。
心臓が一拍遅れてドクンと跳ねた。
このまま拳が飛んでくるのか、それとも膝蹴りか……いや、さっきの胸事件を思い出して余計に怖い。
嫌な汗がつーっと落ちる。
だが次の瞬間、エルフは俺の肩から手を離し、くるりと背を向けた。
そして――もじもじと足先で地面をつつきながら、ぽつりと口を開く。
「……女の子がね、話してる途中で居なくなるって、どういうことかわかってるの……?」
背中越しの声は妙に低く、重い。
耳に届いた瞬間、体を冷たいものがぞわりと這い上がる。
なんだその尋問みたいなトーン……いや、処刑宣告か?
彼女は一拍置いて、さらに言葉を紡いだ。
「……乙女にとってはね、胸の花びらを踏み潰されるような……とんでもない重罪なのよ」
詩的なのに、妙に呪詛っぽい比喩だ。
背筋に冷たいものが走る。
(やべぇ……これ完全に脅されてるやつじゃん)
俺の脳内で、言葉が浮かび上がる。
《我が戒めを拒むならば――貴様の名は不埒者として刻まれ、衛兵の鎖に繋がれ、永劫の恥辱に沈むであろう……!》
「わ、わかった……何でも…言うこと聞きます…永劫の恥辱だけは勘弁してください……」
「???なんだかよくわからないけど、お願い聞いてくれるのね!」
エルフはぱっと振り返り、にやりと笑う。
妙に満足げなその目は、次に何か仕掛けてくる獣みたいだ。
「じゃあ、まずは自己紹介から。あんた、名前は?」
「……白石恭真だ」
「キョウマ……ふーん、覚えたわ」
その声色には、何やら悪戯を思いついた子どものような響きがあった。
「私の名前は――チャルディアノクス・ピュルシエールよ」
「……ちゃる…でぃあ…のす…ぴゅる…しゅーる?」
「違う! チャ・ル・ディ・ア・ノ・クス、ピュル・シ・エール!」
「ちゃ・る…でぃ・あの…ぴゅる…ええい! 長いし噛むわこれ……よし、チャピでいいな」
「――ッ!? ッ!?!?」
瞬間、彼女の顔が真っ赤に染まり――
ボワァァンッ!!
まるで頭の上で小規模爆発が起きたみたいに、耳まで真っ赤になった。
……いや、なんで爆発したんだお前。




