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千紫万紅のパシスタ 累なる色編  作者: さくらのはなびら
十五歳 浅草サンバカーニバル
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有働くんのこと

 曲を売るということのプロである有働くんのお父さんは、売れる曲というものを熟知しているプロでもある。


 有働くんの家にはスタジオがあり、一通りの楽器や機材も揃っていて、幼い頃からそれらに触れて育った有働くん。周りには専門の技術や才能を有した大人たち。


 恵まれた環境にあった有働くんは、早々に能力を磨いていき、各種楽器の演奏や作曲などをこなしていき、恵まれた環境であったが故に、早々に突きつけられた限界。または、現実。


 有働くんには自信があった。

 ずっと一緒に、遊ぶように音楽に触れ、同等の能力を身につけている幼馴染の名波くんと、ふたりで練り上げた渾身の一曲。


 同じ年齢で、ふたりの周りには楽器を操れる者はちらほら居たが、まともな作曲や編曲ができるものはいなかった。


 思い知らされたのは、その小さな世界で比較の対象がいなかったからこその特別感は、高い水準でそれができる者たちの中にあって、持ち続けられるものではなかったと言うこと。


 有働くんが持ち込んだ自信作をお父さんは、一蹴した。


「お前は音楽を趣味で続けた方が良い。お前が音楽を趣味として楽しむなら、俺は父として家にあるもは自由に使わせてやるし、公私混同と言われそうだが特権で職場見学くらいはさせてやる。

だが、プロデューサーとしての俺に曲を聴けというなら、プロとして売れる企画が立つかどうかを、潜在的な育成余地も含めて判断基準とする」


 その結論が、趣味として楽しむ。イコール世の中に届けるレベルのものではなく、成長の見込みも立たないと言う評価だった。



 息子に甘い評価を下す父親もいるだろう。立場があり、親バカと言われようがゴリ押しすることだってあるかもしれない。

 しかし、プロの立場で、売れる見込みがあるものを、身内だからと厳しく評する必要性はないように思えた。

 畑違いなものなら、甘い夢を見ている我が子に現実を見ろと厳しくすることはあり得る。その業界のことを知らないのだ。未知の世界で、どうなるかわからない道を進もうとする子を手放しで応援するのが難しいのはわかる。

 しかし、親が業界に精通している立場だったらあまり当てはまらない。


 と言うことは、掛け値なしにお父さんのお眼鏡には敵わなかったのだろう。

 それをはっきり明確に伝えたのは、プロであるが故の優しさなのかもしれない。



 それで若い情熱が冷ませるなら苦労はなかった。

 有働くんをこんなに音楽好きにさせてしまったのは、他ならぬお父さんだ。

 幼心には、お父さんに褒められたくてやっていたこともあっただろう。

 そんなお父さんから、感情ではなくプロとしての視点で能力に対して否定されたのだ。

 中学生だった有働くんがどれほど辛かったかわからない。


 話している有働くんは、カラッとした雰囲気で、才能なんてなくても努力に工夫と戦略を加えて結果を出し、見返してやると息巻いている。

 同じく当時情熱を込めた作品を否定された形となった名波くんも、

「そうは言っても、今でも機材とか使わせてもらってるんだし、なんだかんだ甘えてるよなぁ」

 などと有働くんをいじっている。

 有働くんは、だからこそ、結果で示さざるを得ないんだからコウも気合い入れろよ! なんてじゃれている。


 年月が傷を塞いだのか。まだ幾許も経ってはいないのに。

 でも、傷はなかったことにならないとるいぷるに言われたことを思い出す。


 塞がって、痛みは薄れて、元気になったから前を向いて歩いていける。

 それでも、負った傷の痛みは覚えているのだ。

 だから、こだわるのだ。成果と結果に。

 お父さんの言うとおり、趣味で楽しく続けるのではなく、お父さんの言うとおりにせず、お父さんに否定された能力で、お父さんとは異なるやり方で、結果を出すことにこだわるのだ。


 なんだか少しだけ切なくなった。

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