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千紫万紅のパシスタ 累なる色編  作者: さくらのはなびら
十五歳 ふたりのルイ
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コミュニケーションシミュレーション

「険悪になった時のやりとり覚えてたら詳しく教えてくれる?」

 アキは思案顔で訊いてきた。


 覚えている。

 状況、わたしが言った言葉、みこととひいから言われた言葉、ゆうの表情。


「……なるほど。

枝葉の話になっちゃうけど、まずはその事象について、ピンポイントの話をしようか。

その時、どうすれば良かったのか。という後悔に対しては、ひとつの例として言い方についてになるかな」


 媚びず、おもねらず、自身が感じた不満を殺すのでもなく、その気持ちをきちんと消化した上で尚、関係を維持またはより強固にする言い方は。

例えば、

「ひい? (遊びに)加わろうとしてる?」


 加わろうとしていたひいに事実、実態、事象について問うてはどうか?

 そこにはなるべく感情の色は載せずに。


「う、ちょっと楽しそうかなーと思って」などと返されるかもしれない。

「い、いや、ちょっと見てただけ」と言われるかもしれない。


 返される内容はどうでも良いのだとアキは言う。

 問いによって生まれるのは会話だ。

 会話でもたらされるのは相互理解だ。


 言われている言葉の意味はわかったがいまいちピンとは来ない。ピンと来ていないことに気付いたのか、アキはより詳しく説明してくれた。


「相互理解なんて言っても、会話だけで、心が通じ合ったー! なんてなるわけはないよな。

それができるなら争いなんて起こらない」


 浮かべている薄い笑みは、雰囲気を柔らかくしようとしているのか。それとも、自嘲が少し入っているのか。

 アキが会社を辞めるに至った経緯、先ほどの話を思い出していた。

 紆余曲折の中で、アキは一時、弟のミカと争うところまで行っていたのだ。


「ドライな言い方をすれば、問いは気持ちの交流ではなく、情報収集だ。

先ほどの例で言えば、ひいが今何をしようとしていたのかと言う状態と、どうしようと思っていたのかの気持ちを情報として得られる。

一方で、質問の態ではありながら、『練習しないとならない状況なのに』行こうとしてる? と言う前提を伝える発信にもなっている。その結果、得られた情報としては、『行こうと思ったけど行かないよ』なのか、『行かないよ、楽しそうだとは思ったけど』と言った回答が得られる。

本心はわからなくても、『行くべきではない』を前提にした上での回答なのだから、推してでも行くなどの回答にはなり難い。自ずとルイの目的に沿う着地になるはずだ。

非難や指摘をして返させるのではなく、自ら気づいて変えたという点が重要だ」


 アキは、問うと言う行為の肝はもう一つあると言った。


「ルイが言った『練習しようよ!』は、仮に『練習しよう?』の疑問系で言っていたとしたらどうなったか。

多少柔らかい印象は与えたかもしれない。ひいとみことから反発の言葉は出なかったかもしれない。けど、面白くなさそうに練習に戻って来たんじゃないかな」


 何が異なっているのか。


「対象や内容を限定した固有の問いは会話になるが、場に対して一方的に放つ言葉は、例え質問の形を取っていても、さっき俺が言った意味の相互理解を築くやり取りに発展するのは難しいんだ。

相手が建設的で穏健で視座が高く目標意識をはっきりと持った人なら、相手から構築のきっかけを与えられるかもしれないけどね。そんな人は大人でも稀だ。

大体は質問の体裁を取られている言葉であっても、『指摘された』『注意された』と受け止められてしまうことが多い。

言葉が返されたとしても、反発だったり、謝罪だったり、同じく一方的な単発の言葉で、受けた内容を加味して返すを繰り返して成立する会話とは言えない」


 わかったようなわからないような。

 とにかく、気持ちや都合をぶつけるための言葉ではなく、伝えたいことを伝え、相手の意図や考え、気持ちを情報として得るということか。

 例えばこの事例の場合、「練習した方が良い」が前提で共通認識だ。

 そこに、「練習しよう」と言う言い方は、疑問文であっても、言われた方は責められてると捉える。まして本人もわかっていることを指摘されたら面白くないと思うかもしれない。

 これは正論ではあるかもしれないが、その正論を押し付ける行為で、相手の意図を理解する行為でも、こちらの意図を理解してもらう行為でもない。

 理解するために、あえての意図などの情報を質問によって集めると言うのがアキの言っていることの要点だ。

 情報という単語を使うのは、推測するために使うから。だから、必ずしも完璧でなくても良い。人の気持ちを完璧に把握するなんて、多分当人すら難しいのだから。


 先ほどの例えでシミュレートしてみる。

 ひいからの回答が「ちょっとくらい良いじゃん!」だったらどうか?


「今日これくらい進めたいんだけど、ここでこれくらい時間使っちゃっても、残った時間でどうにかなりそう?」って感じで訊く?

 これならばこちらの意図も伝わるだろう。


 それとも、「しょうがないなぁ、じゃあ五分休憩にして休憩後合わせるとこからやってみようか」と提案しても良いかもしれない。

 休憩はどこかで挟む必要はあるし、時間を切ればだらだらと遊んじゃって時間を無駄にすることもない。


 いずれにしても、決定的な亀裂を生んで終わってしまうなんて事態にはならないような気がした。

 アキが言っていた「推してでも行くなんて回答にはなり難い」とされたレアなケースでシミュレーションしても、言い方一つで拗れてしまうが、裏を返せば言い方一つでどのような対応があったとしてもやりようがありそうだと思えた。


 これと同じように、みこととゆうにも会話に繋がる問いをすれば良かったのか。

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