#26「血の祭壇で舞台が始まった結果(後編)」
フィーとエキストラの間に身体を滑り込ませ、ルミナスの柄を大仰に振り上げ――薙ぎ払った。
眩い光が走る。
ふさが黄金に輝き、舞い散る粒子が闇を焼いた。
エキストラの纏うなんか黒いもやと、ルミナスのまばゆい光が正面からぶつかり合う。
二つの奔流が渦を巻く。
(……いいぞ……ルミナスも分かってるじゃないか!)
(ここは光と闇が拮抗するように……観客が一番盛り上がる場面だ!)
俺の意思に呼応するように、ルミナスのふさが「ぶんぶん」と揺れた。
気のせいか、何故か少し焦っているように感じる。
闇と光の奔流がせめぎ合い、石床が軋む音が鳴る。
エキストラの目が細まり、口元から低い唸りが漏れた。
「……貴様……何者だ……」
(来たな、悪役の定番台詞……!)
俺は顎を引き、光を背負った役者のように言い放った。
「ふっ……ただの清掃員だ!」
その瞬間。
背後で小さな声が震えた。
「……キョーマさん……」
涙に濡れた瞳で俺を見上げるフィー。
(おいおい……泣き演技まで入れてくるのか。やるな、フィー……!)
俺は内心で感嘆しつつも、舞台を盛り上げるためさらに力強くモップを握り直した。
その瞬間、エキストラが痺れを切らしたように両腕を広げた。
「茶番は終わりだ!巫女の血を寄越せッ!」
漆黒の槍のように見える物が、フィー目がけて放たれる。
「フィーッ!」
俺はフィーの正面に飛び出し、彼女を庇って槍を受けた。
――直撃。
次の瞬間、ルミナスのふさが黄金に爆ぜたように見えた。
槍は体に触れる前に霧散し消え去る。
もちろん身体に傷はない。
けれど俺は――舞台を盛り上げるために、その場に崩れ落ちた。
「くっ……ここまでか……!」
「……キョーマさん!」
フィーが駆け寄り、瞳を潤ませて膝をつく。
細い肩が震え、彼女はペンダントを握りしめながら俺を覗き込んだ。
「どうして……どうして私なんかのために……」
「どんな汚れも俺が拭き取る。お前を苦しめる悲劇だって……俺が消し去ってみせる!」
フィーの両目から、ぽろりと大粒の涙が零れた。
胸元のペンダントが静かに光を帯び、淡い輝きが彼女の全身を包んだ。
やがてその光は祭壇へと広がり、赤黒い壁面を清らかな白に染めていく。
祭壇全体が震え、血のような光が滲み出した。
エキストラの目が見開かれ、低い叫びが漏れる。
「馬鹿な……契約が……揺らいでいる……!?」
黄金の光が闇を押し返す中、俺はゆっくりと身体を起こした。
膝に手をつき、肩で息をする風に立ち上がる。
(……来たな。ここがクライマックス演出ってわけだ!)
ルミナスのふさがぶるぶると揺れ、光をさらに増していく。
フィーの祈りとルミナスの光が重なり合い、祭壇全体が閃光に包まれる。
闇と光の奔流が激突し、空気が爆ぜるたびに赤黒い闇が消えて行く。
「ぐっ……あり得ぬ……! 契約が……断たれるなど……!」
エキストラの悲鳴が轟き、闇のマントが剥がれるように崩れ落ちる。
その声に呼応するように、ルミナスの黄金が炸裂する。
フィーの涙に濡れた祈りが光を増幅し、奔流はエキストラを完全に呑み込んだ。
「こんなところで……我が命が……潰えるとは……」
断末魔を残し、エキストラは塵になる。
赤黒いマントが霧のように散り、照明のスモークが消えるみたいに舞台から姿を消した。
俺は心の中で呟く
(お疲れさん。いい演技だったぜ…)
次の瞬間、祭壇を覆っていた赤黒い呪紋がすべて砕け散り、澄んだ光に満たされた。
静寂の中、フィーは、震える声で言葉を紡ぐ。
「……キョーマさん……私……」
俺は満身創痍を演じながらも、にやりと口角を上げた。
「……掃除完了。悲劇も呪いも……もう残っちゃいない」
フィーはこぼれる涙を拭わず、笑顔で俺の胸に飛び込んで来た。
ルミナスが「ぶふっ」とふさを膨らませ、呆れと安堵を同時に示すように揺れた。




