お出かけ
クリアンサスは子どもという意味のポルトガル語だ。サンバダンサーとしてのクリアンサス言えば、言葉の意味通り子どものダンサーのことを指す。
クリアンサスの定義は十八歳までらしい。
サンバの本場であるブラジルの方が見た目にも生活力的にも、もっとはやく大人と認められていそうな印象があるが、成人と認められる基準は日本と変わらないのかもしれない。
しかし『ソルエス』では、中学に入るとパシスタとして扱われた。
わたしの年齢だと、幼く見える子以外は見た目上は子ども扱いはしにくい。結構個人差が現れ始める年齢だと思う。人によってはかなり大人っぽい子もいる。
わたしはまあ年相応だと思う。同じチームの同世代のダンサーがふたりいるが、彼女たちはかなり大人っぽい側だ。わたしも含めて三名とも子ども扱いは少し無理があるし、ソロもこなせる実力もある。パシスタ扱いしてもらえるのは妥当だと思っていた。
一方、サンバのイメージにあるビキニのような衣装のタンガの着用は二十歳以上とされていた。
他の学生主体のチームでは未成年でもパシスタはタンガを着用していたので、『ソルエス』は厳しいチームと言えた。
『ソルエス』の未成年パシスタは、コステイロを背負いカベッサは被るがビキニではなく短いパレオのような衣装になる。
タンガが着られる二十歳まであと六年。
六年後のハイーニャコンテストを目指してプランを立てよう。
規定を見直して十八歳からタンガを着ても良いのではとの声もあるから、タンガデビューは前倒しになるかもしれないが、バテリアを率いる女王としてはやはり若すぎるように思える。
とにかくあと六年、長いようできっとあっという間だ、今やるべきことを明確にし、確実に着実に進めていこう。
「瑠衣ー、今日は練習?」
訊いてきたのは小学生の頃一度同じクラスになり、今年度のクラス替えでまた同じクラスになった亜里沙だ。愛菜も一緒だ。
中学の二年生は部活組と受験勉強組はそれぞれに、活動を本格化してくる時期だ。
亜里沙は部活には入っていなく、受験は早々に実力相応の高校を単願推薦で入試をすることに決めていたため、週に数回の塾通い以外は自由に過ごしていた。周囲が忙しくなる中、必然と似た状況の愛菜やわたしに声をかけてくることが多くなっていた。
週の習い事である塾などの曜日はお互い認識していたが、サンバの練習は曜日が決まっていない。
サンバの練習はダンサーのみで行うパート練習と、バテリアと合同で行う『エンサイオ』がある。
エンサイオは市運営の広い貸しスタジオで行われ、月に三回、取れた日にて実施されるため曜日はランダムだ。パート練習はイベント間近の時期に自主練習として開催されるので、不定期である。
「今日は無いけど」
カラオケかラウンドワンか、ショッピングモールか。次点でスイパラと言ったところかな。
決して嫌いではない。亜里沙や愛菜と遊ぶのも楽しい。
わたしは密かな趣味で、人を色に当てはめるのが好きだった。
亜里沙はライムライト。個性的で主張は強いが魅力的だ。
愛菜はカーミン。物静かだけど意外と行動派で情熱的でもある。
たまたま放課後が空いている三人と言うだけではなく、それぞれがお互いに、魅力を感じていて、一緒に過ごす時間は心地良く楽しかった。だから、誘惑に負けそうになる。が、
「ごめん! 今日は予定があるんだ。ふたりは土曜は予定ある? 空いてたら土曜遊ぼう」
代替案は奏功した。
もちろん、わたし自身土曜日にふたりと遊べるのは楽しみだ。
亜里沙からは「予定ってなーに? デート?」などと探られたが、「あはは、そんなんじゃないって」とかわす。
まあ実際デートなどではないのだが。