新しい日常の始まり
十月に入り、陽光学園では文化祭の準備が本格的に始まっていた。未来と遥斗の恋愛関係も、もうクラスメートたちにとって自然な風景になっている。
火曜日の朝、未来は遥斗と一緒に昇降口で靴を履き替えていた。
「今日は文芸部の最終打ち合わせだね」
「うん。みんなの原稿も揃ったし、あとは編集作業だけ」
「未来ちゃんの『選択』、とても良い作品だった」
「ありがとう。遥斗くんの小説も素敵だったよ」
遥斗が書いた恋愛小説は、明らかに二人の体験をモチーフにしたもので、読んでいて胸が熱くなった。
教室に入ると、えみが手を振って迎えてくれた。
「おはよう、ラブラブカップル」
「もう、えみちゃん」
「でも、本当に仲良しよね。見てるこっちも幸せになる」
「ありがとう」
朝のホームルームで、松本先生が文化祭の連絡をした。
「来週末の文化祭まで、あと十日になりました。各部活動、準備の方はいかがですか?」
「文芸部は順調です」
未来が答えた。
「それは良かった。楽しみにしています」
昼休み、文芸部のメンバーが部室に集まった。未来、遥斗、美桜、健太の四人で、部誌の最終確認をする。
「表紙のデザイン、どうします?」
美桜が提案した。
「先生から、文化祭まで十日って聞いたから、急がないと」
「私、絵を描くのが好きなんです。表紙を描かせてもらえませんか?」
「それいいね。お願いします」
「どんなデザインにしようかな」
美桜は嬉しそうに、スケッチブックに下書きを始めた。
「健太くんの詩、とても良かったよ」
未来が感想を述べると、健太は照れた。
「ありがとう。友情について書いたんだけど、最近は恋愛も気になってきた」
「恋愛?」
「実は、気になる人がいるんだ」
健太の告白に、みんなが注目した。
「誰?」
「隣のクラスの女の子。図書委員をしてるんだ」
「へえ、文学少女ね」
「今度、勇気を出して話しかけてみようと思ってる」
「頑張って、健太くん」
「応援してるよ」
健太の恋愛話で、部室は盛り上がった。
「そういえば、美桜ちゃんは?」
未来が聞くと、美桜は少し恥ずかしそうに答えた。
「私は……まだ特定の人はいません」
「でも、誰か気になる人がいるんじゃない?」
「秘密です」
美桜の反応を見て、みんなは察した。きっと、まだ遥斗への気持ちを完全には諦めきれていないのだろう。
でも、美桜は明るく振る舞っていて、二人の関係を素直に応援してくれている。
「美桜ちゃんにも、きっと素敵な出会いがあるよ」
「ありがとうございます、未来先輩」
放課後、部誌の印刷のために、四人で近くの印刷屋に向かった。
「五十部お願いします」
「分かりました。明日の夕方には出来上がります」
印刷の手続きを終えて、みんなでカフェに寄った。
「やっと部誌が完成するのね」
「みんなの努力の結晶だね」
「文化祭が楽しみです」
四人でケーキを食べながら、文化祭への期待を語り合った。
その時、田村がカフェに入ってきた。
「あ、田村くん」
「みんな、お疲れさま」
「田村、一緒にどう?」
健太が声をかけると、田村は嬉しそうに席に着いた。
「部誌の準備、順調?」
「うん、明日印刷が出来上がる予定」
「楽しみだな。俺も絶対読むから」
「ありがとう」
五人での会話は、とても自然で楽しかった。田村も文芸部の仲間のように溶け込んでいる。
「そういえば、田村は文化祭で何かやるの?」
「バスケ部は模擬店を出すんだ。焼きそばとかき氷」
「いいね。手伝いに行くよ」
「本当?ありがとう」
カフェを出る時、田村が遥斗に話しかけた。
「時田、今度バスケ見に来ない?」
「僕がですか?」
「うん。運動は苦手でも、見るのは面白いと思うよ」
「ぜひお願いします」
田村と遥斗の友情も、着実に深まっている。
翌日の放課後、部誌を受け取りに行った。
「わあ、素敵!」
美桜がデザインした表紙は、桜の花と本をモチーフにした美しいものだった。
「美桜ちゃん、すごく上手」
「ありがとうございます」
部誌のタイトルは『青春の選択』。四人の作品が詰まった、特別な一冊だった。
「先生にも見せに行こう」
四人は職員室に向かった。
「松本先生、部誌が完成しました」
「おお、見せてください」
松本先生は部誌をめくりながら、感心した様子だった。
「素晴らしい出来ですね。みなさんの成長が感じられます」
「ありがとうございます」
「特に、桜井さんの『選択』は印象的でした。自分自身と真摯に向き合った作品ですね」
「先生……」
「時田くんの小説も、とても読み応えがありました」
先生からの評価に、四人は嬉しくなった。
文化祭当日。陽光学園は多くの来場者で賑わっていた。
文芸部は教室で部誌の展示・販売を行っている。
「いらっしゃいませ」
美桜が明るく声をかけると、来場者が興味深そうに部誌を手に取った。
「高校生が書いたとは思えないクオリティね」
「ありがとうございます」
午前中だけで、二十部以上が売れた。
お昼の時間、田村がバスケ部の模擬店から焼きそばを差し入れてくれた。
「お疲れさま。これ、食べて」
「ありがとう、田村くん」
「美味しい!」
みんなで焼きそばを食べながら、午後の準備をした。
午後になると、未来の両親が見に来てくれた。
「お疲れさま、未来」
「お父さん、お母さん」
「部誌、拝見させてもらったわ。とても素晴らしかったわよ」
「本当に成長したね」
両親の言葉に、未来は嬉しくなった。
「こちらが、遥斗くんね」
美津子が遥斗に声をかけた。
「遥斗くん、お疲れさま」
「こんにちは、おばさん。今日はお忙しい中、ありがとうございます」
遥斗が丁寧に挨拶すると、両親は嬉しそうに微笑んだ。
「部誌、とても素晴らしかったわよ」
「ありがとうございます。未来ちゃんと一緒に頑張りました」
夕方、文化祭が終了した。
「みんな、お疲れさま」
松本先生が差し入れのジュースを持ってきてくれた。
「部誌、完売でしたね」
「本当ですか?」
「はい。とても評判が良かったです」
完売の知らせに、四人は大喜びした。
「やったね!」
「みんなで頑張った甲斐があった」
片付けを終えて、文芸部のメンバーは打ち上げをすることにした。
近くのファミリーレストランで、お疲れさま会を開いた。田村も一緒だった。
「乾杯!」
五人でジュースで乾杯した。
「今回の文化祭、本当に良い思い出になったね」
「未来ちゃんの作品、すごく感動した」
「遥斗くんの小説も素敵だった」
「健太くんの詩も、美桜ちゃんの表紙も」
お互いの作品を褒め合いながら、楽しい時間を過ごした。
「卒業したら、文芸部とお別れなのね」
「寂しくなるな」
「でも、美桜ちゃんが文芸部を引き継いでくれる」
「新入部員も入ってくるといいね」
来年への期待を語り合った。
レストランを出る時、美桜が言った。
「今日は本当に楽しかったです。みなさんと一緒に活動できて幸せでした」
「こちらこそ、ありがとう」
「残り少ない時間だけど、最後まで一緒に頑張ろうね」
五人の絆は、さらに深まった。
翌週の月曜日、学校では文化祭の余韻が残っていた。
「文芸部の部誌、評判良かったね」
クラスメートが声をかけてくれた。
「ありがとう」
「未来の作品、読ませてもらったよ。すごく良かった」
「そんな……恥ずかしい」
昼休み、文芸部の部室で、四人は次の活動について話し合った。
「冬の部内発表会をしない?」
美桜が提案した。
「それいいね。今度は朗読会みたいな感じで」
「面白そう」
「僕も参加したい」
健太の積極的な発言に、みんなが笑った。
「そういえば、健太くんの恋はどうなったの?」
「実は……成功した」
健太の報告に、みんなが驚いた。
「え!本当?」
「うん。文化祭の時に勇気を出して話しかけたら、とても良い人だった」
「良かったね!」
「おめでとう、健太」
健太の恋愛成就に、部室は祝福ムードに包まれた。
「みんな、恋愛が上手くいってるのね」
美桜が少し寂しそうに言った。
「美桜ちゃんにも、きっと素敵な出会いがあるよ」
「そうですかね?」
「絶対にある。美桜ちゃんはとても魅力的だから」
遥斗の言葉に、美桜は嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます、時田先輩」
放課後、未来と遥斗は二人で図書館に向かった。
「文化祭、成功だったね」
「うん。みんなで頑張った甲斐があった」
「未来ちゃんの作品、本当に素晴らしかった」
「遥斗くんの小説こそ。読んでて涙が出そうになった」
「恥ずかしいけど、未来ちゃんに喜んでもらえて良かった」
図書館で並んで勉強していると、自然と手が触れ合った。
「遥斗くん」
「なに?」
「私、とても幸せ」
「僕も」
二人の関係は、日々深まっていく。
その夜、未来は日記を書いた。
『文化祭が終わって、新しい日常が始まりました。
遥斗くんとの恋愛も、もうみんなに受け入れられて、自然な関係になっています。田村くんとも良い友達になれて、本当に良かった。
文芸部のみんなとも、さらに絆が深まりました。健太くんの恋愛も成功して、みんなで喜びました。美桜ちゃんにも、きっと素敵な出会いがあると思います。
記憶を取り戻してから、自分がどんな人間なのか分からなくなっていましたが、今は自分らしく生きられている気がします。
過去の自分も、現在の自分も、どちらも大切。そして、これから作っていく未来も、きっと素晴らしいものになるでしょう。
遥斗くんと一緒なら、どんな困難も乗り越えられる気がします。』
未来は、充実した毎日に感謝しながら眠りについた。
翌日の朝、遥斗からメッセージが届いた。
『おはよう、未来ちゃん。今日も一緒に頑張ろう』
『おはよう、遥斗くん。今日もよろしくお願いします』
『愛してる』
『私も愛してる』
新しい日常は、愛に満ちていた。
学校に着くと、田村が手を振って迎えてくれた。
「おはよう、桜井、時田」
「おはよう、田村くん」
「今日もよろしくね」
「こちらこそ」
三人の友情も、もうすっかり自然なものになっている。
昼休み、文芸部の部室で五人が集まった。
「今度の冬の発表会、どんな作品にしようか」
「恋愛をテーマにしたい」
美桜が提案すると、みんなが賛成した。
「それなら、みんなの体験談を聞かせて」
「恥ずかしいけど、いいよ」
「僕も、遠慮なく語らせてもらいます」
和やかな雰囲気の中で、新しい創作活動が始まった。
記憶を取り戻し、真の愛を見つけた未来。8年間の想いが報われた遥斗。新しい友情を見つけた田村。そして、温かく見守ってくれる仲間たち。
みんなが幸せになれる新しい日常が、今日も続いていく。
十一月の青空の下、陽光学園の校舎には笑い声が響いていた。




