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宝は何処か

 青獅は目を閉じてもう一度今日のことを振り返る。


 青獅の家は、義賊、鼠小僧の末裔である。今もなお続く大泥棒の名門中の名門である。

 と言っても今は、何かと巷は発展して江戸の街並みは風情というなのもとに残ったままだが、機械のオートメーション化が進み人工頭脳を持ったロボットがそこらへんを徘徊しているという具合だ。

 要は、大昔、ポルトガルの船に乗ったイエズス会宣教師が長崎、平戸、有馬を中心に教えを解き、日本に宣教徒が増えた。だが鎖国後、幕府より断罪を受けて衰退したと思われたが、多くが秘密裏に逃れた。

 その隠れキリシタンがポルトガルとの貿易を秘密裏に行っていたため、化学が軒を出て発展したのである。とされているが、実際は幕府も絡んでいたという噂もある。

 そういうわけで普通は、そこら中にある監視カメラに現場を抑えられればすぐに町奉行所が飛んできて、並の泥棒は簡単に捕まってしまう。

 このご時世だからこそ泥棒などやる輩はリスキーすぎて殆どおらず、言うなら絶滅危惧種の職業である。


 ただ、それは表立っての話。


 話は遡って、


 江戸時代後期、幕府は財政難であった。そのため、現在の帝都に繋がる明治維新が勃発したのだが、それは今は特段関係ないことであり端折る。


 初代将軍家康公には、お庭番がいたとかいないとか、それが将軍家に代々支えていたとかいないとか、まことしやかに囁かれているが、


 お庭番、忍びは存在したのである。


 ただ、家康以降お家騒動が絶えなかった将軍家。派閥もあって、徳川家とされる一門が全て忍びを抱えていたわけではない。

 御三家と呼ばれる、水戸家、尾張家、紀伊家の中でも、水戸家と尾張家は忍びを抱えていたが、紀伊家は抱えていない。

 また、御三卿と呼ばれる、一橋家、田安家、清水家の中でも、一橋家のみが忍びを抱えていたのである。

 徳川一門のバランスは、一見御三家にあるようで、忍びを抱えられるほどの財力があったのは、水戸、尾張、一橋であったのである。


 そこで、忍びも三派に分かれたのである。

 だがしかし、二派は人間の忍びであったが、一派はくノ一の忍び集団と思いきや、妖であったというのである。妖狐の中でも九尾と呼ばれる頭脳明晰の癖の強い妖で、人間の精気を喰らうというのである。

 尾張家はその九尾に取り憑かれたと言っても過言ではない。だが特段今は関係ない話なので端折る。


 残り二派が問題であり、一橋に使えた忍びがこれまた気性の荒く人を滅するのも厭わない忍び、山貓鬼(さんびょうき)であった。

 ただ、主人には常に忠実であり、主人の命であればどんなことも厭わない、殺屋専門集団だったのである。

 つまり、一橋家に仇をなすものを始末させられていたという訳である。

 これもこれで物騒であるものの、もう一つの一派も褒められたものではない。


 そう、それが青獅の祖先、鼠小僧もとい、忍び、風鼠(ふうそ)一派だったのである。

 始祖が小柄ではあるが鼠のように機敏で風の如く動きが素早かったことからこの名がつけられたとか、顔が鼠のようだったとかいうのは定かではないが、それよりも、重要なのはここからである。

 風鼠は、水戸に使える名門の忍び。本来、水戸家に代々仕えていたのだが、江戸後期は先ほど述べたが財政難であったため、一部の風鼠の忍びが将軍家を監視するために放たれたのである。

 ただ、その頃は一橋家の権力が強く、表立って動けば水戸とて危いという事態。

 何せ、相手は忍びの中でも最強と歌われる山貓鬼を抱えているのであるおいそれと出しゃばれず、結果、泥棒として偵察と秘密裏に一橋の計画を邪魔する形となったのである。

 といっても、名門家の忍びがただの泥棒家業とは地に落ちたとしかいえず、そこで妙案講じたのが湯屋を隠し蓑に義賊として名を馳せるということであった。

 ただの金持ちの金蔵を狙うコソ泥に、一橋家は忍びと気づいていても、財政難かと鼻で笑い飛ばす程度。

 水戸家としては、思惑通りというわけである。


 そうした経緯があり、流石に忍びの名門である風鼠が泥棒に鞍替えとはご先祖様に顔向けできないということから、


 義賊 鼠小僧


 とあいなった訳である。


 といっても明治維新後、徳川家は衰退。主人がいなくなれば、忍びもお役目御免となる訳である。


 が、それはそれとして義賊としての役目は継いでいった訳で、今も尚、青獅達は鼠小僧一家として暗躍しているのである。


 それは、徳川の最後の将軍、徳川慶喜の遺言でもあり、約束であるとかなんとか。


 そうした経緯があって、厳重な警備の世の中ではあるものの、そこは忍びとしての技光り、大泥棒として今も裏業界では有名なのである。

 今も昔もその名を轟かせたのは何を隠そう、青獅の父が、大泥棒、五右衛門だった事がさらに関係するのだが、今は特段関係ないので端折る。


 そこで付け加えておけば、鼠小僧一家の忍びが生き残った訳ではない。

 もちろん、他の二派もきちんと現在も生き残っている。

 ただし、明治維新で忍びは滅んだと歴史上には記されているため、家業を鞍替えしたのである。


 くノ一一派は拠点を京へ移し、京でも屈指の老舗の高級遊廓亭、蝶華の主人となり、山貓鬼一派は内閣総理大臣直属の町奉行となったのである。

 更に付け加えておけば、遊廓としたのは精気が集まりやすいからであり、また女主人が変り者で情報屋も生業にしているため。

 そのため風鼠と山貓鬼二派とは、切っても切れぬ縁で結ばれているのである。

 また、山貓鬼は町奉行などと生業の響きは良くなったが、やっていることは大差ないのである。


 

 ここでようやっと話が戻るが、山貓鬼は何故、最強の忍びであったかであるがそれが、青獅の猫化けと密に関係しているのである。

 山貓鬼には秘宝と呼ばれる玉手箱があったのである。その玉手箱には、代々当主にしか受け継がれない巻物があった、というのである。

 それには山貓鬼の名の元になった大妖怪が封印されていて、当主になるとその大妖怪を憑依できるようになるのだという。それを身に纏うと人外な力が発揮され、気性も荒くなるというのである。また、血の盃を交わすと当主ほどではないが、交わした者の能力も上がるため、忍び最強となったのである。

 だがそれにも欠点があり、憑依体が衰退していくと憑依が解けてしまうのだそうだ。


 そこで本来なら次の当主が引き継ぐはずだったのだが、


 大泥棒 五右衛門


 が


 その秘宝をある時、盗んでしまったのである。

 何故盗んだかは本人が語らないため誰も知るところにはないのだが、鼠小僧一家の蔵にその秘宝が仕舞ってあり

、それがひょんなことにより青獅が開けてしまったという訳である。


 本来なら最強の忍びになるはずが、本来の継承者ではなかったからか、身体能力は尋常ではないほど上がったが、なんの間違いか雨に濡れれば猫化けし、力がうまくコントロールできず的外れ。例えるなら、秘宝が閉まってあった蔵を慌てふためいて、最も簡単にぶっ壊すという感じである。はたまた、力を抑えようとすると極端に成人男子の握力やや足りないとなるのである。

 本来の力であれば素手で野獣のように最も簡単に人を殺傷できるほどなのだが、青獅はそこまでの能力を発揮できない、というわけである。

 総合するに、並々ならぬ馬鹿力が備わっただけなのだ。

 ついでに言えば、馬鹿力も猫化けしてる時限定で、全身が乾けば普通の人間と変わらず、何故か一緒に蔵にいた太朗と小太郎も何かしらの呪いを受けて雨に濡れると猫化けするようになった。

 太朗は猫化けするだけだが、小太朗は雨に濡れると巨大化しまるで人間のような振る舞いで二本足で歩き、元の能力は上がっていないようだが元々獣である、巨大化すればそれなりに力は強くなって、猫本来の戯れ付くもヒグマが戯れ付くような威力を発揮という訳である。それも青獅と同様、全身が乾けばただの人、猫に戻るのである。ただ、小太朗は猫になっても人間の言葉が喋れ、それも一種の呪いのせいなのかもしれない。


 ざっくりと話せばそんな感じであって、青獅はこの呪いが嫌で嫌では前にも語ったと思うが、呪いを解くために忍び込んだ今回の屋敷も不発であり、帰りの道中、雨に降られて今に至るである。


 今回も今までもその呪いを解くための情報源は、蝶華の主人から得たものである。

 この蝶華の主人、蝶紅(ちょうこう)に、青獅は何故かとても気に入れられているのだが、青獅の方は毛嫌いしているところがあり、本当は蝶華には出入りしたくはないのだが、遊廓云々は置いておいても情報屋としてはここら辺界隈では右に出る者がいないというほどの実力者である、是が非でも呪いを解きたい青獅にとって、背に腹はかえられぬというわけで、本人の意思とは裏腹、しげしげ通うしか手立てがないのである。



 「たのもー」


 苦虫でも噛んでいるかのような顔付きで、口がひん曲がったままに道場破りでもするかの如くそう叫んだ青獅は、仁王立ちでふんぞり返ったような出立ちで腕を組み、まさに夜の蝶が飛び交うような美しい妓楼を目の前に、斜め下の地面を見ながら突っ立っている。その斜め後ろにはいつも通りに太朗が控え、腕の中には猫としては少し大きめの黒猫、小太朗を抱えている。

 太朗は毎度のことながら、いい加減慣れればいいのにと思いながら、子供みたいな態度の青獅を見て、おかしいのを我慢して両頬を少し膨らませて笑いを堪えている。小太朗といえば、太朗の腕の中が心地よいのかまどろんだ目でうとうとしている。



 ギギギギギギギギギ ドーン



 「あら、小鼠の若旦那、いらっしゃい」


 妓楼は大きな素晴らしい彫刻が施された分厚い真っ赤な門に閉ざされており、おいそれとは入れないため、こうして外から本来なら合図、“花は蝶“と客が呼びかけ、中の者が”蝶は夢の如し”と中の者に言われない限り入れないのであるが、青獅は死んでもそんなことを言いたくないらしく言わないのだが、特別待遇で、あの言葉で開けてもらえるのである。


 出てきたのは少し背の低い、可愛らしいおかっぱ頭の女性。女郎にしてはさほど落ち着いた感じの黄色みがかった着物を着ている。一見、禿かと思うその少女とも女性とも言い難い女性は、重々しい扉に両手を添えて、ニコニコ嬉しそうに笑いながら青獅達を見ている。ただ、そこにはその女性しかおらず、他のものは一切いない。

 それはそのはず、青獅が来ると必ずいつもこの女性か、または姉がこの扉を開けているのである。

 それもそのはず、この女性もまた妖であり、階級は少し低いが空孤(くうこ)なのである。

 主人が九尾の天狐(てんこ)なのである、必然的にここにいるものは全て妖狐の集まりというわけである。


 「今日は、鈴音(すずね)ちゃんがお迎えかぁ〜。その禿姿もまた、いつもとは違って可愛らしくて、いい感じだねぇ〜」


 青獅がちっとも返事をしないものだから、いつも通りに太朗が青獅の横から顔をひょっこり出して満面の笑みでヘラっと笑いながら返事を返している。

 その姿もまた青獅にとってはあまり好まないらしく、少し軽蔑したような視線を太朗へ向けている。

 ここまで来てもこの態度、太朗が引っ張っていかないと中に入ろうとしないので、いつも通りに抱いていた小太朗を青獅に預けると、青獅の腕に腕を組んでいわば、力任せに引き摺るように妓楼へと入っていた。そう、人間でいる時は太朗の方が力が強いのである。



 「あら、いらっしゃい、坊」


 鈴音に案内されて最上階の奥座敷に通された青獅達は、手に細かい細工がされた上等な長い煙管を片手に、肘掛けに肘を付いて横座りしている真っ赤な蝶のようなイメージの豪華絢爛の着物を纏った太夫が部屋のど真ん中にいて、妖艶な笑みで手招きしていた。


 「....はぁ、どうも」


 青獅はそうボソボソと言っただけで、ちっとも部屋に入ろうとしない。廊下で踏ん張って、駄々をこねる幼子のように廊下で立ち止まっているのである。こんな時だけ、小太朗を重石にして腰を落とし足を踏ん張って馬鹿力を発揮し、太朗も手を焼くというもの。


 「ちゃんとしないと、情報売ってもらえませんよ」


 引っ張るのをやめてやれやれと青獅の横に立った太朗は、青獅の片耳に手を当ててこそっと耳打ちする。

 青獅は心底嫌そうな顔を一度した後、太朗に片足を思い切り踏まれて痛さに奇声を上げ、しゃがんでまずは小太郎を畳に降ろしてから踏まれた足を撫でていると、背後に回った太朗が背中を蹴飛ばして部屋の中へと無理矢理押し込んだのである。


 それはいつも通り、一連の流れ。


 太朗も中へ入ると、すっと外から襖が静かに閉まった。


 「若、ちゃんとしてください。みっともないですよ...あぁ...太夫に甘えたいんですかね」


 青獅は蹴飛ばされて、毎度のことながら狙ったかの如くちょうど蝶紅の膝の上につんのめって、側から見れば膝枕状態ともいえなくもない。


 「あら、それなら存分に可愛がってあげないとね...」


 そう青獅の耳元で囁いた蝶紅は、ゆっくりと青獅の後頭部を撫でる。

 ゾワゾワゾワと鳥肌が立った青獅はガバッと勢いよく起き上がると、猫のように飛び退いて端っこの方に身を縮こまって座る。


 「ふふ、残念」


 太朗は毎度のことながら、情けないとため息をついてから蝶紅の前に堂々と正座して向き合う。すると、トコトコと小太朗は青獅の膝の上に乗っかってくつろぐ。


 「して、太夫。毎度のことながら、また、有益な情報があると、お聞きしました」


 青獅はこうなると点で話さなくなるので、いつも通りに太朗がハキハキと要件を述べる。


 「...ううぅん...今回もあまり...そこまで有益とまではいかないのだけれど...眉唾...かもしれないわよ」


 「いえ、私どもはどんな小さなことでも手掛かりとなるなら、有益なのです。若が一日でも早く、元通りになるというなら、眉唾だろうが、確かめねばならないのです」


 「ふふふ...主人想いの良い子ね...いいでしょう...今回も破格でご提供しますわ」


 「それはそれは、ありがたき幸せ。では、私どもは下の控室にて待たせていただきます」


 太朗は満面の笑みを持って深々と頭を下げると、さっさと立って縮こまって小太朗の背に顔を埋めている青獅の前に立つ。これも毎度のことで、社交辞令みたいなものである。


 「さ、あとのお代は、若、よろしくお願いしますね...はいはい、小太朗、美味しい鰹節をご馳走しますよ、行きましょう」


 「ほんまにゃにゃ!いくにゃ!」


 小太朗は現金なもので、太朗にそう言われたら一目散に青獅の膝から抜け出して、しゃがんでいる太朗の腕の中へと飛んだ。


 「よっこいせっと。じゃ、若、後は頼みましたよ」


 ニヤっと不気味に笑った太朗は、小太朗を腕に抱えると立ち上がり、すっとまた開いた襖からさっさと出て行く。


 「「おきばりやす〜」」


 廊下で、襖を開けた鈴音ともう一人のおかっぱ頭の少し背の高い女性と、太朗はそう同時に言う笑顔で言う。


 「あ!待て!」


 青獅は太朗を引き止めるように手を前に出したが、スパンっと小刻みいい音で襖は閉ざされてしまった。



 回想から目が覚めると憎々しげに顔を歪ませた青獅が、ガバッと上半身を起こす。


 「あの色ボケババァ、毎度、全然役に立たん!!くそ、毎度毎度...」


 憎々しげに吐き出した青獅。

 確かに外見だけでいえば青獅より幾分か年上に蝶紅は見えるが、くノ一として尾張で支えていた時からずっと忍びの頭領であったので、青獅のババァ発言は間違ってはいない。妖怪のそれも九尾である、ゆうに千歳以上は軽く超えているのである。


 「わーかー...そんな、あんな綺麗でお優しい太夫に、そんな暴言を吐いたら、バチが当たりますよ」


 気だるげにむっくりと上半身を起こした太朗は、眠たげな顔をして少しあくび混じりで目を擦りながら注意を促す。


 「...お前は、蝶紅にたらふく豪華な飯を食べさせてもらうからいいかもしれないがな!俺は俺は...」


 「あら嫌だ!若はそんな、口もはばかるようなことを、太夫と!!...アイタッ...もー...冗談じゃないですかぁ〜。何も、棒を投げることもないでしょうに」


 青獅は朽ちてバラバラになった板の間の穴から短い棒切れを見つけるや否や、それを太朗の頭にヒットさせたのである。


 「お前が、変なことをいうからだろう。俺は今でも、身綺麗だ!」


 「でも、肝心のお初のお口は、太夫に持ってかれてますけどね」


 「な!あれは、あっちが俺がまだ幼いのをいいことに、かってにしたことだろう!あんなもん、ノーカンだ!」


 真っ赤な顔をして両手はキツく握り拳で、憤慨したように立ち上がる青獅。


 「でも...いつも部屋で、ねぇ」


 「な...なんだよ」


 「だって、太夫がなんも見返りなしで、情報くれるわけないじゃないですか」


 急にソワソワし出して目が挙動不審になった青獅は、腕を組むと大人しくストンと同じ場所へ座る。


 「でもまぁ、若もいい歳ですし、子供じゃないんですからねぇ」


 「は?俺はそんな、軽い漢じゃない!まぁ...なんだ...その...き、キス」


 「はぁ?なんですか?聞こえないんですが?」


 「だから...あーああ、もういい」


 青獅は顔を真っ赤にして、腕組みをすると口を閉ざす。


 「たかが接吻の一つや二つ、二十歳を超えた大人が、ピーピー言わないでくださいよ」


 「お前なぁ!......なら、お前はど、どうなんだよ」


 「何言ってんすかぁ〜、若。若と同い年の俺が、接吻なんてもうとっくのまっくですよ。むしろ、生娘であるまいし、接吻如きで毎度、駄々捏ねないでください。本来太夫と会えるのは、ほんの一握りの上客だけなんですよ。それこそ、内閣府とか〜」


 「内閣府ねぇ...ふん」


 青獅は冷めて小馬鹿にするように言い捨てると、また両手を後頭部の下にゴロンと寝転がる。


 「...腐っても、帝都のお偉い様ですよ。そんな態度知られたら、また、あの厄介ものが来ますよ」


 「...しょうがないだろう。今、民衆が苦しんでるのは、あいつらのせいでもある。口には出さないが、誰しもそう思ってるさ。快く思ってるのは、恩恵を受けてる一部の人間だけだ」


 「まぁ...ですから、我々みたいなのが、必要とされる...ですよね」


 「...褒められた、ことではないけどな...で...やつは、今はどうしてる?」


 「鬼切(きぎり)の若旦那ですか...まぁ、今は、別件の用があるらしく、こちらにはこれないご様子。今は、好きに動いても問題はなさそうです」


 「...そうか...なら...一旦帰って、また策を練るしかないな。親父(おやじ)にも、報告はしないとだしな。おい、小太朗、飯の時間だぞ!」


 ヒョイっと身軽に起き上がった青獅は、手拭いを手に取ると頭にほっかぶる。


 「にゃあああ!!飯!!」


 先程までぐーぐーいびきを描きながら寝ていた小太朗だったが、その一言で飛び上がって起きた。


 「青獅ー、青獅ー!飯飯」


 寝起きで目がしょぼしょぼしながらも、小太朗はさささっと青獅にすりすりする。


 「ちょ、あーあー、待て待て...まずはきちんと帰り支度してからだ」


 図体がデカく寝起きで力の加減をまるでしていない小太朗にゆっさゆっさ身体を揺さぶられ、眉間に皺寄せながら小太朗の頭を抑える青獅。


 「えー...うーん...しょうがないにゃぁ」


 小太朗は青獅から離れて渋々と、近くにあった手拭いを手に持つと頭にほっかぶる。


 「さぁー!帰りますよ!!」


 すでに手拭いを頭にひっかぶった太朗は元気よく立ち上がると、片手を上に突き出す。


 「おい、なんでお前が仕切るんだよ」


 「まーまー、若、細かいことはいいじゃないですかぁ〜」


 兄弟のように、戯れ合う二人。


 外は、小雨。

 二人と一匹は闇に隠れて廃屋を後にした。

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