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5.契約

ロウイはリュエルに「どうしたのそれ?」と聞かれ横に積まれたバックの説明をする。


「と、いう訳なんだよね」


「ふーん。ご愁傷様ね」


全くだ、と応えながらロウイはバックの中を開けて中身を確認していく。一番重たかったバックの中にはレンガが入れられていた。他のバックにも同様に木材やゴミ、土などが詰められている。

通りで重いわけだ。


「絶対いらないだろ…」


「全部ただのゴミね」


後ろからバックを覗き込んでいたリュエルが声を洩らす。

ただ、ゴミだと分かっても貴族の物を勝手に捨てるわけにもいない。

どんな難癖をつけられるか分かったものではないからだ。


「まっ休憩も出来たし取り敢えず頑張って運んで、あいつらの対処はそれから考える事にするよ」


再びロウイはバックを背負う。


「ねぇ、ロウイ」


名前を呼ばれ、振り返る。

日傘の濃い影の中てこちらを見つめるリュエルの黄色の瞳が淡く光って見えた。


「ここまでの道中で友達と言ってくれたのは嬉しかったのだけれど、今回の話は全くもって友達割りのようなものは無く、ここから先、私とロウイでは無く対等なただの人間同士として取り引きと契約の話をしたいのだけれど、どうかしら」


ロウイは「いいよ」と応えバックを下ろす。


「やけに即決ね」


「まずはテーブルに座らないと取り引きも契約も始まらないだろ」


ロウイの答えに「商人相手にその考えは高く付くわよ」と言いながら木の枝に日傘を引っ掛け、地面に置かれていたバックを二つ掴んで日傘の下に並べた。

そしてリュエルは当たり前のようにバックの上へ腰掛ける。

人を椅子にして座る貴族がいるくらいだ。人のバックに腰掛けるなんて貴族からすれば、なんでもないのだろう。

それから「どうぞ」と俺に手を向けて言う。


「良いのかよ」


ロウイは向けられたバックを見下ろしながら座る事に躊躇っていた。


「構わないわ。貴族は絶対、上の立場に逆らわない。そういう生き物だもの」


その言い方からして恐らくリュエルの方が立場は上なのだろう。

そうかよ、と応えロウイは少しの考えてから覚悟を決めバックに腰を下ろす。それと同時にリュエルの口角がうっすらと上がったような気がした。座り心地としてはグラついていて座りにくく硬い。


「さてと、じゃあ取り引きを始めましょう。こちらが提示するものはそのバックを二つ持っていく。それと校訓である汝、勇者たれの文言に従い、私は勇者らしい振る舞いとして平民に手を差し伸べた、という理由付きで」


仮にこの契約を僕が飲んだ場合、どうせあいつらはバックはどうした、と聞いてくるだろう。それに対する回答がリュエルの言った「勇者らしい振る舞いとして平民に手を差し伸べた」と言うところになる。つまり偶然助けてもらったのだ。


(そして実際、そうなれば僕としては助かる…けど)


その分の対価をリュエルに支払う必要がある。平民、しかも孤児であるロウイに支払えるものはそう多くない。ましてや相手は貴族だ。


「その代わり?」


「その代わり、今日から一年間ペアを作らなくてはいけない時に私を選ぶ事」


「よしっ良いよ」


リュエルは目を何度も瞬きさせ「良いの?」と聞いた。


「うん」


「たっ確かに、気休め程度だろうな、とは思っていたから、契約内容もそこまで一方的なものでは無いようにしたつもりだけれど、でも、私…」


「私?」とロウイは首を傾げた。


「運動音痴だし、ボールとか明後日の方向へ飛ばすし、剣の打ち合いも下手だし…ペアになったら絶対足を引っ張るけど…それでも良い?」


正直なリュエルにロウイは思わず笑ってしまう。

それから「もちろん」と強く縦に頷いた。


「ふーん。それは…まっまぁ良いわ」


交渉成立ね、と日傘を枝から外しリュエルが手を差し出した。


「これは契約よ。ロウイ」


「わかってる」


ロウイは差し出された手を握り頷く。


「私はロトュス伯爵令嬢、リュエル・カーリー。この名に賭け私は必ず契約を履行し、履行させる」


「あぁ、信頼してるよ」


そっ、と言ってリュエルは少し赤くなった顔を背け手を離す。


(実際、もっと過激な方法で契約を迫る事がリュエルには出来たし、もっと一方的な取り引きを持ち掛ける事もできただろう)


ロウイがあのバックに腰を下ろした時点で、この取り引きのイニシアチブをリュエルが握っていた。

平民であるロウイが貴族のバックに腰を下ろしたとなると、それを理由に首を刎ねられてもおかしく無い事案だ。


(その話を持ち出して来なかった時点で僕はリュエルとの取り引きに応じる覚悟を決めていた)


それが例えどんな内容であろうとも、だ。


「ただ…」


ロウイは目を瞑り顔を空に向けて首を傾げた。

あまりにもこちらが有利すぎる交渉で、それを言うかロウイは決めあぐねているのだ。


「まぁいっか。別の形で恩は返そう」


「恩って…」


リュエルが契約通りバックを二つ背負う。小さいものを選んで二つ渡したつもりだったが「重いわね、これ」と驚いていた。


「じゃあ改めてよろしくね。ロウイ」


あぁ、とロウイは頷く。

それから残ったバックを前と後ろにつけて軽くその場で跳ねて、重さを確認した。先ほどよりもずっと軽い。


(これなら…)


ロウイはリュックのベルトを握り木々の暗がりを見つめた。

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