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移ろう季節

 暑かった夏は、気温だけで見ればまだまだ続いているように思えた。

 終わることなどないようにさえ。


 それでも、夕方以降の気温や日ごとに軽くなる空気、たまに吹く乾いた風を感じるたびに、やっぱり夏は終わっていたのだと気付く。




『beneficiar』はブラジリアンバーベキューのレストランだ。

 牛肉や鶏肉、ソーセージなどを串に刺し、岩塩で味付けをして炭火で焼く。


 定額で、給仕が席に串焼きを次々に運んできてくれるスタイルで、シュハスコと言う。


 この店では、日によってはサンバダンサーのショーがあり、ブラジルの肉料理と酒を楽しみながらサンバを堪能することができた。



「や!」

 店内に入るや、バイト中の少女を見つけた女性は声を掛けた。

 長い黒髪をオールバックポニーテールでぴしっとまとめ、Tシャツとショートパンツからは小麦色の手足が伸びている。


「るいぴ、おつかれー!」

 こちらもオールバックポニーテールだが、ウェーブがかった髪をサイドに垂らし、髪色はやや明るい。

 黒いレースのブラウスにアイボリーとアイスグレーのレイヤーのあるデザインスカートは明るい雰囲気の女性に合っていた。



「ルイちゃん。ミツバさんたち来たみたいだね。休憩入って良いよ」


 デザインパーマをアップにし、うっすらと生やした顎髭は手入れが行き届いている。

 丸眼鏡のお陰か、ワイルドさの中に知的さを感じさせる男性が瑠衣に声を掛けた。


「ありがとうございます! 店長」

 瑠衣は男性にお礼を言うと、エプロンを外しながらふたりに駆け寄った。


「頑張ってるみたいだねー」

 黒髪の女性がにこやかに言う。


 瑠衣は、「こっちの席使わせてもらえるって」、と言いながら、ふたりを店内の端の方の席へと案内した。


「ミツバ、前にここでショーに呼ばれたことがあるくらいの感じで話してたけど、店長とがっつり知り合いだったんだね」


 瑠衣がバイトしているこの店で、お昼を食べに行きたいという話を持ち掛けたのは三葉だった。


「ショーの依頼を受けた時の連絡とかで、直接の連絡先を知っていただけだよ。るいぷるがずっと行きたがっていたし、せっかく行くならルイともごはん食べたいじゃない」


 普通に予約をしても良かったのだがそれもなんだか他人行儀だし、従業員である瑠衣の休憩に関する便宜も図ってもらいたかったからで、頻繁に連絡するほどの間柄ではなく、それ以上の融通をされているわけでもないと言った。



 この店では客席に余裕が出はじめたタイミングを見計らって適宜従業員間で休憩を回していた。

 ランチ時間のシフトの場合、好きなランチメニューを賄いとして注文でき、賄いは空いている客席でとるのを許されていた。

 なので、便宜と言っても時間を合わせるのと、お客様と同席となる点について、あらかじめ承認をもらった程度で、特別な扱いが為された訳では無い。


「エプロン取らなくて良かったのにー。るいぴバイトバージョン可愛かった!」


「お客様と同じ立ち位置に従業員とわかる状態で居ちゃダメなんだよ」


「るいぴは真面目だなぁ」

 だが、そこが良い。と、なぜかダンディな声を出している。


「るいぷるが適当すぎるんだよ。あとお店の決まりだし」

 瑠衣はキモ、と言いながらも類の言う通り真面目なのか、律儀に返答をした。


 あー、なんか楽器が置いてある!

 と、類は既に別のことに興味を示していたが。

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