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#10「港町に着いたら掃除魔導士と呼ばれた」

エルフから逃げてきて、たどり着いた港町アルメル

とはいえ懐はすっからかん、このままじゃ飯も食えない。


だから稼ぐしかない――そう思って冒険者ギルドの掲示板を前に腕を組んだ。

ずらりと並んだ依頼のほとんどは戦闘系ばかり。

戦う気のない俺に合う仕事はほとんどない。


だがその中にひときわ人が避けそうな紙が貼られていた。


「……水路の清掃か。誰もやらないのも納得だな」


ルミナスを握り直し、口元に笑みを浮かべる。


「やりがいはありそうだな……フッ、俺とルミナスならどんな汚れも落とす!」


受付嬢が思わず目を丸くする。


「えっ、本当に受けるんですか?これ、みんな敬遠して……」


「掃除は俺の仕事だからな」


胸を張って答えると、ルミナスのふさがぶるっと震えた。


次の日、俺は現場に立っていた。


「……予想通り、かなり汚いな」


ヘドロと苔で真っ黒な石の水路。

鼻をつく臭気。

ルミナスを見やると、ふさが光を帯び、今まで知らなかった力があふれ出しているように感じた。


「……まさか、新しい技か?」


次の瞬間――


バシュウウッ!


先端から勢いよく水流が噴き出した。泥と苔が一瞬で吹き飛び、輝きを取り戻した石が次々と姿を現す。

水飛沫が虹を描き、通りがきらめいた。


「水まで出るのか……! これは、高圧洗浄機だな」


胸の奥がざわつく。ルミナス、お前まだこんな力を隠していたのか。

思わず天を仰ぎ、小声で呟いた。


「……穢れよ消えろ、俺とルミナスが奏でる“清浄の交響曲シンフォニー”でな」


――通りの影で買い物帰りの老婆が足を止め、ぽかんと口を開けていた。


さらに次の日。今度は古い倉庫の清掃だった。

扉を開けた途端、積もり積もったホコリでむせそうになる。


「……昨日とは違って、今度は粉じん地獄か」


ルミナスのふさがまた震えた。今度は空気を吸い込むような気配。


「……まさか…まだあるのか!?」


次の瞬間――


ゴオオオッ!


倉庫全体の埃が渦を巻き、吸い込まれていく。

舞い上がっていた粉じんが消え、床や梁までくっきり見えた。


「な、なんだ今の!? ……これは、バキュームか!」


俺は目を見開きながら、笑いがこぼれた。


「おもしろい……」

「――粉じんすら許さぬ、“浄界の吸引アブソルート・サクション”!」


自分でもゾクッとするほど大仰な言葉が口を突いて出た瞬間、後ろから声がした。


「……え、なにそれ……」


振り返ると、倉庫に荷を運びに来た商人の青年が、目を白黒させていた。


またまた次の日。魚市場の清掃。鼻をつく生臭さと濡れた床が待ち受けていた。

ルミナスは力強く輝き、周りの空気が震えだす。


「高圧洗浄と、あの吸引……まさか、両方か?」


ルミナスのふさが強く光る。

次の瞬間――


バシュウッ! ゴオオッ!


水が吹き出し、同時に空気を吸い込む。

濁った床は澄みわたり、魚の生臭さも埃も跡形もなく消えた。

俺はしばらくその光景に見入っていたが、やがて低く呟いた。


「……最強の清掃道具だな…相棒!」


自然と笑みが浮かぶ。

次の瞬間、なぜか胸の奥から熱がこみ上げ、思わず天を指差した。


「――この手が届く限り、穢れはすべて滅する!我らが奏でる“無垢の終焉詩ラスト・エレジー”でな!」

「……ああ……今の、教科書に載るやつだ」


そのとき。


「……な、なに今の……」


振り返ると、通りかかった少女がパン籠を抱えたまま、片足を上げたままフリーズしていた。


ギルドで清掃完了の報告を終えたとき。

酒を飲んでいた冒険者の一人が声を張る。


「おい! お前、あの噂の清掃員だろ! 通り名ついたぞ、、“掃除魔導士クリーナー”!」


酒場に笑いが走る。


俺は振り返り、その男を射抜くように睨んだ。


「……おい。お前――ッ!」


ざわついていた空気が、音を奪われたように凍りつく。


「――見込みがあるな――」


グラスを持ったまま、男の手が止まる。

俺は口の端をわずかに吊り上げ、そのまま颯爽と出口へ歩いた。

コツ、コツと靴音だけが響き、扉が閉じる――。


……が、すぐに開く。


「――やっぱり、悪くない名だ。忘れるなよ」


そう言って、親指を立てる。


沈黙。


男は口を半開きにしたまま固まり、周囲の冒険者たちも顔を見合わせる。

酒場全体が、石像に変わったかのように静止していた。


最後に、バタン――と扉を閉めた。

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