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千紫万紅のパシスタ 累なる色編  作者: さくらのはなびら
十四歳 コミュニケーション迷子
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実里との会話

 思っていること、感じたこと、したいこと、できなかったこと、思いついたことを思いつくままに喋った。


 整理のされていない、訳の分からない内容だったと思う。実里は微笑んだまま、黙って聴いていた。

 うまく説明できずもどかしく思いながら必死に話そうとするわたしに、ゆっくりで良いからねと、とにかく胸の裡にあるものを全部出させるように促してくれた。


 全てを吐き出し、空いた箇所を埋めるように冷えたお茶を飲んだ。以前に渡したお茶セットの中に入っている水出しのパックで作られたお茶だった。


 わたしがお茶を飲み込み、一息つくのを見計らって、実里は話し始めた。


「ルイちゃんはさ、踊るのは好き?」


 もちろん。好きじゃなきゃこんなに夢中になれない。必死になれない。


「どう言うところが好きなの?」


 え?


 一瞬戸惑った。

 好きなのは間違いがない。でも、どこがと問われると、今まであまり考えていなかった。


 幼少の頃から自然にその世界に身を置き、呼吸をするのと同じように踊ってきた。

 十年以上に亘って。人生の長さとほぼ変わらない期間、共にあった。


 好きでなければ続いているはずがない。

 だから好き、と言うのは理由とは違うのだろうか。

 楽しいから? それはそうなのだが、人生と同じ期間を費やすほどに好きな理由としては軽い気がする。

 いや、軽くても良いのか? そもそも理由に軽いや重いなんてあるの?


「ふふ、今、色々考えてるでしょ?」


 本当になんでもわかっちゃうんだなと思いながら頷く。


「思うに、ルイちゃんは真面目すぎるんじゃないかな。

真面目だから、真剣に色々と考えちゃっている気がするよ」


 そうなのかな? そうかもしれない。でも、真面目なのも考えるのも良いことでは?


「理由があることと理由なんてないこと、理屈で説明できることと理屈ではない何か。

そう言うものがあると思う。

よく分からないものやことについては、一旦放っておいて良いんじゃないかな?」


 実里は相変わらず微笑んでこちらを見ている。


「どう好きなのか説明できなかったこととか?」


「そうだね。うまく言葉にできないだけかもしれないし、物事突き詰めればなんらかの説明はできるのかもしれないけど、それもまた理屈の範疇で」


 仮に説明ができたとしても、それを超える表現化されていない要素があるのだと言う。



 確かに、例えばフィクションに登場するバカップルとして描かれた男女が、「好き?」「どれくらい?」なんてやり取りをしているシーンがある。

 その「好き」の度合いを、大きさで例えたり身体を使って表すのだ。

 作中のカップルの立ち位置や作者の意図にもよるが、大抵は滑稽なものとして捉えられるように描かれている。それは語彙の乏しさや周囲を憚らない様子によるものかもしれないが、当人たちは至って真剣で、その愛に偽りもないのだろう。


 観ている側には滑稽さしか伝わらない、当人のみが認識できる真摯さだ。


 わたし自身、踊ることを、サンバを、どう好きなのか説明できなかったからと言って、その気持ちが偽りだったり軽いものだったりするわけではない。


 実里の言っていることは良くわかった。


 しかし、言わんとしていることはまだ計りかねている。

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