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千紫万紅のパシスタ 累なる色編  作者: さくらのはなびら
十五歳 浅草サンバカーニバル
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有働くんの論理

 有働くんの提案に乗ることにしたわたしとアリスン。

 改めての自己紹介がてら、ふたりの過去や考え方を話してくれた。



 有働くんと名波くんは小学生の頃からの幼馴染だ。

 有働くんのお父さんが音楽のプロデュースを仕事にしているそうで、家に小さいがスタジオがあり、子どもの頃からそこで遊んでいた。

 有働くんのお父さんは家のスタジオは仕事で使うことはあまりなく、機材の使い方は有働くんに教えてあり、ある程度自由に使う許可をしていた。

 有働くんのお父さんや、その仕事仲間のミュージシャンから、スタジオで楽器を教えてもらったりセッションをしたりしていて、有働くんも名波くんも小学生の頃から一通りの楽器の演奏ができるようになっていた。有働くんは曲づくりもその頃から始めていた。


 中学生になったふたりは変わらず音楽に夢中だったが、固有のバンドは組まず、学園祭の時などは楽器の演奏ができる友達を誘って一時的にコピーバンドを組んでいたが、普段はふたりで楽曲をつくっていた。この頃から名波くんも作曲をはじめ、ふたりでアレンジし、演奏をする。歌は名波くんが歌うこともあれば、ボーカルソフトの音声に歌わせることもあった。

 早くから機会が与えられ、環境に恵まれていた。

 でもただそれだけだったと、有働くんは言っていた。

 一通りできるが、できるだけ。

 どこにいても見つけてもらえるような煌めく才能も、誰の奥にも届くような鋭いセンスもない。


 早くに機会があり、環境に恵まれる。

 わたしと同じだ。早いと言うのはそれだけでアドバンテージになる。でもいつかやがて、陳腐化する。それだけでは立ち行かなくなる。


 有働くんはこうも言っていた。

 既にあるものなら、或いは努力で才能を凌駕できるかもしれない。例えば演奏なら、曲を理解し解釈し、情動を載せる領域には感性は問われるだろうが、技術面を問うなら努力の精度と量がものを言う。

 裏を返せば、適切な努力を、誰よりも強く長く続けられたなら、凡才であっても誰よりも強く長けた奏者になり得る。

 しかし、無いものを創出する分野の場合は異なる。例えば作曲だ。

 多くの知見を得、経験を得、過去の作品を解析し、時代と人の趣向を分析し、良い曲を作ると言う努力はできる。そこにマーケティングや広報を駆使して、売れる曲というものも作れるかもしれない。

 それでも、不朽の名作と呼ばれるものがつくられるには、努力以外の要素が必要なのかもしれない。過去から学び、倣い、あるいは予測するだけでは届かない、その人の中からのみ出てくる才能やセンス、或いは人知の及ばない時の運といったものが。


 夢の無い話だった。

 子どもであることが唯一の価値なのではないかと葛藤し、悲壮な決意で目標を定め、不器用かもしれないけど懸命に努力してきたつもりのわたしは、エスコーラ内のトップダンサーとしての自覚と自負とは裏腹に、才能やセンスといったものが自らに備わっているなどとは思えなかった。

 創作ダンスとは違い、ある程度決まった動きが多いサンバダンスは、有働くんの論で言えば、既にあるものの精度を高める分野になるのだろうか。

 わたしが追及している世界は、努力でカバーできる範疇が大きい分野であるなら、そうではない分野に挑んだ中学生の頃の有働くんと名波くんが味わった失望はわたしよりも深かったのだろうか。


「誰かと比較したいわけじゃない。

分野の違いの有利不利を説きたいわけでもない。

才能を殊更礼賛し羨望し、人を持つ者と持たざる者に分かれていると言いたいわけでもない」


 有働くんは、あくまでも個人の体験の中で思い至ったひとつの結論であると、気を悪くさせていたらごめんと、疑問を持ったわたしと、おとなしく話を聴いていたアリスンに詫びた。


 事実として、創作物にはオリジナリティの要素が作品の良し悪しに関わる割合が大きく、オリジナリティは感性から生まれることが多い。

 有働くんと名波くんは、恵まれた環境のなか、才能に触れる機会が多かったため、早くに自分たちにはそれが乏しいと気づいてしまった。

 しかし、才能というものがゼロか百かでのみ人に宿るのではない。誰にだって才能もセンスもある。その多寡はあるかもしれない。

 もしそれが乏しいのなら、補い組み合わせ掛け合わせることで必要な分を満たせば良い。


 そう結論づけたふたりは、アリスンの容姿を要素の一つとして見出した。

 四人でバンドを組んでからは、更にアリスンの透き通った声と、わたしのサンバダンサーとしての素養、わたしを通してサンバという一見馴染み深いがよくよく内容を理解している日本人が少ないどころか、誤解が蔓延しているともいえるサンバという音楽分野をリソースとして棚卸しし、バンドの戦略、方向性を考えるようになるのだった。



 偏ってる部分もありそうだけど、理解できる部分もある論理だった。

 一通り聴いていたアリスンは、「みんないろいろあるよね」と呟いていた。少し目を伏せたように見えたのは気のせいか。

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