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かくれんぼ2

僕は、瑞希とかくれんぼをするとき、いつも瑞希をゆっくりと探した。

瑞希が、隠れる場所はいつも決まっていた。

松林の横に何故か植えられている、躑躅ツツジの木の後ろにしゃがんで隠れていた。

小さな身体を丸め膝を抱えて、息を殺して躑躅の葉蔭に隠れていた。

僕は、瑞希を探す振りをしながら、まっすぐにゆっくりと躑躅に近づいた。

そして、僕は、気がつかない振りをして、小さくしゃがんでいる瑞希の横を通り過ぎる。

そんな時、瑞希は、いつも声を殺し楽しそうに笑った。

その声は、完全に押し殺すことが出来ずに、風に乗って僕の耳に届いてきた。

僕は、その声が聞こえない振りをする。

躑躅の横を何度も行ったり来たり通り過ぎる。

やがて、瑞希は、焦れたように葉蔭から跳び出し『ここだよ!』と笑顔で言う。

顔中が笑顔でいっぱいになる。

『お兄ちゃんは、見つけるの下手なんだから!』自分がお姉さんになったような口調で、いつもそう付け加えた。


でも、今日は違う。

今日は、直ぐに見つけるよ。


「もういいかい。」僕は、いつもの様に目を閉じ、大きな声で言った。

『まあだだよ。』瑞希の声が聞こえた。

「もういいかい。」

『まあだだよ。』

「もういいかい。」

『もういいよ。』


瑞希の声は、いつもとは違う場所から聞こえてきた。

暗い海の向こう。

水平線の彼方から、海鳴りの音に混じって僕の耳に届いた。

何故、今日は、そんな所に隠れているんだ?

暗いだろ。

寒いだろ。

一人で寂しいだろ。

直ぐに見つけるから、一緒に家に帰ろ。

お腹が空いているだろ。

もう、一人で病院のご飯なんか食べなくていいよ。

久しぶりに4人で、お母さんの作った温かいご飯を食べよう。

大好きなTVも始まる時間だよ。


僕は、声が聞こえた方に向かって真っ直ぐに走った。

砂浜に運動靴が埋まり、よろけながらも、瑞希の声がした方に向かって走った。

運動靴が海水に濡れた。

それさえも、気にならなかった。

瑞希が星になる前に、瑞希を見つけなければ。

暗い水平線から、瑞希の星が昇る前に瑞希を見つけなければ。

僕の足は、波に絡まれ走ることが出来なくなった。

それでも、僕は、水平線に向かって走った。

海水の抵抗で、歩くよりも遅いスピードになった。

それでも、暗い海の中を、水平線向かって歩くように走った。


『だめ!』瑞希の声が、砂浜の方から聞こえた。

『そっちに行っては、だめ!』叫ぶような声だった。

僕は、その声で我に返った。

顔に波がかかる。

いつの間にか、胸まで海水に浸かっていた。

僕は、首だけで後ろを振り返る。

夜の闇の中、躑躅だけが、何故か明るく浮かんで見いた。


躑躅の木陰に瑞希はいなかった。

瑞希にはもう会えない。

初めて、僕はその事実を実感した。

もう会えない。

もう会えない。


『お兄ちゃん。ごめんね。

 お見舞いに来てくれたのに。

 私、苦しくてお話出来なくて、、、

 お兄ちゃん。ごめんね。』


ちがう!

ちがう!

謝るのは、僕の方なんだ。

あの日、お見舞いに行く前に読んでいた漫画が読みかけだったから。

それを、母親に取り上げられたら。

だから、機嫌が悪かったのは僕の方だったんだ。

そんな、小さな自分の我儘のために瑞希と話をしなかったのは僕の方なんだ。

何で、お見舞いに行かなければいけないんだよと思ってしまったのは僕の方だったんだ。

あれが最後になるなんて。

もう、ずっと、さよならなんて。

会えないなんて。

僕の心は、耐えられなかった。

瑞希が何時もしゃがんでいた場所に、崩れるように膝をついた。

全身から声が出た。

叫ぶように泣いた。

身体中が濡れていることも忘れて泣いた。

心が千切れそうだった。


ごめんね!

ごめんね!


僕の心が叫んでいた。

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