決めたこと
創設メンバーの系譜。
三代に亘ってのメンバー。
物心つく前からのメンバー。
まさに『ソルエス』の申し子ではないか。
ここまで条件が揃っているのはわたしだけだ。
設立から現在までで見ても、居はしないだろう。
子どもであると言うだけで観客は喜んだ。
それはそうだろう。小さな子どもが羽根をつけて踊っているのだ。可愛くないわけがない。
更にわたしも嬉しくて観客に笑顔を振りまいていたのだから、それはもう大人には愛くるしく見えていたことだろう。
ただ、可愛いだけなら子どもであると言う要件さえ満たせば誰もが等しく得られた賞賛だ。
わたしは小さい頃から楽しむように練習に参加していた。
家でもママに教えてもらっていた。
当然ながら、ダンサーとしてのレベルは自ずと子ども離れしたものになっていた。
大人顔負けのダンスを踊るクリアンサスは珍しい。
メンバーからも、観客からも、かなり可愛がられて育ったと思う。これだけ大勢の大人から、特別な存在として扱われ続けた経験を持つ子どもも珍しいのではないだろうか。もちろん芸能界など、特殊な世界はあげればキリがないが、どこにでもあるベッドタウンの学校単位で見れば、やはり少数派に入るだろう。
はっきり言えば、チヤホヤされて来た。
いつでもどこでも褒められた。誰もが可愛いと言ってくれた。ついた異名はサンバ天使だ。
自覚もあったし自信もあった。
同年代の子たちの何人かは中学への進学を期に、勉強や部活、他の趣味や習い事を理由に辞めてしまっても、わたしはサンバを続けている。
部活は入らず、放課後もサンバの活動を中心にしている。
それでも、そこまでしても、少しずつ、世界はわたしが中心ではなくなって来ていた。
ダンサーとしてはチームでも上位にいる。
でも、唯一でも随一でもない。学生という点でブーストをかけることはできる。けど、他チームにまで視野を広げれば学生を中心としたチームもある中で、同等に踊れる同世代の子はいないでもない。
更に言えば『ソルエス』にもレベルの高いクリアンサスは多い。わたし同様幼い頃からサンバをやっている子も何人かいる。
数年もすれば、そのブースターも失われ、数多いる多少名の知られたパシスタのひとりとして埋もれていくのだ。
冗談じゃない!
じょーだんじゃないっ‼︎
認められるかそんなことっ!
この! わたしが!
天使だと! 可愛いと‼︎ 言われ続けていたこのわたしがっ!
称賛の言葉をほしいままにしてきたこのわたしがっ‼︎
替えの利く一パシスタ?
もちろんわかっている。
ダンスは表現だ。
コンテストなどで優劣がつくことはあっても、優勝以外は全員敗者と言った考え方が全ての世界ではない。
表現の仕方、表情、体型などの個性も活かせるからこれが唯一の最適、正解、と言うものはない。
そういう意味ではみんな替えの利かない尊ぶべきダンサーだ。
で、だからなに?
それがトップにならなくて良い理由にはならない。
口さがなく噂していたのは誰だったか。辞めたメンバーか辞めた子の親たちか。
「ルイちゃんてお姫様みたいだよね」
揶揄のニュアンスが含まれていることくらい感じていた。
「なんなら女王様じゃない?」
聞こえてないと思っているのか、敢えて聞こえるように言っていたのか。ここまで来たらもはや嫌味だろう。
上等だ。女王、良いじゃない。
パシスタがめざす頂のひとつである『ハイーニャ』は、正式名称を『ハイーニャ・ダ・バテリア』と言い、バテリアの女王と訳される。バテリアを鼓舞する重要なパシスタだ。
エスコーラにひとりのみ、存在が許される特別な存在だ。ダンスの技術はもちろん、多くの資質が求められる。
だったら目指してやろうじゃない!
『ハイーニャ・ダ・バテリア』を!
文字通り、このチームの女王になってやる。