10.5.二人話
「で、ほんまに行かせてよかったん? ロウイ」
コルカルデに聞かれ、リュエルは去って行ったロウイの背中を見る。
「ええ、もちろん。構いませんよ」
「ふーん」
コルカルデの言い方はこちらの意図を図っているように思えた。
「もちろん、彼の第十位という立場のことも分かっております」
コルカルデは苦笑いをしながら「…じゃあ、分かってないのは当の本人のロウイくんだけかいな」と呆れた声で言った。
「そうですね」
リュエルは頷きながら、一人でご飯を見てたらやってくる連中もおるやろし、というコルカルデの発言にロウイが首を傾げていた事を思い出す。
ロウイは本当に分かっていないのだ。第十位の言う凄さに。王族の末裔に加われる権利。それに手が届く第十番目の男性であると言うその立場に。
「すぐに自分の爵位に自信のない娘さん達が沢山ロウイに群がってきよるで」
ロウイとの関係を探るようにコルカルデは視線だけこちらに向けた。顔はあくまでロウイを心配しているように、ロウイの背中へ向けられている。
「仮にロウイが卒業する時までこのまま十位を保つのであれば、将来、貴族の仲間入りは固いでしょう」
リュエルは声の調子を落ち着いたものにしながら答える。
「爵位が無くても実家が貴族の娘さんなら十分新参者の貴族になったロウイくんとも釣り合いが取れる」
リュエルは「ええ」と答えた。
娘は爵位を継ぐことができない。ただ貴族として歴史ある名家と繋がりを持っておくことは重要だ。
新参者の貴族はすぐに色んなところから狙われる。後ろ盾があった方がいいのは間違いない。
「ここにいる約半数の男は爵位を相続されない次男坊かそれ以下や。そこを狙うよりかは…」
「はい。将来、貴族になる可能性が高いロウイに近づく方が良い、そう判断するでしょうね」
「全くみーんな、現金なもんやで」
コルカルデが薄笑いを浮かべていた。
同意するようにリュエルは口元を手で隠しながら目を細めて笑う。
心の中では自分が一番打算的なくせに、と舌を出す。
(二位と言う立場を使い一位であるバーミィを側に引き留め、第十位のロウイまで近くに置く。その間、ロウイやバーミィと関係を強化したかった人たちは指を咥えて見ているだけになっていた)
第二位であるコルカルデの反感を買うわけにもいかないからだ。
「せやった。伝え忘れとったが、ロウイがまだバーミィ卿とやり合うつもりなら、是非二人の決闘、見させてもらいたいんやが、頼んでええか?」
リュエルはその返答を少し考える。
あれだけ打ちのめされて尚、ロウイの心は折れていないはずだ。ロウイの「リベンジしたい」と言っていた時に見せた輝く瞳は再戦を待ち望んでいる目だとリュエルは判断した。だから再戦は多分、起きる。
(本当にただの伝え忘れなら、受けるのはもちろん構わないのですが…)
そこまで考え、リュエルは「ええ、彼とは同じクラスですし伝えておきます」と頷いた。
下手に勘ぐりすぎるのも良くないだろう。
コルカルデは「そうか。すまんな。頼む」と答えて、どこかへ視線をやった。
「…しつこいようやが、ほんまにええんか?」
聞かれてリュエルはコルカルデの視線を追う。見ると既に貴族のご令嬢達がロウイに集っていた。予想していたよりも少し多い。それにかなり大物の令嬢も釣れている。
(まぁそうよね。色仕掛けで簡単に落ちそうだし)
ロウイもロウイで、可愛らしいご令嬢たちに囲まれ、デレデレとして鼻の下を伸ばしていた。自然とリュエルの傘を握る手に力が入る。
「将来の婿というより、ハトがハーブを咥えて鍋の上で踊ってるように見えてるのかもなー」
ロウイは少ない時間で簡単に落とせそうで、尚且つ落とせれば莫大な利益が出る、ように見えるだろう。
リュエルとしては大体そう言う取引は何かしらあるのが常だ、とも思うが…
「ええ。構いません。私は女傑、その娘として契約は必ず履行し、履行させる。家で未回収は許されていませんので」
コルカルデはそれを聞いて愉快そうにクックックと笑い「ロウイくんも大変なお方に鎖を繋がれたもんやな」と一人呟いていた。