気づきたくなかったこと
例えば、彼方にてはためく旗を掴むべく、不断の努力と不屈の挑戦を以て、目標に躙り寄る者がいたとしたら、その者は一定の賞賛を得るに値する主人公と言えるだろう。結果が如何様に終わったとしても。
わたしはそう言う者になれているだろうか?
或いは共に研鑽に励む仲間に?
或いは鎬を削り合う好敵手に?
或いは無慈悲に立ち塞がり、旗をへし折り踏み躙る仇に?
或いは、或いは……。
よもや、主人公の視界にも入らない群衆?
いくつもの写真の中で、女の子は小さな身体をいっぱいに使って、愛らしいポーズを決めていた。
時には蝶や花の様に鮮やかに。
時には妖精さんのようにファンシーに。
いくつかの動画の中で、女の子は小さいながら大人顔負けのステップを踏みこなし、時に感嘆の溜息を、時に賞賛の嬌声を小さな身体で受け止めていた。
いくつもの写真の中で、いくつもの動画の中で、少女は常にあどけない表情で観客に愛され、時に妖艶な仕草で観客を魅了していた。
「ルイー!」
「ルイちゃーん!」
映像はあらゆる場所で行われていたパフォーマンスが映されている。
それは商店街を練り歩くパレードだ。
それは駅前の広場に設られたステージだ。
それは飲食店で催されたショーだ。
パフォーマンスは地域のサークルによって行われていた。
プロダンサーではなく、サークルの会員たちの演技である。
その中で、何人かのレベルの高いダンサーはファンがいるのか、有名なのか、名指しで声援を受けていた。
文樹瑠衣は子どもながら、殊更多くの声援とカメラを向けられるダンサーだった。